第4話 さ迷いの森
そこは《さ迷いの森》。
そのダンジョンに訪れた多くの者が行方不明となり、消失する事件が頻繁に起きていた。その原因として上げられるのは、森に立ち込める霧だろうか。
その霧に視界を阻まれ、年々行方不明者は後を絶たない。
森の中、一人の少女は泣いていた。
きれいに割れている宝石を片手に、少女は霧が立ち込める森の中で泣いていた。
「お姉ちゃん、どこに行っちゃったの……。お姉ちゃん……お姉ちゃん……」
こぼれ落ちる涙、その音を聞いてか、少女のもとへ男が駆けつけた。
「大丈夫か?」
男は優しく手を差し伸べた。
力強く真っ直ぐな手を、男は少女へ差し伸べた。
「あり、がとう……ありがとう」
少女は男へ飛び付き、大声で泣いた。
数分後、泣き止んだ少女は助けてくれた男と男のそばにおる無表情の少女とともに森の中で火を囲んでいた。
「君、名前は?」
男は森で泣いていた少女へ名を訊いた。
「私は妹々って言います。あのー、あなたと隣の少女は何て言う名前なんですか?」
「俺はアズサワ、俺が連れているこの子の名前は分からない」
「何か事情でもあるの?」
「俺は彼女を拾った、既にその時何か辛い経験をしていたらしい。俺は彼女の心を取り戻すため、ダンジョンに行って刺激を与え、心を呼び起こそうとしているんだ」
妹々は少女へと視線を移した。
相変わらず少女は下を向き、無愛想な程に笑みを見せることはない。
「妹々、何かあったみたいだけど、何があったんだ?」
「はい。実はここへはお姉ちゃんと一緒に来たんです。ですが霧で視界が悪いせいか、お姉ちゃんは突如現れたモンスターに拐われてしまいました」
「なるほど。そのモンスターは恐らく"袖引き"だろうな」
「袖引き?」
「ここ《さ迷いの森》にのみ出現するモンスターで、よく人を拐うモンスターだ。そもそも袖引きは全身に霧を纏う人型のモンスターでな、霧の中では魔法や魔法具を使わない限りは捉えることができない。だから多くのプレイヤーがここで迷子になるということだ」
アズサワはさらに袖引きが引き金となる予定だったイベントを教えようと思ったものの、妹々は今ので疑問に思ったことがあるらしく、首をかしげていた。
それに気づき、妹々が質問しやすいようにアズサワは口を閉じた。案の定、妹々は言った。
「ねえお兄ちゃん、どうしてこのダンジョンのモンスターについて知ってるの?少なくとも一般には公開されていない情報のはずだと思うけど……」
「ああ。言い忘れていた。俺はこのゲームを管理する十二人の一人だ」
「か、管理者!?」
想像以上の答えが返ってきたのか、妹々は仰け反り驚いた。
驚きの瞳はすぐに変化し、期待の瞳へと変化した。
「アズサワ、お願いします。お姉ちゃんを、お姉ちゃんを助けてください」
妹々は必死にアズサワへ言った。
アズサワは一秒も間を開けず答えた。
「任せておけ。俺は、このゲームの管理人だから」
アズサワは立ち上がった。
「妹々、もう泣くな。これからお前の姉ちゃん、救いに行くからさ」
アズサワはどこからか剣を出現させ、それを握った。
上下黒色の布の服にローブ一枚羽織っていただけだったはずが、いつの間にか黒く分厚い鎧を身に纏い、顔を黒兜で覆っていた。
「袖引きか。お前ら、俺から離れるなよ」
アズサワは向かった先、その方角にはとある塔があった。
その塔には袖引きが棲んでいた。
「黒兜の男がこの塔へ向かってきております」
塔の中にある玉座へ座る謎の女性へ、袖引きたちは膝をつき話す。
「黒兜、懐かしいね。アズサワ」