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青華学園物語  作者: かりんとう
影山美咲編~絶交から始まる運命の戦い~
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1人を大満喫したい!


数日前…私、影山美咲は元友人だった川満アリスに絶交された。でも、私は決してアリスの事を友人と思ったことはない、むしろ離れたいと思っていた。それは、アリスの性格にある。アリスは、世界は自分中心に回っていると考えている節がある、そんな考えに至った彼女の生い立ちは詳しく知っている訳ではない。彼女が地方の大手企業『川満商事』の社長の姪で父親は幹部社員であるという事、愛らしいルックスから皆にちやほやされて今までワガママを聞いてもらえたであろうという事……それぐらいの皆が知っているような情報しか知らなかった。


「あの子が私を見なかったように私もあの子を見ていなかったんだろうね、不本意ながら3年間も一緒に居たのにこれぐらいしか知らないなんて。……本当に彼女の事、嫌いだったんだ。」


美咲は自分が予想以上に彼女の事を嫌っていたことに驚いた。爽やかな風を受けて、校舎へと歩いていく。『ごきげんよう』と朝の挨拶が交わされる、挨拶を聞いていて思い出した…自分中心に世界が回ると勘違いしていた彼女は、郷に入って郷に従えという言葉に従わず、朝から頑なに『おはよう』と言っていた。

教室に入った途端、居心地の悪い視線を受けてすぐにでも帰りたくなる。早速あの日の事を告げたのだろうか、翌日から懇意にしている外山貴樹様の背中に怯える振りをして隠れているアリスの姿を毎日見た。ただし、毎回のように口元に弧を描き、笑いを必死に隠そうとしているのが見え見えだけれども。


(………もうちょっと、隠した方がいいのに…ね。)


クラスを見回すと自分だけが異物になったかのような視線が突き刺さる。そんな風に睨まないでよと美咲は盛大にため息を吐きながら席に着いた。アリスとアリスの友人達、そしてアリスを信奉している内外部生問わずに男子は全て敵に回ったと見た方がよい。…内部生の女子達は、絶交された私が敵か味方か見極めている最中…このクラスで中立なのは、きっとアリスを庇うようにして守っている外山貴樹様の婚約者である朱雀葵様だけで、味方になってくれそうなのは同じ図書委員の…秋山君だけだった。


「はぁ……付きまとわれなくなったのはうれしいけど、この視線を毎日受けられるほど強くないんだよなぁ。」


ある程度、こうなることを予想していた美咲は再びため息を吐いた。

いつもなら、アリスは美咲が学校に来ると共に『美咲ちゃ~ん!』という甘い声を出してすり寄ってきて、授業以外はどこまでもピッタリくっついてきて、放課後の図書委員の仕事がある時も図書室へ突入して来る鬱陶しい存在なのだ。それが、あの日から何事もない…1人でいることを好む美咲にとってはまさに天国だった!天国の一言では表せないほどの解放感が身体を満たしている。顔が緩んでニヤニヤしそうになるのを必死で堪える。

すると、図書委員の秋山君がこそこそと話しかけてきた。秋山君はどこにでもいるような普通の一般家庭出身のスポーツ少年、私と同じく内部生である…そして、クラスで唯一の味方とおぼしき人物。


「ねぇ…大丈夫なの?」


「大丈夫。私は今、1人を満喫しているの」


「はぁ?1人を満喫ってどういう意味……?」


「そのままの意味です、ずっとベッタリされない数年ぶりの自由な時間を私は満喫しているのです!」


「あ、ああ…なるほど、そういう事か。影山さんも苦労していたもんね」


遠い目をする秋山君。

彼も最初、2年になったばかりの時は彼女の愛らしさに靡いた信奉者だった。それが、私に執着していつもベッタリ、トイレにまで付いてくる彼女の異常性とそれを毎日身に受けて一時期病んだ私の姿を見て、一気に目が覚めてしまった。


「うん……」


「じゃあ、放課後に図書室で。」


そうやって秋山君と話を終えて1人を満喫していると誰かの声で現実へ引き戻された。

顔をあげて見てみると、そこに居たのはアリスの罠にまんまと嵌まった外山貴樹様。青華の学ランに身を包み、幼さが残りながらも凛々しさを感じさせる彼はアリスの手を引いて、怒りに燃えてズカズカと私の席の前にやって来た。

………せっかくの1人だけの至福の時が!

幸福に包まれていた私の気分は下がった。


「__影山美咲!お前はアリスをいじめているらしいな!青華の生徒として恥ずかしくないのか!今すぐこのクラスから、学園から出ていけ!」


アリスはブルブルと震えて小動物のように怯えながらこちらを見ている、それが男性の庇護欲をそそっている。


「無理です。そんなに学園が嫌なら貴方達が出ていけばいいのでは?それに彼女をいじめていると言いますが、そんなことする時間があるなら1人で静かにのんびりとしていたいです。」


「なっ!なんという口の聞き方!」


「美咲ちゃん、ひどいよ……」


『ああ…アリス、君はなんて優しいんだ…』『貴樹君…』と何処かのWeb小説でありそうな三流芝居が目の前で続いているが無視して寝た。朝のチャイムがなったので伏せていた顔を上げると担任の谷口若菜先生の姿がある。担当は音楽で歳は26、7…優しいが若すぎてどんくさい所がある先生だ。絡まれない代わりにあの三流芝居を繰り広げられるのは勘弁願いたいと思い、先生の話をボーッと聞きながら対策を考えていた。


________


放課後、私は図書室へと向かった。

学校が終わる4時頃から5時半まで、図書室では本の返却と貸し出しが行われている。私は秋山君と共に書庫の方で本の整理と掃除をしていた、理由は言わずもがなアリスが私目当てで突撃してくるので図書室内がうるさくならないように司書とと委員以外立入り禁止の裏方が私達の担当となったのだ。その為、今日もカウンターには2年生の委員の子が居た。


「それにしても、外山君があんなことをするなんて驚きだよ。恋は盲目なんて言うけど、婚約者も居るのに公衆の面前であんな事をするなんて…そういう人ではなかったと思うんだけど」


「秋山君、楽になれたのはいいんだけどあの三流芝居が毎日っていうのもキツいわ。なんとかならないかな……」


「さあ、川満さんが諦めるのを待つしかないんじゃない?それにしても、あんなにベッタリだったのになんで嫌われたの?」


本の上に積もっているホコリをはたきで叩きながら秋山君は言う。………言われてみればどうしてだろう、アリスは隠していたとか言っていたのでそれが原因だと思うが何なのか全然分からない。アリスは聞いてもきっと答えてくれないだろう……調べるとお宮入りしそうだ。秋山君にはこうとだけ答えた。


「さあ、分からない。」


「そっか……君は本当に不幸だね。」


「ん…何が?

私は今、とっても幸せだよ!だって1人、1人で居られるし、家以外の場所であの子好みの格好や曲や性格や趣味を強要される事も無いんだよ!ちゃんと人権が保障されているこれが幸せと言わずして何になるの!」


「そ、そうかい……」


秋山君は私の雰囲気に気圧されながらそう言った。………ああ、今思い出しても不快でしょうがない。私は2年2ヶ月をアリスに拘束されて、青春のセの字を味わうことすらできなかった。


「よし、これからは青春を謳歌してやる!」


アリスから離れられてようやく、幸せになれる。美咲にはそんな予感がして、これから先の日々が楽しみでならなかった。

その翌日の放課後、私はすぐに帰ろうとすると外山貴樹様の婚約者である朱雀葵様に声を掛けられた。





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