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青華学園物語  作者: かりんとう
影山美咲編~絶交から始まる運命の戦い~
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苦行に耐えた日


そして、私は2年生になってからの話を始めた。_その頃には、彼女は学園に馴染んで“川満商事社長の姪”として外部生を侍らせ、派閥を築いていた。私はというと、そのときにはもう毎日を生活する気力もなかった。まさか、2年生でも彼女と同じクラスになるとは思わなかった、3年生も持ち上がりなのにと絶望して過ごしていた。


(気持ち悪い……逃れたい)


彼女は確かに愛らしい、外部生の中では1番家柄もよく社交的な性格ゆえに人気もある。だが、私はその頃にはもうとっくの昔に彼女が嫌いになっていた。そんな、逃れたいのに逃れられない生活をしていたある日、彼女は日曜日に皆で買い物に行こうと言った。__これはそんな話だ。

_2年生の冬。その日は確か、土曜日で遊ぶ約束もなく貴重な休日をひたすら家でゴロゴロすることに費やしていた。


《ねぇねぇ、美咲ちゃん!明日、お買い物行こ♪》


アリスからこのようにメッセージが来たのを見て、私はげっと女の子らしからぬ声を出してしまった。明日は日曜日、日曜日に誘われるのは勘弁してくれと思った。日曜日にアリスに振り回され、気力が回復しきっていない月曜日からの学園生活を耐えられるとは思えなかったから。嫌だと言おうにも金は出すと言われ、仮病を使おうにも彼女の本性を知らない祖父さんが『子供は遊ぶもんだ』と布団から無理矢理出して、彼女らと遊ばせようとする。そして、疲れているからまた今度と言うと団体さんで押し掛けてきて『美咲ちゃんん家で遊ぼう!』だなんて言われて、私の聖域を傷つけられる。逃げ道などどこにもないのだ。


《分かった。どこに行くの?》


《いつも行くショッピングモールだよ♪明日、朝10時に駅前で待ち合わせね♪》


やり取りを終えて、携帯をベッドの方に放って脱力した。美咲が思ったのは買い物でまだよかったという思いだった。


「カラオケとかじゃないだけまだマシか……」


買い物は、“アリスと遊ぶ時に嫌なランキング3位”だ。何故なら、彼女はブランド物の高い服を好み、ただただつれ回されるだけなのだ。だがこれは服をボーッと見て、適当に受け答えしていれば時間は過ぎていくのでまだマシだ。ランキング2位はカラオケである。ボーッと見ていれば時間が過ぎる買い物と違い、歌わなければならない。そして、彼女は今時のアイドルを好み、同類のアイドルの歌を歌わなければいけない。もしも、私が好んでいるマイナー歌手や昭和の歌手の曲を入れれば歌っている最中に演奏中止にされて『こっちでしょ!』とアイドルの歌を勝手に入れられる。私には曲を選ぶ権利も与えられていない。1位は家に大人数で押し掛けられる事だ。カラオケに比べて苦痛は少ないが、自分が唯一鎧を脱いでリラックスできる空間を汚されるのは心に響くのだ。翌朝の事を考えて嫌な気分になりながら、美咲は布団に入って寝た。

…翌朝、目覚ましのけたたましい音で目を覚ました美咲は、寝癖を軽く濡らして誤魔化して、タンスの中に入っている服の中で1番自分に似合っていると思えるような服を選んで着た。


「まあ、これなら大丈夫かな……」


私はその日、いつもはしないような精一杯のオシャレをした。そして、駅前に向かうと(見た目だけは)愛くるしいアリスがこちらに向かって元気に手を振っていた。その他にも数人の外部生女子の姿があった。


「本当に急だね、行くのはショッピングモールだったっけ?」


「うん、そうだよ!また新しい服が買えるかもだから!ていうか美咲ちゃん、またそんな地味な服着て~」


1年のあの日から、アリスの中での私は『親がブラック企業勤務で薄給で祖父母の年金でなんとか食い繋いでいる可哀想な子』になったようだった。何度違うと言っても話を聞こうとせずに一方的に慰めてくるのでもう訂正するのも諦めた。_そんな私は、冬なので深緑のセーターと黒いジーンズでセーターの上にダウンを羽織っている。彼女がタイツをはいているとはいえワンピースというのに驚く。


「アリス、寒いじゃん。」


「寒くても可愛さを可哀想な皆に分けてあげなきゃ!」


………誰目線なんだよ、お前は。

それに私は、保湿オイルもちゃんと使って気を使っている。服装だけで地味だとか言われたくはないと苛立った。

そんなこんなでイライラしながら美咲はアリス達一行についていき、電車を乗り継ぎ、バスでショッピングモールへ向かった。市バスからのアナウンスを聞いて降りて、少し歩いて大型ショッピングモールの中に入った……本屋にゲームセンター、スポーツ用具に日用雑貨屋、沢山あるけれど1番多いのは服屋や靴屋など。

早速、目星の服屋を見つけたのか突進する勢いで入っていった。アリスは、いくつかの服をハンガーごと手に取って、近くにいた外部生の1人に持たせていた。自分でも1着持ってから胸の前に当てて、似合うか試している……。その様子は侍女にかしずかれている女王様のようだった。


「どう、似合っている?」


「「似合っている!」」


いつ見ても不気味だと思う。彼女は可愛いし何を着ても似合う、それは事実だ。彼女は皆に笑顔を振り撒き、内部生女子以外からの人気を勝ち取っている。でも、ここまで宗教のように崇め奉られるのにはいささか不気味さを感じた。


「そう、ありがとう!

んー、じゃあこれ全部買っちゃおうかな?」


通路の両サイドにはハンガーに吊るされた色とりどりの服達の長い列、どれも足を止めたくなるほど可愛くて素敵な服だった。でも、美咲はそれを見ても『すぐに毛玉がわきそうだな……』とか『オシャレなのは分かるけど寒そう……』としか思わなかった。


(やっぱり、私は普通に安くて機能性が良ければ良いや……ていうか、あの子…この間も買い物して買いすぎて怒られたとか言ってたのによく懲りないな)


とカードで購入するアリスを横目に思った。

その後もアクセサリーや靴などを買っていき、どうかと聞かれる度に似合うよと機械的に答える作業ゲームをしているように時間が無駄に過ぎていった。そして、夕方となり…そろそろ帰ろうかという頃にアリスが振り返って爆弾発言をした。


「ねぇねぇ、美咲ちゃん!私ね、貴樹君と最近いい感じなんだよ!スゴくない?」


「貴樹君ってあの外務大臣の息子のあの外山貴樹君のこと?」


「「キャー!スゴい、ロマンチック~」」


そんな黄色い歓声が上がるが美咲は、アリスやその友人達のようには喜べなかった。


「アリス…貴女、自分が何言っているのか理解しているの!?外山様には朱雀さんという婚約者が居るんだよ?きっと、貴女が勘違いしているだけだって!」


「ひどい…なんでそんなこと言うの!?貴樹君はアリスのことが好きだって言ってくれたよ!」


「……婚約が簡単に破棄される訳無いでしょ。彼らの婚約は親の口約束なんかじゃないんだよ、多分正式に文書みたいなのも交わしていくつもの約束を結んで成り立っているんだから、そんな普通の恋愛みたいに好きって言ってくれたから付き合う、冷めたら別れるなんて出来ないんだよ?」


「それでも貴樹君はアリスのことが好きだって!なんでそんな事言うの!」


『ひどーい』『アリスちゃん可哀想』と友人達が見事な連携で言うが、忠告をそのように受け取られるとは…アリスもここまで堕ちたか。いい加減ここから抜け出したい、本当に鬱陶しい…息がしにくい…その後、私は帰ってからも延々とミャインで彼女に責められた。でも、私は意見を変えることはできなかった、彼女に進んで肯定してしまえば私も壊れる……そう、“異常”を受け入れたらそこで私という存在も壊れてしまうのだから。

外山貴樹と彼女が親密になっていること、それは明らかに悪影響しかもたらさない。そう分かっていた、2人が親密にならないように手を回したりもした…だけど、私1人でできることなど限られていて、止めるまでには至らなかった。


________


「__私、知っていたんです。でも、止められなくって本当にすいません……」


話を終えた私は葵様に詫びた。詫びた所で許されるとは思っていない。


「……それって何月くらいの話かしら?」


「2月です……」


「そう……あの2人が親交を持ち始めたのは1月の中頃よ、貴女のせいではない。……ねぇ、もしかしてだけどその頃に2人の噂が広まったのってまさか貴女の仕業?」


「多分そうです。噂を聞いた人々の反応を見て、これは恥ずかしいことだって気づいてくれればという思いで……ごめんなさい、あの頃は私も病んでいてそれぐらいしか思い付かなくて。……この先の事を考えたら谷口先生に相談した方がいいのでしょうか?」


「それは止めておいた方がいいわ。あの先生は根回しって言葉を知らない方だから」


そう担任の谷口先生を批評した後に葵様は『貴女も大変だったのね』と遠い目をしてため息を吐いた。


「そうだ、ミャインのトーク履歴を私の方にくれないかしら?不貞の証拠だから。」


「いいですよ……あまり、見ない方がいいと思いますけど。」


スクロールして最近になっていく度にワナワナと震え出す葵様を見つめながら遠い日々の事を思い出した。そして、証拠を移し終えてから


「ありがとう……貴女も大変な目に遭ったのね。そうだ、私のことはこれから葵と呼びなさい。いいですね、美咲。」


と言われた。あまりに突然のことで声が裏返って変な返事になってしまった。


「え、ひゃ、ひゃい!」


「フフ、貴女は面白いわね…よろしく、美咲。」


吹き出した葵に口を尖らせて文句を言いながら差し出された手を握った。とても、暖かかった。

__その日、友達が1人増えた。





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