同じ目的を持つ者同士
私は彼女が発したその言葉に固まって数秒ほどフリーズしてしまった。あの先程までの世間知らずでおしとやかなクラスメイト朱雀葵様の姿は何処へ行ったのか…固まった私の姿を見て、葵様は咳払いをして改まった態度で言った。
「もう1度言います。川満アリス…彼女をどうにかするために協力してくださらない?同盟を結んで彼女をギャフンと言わせたいの!」
「え……あ、はい。あの子が大人しくなってくれるのなら別にいいです。」
「あら……随分とアッサリしているわね。まあ、貴女の彼女を語るときの様子を見ていれば無理もなさそうだけれど。」
「ええ、私は彼女の友人ではなく友人(笑)でしたから。でも、なんで私なんですか?他にも適任者が居ると思いますけど……」
葵様は何も言わなくなった、同盟を結ぶなら他にも適任者が居ると思うんだけどどうして私なのだろうか?
「それは、貴女があの学園で1番彼女の被害に遭い、1番彼女の周りに居た集団の中で常識を知っていると見たからよ。……あのグループの最後の良心とも言える貴女を手放すなんて、彼女もどうかしているわ」
「なんだか、随分と私を買ってくれているのは分かりました。でも、私はそんなに朱雀さんが思うほど役に立てるような人間ではありませんし、後ろ楯も何もないしがいない女学生に過ぎません。それに、貴女とは今日の放課後に初めて話をしたぐらいです。私の事を何も知らないのにどうして信用できるのですか?」
葵様は茶封筒を手に持って中の紙束を取り出して頭上に掲げた。
「貴女の事ならば知っていますわ。知らないのに相手に近づくような事はしません。これは貴女の調査結果です。
誕生日は12月21日、都内の一軒家に祖父母と両親の5人暮らし。父実は大手企業の課長、母茜はその取引先の会社の正社員で2人は滅多に帰ってこないため、定年退職した父方の祖父昭一と専業主婦だった祖母和子に養育される。__ここまでは合っている?」
「はい、合っています。両親は、帰ってきて家族が揃うことの方が珍しいですから。」
「昭一の両親は農業を、和子の両親は漁業を営んでいたようね。そして、母方の家系…母の茜は2人兄妹の妹で貴女の伯父にあたる兄は千葉県議会議員の山内和典で彼には2人の子供がいる、母方の祖父の昭文は米農家で祖母は死亡している。そして、変わり映えのしない貴女の家系で最も特筆すべき点は昭文の兄の家系ね。昭文の兄…貴女の母方の大伯父は元建設大臣の山内誠一郎、そしてその息子は元国土交通大臣政務官で民自党政調副会長の山内信一郎……母方が見事に光っている家系ね。こっちはもっと遡れそうだけどキリがないから止めておくわ。」
「絶対にそうしてください……私、もう自分の話を聞いている気がしませんでしたから。」
このように私を調査した結果、彼女のお眼鏡にかなったという事なのだろう。そして、彼女は私がアリスと絶交した理由を聞いたのであの日の事を話した。
「う~ん、話を聞く限りだと貴女が彼女に何かを隠していたからという事なのよね?でも、貴女に心当たりは無い。……彼女の事だからなんか貴女が何も思っていないようなしょうもないことを憎んで勘違いしていた可能性が高いと思う。」
「本当にお宮入りですね………。私の事を調べたってことは当然、川満アリス…彼女の事も調べているのですよね?どういう結果が出たんですか?」
「勿論、幼稚園の時には入園していた子全員を、そして今まで私が関わってきた御方は全員調べていますわ。__川満アリスの結果はこれよ。」
彼女が関わってきた御方すべてを調べているとは恐ろしいな、金持ちはやることが違うなと思いながら渡された資料を見てみる。
《川満アリスの調査結果
本名:川満アリス 誕生日:9月4日
住所:__市○×町2丁目__
家族構成:父、川満商事専務 母、専業主婦 伯父、川満商事社長
性格、自己中心的で自分の思い通りにならないと癇癪を起こす。男子を魅了するのが上手い。__(略)_現在、学園内にて外部生を纏めて派閥を造り上げている。》
「流石、金持ちですね……ここまで調べるとは。中々彼女の事をプロファイリングできていると思います。本当に細かいですね…それほど、外山様の事が心配ですか?」
「ええ、まあ。彼と婚約破棄なんて私の名に傷が付きますから。外山のおじ様の為にもそうなってほしくないわ。……でも、その気持ちは無駄になりそうよ、彼は彼女との交遊を控えるようにと言っても私やおじ様の言葉は頭に入らないらしく……あの通りよ。」
教室での彼の様子を思い出して美咲も納得した。でも、それだけなら何故彼女は同盟を結ぶなどという行為に出たのだろう。顔に出ていたのか、彼女が答えてくれた。
「貴女を誘ったのは、貴女が彼女を憎んでいてこの先も彼女の誘惑に引っ掛りそうになかったから。………今は、彼女の誘惑に完全に引っ掛かっているのは貴樹さんだけよ。でも、この先被害者が増える可能性もある。隣のD組の中崎敦盛と鬼瓦恭太郎、そしてA組の青龍康弘…この3人が彼女と頻繁に接触していて、彼女は彼らを堕落させる気と私は見ているわ。」
「中崎君は医者の息子で鬼瓦君は確か……大物俳優の孫で、青龍様…彼は青龍財閥の御曹司……危険です。」
葵様が名を挙げた方は全員学園の中でも見目麗しく、親や親族にお偉い人が居る人物ばかりだった。彼女はため息を吐いてからまた言う。
「ギャフンと言わせる、それも目的だけれど私は学園の未来ある生徒が1人の雌豚に堕落させられるのも見たくないの。………そういう訳だから、どうか力を貸してくれないかしら!」
「……………………………はい。」
少々口が悪くイメージが崩れてきている彼女の言葉をどこまで信用してもよいのか、私には分からない。でも、彼女を止めたいという目的は同じだ。私は頷いた。
「ねぇ、辛いことだと思うけれど、貴女から見た彼女の思い出を少し語ってくれないかしら?調査には無かった新たな面を発見できると思うの…」
「分かりました。」
頭の中で嫌な記憶を掘り起こしながら、彼女との思い出について思い巡らせた。……しかし、本当にイライラとする思い出しか出てこないな……。一体どの話をしようか……
・あの子と初めて出会った日(中等科1年4月)
・あの子の本性を見た日(2年6月)
・世界で1番地獄を見た日(2年4月)
・彼女に忠告した日(2年3月)
ラインナップはだいたいこれぐらい……本当に思い出したくもない話の数々だ。
「では、私が初めて彼女と出会った日の話を__」
私は思い出したくもない2年前の4月の話を始めた。