1-2話 初恋勇者ちゃん
◇◇◇◇◇
文がスライムに襲われる数分前。
その近くで、ある少女が森を歩きながら一人ごとを呟いていた。
「あー、また帰ったらじじいの修行を受けないといけないし、じじいのためにご飯やお風呂を沸かさなきゃいけないのかなー。めんどくさいわねー、自分のことくらい自分でやって欲しいわよ」
少女の名前はユウキ、この世界の勇者である。
ユウキは魔物退治の依頼を終えて師である祖父の家に向かう途中であった。
「はぁ……それにしても最近あんまりおもしろいことないなー、魔物との戦闘も手ごたえをかんじなくなっちゃったしぃ」
子供の頃から立派な勇者に育つために祖父からの修行と町の住人から依頼される魔物退治の日々。
そのため、彼女に青春と呼べるものはなく、身体は傷と魔物の血で汚れる毎日。
魔物を倒すことで自身が強くなっていることも実感するし、よく魔物狩りを依頼されているため周りから必要とされていることはわかっているが、そんな修行と魔物退治の日々に飽き飽きしていた。
「はぁ……彼女でも作ったら少しは日常が楽しくなるのかなぁ……」
そんな独り言をボソッと呟いた時
「ひゃぁぁぁ!!」
近くから唐突に艶っぽい声が聞こえてユウキはビクッっとする。
(ビックリしたぁ!
もしかして誰かが魔物に襲われている?
いや、でもここら辺はクソザコの魔物しかいないはず。
そんなザコに負ける冒険者なんかそうそういないよね?
ということは?
こんな人気のない森の中でヤっているカップルでもいるのか?
クソ……彼女が欲しいって思っている私に対しての当てつけか?
野次馬しにいったる!)
人の声が聞えただけなのに何故かイラついたユウキは声が聞こえた方向へ向かい、その声の主を木の陰からそーっと覗く。
しかし、予想に反して視界に入ったのはスライムに襲われているメガネをかけた少女だった。
少女の身体は小柄で長くて艶のある綺麗な黒い髪をしており、外見は清純で真面目そうだなー、とユウキは呑気に観察していた。
そんな少女は身体にひっついたスライムは離そうと必死である。
自分の予想に反した光景にユウキは少しがっかりした。
(なーんだリア充カップルではないのか。
せっかく携帯のカメラをスタンバイしていたのに……
それにしても、雑魚中の雑魚であるスライムに手こずっているあの子……どうやら冒険者でもないのに魔物のいる森に迷い込んだって感じかな?
しょーがない、困っている人を助けるのはわたしの役目だ。)
一応勇者であるという自覚があるユウキは彼女を助けようと携帯をしまい、鞘に収めた剣を握って助けに行こうと木の陰から身を乗り出す。
「ちょ……ちょっとぉ! 待ってぇ!」
ユウキが助けに向かおうとしたその時、スライムは彼女の下半身に向かって移動していき、襲われている彼女は顔が青ざめスライムに懇願していた。
「やめてぇ! そこだけは……お願いぃ……」
(お?
なにやらエロいことになりそう?
それじゃあ、あの子には悪いけどしばらく様子をみさせていただきましょうかね、へへへ)
これから彼女に起きる展開に期待したユウキは、急遽元居た木の陰に隠れ、しまっていた携帯を取り出し録画を始める。
その行動はとても勇者とは思えない。
「いひゃぁぁぁぁ! 嫌嫌嫌嫌ぁ!」
少女の力ではスライムを抑えられずスライムはスカートの中に入っていき、彼女の厚いメガネ越しからでも今にも泣きだしそうなことが伝わる。
下半身を刺激されているのか可愛らしい小さな声を漏らす彼女。
そして、その彼女をカメラ越しにユウキはじっと見ていた。
(うわー、えっろ。
魔物に二重の意味でやられている女の子なんて初めて見た。
しかも、クソザコのスライムにやられてるっていうのもポイント高いわね。
今夜のオカズ決定かしら?)
少女がスライムに襲われ泣きそうになっている一方で、この勇者は今夜の一人事情のことについて考えているゲスであった。
「だれか助け――」
少女が助けを呼ぼうとした時、別のスライムが彼女の顔を覆った。
息ができなくなったのか彼女は苦しそうに顔を覆ったスライムを取ろうとしている。
「あ……ヤバッ!」
流石にこれ以上放っておくと生死が危うい。
そう思ったユウキは彼女の元へ駆けつけ、顔を覆っているスライムに剣を突き刺した。
「ぷはぁ……!」
スライムが死んだおかげか少女から息を吸い込む音が聞こえ、少し焦ったがユウキは彼女が生きていることを確認できてホッとした。
生存の確認ができたところでユウキは『あ、そうだ』とポンと手を打ち少女に話しかける。
「だいじょーぶですかー? 困った女の子の元へ駆けつける勇者ちゃんでーす☆」
さっきまで木の陰に潜んで隠し撮りをしていたが、そんなことがバレると何か言われるかもしれない。
そう思ったユウキはさも『急いで助けに来ましたよ』といった風に彼女に話しかけた。
「あ、ありがとうございます……」
顔に死んだスライムがのっかっているせいか多少聞こえづらいが彼女が返事をしてくれた。
意識もちゃんとあることが確認でき、ユウキはホッとする。
「ひゃぁ! まだ下に……あ、あの、すみませんが、その……下に、もう一匹いるので取ってもらえませんか?」
「ん? あぁ……もう一匹いたんだっけ……」
もう一匹いたことを思い出しユウキは彼女のお願いを了承し、屈んで彼女のスカートに手をかけた。
「それじゃ、失礼するよ」
助けるためとはいえ、少女のスカートを脱がせることにユウキは背徳感を感じ、背筋がゾクゾクとする。
そんな背徳感を感じながらも、可愛らしいショーツからはみ出ているスライムの身体を掴み彼女に引っ付いているスライムを取った。
「ひゃうん!」
無理やり引っ張ったせいかまた彼女からまた可愛らしい声が漏れる。
その声を聴いたユウキは再び背筋にゾクリとした感覚が襲ってきて興奮を覚えるが、その興奮を紛らわすかのようにスケベスライムを地面に叩きつけ、剣で切り刻んだ。
「助かりました……本当にありがとうございます」
「いいよいいよ、これが仕事みたいなもんだし」
「でも……なんとお礼したらいいのか……」
「あ、あのー、とりあえずその頭に載っている死んだスライムどけたら?」
襲われていた少女は身体を起き上がらせていたが、死んだスライムを頭に載せており、鼻の位置にまでスライムが垂れている状態のまま喋っているためシュールな絵面になっている。
(だめだ、笑うな。
この子さっきまで死にかけていたんだぞ)
不謹慎だとわかりながらも、そのシュールな光景にユウキは必死で笑いを堪えていた。
「あ、本当ですね、すみません」
そう言い、彼女は手でスライムの死体を除ける。
「あ……メガネが……」
すると、スライムを除けるときに一緒にメガネもずり落ちてしまい、今まで見えていなかった彼女の素顔がさらされる。
「――ッ!」
彼女の素顔を見たその時、ユウキの全身にビリっと電流のように衝撃が走った。
(この子……めちゃくちゃ可愛いじゃない!!!)
メガネが外れた彼女は、女の子であるユウキでもそう思う程のキュートな顔立ちをしていた。
今まで厚いメガネで隠されたその瞳は吸い込まれそうになるほどの魅惑的な何かをユウキは感じとっていた。
そんな彼女を見つめていたユウキは今までに感じたことのない胸の高鳴りを感じていた。
(な、なんだろう、この子を見ているとすごくドキドキする。
わたしの心臓が激しい鼓動を刻んでいる。
こんなにドキドキすることは初めてよ……。
彼女を見ているだけで呼吸が乱れていることが自分でもわかる。
もしかして……これが……恋というやつなの?)
今までただただ恋をしたいと思っていただけで恋愛をしたことのないユウキにとってそれは初めての気持ちだった。
そして、その未知の感情を教えてくれた彼女にユウキは見とれていた。
「……ん?」
しかし、彼女の顔だけに注目していたユウキであったが、あらためて彼女の格好をよく見てみると、ブラウスがはだけ、下半身は下着だけといういかにも破廉恥な格好だった。
その扇情的な姿を見たことにより、心臓の鼓動は純粋な恋からではなく不純な興奮によるものに。
初恋による乱れた甘酸っぱい青春の吐息は、汚い欲望渦巻く荒々しい吐息へと変化していった。