表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
青華学園物語  作者: かりんとう
影山美咲編~絶交から始まる運命の戦い~
11/489

朱雀と青龍


例のお粗末な茶番があった後、葵は秋山と美咲と校門の前で別れて、黒塗りの車に乗り込み、幼馴染の青龍康弘(せいりゅうやすひろ)の元へと向かった。あの茶番が無ければ、こんな渋滞にも引っ掛からなかったのにと葵はやや苛立ちを覚えながら進んでいた。


「まさか、あんな茶番に巻き込まれ、このような渋滞にも引っ掛かるとは……今日はツイテナイわね。」


葵は幼馴染に《少し遅れる》と連絡を入れた後、前の車の列をボーッと見た。運転手の山本が着くのは6時過ぎになるだろうと言った。その予言通り、その幼馴染青龍康弘の住まう屋敷に着いた時には時計の針は6時9分を指していた。

呼び鈴を鳴らして少し受け答えすると中に通してもらえた。

幼い頃はよく遊びに来ていた屋敷の中を歩いて、目的の部屋に立ち入った途端に葵は舌打ちしたくなる気分になった。室内は薄暗く灯りはついていない。


「康弘さん、葵が来ました。」


そう言っても返答の声が聞こえてくる事はなかった。私は、仕方なく彼がくるまっているベッドの脇に行って、ソッと静かに声をかけた。


「康弘さん、私が来ましたわ。……今日も学校を休んでいらしたけど何があったのです?もう、もう大丈夫ですから。」


「本当?……葵、遅かったじゃないか。」


男の子とは思えないほどか細い声で彼はガタガタと震えながら言った。__布団と共に丸まっている不健康そうな少年、彼こそが青龍財閥の御曹司の青龍康弘であった。青龍康弘、青華学園中等科の3年A組に在籍しているが病弱でよく学校を欠席しているという評判である。だが、葵は彼が女性不信と人嫌いを併発させて仮病を使っている事を知っていた。


「渋滞に引っ掛かったの……それで、何かあったの?貴方がそんな状態っていうことはよくないことがあったのでしょう?」


「ん…あの、君が言っていた川満アリスだったっけ?一昨日と昨日さ…彼女、君の婚約者と共にウチに押し掛けてきたよ。今日はまだだけどきっとそろそろ来るんじゃない……追い返しておけと言ったけどそれもいつまで持つのかな……」


「そうですか。先程、嫌な出来事があったからもう会いたくないのですが。」


そんな風に噂をすれば、男性の使用人がノックをしてから部屋の中に入ってきて『外山様達がまた来ましたので追い返しておきました』と事後報告をした。彼の様子から見て、慣れているようだったので葵は自分の婚約者とその愛人の行為であるが自分の事のように恥ずかしくなってきた。すると、ベッドで寝転がった彼はそれを察したのか慰めてくれた。


「外山とあんなに仲よかったのにね……僕には、あの少女の良さが分からん。そんな馬鹿な男の為に君が気に病む必要はない。君も可哀想だけど、父親の外山外務大臣が1番可哀想だ。僕が外山のお父さんだったら頼むから海外留学してくれって言うかも。」


「外山のおじ様、最近胃薬の量が増えたらしいわ。それよりも………しばらく学校に行くのは止めてほしいのですが。貴方まで籠絡されるとこちらは対応しきれませんから。だって、私の味方は2人だけですのよ?」


「あんなのに引っ掛かるなんてこっちから願い下げさ。むしろ、あの子が学園にいるのなら行きたくないぐらいだ、出席率なんて言葉が無かったら良いのに」


彼はそう言いながらヨロヨロと立ち上がり、部屋の灯りをつけた。磨き抜かれた調度品もややホコリが積もってくすんで、部屋全体がぼんやりした印象だ。せっかくのヴィクトリア調の部屋を彼が掃除することを許さないからだ。


「そう。」


「大体さ、僕が人嫌いなのは有名な話でしょ!なのに近づくなんて嫌われたいとしか思えない行動を何故取る訳なの?」


「有名なのは私達の中の話でしょう。彼女は、私達の行動範囲とは外れた所にいる方だから知らなかったのでは?」


「まあ、その程度の人間って事だよね。そういや、聞いたところによればその子は社長の姪っていうことが誇らしいんでしょ?こっちもだから何って感じなんだけど……自分も上流社会の仲間入りとか思ってるのかな…だとしたら冗談じゃないんだけど!僕、あんなのと近づくなんて絶対に嫌だよ。」


「それはまだ分かりませんわ。そもそも彼女がどうしてハーレムを築こうとしているのか、そしてどうして彼女の周りに居た方の中で唯一の良識ある方だった影山美咲を切り捨てたのか…謎が多い方ですから。」


「やってる事は得どころか損しかないよね、実は特攻大好き人間とか?」


「とてつもなく不謹慎な言葉で言うのはお止めなさい。」


「……はーい、まあ僕はテストとか重要な時を除いて学校休むからよろしく。で、ノートを写させてほしいっていうのとすぐにでも君の所にお泊まり会してもいい?あの人達、しつこくてもう嫌なんだ。」


「いいですわよ、是非とも来てください。」


彼は早速身支度を始めた、本当に行動するのが早い人。随分、掃除させてないのか彼が動く度に埃がふわりと巻き上がるのが少し気になるけれど。ボーンと部屋の柱時計が時間を知らせる。彼はリュックサックやキャリーケースに物をぎゅうぎゅうに詰め込んでから彼は私に向かって人懐っこい笑みを見せた。


________


その日の深夜、某県のとある神社の中。境内の中には大きな木が茂っており、石畳の脇には木が沢山生えていた。__ただし、咲いているのは桜や紫陽花、紅葉など季節が異なるものばかり。ここは常人には立ち入る事の出来ない神社だ。

そんな神社で男が野太い声で誰かの名前を呼んでいた。


「おーい、アマテラス!」


“アマテラス”__そう呼ばれた存在は不機嫌な視線を男に向けて振り返った。葵のような艶のある黒髪…だけど黒の中に燃えるような朱が混じっている不思議な色の髪をした女は、男の方を片眉をあげてふんと鼻を鳴らした。


「なんじゃ、お前が妾の所に来るなど久しぶりの事だな。何か用か?」


「用だよ、青華学園……俺の母校でなんか不穏な事が起きているみたいなんだ。お前、誰かの心に干渉したりしてるのか?」


フワフワと浮いている長椅子の上に寝そべって、薄青色の切子細工の上に盛られたカットされた桃をつまんでいたアマテラスは心外だという顔をした。


「この世界を管理し治める義務のある妾にそのような青華学園なるたかが1学園に手を出しているような時間などない。妾は、その学園には手など出していない。……それに、人の心に干渉などしたら周囲の人間を悲しませるだけであろう。そんな事、できるものか。」


「ふーん、そうか。なら、10年後に黒歴史になる予定の若気の至りかな。それだったらいいけどなぁ……」


季節外れの桜が吹雪いて、薄紅色の花びらがゆっくりと頭上に降り注ごうとした所で粒子のように砕け散って消えた。


「不穏な事とは?」


「う~ん、学園の猫達の情報だけど、なんか抽象的過ぎて分からなかったんだよ。『アリスとかいう女が男を籠絡している』……彼女らの説明を纏めて分かったのはそれだけ。」


「お前もプー太郎から忙しゅうなったと聞いたが、そのような事に首を突っ込んだら痛い目に遭うだけだ。」


「ん~、そうかもね。でもさ、俺は近々あの学園に行く用事があるからそこで関わらないとは限らないだろう?」


「無視しておけ。」


アマテラスはそう答えた、男はきっと関わってしまう…それは分かっていたのに。アマテラスはこの世界を管理し治める管理者、人々はそのような存在を神と呼ぶ。この世界の事も、人の運命の事も知っている…知らないことなどない。


「向こうから関わらない限りは無視しておく、そうしてくれればいいけど。」


「………まあ、蜃気楼の国に心を置いてきたお前ならば殺してもおかしくはないと妾は見ているからのう。人を傷つける時の感覚をお前は知っている、人を壊す事がどういう事かも知っている…もしもの時、躊躇いなく殺せるだろう。」


「まさか、そんな事するわけないだろう。そんな事をして何になるんだ。__まあ、そういう事だから俺は行くな。」


出口の方へ男は走っていった。

みるみる見えなくなる男の姿をアマテラスは追いかけて叫んだ。


「信一郎、お前…何もするなよ」


「するかよ、俺はただの傍観者の山内信一郎なんだから!」


男の姿はやがて白い靄がかかって見えなくなった。誰も居なくなった神社でアマテラスは1人、花に指を触れた。


「朱雀……そして、青龍……か。あの学園での物語は最初から決まりきっている。」


呟くアマテラス……ブチリ、そう小さな音を立てて花は無残にちぎれて跡形も無くなった。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ