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青華学園物語  作者: かりんとう
影山美咲編~絶交から始まる運命の戦い~
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悪夢が始まった日


2年前、初等科を卒業してから中等科に入学した私、影山美咲はその4月のある日…いつもより早く学校に来ていた。いつも、遅刻ギリギリという訳ではないが、遅くに学校に来ていた美咲が早く来た意味は特になかった。__この意味を持たない行動が後に2年間続く悲劇をもたらすこととなることには、誰もその時気づいてはいなかった。

早く学校に着いた私は、幼稚園の頃からの友人で別々のクラスになった杏子(きょうこ)の所へ向かっていた。この杏子、実は“大待ち”のファンであった。……そんな数少ない同志の元へと向かおうと教室を出て、急いでいた美咲の手を握った人物がいた。


「何か用ですか?」


「あ、あの…!も…もしよかったらトイレの場所を教えてくれない?」


何処かで見たけど見慣れない顔だ。ふわふわのボブカットにくりっとしたパッチリな目、真っ赤なサクランボみたいなみずみずしい唇…こんな可愛い子が居たら覚えていない筈無いし、ここに居るほとんどは幼稚園の頃からの知り合いだから見慣れないという事は外部入学生なのだろう。それに急いでいると思い、トイレの場所を教えた。


「ありがとう!」


「どういたしまして。」


その後、私は杏子の元へ向かって大いに盛り上がる話をしてクラスへと帰った。クラスに帰ると2つ後ろの席に彼女の姿があった。その時に抱いたのも、同じクラスだから見たことがあったのか…それぐらいだった。……でも、彼女_川満アリスの中ではそうじゃなかったようだった。朝のホームルームが終わった後の休み時間に私は彼女に声をかけられた。


「さっきはありがとう!この学園、広くてまだ慣れないんだ。私は川満アリス、貴女はなんていう名前なの?」


「私は、影山美咲と言います。」


「へぇー…美咲ちゃんっていうんだ、よろしくね!」


私は彼女の呼んだ自分の名前に少し苛立ちを覚えた。この学園では、上級生や親交の無い同級生に“様”あるいは“名字+さん”…人によっては“名前+さん”を友人は“名前+さん”か呼び捨てか、下級生に“ちゃん”を使うという少なくとも昭和から続くであろう伝統ある暗黙の了解があった。初対面の人をちゃん付けで呼ぶ事は相手を見下していると見なされてもおかしくないのだ。


「川満さん、この学園であまり人をちゃん付けで呼ぶのは止めておいた方がいいと思います。無用な争いを起こすから。」


「どうして……!」


彼女は目にウルウルと涙を溜めて上目遣いでこちらを見てきた。私は、その暗黙の了解の事を教えてあげた。でも、彼女は私の事を“美咲ちゃん”と呼ぶことを止めようとはしなかった。彼女はその後も、度々私の席へとやって来て私が同志である杏子と関わる時間は徐々に少なくなっていった。彼女は今まで私が関わったことのない種類の人間だった、そんな彼女と居るのはつまらないわけではなかった。しかし、そう思えるのにも限度というモノが存在した。


「ねぇ、ちょっと私、杏子の所に行きたいんだけれど………」


そう、彼女は私が杏子や他の数少ない友人の元へ向かおうとする度に止めて、私と彼女らの交流を潰した。今では、私が連絡先も持っていて時々話すのは杏子1人となってしまった。__その後も彼女の束縛はドンドンと強くなっていった。


「川満さん、私はそろそろ帰りたいから離してよ。」


「ダメだよ、美咲ちゃん!今日はアリスと駅前のドーナツ屋に行くの!それに美咲ちゃん、アリスは美咲ちゃんと友達だもの…アリスって呼んでよ!」


「アリス……これでいいでしょ。とにかく、今日はよして…今日は家に帰りたい。」


これほど忌々しく人の名を呼んだのは初めてだったと今でも思う。アリスから早く逃れたかった、束縛する彼女に気持ち悪ささえ感じていた。_そうやって、その日は逃れたのだが彼女がその言葉から変な解釈をしたのを知るのは翌日の事だった。翌日の放課後、彼女は下駄箱の所で待ち構えていた。


「ごめん、今日も早く帰る!」


そうやって彼女となるべく接触しないように離れようとしたのだが、彼女は私の制服の袖を引っ張ってきた。


「ねぇ、美咲ちゃん!美咲ちゃん、本当は放課後遊びたいけど遊ぶ金が無いからそうやって痩せ我慢して家が好きな振りをしているんでしょ?お金なら私が出すから一緒に行こうよ!」


「はぁ……?なんでそんな話になっているの。」


「……え?だって美咲ちゃんって両親が家に居ないって言っていたじゃん!それに、いつも家に帰りたがるのって……それでね、アリスは考えたの!美咲ちゃんのご両親ってブラック企業で働いているんだぁって!それで働かされているのにその割にお給料が低いから美咲ちゃんもお小遣いが無くて本当は遊びたいけど家が好きだって言って強がっていたんだね!!ごめんね、アリス……そんな事にも気づけなくて!」


いやいや、何故そんな拡大解釈ができる。両親は確かに中々揃う日が少ないけど家には普通に帰ってきているし、古き善き企業戦士というのかブラック企業に重宝されそうな人材ではありそうだけれど別にブラックではない筈。それに私のお小遣いは5000円、少なくは無い!ただ単にあんたに付き合わされるのが嫌なだけよ!


「とにかく、私は帰るよ……それと、別に私の親はブラック企業に居る訳ではないから。」


「待って、アリスは川満商事の社長の姪なの!お金ならあるから一緒に行こう、奢るから」


「無理。帰る!」


私は彼女の手を振り払って帰った。帰り道に私は思った。あの日、いつも通り遅くに来ていれば、彼女は私になど声をかけなかっただろう。もしも、どう足掻いた所で彼女とそうなる運命だったとすれば、私は神様を呪っていただろうと。

__そして、その次の日には、彼女は私が拒絶した事など忘れていた。でも、この時の彼女はまだ多少ワガママで束縛するくらいの可愛い女の子だったと思う。それがどこであんな風に狂ったのか…私にだって分からない。


________


「だいたいこんな感じですかね……」


「なんか、今の彼女とはまったく違うわ。今の彼女は男子を籠絡して、外部生を纏め上げている方にしか見えませんもの。

………そうだ、美咲さん…連絡先、交換しません?」


「え?ああ、はい……」


美咲は、連絡先が増えた事が少し嬉しかった。アリス達の連絡を消して、家族や親戚以外の連絡先は杏子ぐらいしかなかったから。


「じゃあ、もう1つだけ…彼女らと遊びに行った時の話でもしましょうか。」




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