15-1話 携帯デビュー
「携帯ショップに行きましょう」
勇者一行4人がとある町のカフェで昼飯を食べている時、ふとユウキが急にそう言いだした。
なんの前触れもなくいきなり言い出したことであり、ユウキ以外の3人は『ん?』と頭にハテナマークを浮かべている。
「携帯ショップ? ユッキーの携帯を買い替えにでも行くの?」
カップを傾けて『ズズズ』とカフェオレを飲みながらクロエルが尋ねる。
しかしユウキは首を振って否定。
「いや違うわ。ふーちゃんとシスの携帯を新しく買いに行くの」
「え? 私達の……ですか?」
「うん、二人共携帯持ってないでしょ? これから一緒に旅する中で携帯を持っていないのは不便だから契約しに行った方がいいと思うのよ」
どうやらユウキが携帯を買いに行こうと言ったのは文とシスティアの2人に携帯を持たせておきたいかららしい。
確かにユウキ、クロエルの2人はすでに自分の携帯を持っているが、文とシスティアの2人は持っていない。
今後のことを考えると離れた時にも連絡できる手段があるのはいいことだ。
だけど、いいことはいいことなのだけどユウキの提案に対して文はとある疑問を持っていた。
「うーん、買ってくれるのは嬉しいのだけど……なんで急に?」
文が疑問に思ったことをユウキに投げかける。
元の世界でも携帯電話を使っていた文にとっては携帯を貰えるのは嬉しいのだが、急にユウキが買いに行こうと言い出したので気になったのだ。
しかしその疑問を投げられたユウキは少し困った顔をすると、『いや……だって……』と答えにくそうに口を開いた。
「ふーちゃんここ数日で2回も誘拐されてるじゃん……今後も誘拐されるんじゃないかと不安だし、もし離れていても連絡できるようにしておきたいんだけど……」
「ご、ごめんなさい……」
だが質問の結果、自分が謝罪する羽目に……
確かに文はこの短い数日の中で2回も誘拐されている。
一回目は鳥の魔物に……2回目は魔王様によって……だ。
ただ、2回目は悪意のあるものではないと知っている文自身としてはあれを誘拐にカウントするかは微妙なところだが、そもそも文以外そのことは知らないため、周りからはとんでもないトラブル体質の持ち主だと思われているらしい。
そしてそんな体質を持っている文に携帯を持たせないことはユウキからしたら心配でしょうがないのだ。
まぁ……親が小さなお子さんのことを考えて携帯を持たせるような感じだろう。
「携帯を持っておけば位置情報から場所もわかるしふーちゃんが誘拐されてもすぐに私が駆けつけることが出来るわ! これでまたふーちゃんが誘拐されても安心!」
「“また”って……なんで誘拐される前提なのよ」
「まぁ、可愛い子と誘拐はセットみたいなものだし?」
「……その知識はどこで獲たものなの?」
「エロ漫画」
「だろうね」
やたら知識が偏っているユウキに呆れた文はそれ以上ツッコムのも面倒くさくなり、自分のカップを傾けて中の飲み物を飲む。
そんな態度を取っている文ではあったが、なんだかんだで携帯を買ってもらえるのは嬉しいことに思っていた。
日々生活している中でユウキやクロエルが色々調べごとをしていたり、暇な時に携帯を触っているのを横で見ていると欲しくなることが度々あった。
だけど自分は居候の身……ワガママで『買って欲しい』というのもなんだと思って言わなかったが、ユウキから与えてくれることをラッキーと捉えていた。
そしてすでに携帯を買うことは確定事項として話はだんだんと進んでいく。
「あ、そうだ。契約する上でなんか付けたい機能とかある? とりあえずGPSはつけようかと思うけど」
ユウキはこれから携帯ショップに行く上で機能面について文に質問。
彼女が言っているのは契約時にショップ店員につけてもらうオプションのことだろうが、質問を受けた文は『うーん……』と少し考えていたが、1つの結論を出した。
「任せちゃってもいいかな? ユウちゃんの方が詳しいだろうし」
「え? いいのぉ? 任せるなんて言っちゃったらフィルタリングかけちゃってエッチなものとか見れなくしちゃうわよぉ?」
「別にいいよ……そんなもの見ないし」
「もー、そんなこと言っちゃてぇ♪ 年頃の女の子なんだから本当はエッチな画像や動画くらい見たいくせにぃ♪ ムッツリなんだからぁ♪」
文の方に身体を寄せて肘で『このこのー♪』と文の体をツンツン突いてくるユウキ。
そんな彼女のウザさにカチンときた文はカフェのテーブルの下からユウキの足を『ガッ!』とアクセルペダルのように踏んでグリグリ。
足を踏まれたことによる激痛に身体を跳ねさせ文の足を払おうとしたユウキだったが、文の例の力によってユウキの力でも振り切ることができずに、足は抑えられたままでいまだに激痛が片足に走っており、ついには泣き出してしまった。
「あああああああああ!!! ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさああああああああああい!!!」
痛みに耐え切れなくなり泣き叫び散らかすユウキ。
セクハラした結果、セクハラ相手にやられて泣かされるなんて……ここまでダサい勇者が今までにいただろうか?
そう思ってしまうほどの光景だろう。
しばらく悲鳴を上げてからようやく文の足から解放されたユウキは今度は泣きながらシスティアの方に身体を寄せていた。
「グスッ……シスぅ……足治してぇ……」
「は、はい」
情けない声でシスティアに回復を依頼。
システィアも何だかんだで応じはするが、魔物との戦闘もしていないのに回復を依頼されることが複雑な様子。
そしてそんな光景を見ていたクロエルは女子達の不毛なやりとりにため息をついていた。
「なんで毎回痛い目見るの分かっててふーみんにちょっかい出すの? シスチーと同じでMなの?」
「な、なるほど……じゃあ私もユウさんの真似をしたら痛めつけて貰えますかね?」
「お願いだから辞めてね、シス? 本当にやったらこれから無視するから」
「はぅ……それはそれで……」
「もう嫌だこの人達」
二人の変態に日々悩まされてユウキとは別の意味で泣きたくなる文。
そして文が二人の変態性に悩んで頭を抱えている間に今度はシスティアがユウキに携帯電話について口を出してきた。
「それにしても……携帯ですか……私あまりそういったはいてく(?)なものには無知でして……私が使っても大丈夫なのでしょうか?」
どうやら修道院での生活ではあまり機械を使っていなかったからなのか、いきなり携帯を買い与えると言われて困惑しているシスティア。
そんな新しい機器に困惑している彼女を安心させるようにユウキは笑いかけて『大丈夫大丈夫』と語り掛ける。
「あんまり難しく考えなくてもいいわよ~使っている内に慣れるから」
「そうなんですか? 急に爆発したりしません?」
「しないわよ……あんた携帯をなんだと思ってるの?」
「す、すみません……あまり機械には詳しくなくて……」
「あー……たしかにシスって家事を任せた最初の内は洗濯機すらまともに使えなかったもんね。洗濯機が動き出しただけで『ゆ、ユウさん! 洗濯機を壊してしまいましたぁ!!!』って大騒ぎだったし」
「あぁ……恥ずかしい……一応修道院でも洗濯機はあったらしいのですが使ったことがなくて……変に触って壊してしまうのが怖くて機械には触れない生活を送っていました」
「ふーん、便利な世の中になったのにずいぶん原始的な生活してたのね」
「そ、そんな! 原始的だなんて……! 服はちゃんと着ていましたからね! 流石に私も全裸は……」
「誰もそんなこと思ってないわよ」
誰もそんな心配していないのに無駄に顔を赤くして俯くシスティア。
どうやら彼女にとって原始的というのは服も着ずに石で狩りをする時代まで遡るようだ。
たしかにシスターや神父などの修道院に勤めているものは禁欲的な生活をしているイメージがある。
しばらく修道院で神に仕えていた彼女にとって携帯などの現代的な機械は無縁なのかもしれない。
「ねぇねぇユッキー、ついでに私のも新しい機種に買い換えてよ。今の最新のやつとかってぇ自撮りに色々便利で欲しいの。おねがぁい☆」
システィアが赤面して俯いている間に今度はクロエルがユウキに話しかける。
すでに携帯を持っている彼だがどうやら最新機種が欲しいらしくてかわいくおねだり。
しかし、そんなおねだりがユウキに通じるわけもなく、ユウキは冷たい目線でクロエルを見ていた。
「黙れチビホモザコアホボケカス」
「じょ、冗談だって……返答が一言一句罵倒しかないってどんだけ怒ってるのよ」
「うるさいわね、あんたにご飯と寝床を与えてるだけありがたいと思いなさい。次ワガママなんか言ったらぶっ飛ばすわよ」
「おかげで生活できてるからいつもありがたいと思っているけれど冗談言うくらいいいじゃん……ユッキーはいっつも私のことを馬鹿にしたり煽ってくるくせに……」
「ふん、立場が違うのよ、立場が。まぁ来世で女の子になれたらワガママの1つくらい聞いてあげてもいいわ」
「それ、遠回しに死ねって言ってる?」
相変わらず男を毛嫌いするユウキはクロエルに暴言の嵐。
暴言を吐かれたクロエルはユウキの男嫌いに若干の辟易していた。
しかしそんな彼を気にしないままユウキは立ち上がると『じゃあ、そろそろお会計して携帯買いに行きましょう』と言い、勇者一行はカフェから出て携帯ショップへと向かうのであった。





