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3つの王のしるし  作者: わだん
森の生活
8/23

裏稼業

夢の回をここで終わらせたくて。今までで一番長くなりました。

オーノはエールが書いたと言う『愛の軌跡~マーノウス・グリウス物語~』を手に、エールの話を聞いていた。


「へー、エールってこんなの書けるんだな。面白いよ。すっごい甘ったるい設定だけど」

「いいんですよっそれで。マーノウス様は、全くというほど言葉も行動も足りていませんでした!巻き返すにはこのぐらいが必要でした!」

「でも。『君の笑顔が寂しいのは俺のせいだリュース、悪かった。非難してもいいし、気が済むまで殴ってくれ』ってさーこれ非難だけで良くない?エール、マーノウスをひっぱたきたかったの?・・・」

「叩き叩かれるのも触れ合いですわ、物理的な距離を縮めます」

「そ、そうか。そうかもな

後は台詞がすごいな。『俺は君を好きだよ、寸分の違いなく理解してくれ、君の綺麗な瞳も可愛い唇も小鳥のような声も全て愛しい。美しい光の波のような髪もそれに隠れる華奢な肩も折れそうな腰も俺に寄り添い立ってくれていた足も、全て俺のものにしたい。俺が君の全てを愛していることを分かってくれるだろう。ね?』く、くどいー。ながいー。はずいー。なんでちょっと上からなんだよ」

「いいんです。するのは素人です!甘い雰囲気でといって出せるもんじゃない。そこは言葉でカバーするんです!あと、上からなのはグリウス様は俺様系が好きそうだからです!」


エールの少し興奮気味な言葉に首をかしげる

「何か怒ってんのか?」

「怒ってなど・・・ただ、グリウス様が不憫だっただけですわ」


どう見ても怒っている。早口で語尾が強い。チラリともうひとつの本「マーノウス・ユリセイウス-1」を見る。

その本はマーノウスが来た時に、エールの力で作られたマーノウス記憶本だ。本には彼の容姿も描いてあったし、彼の仕事の優秀さ、真面目さ、誠実さなども読み取れる。少し融通が利かないところもご愛嬌程度で失敗や間違いを許せる度量もある。それを読みながらオーノは密かに溜め息を吐きながら思った


こんな完璧男もダメなのかよ。エールの好みって難しいな。

それにしてもこの恥ずかしいセリフ言ったのかな。マーノウス鉄の心臓かよ。あ、本当だここグリウスの好きな本について書いてある。俺様系出来たのか?なんか女難のイメージが強くて成功したと思えん。


「まぁ、いいや、そんで?それからマルユークは?なんて言ってきたんだ?」

「彼は、マーノウス様が帰られたあと、アンドゥグが取り次いできたんです。『自分にも台本を書いてくれないか』と言っていると」

「それは・・・」


オーノは少し声が震えるのが自分にも分かった。

うたた寝していたマルユークをエールが見つけたのだとばかり思っていたのだ。


「はぁ。あの時の心境を思い出すと私も震えてきます。私は直ぐに彼に会う事にしました。ですが、アンドゥグも危ないので同席すると言うんですよ。ですが頭が真っ白で言い訳を思い付かないままマルユークは部屋に案内されてきました」

「アンドゥグさんを・・・?」

「いいえ、オーノ」


エールは不安を取り除くように、やさしく笑った。

「最初に言ったように彼は自らに暗示を掛けてしまっていました、なので開口一番に仕事中の会話を盗み聞きした事を謝られたんです」


マルユークは、しどろもどろで謝ったらしい。

人様の家を勝手に歩き回るなんて自分らしくもない行為だが、娼館で女主人は仕事中だと聞かされると、男の性かいつの間にか扉の前で話を聞いていたんだと言った。

そして部屋から聞こえるその男の話が自分と同じ悩みだったので、途中でやめる頃が出来なくなってしまったと。だけど肝心のアドバイスが台本であったため、内容がわからず、知りたいと思ったが、そろそろアンドゥグが戻ってもおかしくないので、一度戻ろうと思ったらしい。

待ち合いのソファーで暫く考えていたら、アンドゥグに肩を叩かれて気付いたとの事だった。


実際には彼はアンドゥグに起こされるまで、待ち合いのソファーで寝ていたんだろう。夢の中に入らなければ台本の事やマーノウスの悩みが自分と同じという事はわからない。


マルユークは男の性だと言って恥じ入って謝罪していたが、夢の世界は欲望や不安など気持ちの振り幅が激しく感情に翻弄されやすい。扉の前だったのなら自制があるというより、エールに興味がなかったと見れるのである。

しかし、新妻との関係の光明と思えるエールの台本に意識がいくあまりその辺を自ら曖昧にしたのかもしれない。なぜ扉の前に居たかなんて彼にとって問題じゃないのだ。


「はぁぁ。心臓に悪いにーちゃんだな。一途なやつで良かったな」

「そうですね、でももう少し私に関心が有れば夢の中で感知できて、ヒヤッともしませんでしたのに」

エールは苦笑いだがどこか嬉しそうだ。多分自分に関心を寄せられる事を望んではいないだろう。彼が一途であることが嬉しいのだ。


「それにアンドゥグも、それだけの時間マルユークを一人で待たせていた自覚があったのか、顔をしかめましたが何も言わず、バレそうな会話はなにも有りませんでした」

「そっか、ギリギリだったけど良かった。んでえーとマーノウスと悩みが一緒だったんだっけ?」

「そうです。でも聞いてみると原因は全く違うものでした」


と、からかうような目をして、可笑しそうに笑いながらエールは続けた


マルユークが言うには、結婚当日、彼女は甘い雰囲気になるのを懸命に避けている様に見えたらしい。顔色も青ざめていて式の途中に一度貧血になったらしい。

式のあとには夜が来る。しかし彼女は寝室の扉の前で泣き始めた。今日の日をとても待っていたし、とても嬉しいけど、今日は一緒に眠れない。ごめんなさい。と何度も謝ったのだそうだ。


「え、それって」

「そう、彼女はその日血の道が通っちゃったみたいですね」

苦笑い気味にエールが答えを言ってくれた。

「彼は気付かなかったようですね、どうやら、式や準備やパーティーで気が高ぶって疲れたのだと思ったようです。それに年上の花嫁なので珍しく弱いところを見れて可愛いとも感じたようですよ」

オーノも思わず苦笑いしたくなる。ただの何処にでもいる新婚だ。しかし、あの辛さは男にはわからないだろう。オーノもまだ経験したことはないが、娼婦たちの様子を見て聞いてきたのでどんなものか知っている。


「ま、となると、長くて1週間はお預けか」

「ですね。彼女は道が長くて険しい方のようでした。具合が悪い日が数日続いて心配したそうです。でもマルユークの悲劇は続きますよ」


悲劇って言っちゃうんだ・・・


「顔色がよくなって、数日経つと妻も普通に寄ってくるなと思ったので、夜になって寝室に入る直前に誘ってみたそうです。ですが彼女は真っ赤になった後何かに気付いたように断りをいれてきたそうです」


彼女いわく『ごめんなさい、心の準備が出来てなくて。もう少し早く言ってくれれば・・・いいえ、ダメだわ雨続きだったし。あ、ううんこっちの話しなんだけど、えっとあのね、女はいつも美しく見られたいのよ。だから、つまり、えーとごめんなさい』


「つまり、ごめんなさい、か。あはははは。今度は何だろな。勝負下着じゃなかったか?それかイケイケすぎたか?どっちにしてもなんか笑えるな」

「素朴な感じから後者は無いでしょうけど、同感ですわ。それにマルユークも今回は感づいたらしく、『じゃ明日』って笑って了承出来たそうです」

「あぁ、待ちに待ったって感じが伺えるセリフだな」

「ふふふ。そうそう。マルユークの妻は雰囲気が悪くならず安心したのか、手をつないで寝ようと言ったそうですよ。可愛い新妻に言われて断れないですわよね」

「あはははは。お嫁さんの名前なんだっけ。聞いたっけ?天然なの?小悪魔なの?」

「リアンですわ。どちらでしょうねぇ。でも彼らは幼馴染で仲が良くて小さい時から手を繋いでデートしてたらしいので、あまり考えてなかったのかもしれませんね」


人の悩み相談のはずなのだが、なんだか可愛らしくて可笑しい。2人は声を出して笑っていた。本人が本当に切羽詰っていたと考えるとなお可笑しくなってくるのだから、始末に負えない。


「あー。面白いな。次の日は何かあったの?」

「まだ続きますよ。次の日は友達が夕食前に遊びに来たそうです。なので夕食を一緒に取ることになったのですが、友達は最近フラレたらしく仲の良さそうな2人に当てられたんでしょうね。やけ酒を飲みすぎて泊まっちゃったらしいです」


流石に振られたやけ酒で潰れた友達が眠る家で事を起こせるような非情な夫婦ではなかった。

くだをまく友人に付き合い遅くまで杯を交わし、そのままマルユークも一緒に寝落ちしたそうだ。起きると2人の肩と膝には毛布が掛けてあり、部屋は火は落ちていたが凍える程でははなかった。きっとリアンが夜中何度か火を入れてくれたんだと思うと言っていた。


「いい奴らだな」

「ほんとに。そういえば、話を一緒に聞いていたアンドゥグが途中から険しい顔じゃなくなってました」

「アンドゥグさんも優しいよなぁ」

「次の朝、友達の彼は謝りながら帰ったらしいです。彼が帰ったと行き違いに今度はマルユークの実家から姪っ子が来て、家に来て欲しいと言ったそうです」

「次から次と大変だな」

「ふふふ。今度は、彼のお兄さんがひどい風邪になってしまって動けないから、冬になる前に隣街まで買い出しに行ってきてほしいと言う話でした」

「そっか。最初は食料業者として館に来たんだったな」

「えぇ、彼の父にあたる人に毎回来てもらっています。けど買出しは体力が要るものなので、店を継いだ長男がしていたらしいのです。しかも冬入り前の買出しなので、特に大量になるそうで、数台の馬車に警護をつけた大所帯になります」

「マルユークの家って金持ちだったんだな」

「まぁ、そうですね。うちに入ってもらっている位ですから、信頼と実績はあると思います」


買出しに行くのは海側の街。冬前の非常食作りに欠かせない塩を主に、山あいでは取れない香辛料や魚などを買込みに行くらしい。代わりに海にはない毛皮や薬草などを大量に持って売りに行くそうだ。

冬ごもり前は動物も人も危険が増してくる。新婚の弟に行かせるわけには行かないと長男は言ったそうだが、これ以上出発を遅らせ雪が降り始めると危険度は倍以上になる。治りそうもない夫を宥めながら義姉が使いを寄越したのだそうだ。


街の食料業者はマルユークの実家だけではないが、分担や役割というものはある。信頼を落とすとこの後の仕事への影響が大きい冬の買い出しは特に重要だ。街全体の冬の食事情にも関わる。失敗するわけにはいかない。

義姉の話を聞き了解すると、マルユークはすぐに了承した。説得されるまでもなく、この家で育った彼には事の重大さが十分に理解できていた。しかし、何度も付き添った事はあるが陣頭指揮を取ったことはないので、いささか緊張したらしい。

それに重要性もだが危険度もわかっている。何か起こった時は妻をお願いしますと義姉と兄に言ったらしい。

出発は翌早朝で、旅の準備は長男側で終わっていた。

なので、マルユークは自分の仕事場に事情を話し、数日休むをもらい、業務に影響が無いように引き継ぎと自分持ちの仕事を終わらせた。


「帰る頃は夕飯刻を少し過ぎていたそうです」

「いきなりなわりに、早めに帰れたな」

「かなり頑張ったんじゃないでしょうか。新婚でまだ1ヶ月未満なのに離れる事になるので、なるべく多く2人で過ごしたかったのかもしれません」

「まぁ、下心もありそうだけど」

「まぁ、そうですね。誘ったそうですが、その日も断られたようです。なんでも『大事の前に女気が入ると失敗する』と言われたようですね」

「ん・んー。そういう事もあるだろうけど、なんだか硬い考え方なんだなリアンは」

「まぁ、縁起を担ぐのは悪くないでしょう。それに気が抜けちゃうってのはありそうですが、下着にもこだわりがあったみたいですし、ちょっと考え過ぎな所があるかも知れませんね。とりあえず次の日も早いという事でさっさと寝て、翌朝街を出たらしいです」


海の街までは半日かかるが、今回は大所帯のため1日を想定していたらしい。つまり行き帰りだけで2日だ。それと向こうでの売買を考えて4日の行程を予定していた。

行き来は順調で危なげなく済んだ。持っていった商品も高値で売れ、大体の品物も買い揃え妻へのお土産も用意し行程通りに進んでいたが、翌朝出立という夕方のこと、懇意にしている麦問屋からもう一日延ばさないかと夕飯に誘われ、結局5日目の夕方に帰ってきたそうだ。


「無事で良かったな!」

「ええ。それからは後作業ですわね。まだ長男さんは完治していなかったので、夫婦でご実家に泊まって手伝ったそうです」

「実家か・・・」

「ふっそうです。帰ってきたその日に義姉に『おかえり。本当にお疲れ様!それと申し訳ないんだけど、あと2日ほど手伝ったくれないかしら?効率上げるため泊まりで。あっもちろんリアンちゃんも泊まってもらっていいしお給金もだすわ。とにかく日程が遅れてて人手が足りないのよ』と言われたそうだ」

「悲劇だな。本当に劇になりそうだ。腹が痛くなる。くっくくくく」

「それから家に準備に帰ろうとしたら『あ、大丈夫よ娘を知らせに行かせたから。アリアちゃんが貴方の着替えをもって来てくれるわ』と返されたそうです。その時のマルユーク泣きそうな顔がっ。ふふふふ」

「あっははははは、だめだ。マルユークが可哀想すぎで面白い」

「ですよね。もう、あの時本人から聞いている時なんて大変でした!アンドゥグも奥歯噛み締めて必要以上に姿勢がいいのに、小刻みに震えてるんですよっ。もう私下向いて声出さないの必死でっ」


義姉は好きあって一緒になった2人がまだプラトニックだとは思ってなかったのかもしれない。

それともどんな状況でもラブラブだろうから問題無いと思っていたのか。とにかく2人の「2人だけの甘い時間」はお預け状態になったのだ。

知らせを聞いてやってきたリアンは、マルユークの無事な姿を見て嬉しそうに駆け寄って来たらしいが、周りが忙しく動いている中でゆっくり再会もできず、少し話しただけで手伝いに入ったらしい。

しかもマルユークは客人も連れて帰ってきていて、そちらの手配も必要らしく、本当に大変な夜になったらしい。


「はーー笑った。もうそろそろネタ切れか?」

「いえ。ここで彼が睡眠不足で悩んでいた最大の事件が起きますわ」

「事件?」


マルユークのお土産はお菓子だった。姪にも義姉にもお菓子を買ってきていたが、リアンにはそれに加えて外国から入ってきたという珍しいお菓子を買ってきていた。茶色で口に含むと熱で溶けてしまう。苦味と甘さが上手に織り交ぜてあり、果物などにも合うお菓子だった。それはリアンの口に合い、とても喜んで食べていたらしい。

2日ほど忙しく後作業に入って、なんとか通常業務に戻れたが、旅の成功と客人の歓待の意味を込めて小さなパーティをすることになったので、更に実家に一泊し、家に戻ってきたという。

次の日は休みらしく、今日こそと思ったマルユークは夕食後にリアンを誘い、風呂屋に行ったのだそうだ。リアンも快く受け、手をつないで出かけて行ったのだが、


「風呂から出てきた彼女を見て今夜も無理だと悟ったそうですよ」

「え、なんでだろな」

「多分ですが、鏡を見て、顔に出来物を見つけたんじゃないですかと」


風呂は通常各戸にない。準備も片付けも力仕事で面倒だし、大量の水と薪を使う。数人の一時の満足のために労力がとてつもなく掛かるため、家の中にそんなスペースを作る家はよほどの金持ちだ。2人が行ったのは公衆浴場だろう。

ずいぶん前の領主が温泉の湧くところに屋根を作り、仕切りをし、囲いを作り、少しのルールを決めた。それがこの街には数箇所点在している。

なんでも、森の温泉に浸かりに来る動物たちをみて、なにか効能があるのかと思い、研究したところ怪我の治りがよくなり、病気にかかりにくくなった結果が出た。そして、街中に温泉が湧きそうなところをどうやってか探し出し公衆浴場を作ったらしい。

その当時は意味もわからない労働を強制するひどい領主だと言われたそうだが、数年すると彼の功績は讃えられ今でも偉人として名が残る領主となった。

話がずれたが、公衆浴場は無料公開されている。なので、イメージアップに使われ、高級なものが寄贈されることがあった。鏡もその一つだ。

一般家庭では見ない鏡をみて、自分の異変に気づいたのだろう。


「聞いたことがあるだけなんですが、海外のお菓子でとても栄養価が高く、美味しいのだけど、そのせいで食べ過ぎると顔や体に出来物が出来やすくなるものがあるそうです」

「あ、お土産のお菓子?」

「はい。多分ですが。でもきっと2人は知らなかったと思います。お風呂から出てきた彼女は俯きがちで、少し途方にくれていたみたいです。いつも前髪まできっちり上げている髪を緩めに結い上げて額に被るようにしていたそうです」

「俯きがちなのは、多分額の出来物を隠すためかと思われます」

「うん。たしかに。隠したいよな」

「マルユークは、風呂から出たそんな彼女を見て無理かと思ったそうですが、手をつなぎ帰宅を促すと、素直についてくるので、暫く様子を見て考えたあと、寝室の前で聞いたそうです」

「おお。勇気を出したな」

「リアンは俯きがちでしたが頷いたそうです。マルユークははやる気持ちを抑えてベッドに促した後、明かりを消す前に抱きしめてよく顔を見ようと思ったそうですわ」

「あっ。なんかやばい流れだな」

「そのとおり、抱きしめた時に覆われていた額が出て、間近に彼女の顔を見てふと気付いた事を口に出してしまったそうです。『ん?どうしたんだ?これ』って」

「おわー言っちゃダメだろ」

「彼女が真っ赤から真っ青に顔色を変えたと思ったら、腹に衝撃があってベッドに尻餅をついたと言ってました。そして彼女から『まーくんのバカっもう知らないっ』と言われてちょっと放心している間に彼女は物置にこもってしまったそうです」

「なるほど、大事件だな」

「そうです。ここから3日はよく顔を合わせられなかったらしいです。そして出来物もなかなか治らないらしく『もう治らないかもしれない。別れるしかないのよ』と独り言を言っているのを聞いたらしく、一生懸命宥めているけど元気にならないらしいです。

『あんなモノ何で気になったのか。せめて僕が口に出さなかったら・・・』と言ってましたね。


そんな気まずい中、今度は実家からお父さんがぎっくり腰になったと連絡を受けエールの屋敷を訪れ、最初に話が戻るというわけだ。

彼は、自分の愛情が変わっていない事を伝えるために、彼女との距離を縮めたいのだと言ったそうだ。その為にエールの意見が欲しいと。


「あーなるほどな。時が解決してくれる気がするけど、当人らは永遠と思える苦悩を抱えてるわけだ。時が経つのなんて待てねーなあ」


オーノが女の子と思えない口調で、子供と思えない達観を示す。エールは苦笑いしながら言った。


「そうですね、これ以上悪くなる可能性もあるなら、助言くらいなら、と意見を言うつもりだったんですが」


*** **** *****

まず、

彼女の情緒不安定について、血の道の通りが近いと不安定になる場合がある事。なのであまり深刻にならないこと。

体を冷やすと道が険しくなること。暖め労ってあげて欲しい事。

あと外国のお菓子を暫く控えること。野菜と果物を取ると肌に良いこと。そしてよく眠ること。

そして、あと10日は行為をしない事。雰囲気だけでも出すだけで、今の彼女には追い込まれた気持ちになるであろう事


そう告げた後で、エールは考え直しマルユークに問うた。


「賭けになりますが、彼女の不安を取り除く方法を思い付きました」

と言って、アンドゥグから紙とペンを受け取り書いて渡した。

「これは、彼女の弱くなった心を突きます。『私を嫌いにならないで』という台詞を引き出せたら成功するでしょう」

何故かを聞き返すマルユークに

「彼女はドン底の気持ちでその台詞を言うでしょうが、あなたは彼女を嫌いなんてならないからです。

弱い心に薬はよく効きます。あなたの想いをそのまま伝えれば大丈夫。彼女を安心させることで、彼女の体調も整って全てが好転していくでしょう」

そして念を押しておいた

「10日は行為なしです。安心した彼女は甘えて来るでしょうが、我慢してください」

そう言いながら書いたものを渡して一言、

「抱っこして頭なでなでは効果的です」

*** **** *****


「彼は紙を大事そうに持ち帰り、3日後にアンドゥグがお礼に来たと伝言をくれました」

「早いな」

「えぇ、彼女を早く安心させたかったのでしょう」

「あぁ、良かったな」

「はい」

「で?」

「え?」

「ずいぶん長く説明してくれたけど、これは終わりじゃないよな?」

「あ・・・」

「お前はぐらかそうとしたな?」

「いえ・・・」

「じゃ、途中から何で話し始めたか忘れてたな?」

「・・・はぃぃ」

「ほれ。何があった?話せ」

「はい、それから・・・」


どうやら2人に渡した作戦が上手く行き過ぎたらしく、エールの台本による恋愛相談が徐々に広がり昼間やサロンでも聞いてくる人が増えたそうだ。

更には印刷業者から、恋愛連続小説を雑誌に書いて欲しいと言われた。


夜は娼婦となり、少し寝て、朝になると門前にいる相談客を入れて、悩みを聞き。時間の有るときに小説を書くということをこの冬していたので昼に寝ることがあまり無かったらしい。


「そっか、エールはなんつーか逞しいな。何処でも生きていけそうだよ。いつでも森に呼べるな。でもそれで不安定になるか?」

「実は人々の悩みの多様性に参ってしまって」

「ああ。なるほどな」


悩みの聞き役としてエールは優しすぎる気がした。


「息抜きが出来るときがなくて」

「フムなるほどな。お前今日のここ寝落ちか?」


はい、と小さく答えるエールに呆れつつオーノが口を開こうとすると、

急に腕が引っ張られる感覚がした、オーノは焦りつつ早口でいう


「やば。明日昼前また来る。アンドゥグさんに調整をおね」


そこまで言ってオーノの姿は部屋から消えた。エールは右手を左胸に当て軽く会釈した姿勢で


「仰せのままに主」


といって、ニッコリ笑った。

力はもう完全に制御されていた。


会話調で話を書いてみました。あまりくどくなってないと良いんですが、良い言葉が思い付かず説明ばっかりになってしまいました。

ボキャ貧です。


エールの仕事が増えて、てんてこ舞いってところまで話を持っていけました。

そしてやっと森に場面を戻せます。

本当に長かった。でも恋愛要素少し出せましたね。



本編とは全く関係ないですが、待ちに待ったシリーズの新刊発売のニュースが12日にありました。オノ先生!待ってました!嬉しすぎる。

会社でニュースを聞いたとき、嬉しすぎて全く興味もないという人に聞いてもらいました。

あああ、早く来年になってー。

待ち遠しいです。

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