私、絶交されました。
青華学園、明治時代に創立された伝統ある私立学園で幼稚園から大学までの一貫教育を受けられる…お嬢様・お坊っちゃま学園、そんな青華学園の制服は真っ黒なスカートに白に黒いラインが1本入ったセーラー服、そして胸元に紐リボンを結んで、白いソックスに茶色い革靴を履けば青華スタイルの完成。
………そんな由緒正しい学園の学び舎で2人の生徒が対峙していた。
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青華学園中等科3年C組の影山美咲はその日、疲れていた。友人の川満アリスに呼び出されていたからだ。友人に呼び出されるだけで何故疲れるのかは後で話そう。ともあれ、アリスに呼び出され、嫌な予感しか感じないまま指定された学園の初代学園長像前に足に鉛でも付けられたような重い足取りで向かった、どこの学園長像なのか指定されていなかったのでここか怪しいがどうやらこの学園の中心部の中央棟にある学園長像の前で合っていたようだ。像の前に彼女_川満アリスの姿があった。
「こっち、早く来て!」
アリスは何故かとても怒っているようだ、その愛らしい顔を歪めて怒っている。美咲は遠目からその様子を見て理由を探るが思い当たる事が無い。早くと言われてもこの学園で走るなんてはしたないことはできない、そんなことすれば高等科の御姉様方に目を付けられてしまう。この中央棟を通るのは私達中等科生だけではないのだから。ため息をついてから少しスピードをあげて彼女の元へと向かう。
「ごめん、遅くなった。……で、話って何?」
「ひどいよ……!私達、友達だよね……なのに隠していたなんて!」
………ストップ。
まるで話が見えてこない。どうやら私が彼女に隠しごとをしていると思われて、糾弾されているシーンらしいがどうしてそうされているのか理由がまったく分からない、覚えもない。
「どういう意味?私には、まったく話が見えてこないのだけれど…ちゃんと1から説明して?」
「だから、なんで隠していたの!?影でアリスのこと、馬鹿にしていたんでしょ!だから…貴樹君との事もあんなに言ったのでしょ!!」
「いや、だからそれは前にも言ったでしょう……婚約者のいる男子と過度に関わるなって。」
貴樹君とは、私達と同じクラスの生徒で父親は外務大臣をしている外山春樹氏である。その外山貴樹には婚約者がいる。婚約者がいる方と馴れ馴れしくするのはダメだ、私はそう言っただけなのだが彼女の中ではとてつもない斜め上な拡大解釈がされていたようだ。それと、私が何を隠していたのか教えてほしいのだけれど……。糾弾される謂れは無い、早くこの時間、終わらないかな…そう思っているとアリスがキャンキャン吠えた。
「そんな事言って、やっぱりアリスのことを馬鹿にしてたのね!友達と思っていたのに……!美咲ちゃん、私達…絶交しよう!」
「…………絶交、絶交ね。そうしたいの、ならばそうしたらいいんじゃないの。好きにすれば?」
その日の美咲は疲れていた、6限の授業に図書委員会の集まり…早く家に帰りたいと思っていた所に下駄箱の中の白い紙、きっと隣の下駄箱に入れるつもりが間違って…のパターンだと思っていたのだが、そうではなかった。『学園長像の前で待っている…』そう書いてあったのだ。
(まったく、この学園に何体の初代学園長があると思っているの!)
この学園の4つの入口、そして初等科、中等科、高等科、大学の4つの入口と玄関前やこの中央棟にもあり、学園長像は10体以上ある。本当ならこのまま帰ってやりたかった。だが、最短ルートで学園を出るには、どうしてもこの中央棟を通りすぎないといけないのだ。
「……やっぱり馬鹿にしてたんだ!美咲ちゃんなんて嫌い!」
そのまま彼女は悲劇のヒロインみたく涙をホロホロと落としながら走り去っていった。泣きたいのはこっちだ、結局私が何を隠していたのかも分からなかったし、疲れがどっと出た。
「絶交かぁ……まあ、それはいいけど、アリスを敵に回すのは面倒くさいな」
あのように話を聞こうとせずに突き進む彼女、そんな彼女は中等科からこの学園に来た外部生のグループの頂点に立っている。私は、1年生の時に彼女に声を掛けられて、幼稚園からずっと青華に染まった人間であるのにこの3年間彼女らとの付き合いが続いてしまった。……厄介な所に居すぎたものだと思う、元から居た内部生の友人も離れてしまった。彼女らにそっぽ向かれたらボッチ確定ではないか…
(いや、1人でも別にいい。アリス、あの女に付きまとわれることに比べればマシか……)
__今日、私は絶交された。あの川満アリスから…嫌いなあの女から訳の分からない糾弾を受けて絶交された。




