1-4話 告白勇者ちゃん
◇◇◇◇◇
勇者と名乗る少女からのセクハラを退け、落ち着いた文は彼女にこの世界について尋ねることにした。
「あの、ここってどこなんですか?」
「ん? ここは”ショケンの森”だよ」
しかし、求めている回答とは別の回答が返ってきてしまう。
違う、そうじゃない。
と言いたい所なんだけど、この人からしたら別の世界から来たなんて思ってもいないだろうし、この反応は当然なんだろうなー。
自分の言葉が足らなかったことを反省し、まず自分の今の現状を説明しようと試みることにした。
「えっと……そうじゃなくてですね……あの、なんというか、わたし別の世界からこの世界に来てて……その……この世界のこと教えてほしいな~……って」
「???」
勇者と名乗る少女は『この子何言ってるんだろう?』といった表情をして頭に『?』を浮かべていた。
どうやら全く伝わっていないようだ。
しょうがないじゃん! わたし異世界に来たの初めてなんだから!
わたしだって何が起きてるかわかってないよ!
今の自分の状況を伝えたいが自分ですら今の状態が分かっていない。
そんな状態で相手に意思疎通ができるわけがなかった。
別に彼女が悪いわけでも自分が悪いわけでもない。
そのため、この怒りをぶつける矛先がないことに文はモヤモヤしていた。
その後、文はなんとか自分なりに別の世界から来たことを説明をするが、説明を受けた彼女は文が話している間もニコニコしながら『へー!』とか『そうなんだ!』と生返事で返しているような感じであまり信じてくれていないようだ。
「えーっと……とりあえずあなたが別の世界から来たって設定はわかったよ!」
「設定じゃないんです!」
文の頑張り空しく痛い奴と思われただけであった。
しかし、元の世界でいきなり『わたし、この世界とは別の世界から来たんです!』とか言ってくる人がいれば自分も同じ反応するだろうなー、と気持ちがわかってしまう文はうなだれた。
どうやったら信じてもらえるだろう……と文が頭を抱えて俯いていると少女が顔を覗き込んで話しかけてくる。
「ねぇねぇ! ところであなたの名前は? 教えて教えて!」
そういえば自己紹介していなかったことを文は思い出し自身の名を名乗ることにした。
「はい、わたしは文っていいます」
「へー、よろしくね!」
名前を尋ねられたことにより、この勇者の名前を聞いていなかったことを思い出した文は彼女の名前を尋ねた。
「あなたの名前は?」
「わたし? わたしはユウキ!」
「えっと……ユウキ……さん、よろしくお願いします」
「よろしくね! あなたのことはなんて呼べばいいかしら?」
「そうですね……友達からはふーちゃんって呼ばれてましたね」
「ふーちゃんね♪ じゃあ、私のことはゆーちゃんって呼んで! あと敬語はいいよ~」
だいぶ気軽に話せる人みたいだ。
正直人見知りするタイプであった文としては、積極的に話しかけてくれるのはありがたい。
「さてと、自己紹介を終えたところでふーちゃんに言いたいことがあるんだ」
「え? なに?」
ユウキは深呼吸をしたあと真剣な表情で言う。
「わたしと結婚を前提にお付き合いしてくれませんか?」
「……え? ……えぇ!?」
……な、何を言っているのこの人は?
け、結婚!?
もしかして……百合ってやつ?
あんまり詳しくはないけれど女の子が好きな女の子をそういうって友達から聞いたことがある気がする。
女の子同士での恋愛なんて考えたことのない文にとって勇者ちゃんからの告白は衝撃であった。
自身が告白されたことに混乱した文は状況があまり理解できていなかった。
「な、なんで? それに、その……わたし達、女の子同士だし……」
「愛に性別なんて関係ない!」
「キャッ!」
ユウキは急に文の手をギュッと強く握る。
そして文の顔をまっすぐ見つめ、決して目を逸らさなかった。
しかし、そんなユウキに対し、急に告白された文は戸惑いと恥ずかしさからその表情と目を合わせられないでいた。
「なんで私なの? さっき会ったばかりなのに――」
「一目惚れ」
「え?」
「一目惚れ 恋に落ちたの ふーちゃんに」
「聞こえてたよ! というかなんで五七五で言いなおしたの!?」
「こんな気持ち初めてなの……心が、わたしの本能が告げてるの。これが好きって感情なんだって」
さっきまでのヘラヘラしていたユウキとは別人のようにキリっとした表情に文は少しドキッとする。
変な事を考えてしまっていたこともあるが、ユウキに”じっ”と見つめられた文は恥ずかしくなり顔が赤くなっていった。
「ちょ、ちょっと! 恥ずかしいから一旦離れて!」
恥ずかしさから掴まれた手を振り払う。
すると、先ほどのように手を振った方向にユウキは勢いよく吹っ飛んでいった。
この変な力のことを忘れてたあああああああああ!!!
悪気はなかったが、結果的にユウキを再び吹き飛ばしてしまった文は申し訳ない気持ちでいっぱいになり、ユウキの飛んで行った方向に駆けていった。
◇◇◇◇◇
「いたたた……」
「ご……ごめん!」
「大丈夫大丈夫! 私、身体は丈夫だから!」
さすが勇者というのか、それとも吹っ飛ばされることに慣れたのか、ユウキは平気そうに『よっこらしょ』と言いながら立ち上がり、服についた砂を手で払うと話を戻した。
「結局ふーちゃんは迷子ってことなの? 私が家まで送ってあげようか?」
「迷子じゃな……! いや、間違ってはいないのかな……?」
自身のいる場所もわからず家にも帰れないという点では迷子とは変わらない。
今の自分の現状を伝える上で『迷子』以上の表現が思いつかなかった文は否定できなかった。
否定できずに黙っている文を見て迷子と決めつけたのかようにユウキは話しを続けた。
「それでふーちゃんはどこに住んでいたの? この近く? それとも遠いところ?」
……これ、あれだよね?
日本って言うと『聞いたことない』と言われるパターンだよね?
なんとなく次の展開が読めた文であったが、答えないわけにもいかないため、無駄だと思いながらも質問に答えることにした。
「……日本ってところなんだけど」
「ニッポン……? んー……聞いたことないわね」
漫才みたいに『そんなこと知ってるわ!』といったツッコミが来てくれることを願っていた文であるが、ユウキの反応からしてここが自分の居た世界とは別の世界ということを確信してしまった。
「念のために聞いておくんだけどさ……そのニッポンっていうのは架空の場所じゃないよね?」
「か、架空じゃないよ! 本当にあるの!」
否定するが根拠がないためまともな反論ができない。
何か否定する根拠がないかを考えるが何も思い浮かばない文は『えーっと……』と小さな声でつぶやくしかなかった。
そんな文を見て、ユウキは『そういえば』と何かを思い出したかのような表情をしていた。
「私のじいさんだったら何か知っているかも」
「え? ゆーちゃんのおじいさんってどんな人なの?」
「じいさんは私が勇者をやる前の勇者だったの、勇者をやっていたころは色んな場所を旅していたらしいから、もしかしたらそのニッポンって場所も知ってるかもしれないわ」
もしかしたら元居た世界に帰る方法が何かわかるかもしれない。
そう思った文は元勇者のユウキのおじいさんに会うことを決意したユウキに案内をお願いすることにした。
「丁度じいさんの家はこの森にあるから私が案内してあげるね」
そういいユウキは指をさしてこれから進む方向を示していた。