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まだ夢は醒めない  作者: みしろ
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2,少しずつズレていく日常

 僅かに疑念が浮かび始めたのは五日目の事だった。今までは連続した夢を三回までは見た事があった。しかし、そのどれもが朧げであり続けて見ているはずなのに殆ど内容を覚えていない。昨日の続きという自覚があるだけであった。それと比べてどうだろう、ハッキリとした空間と時間が存在し、内容もつい先程の事であるかのように思い出せる。夢であるはずなのに場面が飛んだりいつの間にか終わるという事がない。

 夢が始まるタイミングと終わるタイミングには一定の法則があった。始まりは下駄箱の前、朝八時十分だ。朝のホームルームの三十分前で、まだ人の気配が殆どしない。

終わりは一日の学校に関わるイベントが終了した時、特に分かりやすいのは校門を出た瞬間だ。五回の夢で校門を越えた先を見た事はない。それは恐らく私の中の「一日の終わり」の感覚が起因している。現実の私は会社が終わると一日が終わったと感じるが、思い返せば学生時代も同じであった。だから夢が途切れる瞬間も決まって学校が終わるタイミングなのだ。もし今日もう一度同じ夢を見れたとしたら私は校門の先を見に行くだろう。


この時は会社の業務をこなしながら少しだけそんな事を考える余裕が生まれている自分に何も違和感を抱かなかった。

激務を今日も辛うじてやってのけ帰宅すると、私はある事に気が付いた。

(今日なら夢の中の家族に会えるのだろうか?)

この五日間は平日を過ごしていたため学校内で全てが完結していた。だが、祝日だとしたらいつもの様に強制的に下駄箱からのスタートという事は無いはずだ。親や姉も昔と同じ風貌のままなのか、ふとそんな事が頭をよぎったのであった。





 


 今回は夢の中へと入っていく感覚がした。ベッドに身体が沈み込んでいき、そのまま砂に埋れていく様に温かい感覚と息苦しさに包まれた。息が…呼吸を…。溺れているような焦りと共に沈んでいく。ほんのりと甘い香りが漂い、眠気を誘う。目を覚まさなくてはと上半身を震わせた瞬間、掃除したての部室のような消えきらない汗の臭いと下駄箱が現れた。

 どうやら、また平日が始まるらしい。ともすると、休みなく勉強をさせられる日々が続くとも言えるのかもしれない。休日カットとは学校も我が社も対して変わらないではないか。

 一応、高校の授業にはギリギリではあるもののついていく事は出来る。遥か年下の友人たちと協力して分からない所は教え合った。正直、分からない者同士で教え合う事は非効率的ではある。だが、効率を良くする事だけが学校ではない。大人になった今でこそ言える事だが、勉強をして知識を得るだけならば本を読んだり塾へ行けば済む話だ。同じ苦しみを乗り越え、喜びを分かち合う。それだけで価値があるというのに、高校の頃は体育祭や文化祭などの学校行事に対してケチをつけるばかりだった。参加はするし必要なら前に出て周りと協力をする場面はあるものの応援団に入ったりするほど全力ではなかった。それが堪らなく惜しい事だと思えるようになったのは斜に構えることをどこかで辞めたからなのだろうか。いや、辞めたのは何かに抵抗する事か。前の自分と今の自分はどちらが良い人間と言えるだろう。




 何はともあれ、今日の目的を忘れてはならない。高校に入って最初の友人は、社会人になってからも暫く会っていた生涯の友と言える男だ。名前は橋田 幸助。現実ではもう一年近く会っていない。夢の中の、若くシワの無い幸助は屈託の無い笑顔が印象深い。学校では席が隣という事もありほぼ行動を共にしている。LINEなどもしている事になっており、放課後や休日にはかつての内容のままやりとりしていた。都合良くスムーズに進むのは夢の良いところだ。おかげで放課後に約束を取り付ける事に抵抗はなかった。幸助とは週に一度のペースで最寄駅のラーメン屋に通っていた。そこへ久しぶりに、初めて行く事になった。

「いつも帰るの早いからてっきり自転車かなんかで帰ってるのかと思ったわ。最寄駅一緒ならこれからも一緒に帰ろうぜ」

「ああ、ごめん」

まさか六日目を迎えるとは思わなかったから…。という言葉を必死に飲み込み校門の前までやって来た。

ここを越えれば活動範囲が広がるし、試せる事が増える。例えば、夢では無い可能性を消す事が出来るのだ。タイムリープや未来人を信じた事はないが、もし何処かに私が居る証拠を残せるならば、現実と照らし合わせる事で夢かどうかの区別がつく。学校内では現実での確認がしづらいので控えていた。大学ならまだしも高校に社会人が用もなく立ち入るのは自殺行為だ。そもそも会社が忙しいので母校を訪れる時間などない。

色々な期待を胸に一歩踏み出す。その瞬間、足下がフワッと浮きかけた。血の気が引く焦りと校門の先に辿り着いた足が、身体の時を止める。

「お前何やってんだ?」

 幸助の呆けた声と見せ物を見るような周囲の目線が、私を引き戻す。


 校門を越えた。今日の夢はまだ、終わらない。

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