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出ていった者たち(三人称)

 宰相以下、『元』帝国の者たちは見知らぬ原野にいた。

 ダークエルフ(・・・・・・)堕天使(・・・)、竜人族やゴーレム、獣人など、さまざまな種族が1000万人分。

 彼らは粗末な衣服一枚を身にまとった状態でどこかに飛ばされたのだ。



「なぜ? いや、一体何が起きた!」

「嘘……私の翼がっ!」

「おい! 俺たちはさっきまで皇宮にいたんだぞ! 何でこんな所にいるんだ!?」

「力が、力が抜ける?」

「おとーさーーん! おうち、どこーー!?」


 彼らは皇帝について行くことを選ばなかった者たち。

 家も、土地も、全ての財産を失った状態で未開の地にいた。



 いや、失ったのは財産だけではない。


「世界樹の加護が……」

「馬鹿な、肌が黒くなっている!?」


 世界樹の加護を得た『ユグドラ・エルフ』であった宰相は敵モンスター扱いをされる『ダークエルフ』へと変貌していた。

 彼は自分が森を捨てたとされる邪悪な種族、ダークエルフになったことに気が付くと、発狂してしまった。


「なんで、なんでよぉ」


 聖なる天使の最高位『セラフィムロード』の皇妃も『堕天使』になってしまった。

 神に逆らった天使の末路。12枚あった翼は1対2枚に減り、その色も黒い。力を失い邪悪に落ちた彼女はただ泣き続ける。



 彼らが失ったのは、ゲームシステムが与えていた全ての力。

 本来彼らがたどり着けないはずの場所に居られたのは、皇帝の配下だったからだ。その手を振り切った以上は、与えられていた力も失うのが道理だった。


 あとに残ったは『主を裏切った者』という罪の十字架。

 その罪に相応しくあるようにと、世界は彼らを邪悪認定したのが種族変更の真実である。


 なお、魔法生物は種族変更により知性を失いただの置物になってしまった者が大勢いる。




「どうするんだよ!」

「どうしようって、自分で考えろよ!」


「陛下、我々が間違っていました! 御慈悲を、御慈悲を!!」

「お願い! 返して! 私のおうちを返して!」

「せめてこの子だけでもお助けください! 陛下!!」


 全くの予想外ということもあり、混乱する大衆。

 それをまとめるはずの元宰相は正気を保っていないし、皇妃は泣き続けるだけ。

 中にはいきなり老化してしまった――ゲームでは無視されていた加齢が一度に来てしまった――者もいて、まとめ役がいない。


 ならば元の生活に戻りたいと、皇帝に慈悲を願い祈る者も大勢いる。

 もちろん、そんな声は届かない。彼の耳に聞こえるのは臣民の声であり、部外者のそれではないのだから。

 手を払いのけたのは彼らである。手を取らなかったのは彼ら自身の意思。

 だからこれは彼らが望んだ(・・・)結末に過ぎない。


 また、住民達もゲームシステムによる職業補正、『農民』『職人』などの基本技能を失い何も出来ない無力な弱者へと成り下がった。

 兵士達もジョブに練度と、強さを支える根幹を失い大衆と変わらなくなっている。

 生きていく術を失ったのだ。



 事が大事になり、ようやく彼らは思い出す。


 自分たちが、どのように成長してきたかを。

 誰から力を与えられていたかを。

 王と民の絆にどんな意味があったのかを。


 失い、取り返しが付かなくなってから思い出すのだ。本当に大事なものを。





 原野は水も食料もあまりない、ただの土地だ。

 人が生活していくには向いていない。


 彼らはこの後、世界中に散っていこうとするが、その大半は途中で力尽きる。

 王の庇護を前提とした民が、王の手から離れて生きていこうとした結果である。原住民との軋轢もあり、10年先にはほぼ全滅といった有様だ。


 残った者たちは語り継ぐ。

 己の愚かな選択を。

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