第2話 NPCの少女
世界初のVRMMOーー〈琉球〉
そのゲームを管理する十二名の一人ーーアズサワ。
彼は世界をVRから解放するため、今日も沖縄にあるダンジョンの中へと入っていく。
そこは神樹が生えている地下空洞。
足元は水の中、そこに生える巨大な樹を前にし、アズサワの動きは止まった。
その樹が放つ神々しさに、アズサワは静観する。そこで気付いた。天まで伸びるかのような巨大な神樹の下には、一人の少女がうずくまって泣いていた。
アズサワは駆け寄る。
白いワンピース姿に裸足の少女、アズサワは声をかけた。
「こんなところで何をしている?」
少女は目を手で覆いつつ、警戒するかのようにアズサワの方へと振り向いた。アズサワを見るや、嬉しいとも悲しいともとれる表情を浮かべた。
一体彼女が何者なのか、アズサワには理解できなかった。
「ねえお兄さん。どうして私は、生まれてきてしまったのでしょうか。どうして私は、こんなにも胸が張り裂けそうな思いをしているのでしょうか」
少女の瞳からは涙がこぼれた。
アズサワは少女の感情が分からず、終始固まったままだ。だが驚いている原因は一つあった。
管理人スキル〈管理者の目〉
そのスキルは視界に入っている者のステイタスを見ることができるというスキル。
アズサワはそのスキルを自分でも気付かない間に使い、それにより少女のステイタスを見ていた。
『NPCのため、データが取得できません。NPCのため、データが取得できません。NPCのため、データが取得できません。NPCのため、データが取得できません。NPCのため、データが取得できません。NPCのため…………』
その文言が無限に彼の脳内へアナウンスされていた。
NPC、ノンプレイヤーコンピューター、つまりはシステム上で作られた存在ーーのはずである彼女が、流すはずのない涙を流していた。
それは紛れもなく、人間というべきものの涙であった。
嘘偽りない美しくこぼれ落ちる涙、それを偽物と呼べるはずがなかった。
「おやおや。こんなところでお会いできるとは思っていませんでしたよ。管理者の一人、ネームアズサワ」
黒装束を着た謎の男、顔まで黒い仮面で隠している。
さらに彼の背後にも似たような格好をした集団がアズサワを包囲していた。
「ネームアズサワ、その少女を大人しくこちらへ渡してくれないか」
「この少女は何だ?」
「教える義理はありません。それに教える義理があったとしても、教えるつもりはありませんが」
アズサワは剣を出現させた。その剣を握り、片腕にはその少女を抱えた。
その行動を見るや、黒装束のリーダー格らしき男は鋭い眼光でアズサワを睨んだ。
「何のつもりですか?」
「お前たちにこの少女を渡すつもりはない」
「面倒ですね。管理人を相手にするのは」
男はアズサワへ手をかざす。
手元には魔方陣が出現し、そこから黒い稲妻が激しい怒号を立ててアズサワへと放たれた。
「無駄だ」
アズサワは剣を稲妻へ向けると、アズサワへ放たれた稲妻は向けられた剣の中へ吸い込まれるようにして消えていった。
消失した稲妻に一同が動揺している最中、アズサワは再度黒装束の者たちへ向けて剣をかざす。
「落ちろ、稲妻」
先ほど男が放ったはずの稲妻が剣から放たれ、黒装束の者たちへ直撃した。激しく水蒸気が舞う中、アズサワは少女を抱えてダンジョンの外へと逃げた。
黒装束の者たちはアズサワを追うも、既にその姿は消えていた。
「逃がしたか。まあ良い。やがて彼女を拾ったことを後悔するだろう。だって彼女はーー」