03 差し入れ
祖父がそこまで話すと、玄関から「おーい、登―」と声がした。見ると祖父が親しくしている「浅沼のおじさん」だった。
私は最初から飛ばしている今回の祖父の話に少し緊張していたので、浅沼さんが来てくれたことに正直ほっとした。
「お孫さん来てるだろ?お、皐月ちゃんとこの柚稀でねぇか。またおっきくなったな」
子供の名前と孫の名前をくっつけて覚えるのは田舎ならではなんだろうか。母は勿論この村出身だし、小さな村のご老人たちは皆その村の子供と孫まで覚えているようだった。
「こんにちはー浅沼のおじさん。おっきくなったって、もう成長期は止まってるよ」
「そっかー?んだらそろそろ結婚せんとなー。まー柚稀にはまだ早ぇかな。なーっはっは!ほれ、サクランボでも食っとけ」
元気よく笑う浅沼さんは家の前に車が止まっていると必ずなにかしら差し入れを持ってきてくれる。
誰が来ていてもそうしてくれるので私はいつもありがたくもらっているのだが、親たちはお返しの品探しにいつも大変そうだった。浅沼さんがお返しを要求したことは一度もないし、いつもお返しを、いらんいらん、といってしぶしぶ受け取ってから孫の私たちに食べさせてくれるので祖父同様孫たちは浅沼さんが大好きだった。
浅沼さんはサクランボを置いて、祖父と一言二言話した後に帰ってしまった。
「あのさ、そーいえば絶令ってどんな感じの子だったの?」
私は不意に気になったことを口にしてみた。同じ種族を食べるような恐ろしい一族の末裔なら角とか生えたりしているんだろうか。私の予想はすぐにあっけなく消え去る。
「んーとな。本当に普通の高校生みたいな感じだったぞ。そーだな。肌のこんがり具合はベトナム人な感じだったかな。二重の目はこれがすごくきれいな赤い色だった。髪はそーだな、柚稀の色よりだいぶ明るい茶色だ。耳の辺りに飾りのついた毛束がおりてて、何束か編んである毛束と一緒に後ろで一本に編み込みのように結ってあった。背中の真ん中くらいまであったぞ。服装はどーだったかな。白い長そでに茶色の革のパンツだな。腰の二本のベルトにはそれぞれ短剣と長剣が刺さってたかな。それが無ければ普通にこっちでも生活できそうではあったな」
祖父は、写真を撮れたらいいんだけどな、と付け加えた。
「かわいかったぞ」
「へぇ、そうなんだ。その子も不死なの?」
「いや、それはまだわからんらしい。なにせ、血鬼族はもともと寿命が長いらしいしな。でも、成長は止まっているらしいから、不老不死なのか、これから少しずつ老いていくのか、彼女もそこが不安だといってたな」
「ひとりだったの?」
「ああ、なんか、もう一人いたんだがな。こっちまでは入ってこんかったんだ。コーヒーも出すって言ったんだがな、遠慮されてしまった」
少し寂しそうに祖父はそうつぶやいた。
私は絶令が普通の見た目であることに少しほっとして、今度はその朱殷族の生き残りの子がどんな見た目なのか気になりだした。チェイチェイさんという人も気になるし。
でも、普通の食べ物も食べれるってことは、人を食べる必要がないんじゃないか。それなのに、畑を作らず、自分たちで食料も用意せず、ただただ人肉を食べていたんだとしたら、それは道徳に反することなんじゃないかな。まぁ、その世界に道徳ってことがあるのかはわからないけど。
そう考えてる間に祖父はサクランボを食べて一メートル程離れているゴミ箱にサクランボを吹き飛ばして入れた。祖父はタネ飛ばしもうまい。
私も負けずに吹いてみるが全然狙えない。何個目かに吹いた種がゴミ箱の縁に当たり、外に弾き飛ばされた。
「おしい!柚稀、もっと練習せー」
私は悔しくてその後も話を聞きながら何度かタネ飛ばしチャレンジを続けた。