2-2話 深まる能力の謎
おじいさんに見つめられた文は
自分の孫を傷つけられて怒っているのではないか?
と思い、焦りながら誤解を解こうと試みる。
「ごめんなさい! でもゆーちゃんに襲われたからというか、正当防衛というか……」
「いや、そんなことはどうでもいいんだ、俺にその力とやらを見せてくれないか?」
どうやら怒っているわけではなさそうであった。
そのことに関しては安心した文であったが、急に『力を見せてくれ』と言われ困惑してしまう。
「え? な、なんでですか?」
「いや、単純な興味本位だ。一応こいつは俺が育てた勇者だ。その勇者を吹き飛ばすほどの力とやらがきになってな」
「で、でも私もこの力のことよくわかってなくて……それに見せるといってもどうやって見せればいいのでしょうか?」
「簡単だ、ユウキと同じように俺を吹き飛ばしてみてくれ」
「えぇ!?」
すでに困惑していた文であったがその依頼を聞き、困惑はさらに深まった。
女の子に引き続き高齢の方まで痛めつけたりなんかしたら元の世界だったらすごいバッシングを受けるだろう。
SNSで色々な炎上事件を見てきた現代っ子の文は自身がおじいさんを暴行する光景を誰かに見られたりしたら……と心配な気分になった。
「いや、私本当にこの力のことわかってなくて……手加減とかできる自信がないんですけど……」
「安心してくれ、もう引退したが俺も元勇者だ。体の頑丈さには自信がある。それにユウキがピンピンしてるところ死ぬ程ではないだろう」
「そうかもしれませんが……」
自身の力をコントロールできない文はもしかしたらの事を考えると簡単に”YES”と答えることはできない。
そんな申し出に対して腕を組み『うーん……』と文が考えていると横からユウキが肩に手をポンと置かれる。
「じいさんもこう言ってるんだし、いいんじゃない?」
「いや……でも……」
「正直私はこのクソじじいがくたばってくれても構わないんだけどね」
「いや! 孫としてそれはどうなの!?」
文の力がどれほどのものか理解しているはずのユウキは全く止めようとしなかった。
どうやら自分の祖父に対して恨みのようなものを抱いているらしい。
「あまりやる気がないのか? そうだな……もし本当に俺を倒す程の力があるのならお前達の結婚を認めてもいいぞ」
あまり乗り気でないところ見かねてか、おじいさんが提案を出してきた。
「やったああああああ!! ふーちゃん! 私達の愛を証明するためにも、じいさんをぶっ飛ばして!!」
「実のおじいちゃんになんてこと言うの! それに何回も言うようだけど結婚しない!」
提案された条件にユウキは叫ぶほど喜んでいたが文にとって全くメリットがなかった。
そんな条件を出され文は『やりません!』と答えようとしたが
「おい、クソじじい! この子の一撃食らってぽっくり逝ったりしないでよね!」
「ふん! こんな娘の拳なんかでどうにかなる身体ではないわ! お前こそ自分の貧弱さを思い知ってショック死するなよ!」
二人はなにやら物騒な会話で盛り上がっており、断りづらい雰囲気になっていた。
「さぁ!! いつでも来い!!」
おじいさんは気合を入れるためか上着を脱ぎ、鍛えられた上半身が露わとなる。
その肉体はとても年配の方とは思えない程鍛えられたものであり、吹き飛ばされても大丈夫という自信の表れのようであった。
「ふーちゃんやったれぇぇええ!!」
ユウキは拳を空に突き出し、謎の応援をしている。
もう二人は文を置き去りにして完全にやる気満々だ。
正直逃げ出したい気分であったが、もう引くに引けない空気になっている。
(えぇい! もうどうにでもなれ!)
やけになった文は注文通り拳をおじいさんの腹部に向けて放った。
「えいっ!」
気合を入れたその拳は、おじいさんの腹部に命中する。
拳を出してから文は後悔した。
ユウキを吹き飛ばした時は無意識に振り払ったり、はたいたりした結果、十数メートル吹き飛ばしたのだ。
もし意識的に、それも本気で殴ったりしたらどれほどの力がでるのかわからない。
下手したら病院送り……いや、最悪死んだりするのではないか……
しかし、時すでに遅く、文の拳はおじいさんの腹部に命中した。
(やってしまった……)
そう思った文は怖くなり『ギュッ』と目を閉じる。
しばらく目を閉じていた文であったが、拳に何かが触れている感覚に違和感を感じて恐る恐る目を開けた。
「あれ?」
目を開いてすぐ目にはいったのはおじいさんの腹筋であった。
すっかり自身の力で吹き飛ぶと思い込んでいた文は、自分の拳はおじいさんのお腹に埋めたままである。
文が顔をあげるとおじいさんも困惑しており、お互い何が何やらわからないといった表情をしている。
数秒間の気まずい空気がその場に流れていたが、おじいさんが静寂を切り裂いてユウキの方を向いてしゃべりかける。
「おいユウキ、お前こんな大して力も強くない娘に吹き飛ばされたって本当なのか?」
「い、いやぁ……そのはずなんだけどなぁ……」
「正直信じられないぞ、お前いつの間にこんなか弱い娘にも負ける程弱くなってしまったのか?」
「そ、そんなことないもん! ふーちゃんの力はこんなもんじゃないわ!」
正直人を傷つけなくて安心していた文であったが、こんな気まずい空気を作り出してしまいユウキに対して申し訳ない気持ちになっていた。
「そこまで言うならもう一回チャンスをやろう、今度は助走してから殴ってもらっても構わないぞ」
「ちょ……! じじいでもそれは危ないんじゃ……」
「うるさい! こんな娘にそんな力などない! 大人しく見ておけ! ええと、ふーちゃんと言ったかな? 今聞いた通りだ。もう一度俺を殴ってみてくれないか」
「わ……わかりました」
ここまで来たらもう流れに従うしかない。
文はその言葉に従い、助走をつけるために距離を取ろうと後ろ歩きをする。
しかし、3メートルくらい歩いた時だった。
「わわっ!」
足に固い何かがぶつかり態勢を崩してしまった。
どうやら後ろを見ないまま歩いていたためか、後ろにある石気づかずに躓いてしまったようだ。
態勢を崩した文を支える物がその場にあるわけもなく、文はそのまま地面に尻餅をついてしまった。
「いたた……」
「ふ、ふーちゃん大丈夫!?」
尻餅をついた文にユウキが心配そうな顔をして駆け寄る。
「う……うん、ちょっと転んだだけ」
「よかったぁ……立てる?」
ユウキはそう言うと尻餅をついた文に手を差し伸べる。
文は立ち上がるためにその差し出された手を引く。
ユウキの引き上げる力も合わさったためか文は勢いよく身体を起き上がらせてあっという間に立ち上がることができた。
「ゆーちゃんありがと……ん?」
立ち上がった文であったが、先ほどそこにいたはずのユウキが視界から消えていたことに気づく。
おかしいと思った文は周りを見渡していると下から何やらうめき声のようなものが聞えてきた。
その声を聴いて下に目を向けると、先ほど文が尻餅をついた場所に何故かユウキがそこにいた。
その姿は地面に顔をつけ、お尻を突き出していかにも間抜けな絵面となっている。
「なんで⁉︎」
どうやら手を引いた時に例の力が何故か発揮してしまい、地面に引き込んでしまったみたいだ。
おじいさんに対してはビクともしなかったが、ユウキに対しては例の力が発揮し、その不安定さに文は思わず声が出た。