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陰キャラヲタクの従兄妹萌え

作者: 西条 泰


ある日、俺の家に親戚の女の子が里帰りがてら、泊まりに来た。名前は外咲蓮。

現在、中学三年生で、俺の一つ下だ。

家が近くて、よく遊んだものだが、何年か前から連絡も取らなくなり、そのまま疎遠になっていた。

そんな、俺の従兄妹にあたる女の子である。


「こんにちはー!」


「あら、いらっしゃい蓮ちゃん久し振りねー。元気だった?」


「うん、元気だったよ!パパもママも元気!おばさんも元気そうで良かったー!」


「あの……おに……葵君は?」


「あら、今呼ぶわね」


どうやら母が、親戚が来ても部屋に引き篭もってゲームをしている俺を呼びに来たらしい。

トントンとドアがノックされ、確認も無しに母が部屋に入ってくる。


「葵!蓮ちゃん来てるのよ!挨拶しなさい!」


「やだよ、めんどくせぇ……俺に構わないでいいって言っておいてくれよ」


掌をひらひらと振って、あっちに行けという仕草をする。すると、母は俺からコントローラを取り上げ、部屋から出て行ってしまう。


「はぁ……、しゃねぇな」


俺は、頭をポリポリと掻きながら、階段を降りて行く。リビングの前まで来ると、母が待ち構えていた。


「んだよ?返せよ、コントローラー」


「やぁよ。返して欲しくば、蓮ちゃんと仲良くなりなさい」


「はぁ?挨拶するだけじゃダメなのかよ!?」


「ダメに決まってるじゃないの。あんた達がギスギスしてると、あたしの料理も不味くなるわ」


そんな理不尽な…

挨拶すれば済むと思ってたのに、仲良くなれだなんて……

俺ら、ずっと連絡も取ってなかったし、第一陰キャでコミュ障の俺に、いきなりそんな仲良くしろなんて言われても無理があるだろ。

そんな事を考えていると、母に突き飛ばされ、リビングに入ってしまった。


「よ、よう。久し振り」


テレビを観て寛いでいる蓮に、声を掛けてみる。

まぁ、昔はすごく仲良かったし、そう邪険にされる事は無いだろう。

そう思って声を掛けたのだが、帰ってきたのは言葉ですらなかった。


「チッ……」


蓮は此方をゴミを見るような目で見ると、舌打ちをし、テレビに視線を戻す。

えっ、ええええ!!俺って、そこまで嫌われてんの!?思春期……って事だよな!?そういう時期なんだよな!?


こほん。取り乱したが、まぁ、好感度は0を遥かに下回り虫レベルという事で、ギャルゲー乗っ取り、取り敢えず好感度上げからしていくか。好感度上げるには……まずは褒めると事…か。


「えっと…その…なんだ。お前、見ないうちに可愛くなったな」


蓮を褒めるポイントとして、一番最初に思いついたのが、それだった。

金髪のポニーテールに、大きな宝石のような目、きめ細かい肌、おまけにスレンダーな身体つき。

パッと見ただけで、美少女だと認識させられる。


「キモッ……」


「え……?」


「あんまジロジロ見ないでくれる?虫が映るから……それに、お前とか言わないでくれる?あんたにお前とか言われる筋合いないし!」


蓮は立ち上がり、俺の胸ぐら掴みながら言う。

必死に抵抗するが、蓮の力が強く、全然歯が立たない。

そういえば、今はわからないが、中学の頃、部活で空手やってたんだったこいつ……、帰宅部の俺には到底勝てん。


「……ギブギブ!蓮さん…蓮様!」


「蓮」


手を緩め、そっぽを向きながらぼそっと一言だけ発せられる。


「はい?」


「蓮って呼べばいいじゃん、昔みたいに。バカじゃん?」


「あ、はい」


なんで俺怒られてんだ?

まぁ、いいけどさ……って、言ってられねぇんだ!仲良くしないと、コントローラー返してもらえねぇ……


「……」


「……」


暫くの沈黙と重い空気が俺を襲う。

ヤバイヤバイヤバイ、なんか耐えられなさそう……

俺、この際ゲームとかどうでも良いから早く逃げたい。てか、よく考えたらプレ4なくても、PCゲーあるし……


「じゃ、じゃあ俺、部屋行くから。」


「はぁ?何言ってのあんた!私はどうすれば良いのよ!」


俺が立ち去ろうとドアノブに右手を掛けた瞬間、反対の左手を掴まれた。

振り向くと、頬を膨らませた蓮が此方を睨んでいた。


「友達と…ラインなり…ゲームなり?」


「折角来たのに、それじゃあつまんないでしょ!あんた、私と遊びなさいよ!」


「えぇ……」


さっきまで散々罵倒してた相手に今度は遊べ?どんだけわがままなんだよこいつ……

逆に虫と遊んで楽しいのだろうか、この子。


「なに?嫌なの?」


「嫌……じゃないです……はい」


蓮は指の関節をポキポキ鳴らしながら言う。

その圧力に耐えきれず、俺はOKしてしまった。

取り敢えず、自分の部屋に案内し、冷蔵庫のお茶を出す。


「キモッ…ヲタ部屋じゃん。」


俺の部屋に入った蓮の第一声がそれだった。

確かに、俺はアニヲタだし、ゲーヲタだが、そこまで人に言われるのは初めてだったので、心にズシンときた。最近では、ヲタクも市民権を持つようになってきたと思っていたのだが、そう言ったものに嫌悪感を抱く人まだいるらしい。


「キモヲタで結構。で、何する?ゲームぐらいしか無いけど——」


「わー!エロ本はっけーん!って……これも二次元かよ……、キモいなぁ……」


「ちょ…っ!おまっ…!勝手に!」


俺が話している途中に、蓮は俺のベットの下を漁り、至高のエロ同人誌を発掘する。

取り柄そうと向かっていく俺だったが、脚で軽くあしらわれた。

そんな中、蓮は同人誌をパラパラっと、流し読みしていた。


「ふぅん。キモいけど、可愛いね」


「だろっ!」


俺はむくっと脚の横から顔を出す。


「調子のんなっ!」


そして、顔の横側から蹴られてしまった。

左頬からは、激痛が走り、全身を駆け巡る。


「痛いわっ!加減を覚えろ加減をっ!」


「うっさい!いいから、なんか面白い事ないの?」


面白い事と言われても、女の子が楽しめる事なんて、この部屋に無いもんな……

色々と考え過ぎて、腹痛くなってきた。

取り敢えず、PCで遊ばせとけば、少しは静かになるかな?


「じゃあ、好きなゲームをPCの中から選んで、やってて良いぞ。俺、ちょっとトイレに行ってくるから」


蓮は無言で頷くと、俺のゲーパソを起動ボタンを押す。

俺はそれを見届けると、退出し、トイレに向かう。



「はぁ〜、どっと疲れたぁ……あんなに優しかった蓮が、あんな暴力女になっているなんて……」


トイレに到着すると、便器に座り愚痴を溢す。

見た目は超絶美少女で、母さん達への態度を見る限りでは、外面も良さそうなんだが、あの猫被り女!

まぁ、考えても仕方ない。いつまでも、席を外すと怒られるかも知れないし、そろそろ出るか。……って、なにびびってんだ俺!相手は女子!しかも年下だぞ!少しは威厳を見せ……られないよなぁ……陰キャラだし俺。

トイレから出ると、とぼとぼと階段を上って行く。


「こ、これ……すごーいぃ!」


部屋に戻ると、蓮はあるゲームに熱中していた。と言うか、発情していた。

顔を赤らめ、鼻息荒げ、非常に興奮している様子だ。


「何やってんだ?そんな良作あったか?」


「これ、神作でしょ!」


蓮がキラキラした目で見せてきたディスプレイに映っていたそれは、俺のプレイ途中の18禁ゲーム……つまり、エロゲーだった。

然も、絶賛プレイ中だった。(いろんな意味で)


「それ、エロゲーだぞ!?」


「分かってるっての!開いてみたら、ズギャーンってなってー、バーンったってー、ドーンってなった訳!」


蓮は夢中で話し過ぎて、何を言っているのかわからないが、ちょっと可愛いので、ツッコまずに見ていると、蓮はこほんと咳払いをし、普通に話し出す。


「この…エロゲー?って奴?貸しなさいよ!」


「18歳未満はプレイ禁止だぞ」


「あんた何歳よ?」


「17です、ごめんなさい」


「決まりね」


「てか、気に入ったのか?」


「ち、違うっての!何も知らずにヲタクを馬鹿にするより、知って馬鹿にする方が、相手に与えるダメージが大きいでしょ?」


「お、鬼だ……」


「なんとでもどうぞ。で、貸してくれるの?」


「それが、無理なんだ。このパソコンは固定しているから、動かせないし、それに、ソフトをコピーする事は犯罪だからな」


俺の言葉に、蓮は少ししょぼんとするが、少しすると何か閃いたようにパァッと笑顔になる。


「それなら、私がここでやれば良いじゃん!」


「えぇ……じゃあ、俺は出て行かないといけないのか?」


「は?なんで?一緒にやればいいじゃん!」


蓮はさも名案のように目をキラキラさせているが、女の子とエロゲーを共にプレイするって、

中々にカオスな状況だぞ?

ラノベか?これは彼女と一緒にエロゲをプレイする系のラノベなのか?


「駄目なの?」


「いや…別に良いけど…でも——」


「やったー!毎日夜までエロゲー三昧だぁ!!」


またもや、俺が話している途中に蓮が割り込んで来る。

やれやれと溜息を吐きながらも、中々楽しんでいる俺だった。



「リーナちゃん可愛いぃぃ!」


「おいおい……声抑えろって!父さんも母さんも起きちまうぞ」


蓮は、あれから6時間ほどぶっ続けで、エロゲーをプレイし、夕飯を挟み、またエロゲー。

総プレイ時間は10時間にも及んでいる。現在の時刻は、午前0時。深夜帯のアニメが始まる時刻だ。


「悪い、蓮。俺、リビングでアニメ見てくるから、そのまま続けてて良いぞ」


「はぁ、バッカじゃないの!?一緒にやらないと後で、語れないでしょ!?アニメなんて、録画しなさいよ!」


蓮は俺の額に人差し指を突きつけながら言う。

こいつ、ヲタクキモいとか言ってるが、発言がもうヲタクその物なんだが……


「リビングのテレビ録画出来なくて……でも、楽しみにしてた奴で、どうしても見たいんだ!」


「ふぅん…わかったわよ!私も一緒に見てあげる。そして、あんたのクソみたいなヲタ趣味を徹底的に否定してあげるわ!」


「さいですか」


俺は溜息混じり呟きつつ、テレビを付け、チャンネルをBS11に合わせる。

俺の大好きなライトノベルがアニメ化し、今日はそのアニメの記念すべき1話目の放送日だった。

正直言うと、一人でじっくりと観たかった。

ライトノベルと言っても、非オタが見るような、ライトな内容でもないし、横からキモいだの、面白くないだのと罵声が飛んで来そうだ。


『——僕達は』


「おっ、始まった!」


「ふん!」


それから30分間、画面に釘付けなっていた。

圧倒的に作画美に、声優さんの演技、原作に忠実なシナリオで、俺は非常に感動していた。

だが、どうせ非オタの蓮にはこの良さは分からないんだろうなぁ……


「ねぇ……、続きは?」


「え?」


「続きはどうなるのって聞いてんのよ!」


蓮は俺の両肩を掴みぐらぐら揺らしながら言う。


「気に入ったのか?」


「まぁね。ヲタ趣味も悪くないかなぁ…とは、思ったかな?キモヲタとかは、マジで死ねば良いと思うけど…」


蓮さん視点で、俺がキモヲタで無い事を願う。


「俺の部屋の本棚にこれの続きも、俺の好きな作品とか沢山並んでるから、好きに読んで良いぞ」


「言われなくても、勝手に読むし!」


「あっそ…」


憎まれ口を叩きながらも、子供のようにはしゃぎながら階段を駆け上がり、俺の部屋に入ると、本棚にかけて行く。

俺は今、新たなヲタクの誕生に立ち会っているのかもしれない。とか思いながら、のそのそと階段を登り、自室に入室する。


「超一杯あるから…適当に…これかなっ!」


目を瞑り、本棚の中央辺りの本を一冊手に取る蓮。


「何選んだんだ?」


「えっと、『押し掛け従兄妹妻』…えっ!?従兄妹妻!?」


蓮が手に取った本は、ライトノベルなどでは無く、R18の成人誌だった。

そう言えば、母さんにバレそうになって隠してたのそのままだった……


「へー、あんたって、従兄妹萌えだったんだ……キモッ」


蓮は俯向き気味に外方を向いて、此方を向こうとしない。

ドン引きされちゃったか?ヤバイな…でも、ここで面白いの紹介して、汚名挽回をせねば!


「これなんてどうだ?」


俺も数多ある本の中から、無造作に一冊を選んで、蓮に手渡した。

その本のタイトルとは——


「『従兄妹だけど、愛さえあればHできるよねっ!』か、ふーん…やっぱあんた…従兄妹萌え——」


「違うぞっ!断じてー!違う!」


俺は、深夜なのも忘れ、大声で断言する。


「ちょっと!そこまで否定されると、私が否定されてるみたいで、ちょっと複雑なんだけど!!」


「わ、悪い。でも、従兄妹萌えとか言ったら、お前引くかなぁ…と、思って。」


「じゃあ、マジで従兄妹萌えな訳?」


「あー、もう!そーだよ、そーですよ!俺は従兄妹萌えですよ!」


妹萌え、幼馴染萌えに加わる、新萌えジャンルである従兄妹萌え。

俺は、そんな従兄妹萌えだった。


「じゃさ…私の事…好きなわけ?キスとか……してみたいわけ?」


「は?なわけねーだろ!第一、三次元と——」


俺が三次元と二次元違いについて、熱弁していると、いきなり唇に、柔らかい感触が触れる。

目を開いて確かめると、そこには蓮の顔があった。

つまり、俺は蓮にキスされていたのだ。

蓮は3秒ほど唇を重ね、顔を離すと、頬を赤く染めてはにかみ笑いを浮かべた。


「ど?二次元より興奮した?」


「お、お前……」


心臓がはち切れんばかりの鼓動を繰り返す。

初めての口付けなのだ。必然である。


「勘違いしないでね!私が、あんたを好きとか……そう言うのじゃ無いから!からかってやっただけなんだから!」


頬の赤らみはそのままに、ぷいっとそっぽを向く蓮。


「か、からかっただけ……って!お前、痴女って奴か!?」


「は?キモッ!死ねよマジで」


俺を指差し罵倒する蓮だが、耳まで赤くして、今にも爆発しそうな顔だ。


「お前が俺のファーストキス奪ったんだろ!」


「キスぐらいでそんな赤くなっちゃって、一瞬周って可愛いわ。あんた」


「キスぐらいって……」


ファーストキスの余韻に浸る暇もないぐらいに、頭の中が混乱していた。

からかうったって、好きでもない相手にキスなんかするか?確かに、都会は進んでるって言うが、そこまでなのか?


「ふぁぁぁ……眠っ。じゃあ、私寝るから。」


蓮は、目を擦りながらあくびをする。


「お、おう。おやすみ…また明日。」


ふぅ…やっと解放される……

蓮といると心臓がもたん……


「はぁ、何言ってんの?私もここで寝るの!」


「何言ってんの?」みたいな顔をして、俺のベットに寝転がる蓮。

なんか、凄く胸が熱くなる……って、違う違う!


「は、はぁ!?お前、何言ってんだよ!お前の泊まる部屋あるだろ!」


女の子と同じ部屋なんて色々とまずいだろ!


「あるけど…うーん……ここで寝ると、いい夢見れそうじゃない?」


「意味わかんねー!けど、わかった。お前はここで寝ていいよ。俺が出て行くから。」


「何言ってんの?あんたの部屋なのに、あんたが出て行く必要無くない?」


ごもっとも。じゃあお前が出て行ってくれ。

と思うが、それを口に出せるはずもなく……

結局、俺が床、蓮がベットで寝ることになった。


「ねぇ…」


消灯し、真っ暗な闇の中、蓮の声が俺の耳に届いた。


「なんだ?」


「あんたさ。童貞なわけ?」


「ほっとけよ……俺は、硬派なの。好きな人とじゃないと、そう言うことはしないの!」


なりふり構ってる場合じゃないのは分かっているが、俺には心に決めた人がいた。

昔から、子供の頃からずっと好きで、今もその気持ちは変わらないどころか、ずっと強くなっていた。


「……へー、好きな人いるんだ」


「まぁな」


「そっか、じゃあ…、さっきのも迷惑だったね。ごめん」


急にしおらしくなる蓮。


「いや……その…嫌じゃない……けど」


そう、嫌じゃなかった。


「だって、好きな人とじゃないと、したくないんでしょ?」


「そうだよ」


「意味わかんない。私だってさ、どうでもいい奴にキスなんてしないんだから」


言い切った後に口を手で塞ぐ蓮。


「え?」


「なんでもない」


しつこく聞くと上から蹴られそうな気がするので、聞くのはやめておく。


「そっか」


「なんでもなくなんか、なんでもなくないよ!」


「どっちだよ」


「ずっと、ずっと想ってたこの気持ちを、ずっと胸の奥に仕舞い込んでたこの気持ちを……

自分自身で否定するなんて……無理だよ」


俺は何かを察した気がした。


「………俺さ」


そして、いつの間にか声が出ていた。


「?」


「昔大好きな女の子がいたんだ。でもさ、その子にとって俺はただの仲の良い兄貴みたいなもんで、俺もその関係が一番居心地が良かったし、俺がその子に対して抱いている気持ちは隠さなくちゃいけないものだって理解してた。

そうすれば、ずっと一緒にいられるって思ったんだ。だけど、その子は親の都合で引越しちまってさ、正直後悔した。すげー泣いたし、あの時ああしてればよかったって何度も頭ん中でイメージした。最初のうちは手紙送ったりしてたけど、途中から俺、何してんだろうって、こんな事して何になるんだろうって思い始めてさ、手紙を送るのを辞めたら、当たり前だけど、返事もこなくなった。それから何度もその子の事を忘れようとしたけどさ、忘れなれねぇんだよ。だからさ、三次元では絶対に叶わない恋を二次元にぶつけてるって訳。どうだ、カッコ悪りぃーだろ?俺」


「それって、もしかして……」


「ああ、お前だよ……俺はお前が好きだった」


「〜っ!!」


口を塞いで呻き声に近い音を出す蓮。


「悪りぃな、俺みたいな陰キャなオタクにこんな事言われても不快なだけだよな。忘れてくれ」


俺は蓮を諦めるために、蓮と真逆の存在になっていたのかもな。


「……なことない!そんな事ない!!そんな訳ないよ!!」


「え?」


「私だって、ずっと……!!

あんたから……お兄ちゃんからの手紙が来なくなった時、私は飽きられたんだって思った。私は飽きられて、面倒くさくて、お兄ちゃんにとってどうでもいい存在なんだって!そうしたらさ、そうしたらさ……ムカついた!うじうじ悩んでる私にも薄情なお兄ちゃんにも」


「蓮……」


知らなかった。

蓮がそんな事を思っていたなんて……

俺とそんなにも関わろうとしていてくれていたなんて……

それを俺は自分本意な理由で断ち切ってしまったのか……最低だ。


「今日ここに来たのだって、けじめをつける為だった。好きって言ってキッパリとフラれる つもりだったんだよ?」


蓮はベッドから降り、俺の後ろに座る。


「蓮……」


「私だってお兄ちゃんが好きだった!!好きで好きで堪らなくて、今まで想いを引きずって……」


後ろから蓮が泣きながら気持ちを必死に伝えようとしてくる。


「なんだよそれ……ラブコメかよ」


場に似つかわしくない言葉だとは重々承知だ。

だけど、俺の少ないボキャブラリーには女の子を励ますに相応しい言葉なんてなかった。

でも、泣いて欲しくは無いんだ。

怒られたって、蔑まれたっていい。ただ、蓮に泣き止んで欲しかった。


「は?」


ポカンとした様子の蓮。


「悪い、あまりにも現実離れし過ぎててさ。てさ、俺とお前って両思いだったのかよ……尚更、あの時告っとけばよかったなぁ〜!」


俺はくるっと蓮の方を向くと、頭をぽりぽりと掻きながら言う。


「え?」


またもや、ポカンとした様子の蓮。


「ごめんな、蓮。好きでいてくれたのに、こんなになっちまって」


「こんなって?」


蓮は涙を拭いながら疑問そうな顔をこちらに向ける。


「決まってんだろ、陰キャでオタク。会って幻滅しただろ?」


何威張ってんだ俺。

違う、ただの強がりだ。蓮とずっともっと一緒にいたかった。

いや、その気持ちは変わらない。

だけど、今の俺じゃ蓮に好かれる所なんて何にも無い。


「うん」


「おぉう……肯定しちゃうのね」


わかっていても、肯定されるとかなりショックだ。


「正直、第一印象は最悪だった。なんか、キョドッてるし、前髪長いし」


体育座りで、膝の谷間に顔を埋めながら喋る蓮。


「だよなぁー、あはは」


虚しいけど、笑うしか無い。

だって、本当のことだからな。

キモヲタ、陰キャラ、コミュ障。

嫌われ属性を全部所持してるからな俺。


「——でも、話してみるとやっぱり昔と変わらないお兄ちゃんで……わがまま言っても、なんだかんだでしてくれるし……お兄ちゃんこそ、私、変わったでしょ?嫌いになった?」


「確かに変わったな。わがままで暴力的だし、だけど胸はそんなに変わらないし……」


泣きそうなくらい嬉しかった。

だけど、それを悟られるのが恥ずかしくてふと茶化してしまう。


「死ねば?」


「ごめん……でも、お前も根本的な所は何一つ変わってなくて、俺はキモかったらしいから仕方ないけど、昔からお前って先入観だけで否定したり、貶したりってしないよな。そう言う所、素直にすげーなって」


「だってさ、知らないものをさエアプってクソだとか、ゴミだとか言っても何にもならないじゃん!それなら、見てみてさ、具体的にどこがキモいかとかさ、どこがクソかとか言った方が何倍もダメージが大きいだろうし、正当にDisれて私も気持ちいいからね!」


「やっぱ変わっちゃった……!?」


「変わった私は嫌い……?」


「は?好きだよふざけんな……って、自分で言ってて恥ずかしすぎる……」


真っ赤に染まった顔を両手で覆い隠す。

蓮はその手を外すと、まっすぐ俺の目を見る。


「私……昔と結構変わったよ?」


「そうだな、ビックリした。格段に可愛くなってて、自分には手が届がないなって思った。

けど、お前も俺の事が好きだったって知ってすげー嬉しかった」


やっとふざけず茶化さず本心を言えた気がした。


「暴力振るうし、口も悪いし」


蓮は呟くように言うと、俯いてしまう。


「それでもさ、なんだかなぁ……お前に対する好きって気持ちが、何倍にも増幅してるんだ。

俺って、M気質あるのかも……なんてな。

フリたきゃフレよ。笑いたきゃ笑えよ」


これから一緒にいられるなら友達だっていい。

だけど、この好きって気持ちがずっと今も続いてることを伝えたかった。

たとえフラれたって、拒絶されたって構わない。ずっと伝えたかった。伝えられずに後悔するのはもう懲り懲りだ。


「フッたりなんか絶対しない。やっと両思いになれたんだから……」


「いいのか?こんな俺で……んっ」


蓮は俯いた俺の両頬を挟み込むように掴むと、優しく口づけし、俺の肩に手を回すとギュと抱きしめる。

そして、耳元で囁くように言った。


「実はね、さっきのファーストキスなんだ」


「えっ?」


「ずっと取っておいたんだ。重いかな…?引いた?」


胸が熱くなった。

ただでさえ早い心臓の鼓動がさらに早くなる。

確認出来ないが、たぶん顔が真っ赤になっているだろう。


「引くかよ。んなわけねーだろ……」


「そっか、ふ〜ん」


その言葉を言うと蓮は俺の押し倒し、布団に横たわらされると、自分も横たわり、布団に潜り込んできた。


「れ、蓮?」


動揺する俺を見て、にやりと笑みを浮かべる蓮は。そういう蓮も自身も耳まで真っ赤に染めて目線が泳いでいる。

それを眺めていると、蓮は右手で俺の目を隠し、毛布で顔を隠してしまう。


「今度はさ、お兄ちゃん……葵からして欲しいな」


蓮は毛布からひょこっり目だけ出しながら言う。


「………っ!お前、それずるい……可愛すぎ」


「可愛いとか言うな……バカ……んむっ!?」


蓮は暗い布団の中でもわかるくらいに、顔を赤くしていた。そんな蓮に今度は俺の方からキスをした。


「いきなりもずるいって」


「ごめん、やめるか?」


「やめない……もっと」


暫くそのまま唇を重ねていると、蓮のほうから舌を入れてきた。


「ん…ちゃく…くちゅ…はぁ…」


舌を絡ませて、唾液を交換する。

唇を重ねる毎に、蓮への気持ちが膨れ上がる。


「えへへ、大人のキスしちゃた……」


重ねていた口を離すと、唾液がすーっと糸引く。蓮は口の周りについたそれをペロリと舐めとる。とても淫らで、同時にとても美しい光景だった。


「なんか……すげぇエロい」


「そんなこと言うなぁ……女の子だってえっちな気分になるんだから」


服越しに胸を隠すような仕草をする蓮。

目線を泳ぎ、顔も真っ赤だ。


「今は?」


「バカ……」


無言でこくりと頷く蓮。


「俺も……良ければだけど…するか?」


「……ん」


そして俺と蓮は身体を重ねた。

数十分の事に過ぎなかったが、その間とても幸福で、蓮をとても近く感じられた。

事後直前は童貞卒業を果たした嬉しさもあったが、今はそんな事がどうでもいいと思えるくらいに蓮への想いが強くなっている。


「あのさ、蓮。こんな事した後でなんだけど……」


「う、うん」


俺が正座して話し始めると、蓮も俺の真似をするように正座で向かい合って座った。


「俺と付き合ってください!」


「最低な告白……でも、そんな馬鹿正直な葵がずっと好きなんだよね。こちらこそ付き合ってください!」


蓮はくすくすと笑ったあと、笑顔で承認するのかと思いきや、蓮の方も俺に告白をしてきた。


「って、どっちが了承すればいいんだ?これ」


「わかんない!じゃさ、二人でOKすればいいんじゃない?」


二人してけたけたと笑う。


「そーだな、せーの」


「「よろしくお願いします!」」


翌朝、両親に話すと、意外にも普通に祝福され、俺たちは晴れて公認のカップルになった。

思えば、母さんは俺の気持ちにとっくに気付いてて、最初から俺と蓮をくっつけるつもりだったのかも知れない。もしそうだとしたら、俺から生命線であるコントローラーを取り上げて、無理矢理にでも仲良くさせようとした事にも説明がつく……気がする。

どうあれ、これから辛い事も数え切れないほどあると思うが、それを全て覆い尽くすような幸せを育んでいきたいと思う。


「うへへぇ……エロゲさいこぉ〜」


そして、蓮はエロゲに沼ったのだった。

ご閲覧頂きありがとうございます。

これは以前書いた18禁版のもののリメイク版なのでご了承下さい。

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