7-3話 百合を馬鹿にするものには死を
「女の子同士でイチャイチャする百合が気持ち悪いだって!? えぇ!?」
「え? そ、そんなこと言ってな――」
「確かに聞いたわよ! 私のことを馬鹿にしているのか!? あぁん!?」
そんなこと言っていないし、あんたに言ったわけでもない。
男達は誤解を解こうとしたが、
「ヴぁああああああああああああああああ!!! 百合をけなす奴はゆるさねええええええええええ!!!」
急にキレ出した彼女は話を聞こうとしない。
なんだか既視感のある光景。
それもそのはず。
昨日、クロエルにブチキレていた時と同じような状況だからだ。
「なんだコイツ……急に俺たちに因縁つけてきたし急に叫ぶし……」
「実は危ないやつなんじゃないのか?」
「いや、明らかにヤバイやつだろ! ボサッとするな! 逃げるぞ!」
唐突に叫び出したユウキを“ヤバイ奴”認定した彼等はかかわりたくない一心で彼女から離れようとする。
だが、
「待てやごらああああああああああああ!!!」
ユウキは逃げようとする彼等を追いかけていく。
しかも、恐ろしいことにいつのまにか剣を鞘から抜いており、完全に刃物を振り回す殺人鬼のようになっている。
「うわああああああ!! あんた何やってんだ!?」
「剣を収めろ! 危なっかしいったらありゃしない!」
「これを収める時はあんたら3人を切り捨てた時だ!!」
「ダメだコイツ! 完全に俺たちを殺す気だ!」
昨日もクロエルに対して『死刑』と言って剣を人に向けていたが、今度こそ死刑が行われそうな状況である。
「ちょっと、シスチー! ユッキー止めないとヤバいんじゃないの!?」
「は、はい! でも……私達の力ではユウさんを止めることはできないかと……」
実際昨日ユウキが暴れていた時にシスティアは暴れる彼女を止めようとしていたが、圧倒的な力の差で振り切られている。
結局、昨日は文による鉄拳でその場の騒動は収めることができたのだ。
「そうだ! 少し荒っぽい解決になりますが、フミさんを起こして昨日と同じように力でなんとかしてもらいましょう!」
システィアが昨日と同じ解決方法を提案する。
善は急げ。システィアは側にいる文の身体を揺すって即急に起こそうとした。
「フミさん!! 起きてください!! 緊急事態です!!」
「うぅん……あと5分……」
「それじゃあ遅いのですよ!! お願いだから起きてください!!」
「今日は日曜日だって……お母さん……」
システィアはなんども文の身体をゆするが、文は小さく寝言をあげるだけで起きる気配がない。
どうやら寝相だけでなく寝起きも良くないようだ。
「ど、どうしましょうクロさん……フミさんが起きません……」
「や、やっばいよぉ……このままじゃ本当に死人がでそうじゃない……」
対ユウキ戦の最終兵器である文が目を覚まさない。
唯一のユウキに対抗できるのが”女の子相手に力が強くなる”力を持った文なのだが、頼りの彼女が役に立たない現実にシスティアとクロエルはゾッとしていた。
「うわああああああああ! やめろぉ! 俺たちがあんたに何をしたっていうんだよ!?」
「私のことを馬鹿にしたでしょおがぁ! 百合のことを気持ち悪いといいやがってぇ!!」
「百合ってなんだよ!? 俺たちがいつその百合っていうものの話をしたんだよ!?」
話を聞く気のないユウキとやめてくれと懇願する男達。
誤解が解けそうな気配は全くない。
その様子を見たシスティアとクロエルは、早くあの勇者を止める方法を考えなければ、と焦りながらも考えていた。
二人が少しの間考え込んでいると、システィアが『あ!』と急に声をあげた。
「そ、そうだ! ユウさんを止める方法をひとつ思いつきました!」
「本当!? ど、どうやってあの鬼神を止めるのよ?」
「説明している暇はないです! ですが、おそらくこの作戦でいけると思います」
システィアは『任せてくれ』と言った表情でクロエルに言う。
彼女の作戦とやらはわからなかったが、他に解決策もないため自信満々な彼女の作戦をクロエルは見守ることとした。
「フミさん……すみません……これもこの場を収めるためなのです……」
だが、自信満々で提案していたはずのシスティアは急に顔を曇らせると寝ている文に対してシスティアが唐突に謝りだした。
このタイミングでの謝罪。
どうやらその作戦とやらのせいでまた文に不幸が訪れるようだ。
♢♢♢♢♢
「ひえええええええええ!! 殺さないでくれ!」
「やめてくれ! 俺たちが何をやったっていうんだよ!?」
一方、逃げ回っていた男達はついに殺人鬼勇者ちゃんに追い詰められていた。
もう死刑実行一歩手前といったところであろうか。
「百合を馬鹿にしたものには死を…………死にさらせクソ野郎共――」
「ユウさあああああああん!! こっちを見てください!!」
ユウキが剣を振り下ろそうとしたその時、システィアが大きな声でユウキを呼び出す。
彼女の目に入ったのは……
下着姿の文であったのだ。
「フミさんがいくらでもお触りしていいって言ってますよ!」
怒っている人を鎮めるにはどうすれば良いか?
それはリラックスさせることである。
システィアは怒り狂うユウキをリラックスさせるために文を脱がせていたのだ。
お前は何を言っているんだ。
そう言いたくなるかもしれないが待って欲しい。
例えばの話だがイライラした時や疲れている時に『大丈夫? おっぱい揉む?』と女の子に言われれば怒りや疲れは吹っ飛ぶだろう。
システィアがやったのはそれと同じようなもの、先程のたとえ話での『おっぱい』がユウキにとっては裸に剥かれた文なのだ。
「マジでええええええええええ!!!?」
こちらに興味を持ったユウキは刃物を向けた男達なんかそっちのけで下着姿の文に興味深々。
性欲に忠実な彼女にとっては効果的な作戦だったらしく、彼女の怒りゲージがガクンと下がっているみたいだ。
「うおおおおおお! ふーちゃんうおおおおおおおおお!!」
だが、怒りのゲージが下がると同時に性欲のゲージもグンッと伸びているみたい。
怒りによる興奮が性的興奮へと変換したユウキは血走った眼をして文の元へと勢いよく走りだしてきていた。
あまりにも必死すぎて恐怖を感じるレベルで。
「作戦は成功したみたいだけどさ…………襲い掛かってくるユッキーをどうやって対処するの?」
そんな血走った眼でこちらに向かってくる彼女を見ながらクロエルがシスティアに尋ねる。
あの勇者が人殺しと化す危機こそ去ったが、今度は文の貞操の危機を感じてしまう。
『こうなることが分かっていたのなら、もちろん対処法があるんだよね?』そんな意味をこめての質問であった。
「あ…………す、すみません。そこまでは考えていませんでした」
「え……ど、どうするのよ! これじゃあ性欲の化身と化したユッキーにふーみんがめちゃめちゃにされるじゃない!」
「で、でもユウさんが人殺しになるよりは多少マシなのでは……ない……でしょうか?」
「ちょっと! 諦めないでよ! ふーみんが可哀そう!」
この危機を招き入れた張本人が早くも諦めモード。
だがそれもしょうがない。
そもそもあの変態勇者を力で止めることができないからこそ起きた状況なのだ。
狙いが男達からこちらに向いてしまったら抵抗する術はない。
「お待たせふーちゃん!!」
「あ! フミさん」
気づくとその変態はもう3人の目の前に来ていた。
そして彼女はシスティアが介抱していた文を一瞬で取り上げてしまった。
「うへへへ、たっぷりお触りしちゃうわよ……」
片手で文を抱え、もう片方の手をワキワキと動かしていかにも怪しい動きをさせており、表情はよだれを垂らしながらニヤニヤしていてハッキリ言って気持ちが悪い。
まさに変質者の様相といったところだろうか。
しかし、今にも文が襲われそうになっている状況でもシスティアとクロエルの二人は何もできない。
自身の不甲斐なさをかみしめることしかできなかった。
(ふーみん……ごめん……
私じゃどうしようもできないや……)
変態の手が文の身体に触れそうになり、もうダメだと思ったクロエルは心の中で謝罪する。
そして、この事態を招き入れたシスティアも
「あぁ……神様、そしてフミさん……申し訳ありません……」
と手を合わせて懺悔していた。
何もできない二人を尻目にユウキが文の下着に手をかけて外なのにも構わず全裸に剥こうとしたその時、
「ほげっぴぃ!」
間抜けな声と共にユウキが勢いよく宙へと浮いていった。
何が起きたのかわからずに困惑していたシスティアとクロエルであったが、文の方を見て理解した。
彼女は寝ている状態のまま、拳を突き出していたのだった。
「あ……そういえばフミさんの寝相は絶望的に悪かったですね……」
どうやら悪い寝相のせいで突き出した拳がたまたまユウキに命中したみたいだ。
その寝相の悪さから運よく貞操の危機を逃れた文と男に対する制裁も文に対するセクハラも未遂に終わった残念勇者であった。





