1-3話 レ◯プ魔勇者ちゃん
◇◇◇◇◇
顔の上に載っていたスライムを除けた時にメガネも一緒に外れたみたいで、文はスライムの死体に埋まっていたメガネを手探りで探していた。
メガネはすぐに見つかったが、どうやらスライムに埋まっていたせいか多少ぬるぬるしている。
しかし、拭くものもないのでやむを得ずそのままメガネをかけようとしたその時
ガシッ
「ひゃっ?」
先ほど助けてくれた勇者と名乗る女の子が文の腕を力強く握る。
唐突に腕を掴まれた文は思わず声が出た。
(この人、さっきわたしを助けてくれたんだよね?
なんでわたしの腕をこんな強く?)
メガネをかける直前のことだったため、文からは彼女の表情はよくわからない状態である。
しかし、そんな視界がぼやけている状態でも彼女が何故か荒い呼吸であることが感じられた。
「あ、あのー、どうしたんですか?」
文は恐る恐る話かけてみる。
すると、しばらく黙っていた彼女が声を発した。
「さっき何でもするって言ったよね?」
「え……? 言ってないと思いますけど……」
実際そんなことは言ってなかった。
お礼をしたいと文は言ったが、そこまでは言ってはない。
「いや、助けてくれたのはすごく感謝しているのですけど……その、痛いのでこの腕を離して欲しいなー……なんて?」
嫌な予感がしたが、文は手を離して貰うようお願いしてみる。
しかし、彼女の腕の力はより強くなっていった。
「ちょっ……い、痛い!」
豹変したその様子に文は少し恐怖を感じてしまう。
先ほどまでの陽気に話しかけてくれた彼女と別人のように静かだ。
(なんで? さっきまで優しそうな人だったのに。
わたしなにか怒らせるようなことした?)
「ご、ごめんなさい、何か気に障るようなことをしてしまいました? 謝りますのでこの手を――」
言い切る前に勇者と名乗る少女に押し倒されてしまう。
そして乱暴にブラウスを脱がされ文は下着のみの姿となってしまった。
その数秒間の唐突な出来事に文は茫然としていた。
急に押し倒されて頭の中が真っ白になっていた文であったが、なんとかしないといけない状況を理解して辞めるようお願いする。
「や、やめてください! 人呼びますよ!?」
「やめるわけないじゃない、あとここ全然人通らないから無駄よ」
彼女が冷たく言い放つ。
どうやら、やめる気配が全くない様子だ。
なんとかしなくちゃ、と文が考えている間に、ついには下着に手をかけられてしまう。
(ダメ! よく分からないけど、このままじゃめちゃくちゃにされちゃう!
はじめてが外、しかも相手が女の子なんて嫌!)
女子中学生である文でも多少の性への憧れはあったが、こんな初体験は全く想定しておらず彼女に対し強く拒絶した。
「いや! 本当にやめてください! 怒りますよ!」
「スライムすら倒せないあなたがわたしに抵抗できるはずないでしょ?」
彼女の言う通りだった。
スライムすら倒せない文、そのスライムを一瞬で殺した彼女。
力の差は歴然である。
「はぁ……はぁ……! 可愛い下着ね……! 今からその下着に隠れている二つの可愛いイチゴちゃんを見せてもらいましょうか……!」
勇者と名乗る少女は文に馬乗りになると鼻息を荒くして文の下着に手をかけてきた。
このままなにもしないと貞操の危機であると文は感じる。
先程力の差を見せつけられ、無駄だと思いながらも文は勇気を振り絞り、彼女を押し返そうと腕に力をいれる。
(でも、無理だよ……
自分の力では彼女を押し返すことなどできるわけがない……
このまま最後までヤられてしまうんだ……)
そう思った文の頭の中では数分後の自分の未来が見えたような気がした。
それは彼女に散々弄ばれ事後の自分の姿……そして性欲を吐き出した彼女は森の中に裸のままの自分をそのまま放置するんだ……
襲われた文はこれからそうなってしまうんだ……と、絶望していた。
だが、現実は違っていた。
無駄だと思って彼女の身体に力を入れて押してみると、簡単に押し返すことができたのだ。
いや、それどころか、彼女は押し返した文の力によって勢いよく宙に浮いていった。
「「えっ?」」
お互い何が起こったのかわからずに疑問の声が出る。
(な、なにが起こったの?
今、わたしの力であの人を押し返した?
そんな馬鹿な……
さっきはスライムにすら全く歯が立たなかったのに……)
自分でやったことだが、何が起きたかわからない文はただただ困惑していた。
明らかにおかしいはずなのだ。
さっきのスライムのやり取りで自分と彼女の実力の差は天と地ほど離れているはず。
なのに少し押しただけで勇者と名乗る彼女は風船のように宙へと浮いていったのだった。
「ふげっ!」
少し時間が過ぎると『ドカッ』と音と共に空に舞っていた彼女が落下してきた。
何が起きたのかわからず少し茫然としていたが、ハッと我に返り、手に持っているメガネをかけてすぐさま確認する。
すると、そこには助けてくれた時の格好いい勇者の姿はなく、痛みで地面を無様に転がっている強○魔の姿が映った。
「あ、あのー……大丈夫ですか?」
立ち上がった文は警戒しながらも声をかける。
勇者と名乗る少女はうめき声をあげながら地面に伏せていた。
「うぅ……痛い……痛いよぉ……」
「ご、ごめんなさい! 怪我はありませんか!?」
怪我をさせてしまったのではないかと焦った文は彼女のそばに寄り安否を確認しようとする。
しかし、それを待っていたかのように、文が近くに寄って来た瞬間に彼女は飛びかかってきた。
「かかったわね! 勇者はこれくらいの痛みは慣れっこよ!」
「きゃーーー!!!」
飛びかかってきた彼女に対して文はつい、反射的に手が出てしまい、結果的にその手は彼女の頬を平手打ちする形となる。
普通平手打ちした場合『パチン!』と音がなるが、そんな可愛い音ではなく『パーーン‼』と破裂したような強烈な音が鳴った。
彼女はその音が鳴ったと同時に今度は平手打ちした方向へ吹っ飛んでいき、その進行方向10メートルくらい先に偶然あった木にもの凄い勢いで叩きつけられた。
(まただ。
とてもわたしの力だけで人ひとりを吹っ飛ばす力なんてないはずなのに。
自分がやったことに間違いはないのだろうけど、とても自分の力とは思えない。
この力はいったい何なの?)
文は自身に宿っている謎の力に対して不気味さを感じていた。
(そうだ! あの勇者と言っていた女の子はどうなったの?)
その勇者が飛んで行った方向を見ると、彼女は木にもたれかかる体勢となって動かなくなっていた。
さっき、もの凄い勢いで吹っ飛んでいったけど……
だいじょうぶなのかな?
心配になり駆けつけようと文は足を一歩進める。
しかし、襲われそうになったことを思い出し足を止めた。
(いや、また近づいたら乱暴されちゃうんじゃ……
それなら今のうちに逃げたほうが良い?
でも、スライムから助けてくれたのは事実だし……
どうしよう……近づいても大丈夫なのかな? )
助けてくれた感謝と襲われそうになった恐怖を天秤にかけ、この場所を立ち去った方がよいのか彼女の元へ駆け寄るべきか文は悩んでいた。
「よしっ!」
少し悩んだ結果、文は彼女に話しかけることにした。
何故ならまだこの知らない世界について知るべきだと判断したためだ。
先程の彼女が言っていた、ここら辺に人は通らないというのが本当であれば、この場を離れても、道に迷う、もしくはさっきのスライムみたいな生き物に襲われるだろう。
決意した文は彼女が倒れている方向へ小走りで駆けて行った。
近くに寄って彼女の姿を観察すると、身体は自分より一回り大きく、勇者の名に恥じない引き締まった身体をしていることが服の上から分かる。
それでいてうらやましい程胸に脂肪がついており、かなりスタイルのいいお姉さんだという印象だ。
また、短くて輝く金色の髪の色をしていたが、そんなキレイな色合いとは裏腹にゴキブリの触覚のように二本に分かれたアホ毛が特徴的だった。
すぐそばまで近づき、観察をしていたが彼女は白目を向いたままピクリとも動かない。
しばらく動かないその姿を見て文はサーッと血の気が引いた。
まさかとは思うが死んでるんじゃ……と嫌な予感が頭をよぎる。
(ど、ど、ど、どうしよう!
殺すつもりなんてなかったのに!
いや! あんなことされたら激しい抵抗もしちゃうよ! 正当防衛ってやつだよ!)
頭を抱えて推理物でつい、人を殺してしまった犯人のような言い訳をしていた。
こんな時、スマホがあれば『死体 隠し方』とググるのだが、と文は考えていたが、異世界に来ているのだ、そう都合よくスマホなんか持ってるわけがない。
文が焦りに焦っていると、倒れていた彼女は『ん……うぅ……』と小さくうめき声を漏らす。
その声を聴き彼女が生きていることがわかった文はパッと顔を明るくした。
ゴキブリのようなアホ毛をしているが、生命力の方もゴキブリ並みのようだった。
「大丈夫ですか!? 無事ですか!? 生きていますか!?」
彼女が生きていたことで安心したためか文は畳みかけるように話しかけた。
自分でも同じようなことを何回も聞いているおかしいやつだと思ったが、殺人にならなくてよかったという安心からなんども彼女の安否を確認する。
「うぅ……いたたた……」
彼女は目を開き、空のように碧い色の瞳が瞼から覗かせた。
生きていてくれたことに喜んだ文は彼女の背中に手を回す。
「よかった! 死んじゃったかと思って……」
「えへへ……勇者だからね、このくらいじゃ死なないよ」
心配していた文に彼女は微笑む。
一度気絶したためなのか分からないが、先程までの怖い彼女は消え去り、陽気な彼女が戻ってきたようだ。
「でも、怪我とかしてるんじゃ…………ん?」
彼女の心配をしていた文であったが、ふと、お尻に違和感を感じ、後ろを見る。
すると、誰かの手が自分のお尻に触れていた。
そして、今度は彼女の顔に視線を向けるとなんともだらしない顔をしている。
殺してしまったんじゃないかとすごく焦ってた文であったが、彼女が痴漢じみた人間であることを思い出し、先ほどまでの申し訳ないと思う気持ちが一気に消え去っていった。
「ちょっと! セクハラやめて!」