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青華学園物語  作者: かりんとう
影山美咲編3~正義少年と反逆の同好会~
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1年A組の文化祭


10月8日、今日は一般客が来る日である。

この日は私も浮き足だって疲れも忘れたような気がする。昨日の疲れがうまく取れなかったのか隈がスゴいけれど、それをファンデーションを薄く塗って誤魔化して、今は午前11時ぐらいでお昼休憩はまだなのでみすぼらしいシンデレラの格好で接客する。


「いらっしゃいませ、喫茶シンデレラへようこそ。……綾花さん!?」


シンデレラの格好で応対に行くとそこに居たのは綾花さん……中井君のお姉さんだった。席に案内してメニュー表を見せる。


《メニュー表

デザート

・ショートケーキ

・チョコケーキ

・チーズケーキ

・パフェ

・アップルパイ

・ババロア

ドリンク

・紅茶

・コーヒー

・オレンジジュース

・コーラ》


「割と凝っているね。流石、青華学園の文化祭だ。ショートケーキと紅茶をお願い。」


色々と努力して、メニューも分かりやすい物になり、仕入原価割れしないラインで洋菓子店から仕入れる事となり、飲み物も何とかなった。主にクラスメイトの親の力で。


「分かりました、ショートケーキと紅茶ですね。失礼します。」


2日目という事もあり、接客も昨日よりは慣れてきてスムーズにできるようになったと思う。キッチンの方へ行き、オーダーを告げた。

そして、綾花さんの所へショートケーキと紅茶を持っていった。


「うん、美味しい。明がサボってないか確認しに来たけど来て良かった!」


「中井君は朝から頑張ってます。」


「そうみたいね。あ、そういえばさっき“大臣”を見たよ。昼にはこのお店に来るんじゃない?」


「え、本当ですか!」


綾花さんの言葉を聞いて、嬉しくなって思わず頬が緩みそうになる。でも、今は接客中だし周りの目もあるから頑張って表情を引き締めた。そして、礼をして他の客の元へと向かった。


「影山さん、1人、1人の対応が長すぎ。もっと手短に。」


「はい、分かりました。」


このように小言も言われつつ、何とかこなしていた。でも、“大臣”が午後に来ると考えると、小言でイライラすることもなく、疲れを感じることもなく、力が沸いてくるような気がして頑張れた。


「あの調子じゃ、明と美咲ちゃんは無しか。明は眼中に無さそうだし。」


接客で忙しなく動き回る美咲を見て、“大臣”という単語を聞いた後の先程の花のような笑顔を思い出した綾花は、弟と美咲は脈ナシだと感じた。

そして、昼休みになって、客がまばらになった頃合いを見計らって、立って5分もかけずにお昼ご飯のおにぎり2つを食べて、美しいシンデレラの衣装に着替えた。正直言って、おにぎり2つでは足りなかったけれどそれ以上食べる時間も出し物を回る時間も無かったのでそれで我慢して午後も接客をした。

午後1時半を過ぎた辺り、人が少し少なくなって空席が目立ち始めた頃に“大臣”が来た。


「いらっしゃいませ、喫茶シンデレラへようこそ。1名様ですね。」


『ああ、そうだ。』


“大臣”は10月になってもまだ暑いのか第1ボタンを外していた。そして、接客担当の子をとても睨んでいた、機嫌が悪いようだった。キッチン付近では……


「ねえ、あの客!めっちゃ態度悪くない?なんか人の事、睨んでくるし。」


「ここはシンデレラの出番だよ。じゃあ、影山さん。このチーズケーキとコーヒーをあのテーブルの客の所へ持っていって。」


「あ、はい……。」


こんな会話が繰り広げられていた。

私は嬉しさを隠して頷いた。いつもは嫌な嫌がらせも今だけは神からの贈り物と思えるほどだった。チーズケーキとコーヒーを受け取って、席へと向かった。


「お待たせしました、チーズケーキとコーヒーでございます。」


『ああ、ありがとう。美咲、綺麗だ。似合っている、この後も頑張れよ。』


もしかすると、“大臣”はこの私を取り巻く状況を利用して、嫌な客を演じれば、必ず私に押し付けられる事を見越して、私と接する時間を作ったのかもしれない。それは短い時間でもう少し長く居たかったけれど嬉しかった。


「何あの客、影山さんにだけめっちゃ態度違うんだけど。」


「もしかして、影山さんってパパ活に手を出したりしてたりして。去年、川満さんが貧乏だって目の敵にしていたのは案外本当の事だったりして……。」


「うわぁ、生々しい。」


キッチンの辺りでそんな会話がされていることに気づかなかった。それくらい嬉しかった。

その後も仕事に励んだ。すると文化祭が終わりに近づき、客が居なくなり、もうそろそろ片付けが始めようかという頃に中井君に肩を叩かれて、サッと何かを渡された、小さく折り畳んだメモ用紙だった。片付けをしつつ、頃合いを見計らって、誰もいない物陰に隠れて、それを見た。


《美咲へ 午後6時半、中央棟の屋上で待っている。_by中条昭和》


この言葉がどれだけ支えになったことか、後夜祭までは飾りなどを1ヶ所に纏めて、片付けは休み明けなどに行うらしい。それならば、押し付けられても全然間に合う。そう思いながら、希望を持って教室へ戻った。


__________


文化祭が終わった、6時頃に1度、教室で集まって注意事項などを聞いた後に後夜祭は始まる。外ではキャンプファイヤー、各教室内ではジュースや軽食が振る舞われて慰労会のような物がある。生徒達は大体、慰労会に少し顔を出した後、帰るかキャンプファイヤーに参加したりするのが主流なようだ。

その教室で集まるまでにはまだ2時間ぐらいある。シンデレラの衣装から制服へ着替えて、物を1ヶ所に纏めていると美波さんグループが来て言った。


「影山さん。貴女、パパ活しているそうね。その見た目でよくやるわ。貴女なんかに振り向く殿方がいるなんて、本当に世の中には物好きもいるものね。」


「………はぁ?」


一体何の事なのか分からなかった。パパ活?何の事なのか考えていると、中井君が何かを言おうとしていた。すると、その中井君を制して、今まで静かだったヤスがスッと出てきて言った。


「もしかして、今日来ていたちょっと横暴な態度の客の事を言っている?あれは僕の知り合いで美咲さんの年の離れた友人でもあるんだよ。彼をパパ活なんてやっている馬鹿と言うのはこの僕を馬鹿にするのと同じだと思って。」


「そ、それは……。」


「分かってくれたら片付けをしなよ。」


「………うう。」


どうやら“大臣”を私のパパ活相手だと勘違いしていたようだった。でも、その攻撃材料はヤスの機転により潰されてしまったので忌々しげに睨んできた。ヤスに言われて片付けを始めて10分後、大体物を纏める事ができたので遊びに行こうという事になった。


「影山さん、貴女はこのゴミを体育館裏に出しておいて。」


「え、でも片付けは休み明けだと……。」


「いいからつべこべ言わずにやっておきなさいよ!」


さっきの不発に終わった攻撃のし直しだろう。片付けを押し付けられる。ヤスと中井君がそれはあんまりだと手伝おうと動き始めた時、彼女らはその動きを機敏に察知してそれをさせる前に彼らを引っ張っていった。


「じゃあ、そういう事だからよろしく!じゃあね~♪」


「ま、せいぜい頑張って。」


「頑張って~♪」


美波さんグループは女子として以前にとてもじゃないが人間が見せるようなものじゃない醜悪な笑みを見せて教室から出ていった。

……このまますっぽかして、中央棟の屋上で2時間ほど“大臣”を待とうかと思ったけれど、後々の日々に禍根を残すのも嫌だったし、文句を言われるのも嫌なのでゴミの片付けをする。ゴミ袋を抱えて、体育館裏まで数往復して出す。そして、机や椅子は返却する場所へと返しておく。


「これも捨てるのか……もったいないな。」


片付けもあらかた終わった頃、ある袋が目に付いた。この袋の中には皆が着た衣装が詰め込まれていた。もちろん、私のシンデレラ衣装2着や中井君が着ていた王子様の衣装、石ころや馬車の馬の人の物……沢山あった。


「まだ2日ぐらいしか着てないのに……。もったいないな、せっかくいい生地を使っているのに。どうせ捨てるんだったら貰ってもいいよね……?」


誰の目も無いことを確認してから、私が着ていたシンデレラ衣装2着をソッと鞄の中へと押し込んだ。王子様の衣装も……そう思ったけど、中井君と“大臣”じゃ体格も違うしともったいないけど捨てることとした。それをまた体育館裏に持っていくと1年生で片付けているのはウチのクラスだけだったけれど上級生は意外とこの日に片付けていた。皆、休み明けの朝眠い時間に片付けなどしたくないのだろう。


「はぁ……これで終わり、今は5時48分。まだまだだな…。」


そう思いながら教室へ戻ると、意地悪な顔をした美波さん達が慰労会のために教室へ戻っていた。……結局、私は文化祭を楽しめなかったな。ずっと接客してバッカリだった。

__慰労会なんてどうでもいい、今はとにかく早く“大臣”と話したいと思う美咲であった。







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