憂鬱な月曜日
週が明けて憂鬱な月曜日、この日はなんだか曇り空だった。今週は曇りか雨の予報でずっと天気が良くないらしい。月曜日から憂鬱だなと思っていたけれど、世の中は憂鬱だけではなかったようだ。
ある時、私が休み時間にほんの少しトイレに行った隙に、誰かが私の知らないうちに机に折り鶴を置いていったようだ。そのキチンと折られた鶴には何か文字が書かれていた、ソッと開くとそこにはこう記されていた。
《親愛なる美咲へ
今週の土曜日、8時半に最寄り駅の前で集合。よろしく。_中条昭和より》
ああ、デートプランがちゃんと決まったんだ。土曜日、楽しみだな…憂鬱だった今週が少し楽しくなってきた。私はこの嬉しい事を誰にも言いたくなくて、自分だけの秘密にしたくて紙をソッと折り畳んで、隠すようにしてお守りに仕舞った。
この間の音楽室の騒動で私は異質な目で見られるようになったけれど、それは別に苦ではない。むしろ、人との関わりに煩わしさを感じていたのでよかったとすら思う自分もいた。
「部長、本当にこれでいいのか?部長は怒らせなければ普通のイイ人なのに。」
「いいんだよ、私は人との関わりは嫌いだから。それに、信一郎おじさんの事を酷く言えないぐらい私は異質なんだよ。あんなことしたのに記憶に残ってないんだから。」
「………そうか?でも、俺は何があっても恩人である部長の事を信じて、ついていく。」
「中井君、ありがとう。気持ちは嬉しいけどいざとなったら自分を信じなよ、人よりも信じられるのは自分だけだよ。それに、いつ爆発するかも分からない危うい女にホイホイついていくのはダメだよ。」
「部長……。」
こういう会話をしているといつも何かしらのアクションを起こすヤスは、アガサ・クリスティの『そして誰もいなくなった』に夢中なようで何も言わない。次第に、泣き出すものだからどう反応すればいいのか分からない。『そして誰もいなくなった』ってそんなに泣くような話だった?まあ、犯人の思い通りになったような感じだったと思うけどハッキリと読んだことはないから分からないな。
「ねえ、『そして誰もいなくなった』ってどんな話だっけ?」
「ミステリー小説をハッキリと読んだことはないから分からない。」
「そっか、そうだよね。中井君ってミステリー小説とかを読むイメージじゃないもん。」
結局、この話はここで終わった。ミステリー小説…まだ貨幣カタログを読み終えていないから読まないけど、それが終わったらミステリー小説に手を出すのも良さそう…まあ、デートや期末テストもあるし色々忙しそうで読む機会は中々来ないような気がするけど、機会があればミステリーにも手を伸ばしたい。
(にしても、土曜日か…ちゃんとした服、あったかな?)
服とか買いに行かなきゃ……。色々な事を考えながら、その日を過ごした。
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「やっぱり、あれはハッタリかましていたんだね。だって、あれからあの子は全然あんな態度を見せやしない。」
「本当、美波に言われないと危うく騙される所だった。」
「まったくだわ。」
二条美波達は、いつも集まるファミレスではなく別の場所で集まっていた。
そこに手塚正義の姿はない、彼はただのお神輿のリーダーだから自分達が危うくなった時の安全弁でしかない。だから、危うくなった時の安全弁でしかない癖に自分達の集まりにとやかく言いそうな彼の姿はここにはないのだ。
「それで、影山美咲の弱みはなんか見つかった?どう?」
「う~ん、それがね……。なんか“大待ち”とか言う漫画が好きらしいって事と“大臣”という人が好きみたいな事を言っていたけど……。」
「はぁ、何それ?もっと、叩けそうな情報はないの?あの女が誰を好きだろうとどうでもいいのよ!」
「……ごめん。後は中井君とかと普通に話していたから…。たまにお守りを眺めていたり、怪しい行動はなかった。」
「むしろ、古屋沙羅の方がコレクションの事を姉妹達って呼んでて気持ち悪い感じがした。」
学園は少数派にも寛容な方で優しい。これは材料としては弱すぎる。役に立たないわね、じゃあ雇った私立探偵の調査結果は……
「特に怪しい動きはない…か。本当にどいつもこいつも役に立たない!」
というかなんであの女は叩く材料が出てこないの!こうなったら……禁じ手を使うしかないか?
「何か捏ち上げるしかない!」
「なんでもいい。関連付けられる何かネタはないの!」
考えて、考えて、考えまくった彼女達が行き着いた結論とは……
「なんか文化祭の時に気難しい客の1人と親しくしてたし、パパ活しているって噂を流そう!そして、コレクションを姉妹達と呼んでいるのも古屋沙羅じゃなくてあの女って事にしてしまえばいいのよ!…うん、このダブル攻撃よ!」
こうなった。
多分、ハイになっていたのだろう。それか内心は面倒でやっつけ仕事みたいになっていたのだろう。とにかく、こんな結論に至った。
ふとスマホに目を向けると、手塚正義から連絡が来ていた。
「チッ!何よ、鬱陶しいわね!」
でも、出ないと翌朝にわざわざ教室まで来て鬱陶しいので仕方なく出た。すると、いきなり怒鳴り声だった。
『もしもし!なあなあ、俺がリーダーなのになんで美波の下に行った事になっているんだよ!皆、そんな風に噂しているぞ!』
「知らないわよ、私に聞かれても。訂正したいならそっちがやりなよ、私は色々と忙しいの!」
『な、なんだよ…。』
お飾り人形は人形らしく余計な事なんて考えずに黙っててよ。どうせ、貴方なんて私が1番になるための踏み台にしかならないんだから。
「……それで、用はそれだけなの?じゃあ、今忙しいから後にして。」
『あ、ちょっと待てよ。みな__』
面倒だったので無理矢理切った。
「とにかく、そういう事だから。噂を少しずつ流しはじめて。」
「分かったよ、美波。」
二条美波達グループは諦めることなく進めよ、進めと美咲への攻勢を緩めない。11月半ばに入り始めた頃のことだった。




