1-6話 夜這い勇者ちゃん
◇◇◇◇◇
くっくっくっ……ふっふっふっ……あーっはっはっはっ!!
文に挨拶を済ませたユウキは邪悪な笑みを浮かべ、実際に声には出してはいないが心の中で高らかに笑っていた。
その笑いは勇者というよりかは魔王のようである。
「ここからは私のフィーバータイムだ……!」
そう呟いてユウキは風呂場へ向かっていた。
これからやることのために身体を清めなければならないからだ。
お風呂に入ったユウキはまず、シャワーのお湯で身体を濡らし、念入りに身体を洗う。
そして身体をキレイにした後に、湯舟に身体を浸からせる。
このお湯はさっきまでふーちゃんが使っていたお湯。
あの子が裸で浸かっていたお湯、入浴シーンを想像するだけでニヤニヤが止まらないわね。
湯舟に浸かりながらユウキは文の入浴シーンと妄想をする。
しばらく妄想していると、ユウキの中である考えが頭をよぎった。
(……このお湯、とってもおいしいんじゃないのかしら?
きっとふーちゃんの出汁がきいているに違いないわ!)
そう決めつけたユウキは湯を手ですくい口元までもっていき、『ごくり』と飲み込んだ。
すると、暖かいお湯が喉元を過ぎていき身体の芯まで温まる。
(あぁ! ふーちゃん成分がわたしの身体の中を巡っていく!
そう思うとものすごく身体の火照りを感じる!
これはお風呂で温まったことによる身体の火照りではない、ふーちゃん成分の摂取で興奮したことによる身体の火照りだ!)
いつもと違う特別なお風呂に大興奮のユウキはたっぷりと入浴を楽しむ。
「おっと……まだまだふーちゃん風呂に浸かっていたいけどそろそろ出なきゃ……」
ユウキにとってのお楽しみはまだまだこれからである。
すてきなお湯とお別れをして浴室を出て服を着替え準備をととのえると、文風呂の次のごちそうをいただくこととした。
「あったあった、これも楽しみにしていたんだ♪」
ユウキが手に取ったのはさっきまで文が着ていた服。
そして、綺麗に折りたたまれている服の中からまずはブラウスを取り出し、それを鼻に当て思いっきり吸い込む。
「すーーーっ!……ふへっ、ふへへへ……」
(あー、これは可愛い女の子特有の甘い、いい匂いね。
うーん、可愛い匂いが鼻孔を刺激し、思わず顔が緩んでしまうわ)
心の中で匂いのレポートをしながら気持ち悪い笑みを浮かべる。
「あー……幸せ……」
ユウキはそのまま布に顔を埋めて、匂いを堪能した。
しばらく堪能した後に次のモノをいただくためにブラウスを元にあった場所に戻す。
「そ、それじゃあ次は……」
次に手にしたものはショーツ。
可愛いフリルのついたピンク柄のもので、子供っぽいところが尚ユウキを興奮させた。
「おぉ……これは……すごいぞ……」
語彙力がなさ過ぎてこの感動を的確な言葉で表せられないユウキは自分を憎むが
(この神々しさを言葉で表現できる人間などいるのだろうか?
いや! いない!)
とも心の中で評論していた。
「それじゃぁ……イくぞ……!」
ユウキはその布を鼻元まで引き寄せようとする。
しかし、ある懸念がふと頭の中に浮かびピタリと手を止めた。
(待てよ……
さっきのブラウスですら刺激的だったのに、ショーツなんて嗅いだらどうにかなってしまうのでは?
たかが匂い、されど匂い。
油断すると脳の神経が破壊されかねないわ)
ショーツを片手にユウキはその場で『うーん……』と悩みこむ。
そして少し悩んだすえに出した答えは、手で仰いで匂いを嗅ぐというものであった。
それはまさに理科の授業で刺激臭のする液体を嗅ぐときのような光景である。
「う゛っ……! あ……あぁ……!」
すると匂いでユウキの興奮がピークになったのか、いつのまにか足をピーンっと立たせてもじもじしていた。
(いけない…! これ、一種のドラッグだよ…!
こ、これはわたしにとって刺激が強すぎる……!
もしこれを直で嗅ぎ続けていたらきっと朝まで致してしまうだろう。
そう思ってしまう程の匂いだ……!)
「はぁっ……はぁっ……! あ、これ洗濯しなきゃいけないんだった……」
文がお風呂に入っているときに服を洗っておくって既に言っている。
勿体ないけれど洗濯をしていないと不信に思われてしまう。
ユウキは渋々服を洗濯機の中に入れてスイッチを押す。
さようなら……マイエクスタシースメル……
水が流れる音と機械音が静かに響き、服は洗われていく。
ユウキは愛おしい者との永遠の別れをしたかのよう寂しげな表情をしていた。
「さて……気を取り直してメインディッシュを頂きましょうか……」
ユウキは最後のご馳走を頂くために文を連れて行った部屋に向かっていく。
そう、メインディッシュというのは素材そのもの……文自身のことだ。
(くっくっくっ……今頃ふーちゃんはぐっすり眠っているだろう。
さっき私が作った夕食には睡眠薬を混ぜておいたからね。
不眠症気味になった時に使っていたものがこんな時に役立ってよかったわ)
部屋の前についたユウキはゆっくりドアをあけた。
ドアの隙間から寝息が聞こえてきたことで、眠っていることを確信する。
そーっと中に入ると文は毛布もかけずにぐっすり眠っている。
就寝の時は流石にメガネを外しているため、可愛い顔が露わとなっていた。
(やっぱり可愛いわねぇ……今からこの子の身体に触れると思うと……
おっと、興奮が抑えきれなくて鼻息が荒くなっていた。
起こさないように注意しないと)
ユウキは静かに深呼吸をして息を整えると
「それじゃあ……遅めのディナー、ありがたくいただきまーす……!」
静かに手を合わせ、神へ感謝の言葉を口にする。
まずは本当に眠っているか確認するため、愛らしいほっぺたをツンとついてみる。
すると、『ん……』と可愛らしい声が漏れユウキの興奮を促進させる。
そして、すでに興奮のゲージがMAXになっていたユウキはもう自分を抑えきれなくなっていた。
(もう辛抱たまらん!
この子の全てが見たい!!
いや、見るぅ!!!)
我慢の限界を迎えたユウキは先程までの落ち着きは消え去り性欲の化身と化していた。
そして欲望のままに文が着ているパジャマの上着を掴もうとしたその時
「うごっ!!」
頭にものすごい衝撃を受け、顔が床に叩きつけられた。
その衝撃に覚えのあるユウキは瞬時に何が起きたのかを理解した。
(この感じはふーちゃんに殴られた時の衝撃と同じ?
殴られたの……?
も、もしかして起こしちゃった!?)
起こしてしまったのではないかという焦りで先ほどまでの興奮が一気に冷め、ユウキは顔を起こしてベッドの方向を見る。
「zzz……」
「お、起きてない……?」
起きた気配はなく、部屋には文の寝息だけが聞こえている。
どうやら、寝返りを打った時に腕がたまたまユウキの頭に振り下ろす形になったみたいだ。
(寝相が悪いのかな?
こんなに可愛いのに寝相が悪いなんてギャップがあってかわいい……かもしれない)
と思ったが自身の頭に走る激痛が全く可愛くない。
しかし、今日何回も叩かれたことで、この衝撃にも多少慣れてきていた。
そして、ユウキはスケベしたいという一心でふらふらしながら立ち上がる。
今度は寝返りで殴られないように今度はパジャマの下に手をかけてそーっとずり下ろす。
静かに降ろすと青い色のショーツがチラリと見える。
もう少し……もう少し……と下ろしていると、今度は腹部に衝撃を受けて壁に叩きつけられた。
「お、おげえぇぇぇぇぇっ!!」
その痛みはお腹に思いっきり蹴りを入れられたことによるものだった。
幸い何も食べていなかったから吐き出しこそはしなかったが、凄まじい激痛に襲われ、あまりの痛みにポロリと涙がこぼれる。
そしてユウキが悶えている一方で、文は何事もなかったかのようにベッドでぐっすり寝たままだ。
(こ、こんなに寝相がわるいなんて……想定外だよ……!
どうしよう、滅茶苦茶痛いし今日はもう大人しく寝たほうがいいんじゃ……
いや、こんなにわたしのタイプな子を保護できるチャンスなんて二度とないかもしれない。
今夜、この子の純潔を奪ってみせるわ!)
ユウキは散々痛い目を見ているのに尚、意地になって諦めずにいた。
「わたし……諦めない……この子と〇〇〇するまでは……!」
こうしてユウキと文の寝相との奮闘が幕を開けた。
◇◇◇◇◇
「んっ……ふわぁぁぁ……」
文は大きな欠伸と共に起きた。
寝起きであることと、元々の視力の悪さが合わさってかなりぼやけた視界でも自分の部屋の天井でないことがわかる。
(やっぱり夢ではなかったんだ……)
昨日のうちに別の世界に来たことは理解していたつもりだが、寝て起きたらいつもどおりの朝を迎えるのではないか、という希望が少しはあった。
しかし、残念ながらその希望は打ち砕かれてしまった。
身体を起き上がらせてベッドの棚に置いたメガネに手を伸ばし、そのままかけると、部屋を出ようとベッドから降りようとした。
「……ん?」
ベッドから降ろした足に何かが触れる変な感触を覚えた。
何かを踏んだようだが、昨日寝る前は何もなかったはずだった。
その覚えのない感覚に違和感を感じた文は身体を前に出し床に何があるのかを確かめる。
「え……きゃぁ!」
なんと足元には人が倒れていたのだ。
驚いた文は一気に目が覚める。
そして、よく見てみると倒れている人物はユウキであることがわかった。
「ど、どうしたの!? ゆーちゃん! 目の下クマだらけじゃん! なにしてたの!?」
文の大きな声に気づいたユウキはゆっくりと顔を上げると、かすれた声で
「えーっと……お互いの大事なものをかけた戦い……かな?」
と、最後にそう言い残し、ガクリと床に頭を突っ伏した。