3-2話 もう一回!もう一回!
文は呆気にとられてボーっとしていた。
もちろん傷つけるつもりはなかったが、再び謎の力が発揮して彼女を吹き飛ばしてしまったのだ。
「ちょ……シスは大丈夫なの!? 一般人でしょ!?」
「あ……そうだ! シス、大丈夫!?」
ユウキの声で文はハッとなり彼女の元に駆け寄る。
彼女は木にもたれかかりグッタリとしていた。
その光景を目にして2人はサーッと血の気が引いていく。
「ど、ど、どうしよう!! 殺しちゃった!?」
「お、落ち着いてふーちゃん! 今、『死体 隠し方』で検索するから待って!」
「ゆーちゃんも落ち着いて!」
2人は彼女を殺してしまったと思い込み、パニック状態に陥っていた。
2人がどうしようどうしよう、と慌てていると、
「……かったです」
倒れていた彼女がボソッと何かを呟く。
聞き取れなかったが、その小さな声が聞こえた2人は目を合わせる。
「え? シス、今何か言った?」
「うん……今、微かに何か言ったよ、というかふーちゃんに吹っ飛ばされて大丈夫なの?」
屈強なユウキでさえ文に吹っ飛ばされて一度気絶をしているのに、彼女は意識もある上に痛がる素振りもしていない。
その事自体に二人は驚いていたのだが、倒れていた彼女は勢いよく起き上がってきた。
「今のはすごく良かったです!!」
「ひぃ!」
起き上がった彼女は目を光らせて再び文の手を握る。
そんなゾンビのように立ち上がってきたその姿に文は恐怖のような感情を抱いていた。
「もう一回! もう一回お願いします!!」
吹き飛ばされた時の衝撃にハマったのか彼女は吐息を漏らしながら再度振り払らって貰おうと文の手を撫でるように触っている。
ドMだとは思っていたがここまでとは考えていなかった。
先ほど握られた時よりも不快な感触が襲ってきたが、ここで再び彼女を振り払っても同じことの繰り返しだ、と思った文はその感触を我慢していた。
「あぁ……勇者様と、もの凄い力を秘めたフミさん……とても刺激的な日々を送れそうな気がします! これはなんとしてでも旅に同行させていただきたいです!」
システィアは鼻息を荒くして二人に旅への同行をお願いし続けた。
「う、うーん……やっぱりこんな変態と一緒に旅したくないような……」
ユウキのセクハラだけでも精神がすり減っている文は彼女の加入にはあまり気が乗らなかった。
そしてユウキもそれについて『うーん……』と腕を組んで考え込んでいた。
こちらに関しては文と二人きりでいたいからという気持ちがあったから……であるが。
そんな悩んでいる二人を見て『このままでは仲間に入れてもらえない』と思った彼女は自身を仲間に入れてもらうためにアピールをしだした。
「雑用でもなんでもやりますよ! 掃除洗濯料理は得意です! 靴を舐めろと言われれば舐めますし、歩くのに疲れたら私が馬になって走ります! あ……その場合は鞭で叩かれるなんてのもいいですね」
「後半あなたの欲望だよね!? 私達はジョッキーか!」
「おねがいしますよ~この醜い雌豚を救うと思って」
旅に連れて行って欲しいとアピールするシスティアとこれ以上変態を増やしたくない文はお互いに譲らず話は進まず時間だけが過ぎていく。
そんな言い合いをしばらく続けていると、3人が気づかないうちに文の足元に蛇のように細くうねった何かが近寄っていた。
「ん?」
自身の足に何かがまとわりついているような違和感を感じた文は足元に目を向ける。
するとそこには先ほどまでシスティアに絡んでいたものと同じ触手が自分の足を掴んでいた。
それに気づいた瞬間、文の身体は触手に引っ張られて宙に浮く。
「きゃぁぁああああああああ!!」
逆さまの状態で引きあげられ、つるされた様な状態になり、スカートがめくれて中身の布が顔を出す。
恥ずかしい態勢となってしまった文は足を振って触手を振りほどこうとしたが、ぬるぬるしている割にガッシリと掴まれているため全く振りほどける気がしない。
「お? 今日は青と白の縞々なのね」
「そんなことはいいからはやく助け……ひゃぁぁあああああああ!」
触手の文の足首だけではなくふとももにまでヌメリとした感触が急に伝わったことで思わず声をあげた。
呑気にパンツを観察していたユウキは剣を抜いて、瞬時に触手を切り裂く。
そして、吊るされていた文は『ドサッ』と音と共に落ちてきた。
「いった!」
「あ……ふ、ふーちゃん大丈夫!?」
「い、いたいいたいいたい……!」
決して高いところからではないが落ちた時の態勢が悪かったのか、文の身体中に痛みが走っていった。
全身に走る痛みによってその場に蹲ってしまい、ユウキの心配に答えることもできない。
そんな光景にユウキがおたおたしていると、システィアが文のそばに寄ってきた。
「フミさん、少しジッとしていて頂いてよろしいでしょうか?」
システィアは文の身体に手を浮かせて目を閉じ集中している様子であった。
すると文の身体の上から魔法陣のようなものが浮き上がり、魔法陣から発した光により文の身体が照らされた。
「あ、あれ? さっきまでの痛みが……消えた?」
光が消えると先ほどまでの激しい痛みがすっかりなくなっていた。
全身を走る痛みが消えた文は自身の身体を触りさっきまでの痛みが何処へいったのか確かめていた。
「これは……治癒魔法? シスって治癒魔法使えるの?」
「はい、教会では冒険者様の回復や解毒などを任されたこともありますので」
「その……ありがとうシス……」
魔法というまた漫画やアニメでしか見たことのない技術に面を食らいながらも文はお礼を言った。
お礼の言葉を貰ったシスティアは『いえいえ』と謙遜しながらニコリと笑いかける。
「シスターとして当然のことをしただけですよ、元……ですが」
やはり教会から追い出されたことに多少のショックがあるのか、システィアはどこか寂し気な表情をして俯いていた。
しかし少し時間を置いて顔を上げ、再度文に話しかけてきた。
「と~こ~ろ~で~私を仲間にしていただく話について、な・の・で・す・が!」
システィアは口にこそ出さなかったが、文の痛みを治したことを盾に取ったように再度交渉をし始める。
その顔は先ほどの寂しげな表情は消え、まるで勝利を確信したかのような満面の笑みであった。
「う……治したことをいいことに……」
弱みにつけられた文は先ほどのようにシスティアに強く断ることができず、劣勢の立場になっていた。
そして、それを知っているシスティアは自身の欲求を叶えようとさらに文に迫っていく。
そんな状況を見たユウキは二人の間に入り、とある折衷案を出した。
「まぁまぁ、一緒に旅するかは置いといてさ、こんな場所にシスを置き去りにするのは流石に可哀そうだからとりあえず次の町まで一緒に行動しましょ? 旅に連れていくかどうかは次の町に着くまでに決めるってことで!」
「うーん……そうだね、それなら賛成かな」
そのユウキの提案に文も了承した。
「ありがとうございます! お礼に靴を舐めましょうか?」
「絶対にやめて」
♢♢♢♢♢♢♢♢
「ふー、日も暮れてきたしここらに建てようか」
そう言うとユウキは腰掛けの袋に入れていたミニチュアを取り出し地面に置く。
そして少し時間が経って家が出来上がった。
「ユウさんってキャリーハウス持ってるんですね! さすが勇者様です!」
「まあね!」
おだてられたユウキは気を良くしたのか胸を張って誇らしげにしている。
「おじゃましまーす」
システィアはきょろきょろと家の中を見渡す。
そして、3人が家に入ったところでユウキがシスティアに向かって提案を出した。
「シス、お風呂入ったらどう?」
「私なんかが最初にお風呂を頂いて良いのでしょうか?」
「いや、触手の粘液でぬるぬるになってるからむしろ早く入って欲しいんだけど……」
「す、すみません……それではお言葉に甘えてお風呂入らせていただきます」
ユウキが風呂場を案内してシスティアは入浴をすることとなった。
システィアが入浴をしている間、ユウキは夕飯を作るためにキッチンで料理を始め、文はその手伝いを行う。
手伝いをしている最中、文はふとユウキがシスティアについてどう思っているのか気になり尋ねた。
「ゆーちゃんはさ、シスの事をどう思っているの?」
「んー……悪い人じゃないと思うんだよねー、ちょっとレベルが高いだけで」
「何の⁉︎」
「そりゃあ、ナニ……のね」
ユウキは『ニヤリ』と気持ち悪く笑い、その笑顔を見た文は背筋がゾワリとした感覚が襲ってきた。
「ごめんごめん、夕食前に下世話な話はよくなかったね。……話は変わるんだけどさ、ふーちゃんのその力について少し気になったことがあるの」
「この急に力が強くなるやつの? 何かわかったの?」
「まだ確信したわけじゃないけど……じいさんに拳を打ち込んでも何も起こらなかったのを見てからふーちゃんのその力を発揮するには何か条件があるんじゃないかって考えていたの」
「条件……」
そういえば今日も自分の足に絡んだ触手を振り払おうとしたけどビクともしなかった。
なのにシスティアの手を振り払った時はすごい力がまた発揮した。
確かにこの力が発動する時と発動しない時がありとても不安定である。
「結論から言っちゃうとふーちゃんのその力は女の子にしか発動しないんじゃないかな」
「え? 女の子にだけ?」
「だって、これまで魔物やじじいに対して力を使おうとしても何も起こらなかったのに私とシスにはその力が発揮したでしょ?」
確かに力が強くなったのはユウキとシスティアの女の子にだけ。
昨日と今日襲われたスライムや触手、そして男であるユウキのおじいさんには振り払おうとしたり拳を当ててもビクともしなかった。
文は今までの出来事を思い出し『言われてみれば……』と納得しかける。
え? でも、本当に私の力って”女の子相手にだけ力が強くなる”というものなの?
だとしたらすごく嫌なんだけど
文は今まで異世界をテーマとする漫画をいくつか見たことあったが、その漫画の主人公は大抵凄い力に目覚めたりするものであった。
ユウキが言っている条件が本当であるならそんな漫画の主人公達と比べるととても見劣りするような力であり、仮にこんな能力の主人公が漫画化なんてされたら女性差別に敏感な日本であったらバッシング間違いなしだ。
改めて想像していた異世界転移と全然違うと感じていた文は、現実から目をそらしたい気分になる。
「で、でもそうと決まったわけじゃないでしょ!? もしかしたら変態な人にだけ発揮する力かもしれないし……」
「さ、さりげなく変態扱いするの傷つくからやめて……」
「ご、ごめん……でもそんな力だなんて私認めたくないなぁ……」
「うーん、じゃあ今度私とシス以外の女の子と出会ったらとりあえずぶん殴ってみてその条件が正しいかどうか確認しよ」
「何その通り魔!?」





