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3つの王のしるし  作者: わだん
森の生活
5/23

夢の中で

オーノ以外の登場人物。

もう少しあとにだす予定でしたが、何故かここになっちゃいました。

トーン。トーン。トーン

いつの間にか聞こえていた定間隔でなる低い音は、オーノには聞き覚えのあるもので自分が寝てしまったのだと気付かされる。


ああ、久しぶりだな。


この冬は数回しか来れなかった。この音が切れる所はオーノの心休まる場所である。

暫く続いていた音が止む。余韻が残る暗闇のなか迷わず足を進めると、やがて木の扉が現れた。オーノは勢いよく開きながら呼び掛けた。


「エール!エール!来たよ!何処?」


扉の向こうはキッチンだった。でもそこには求める人はいない。

焦れったい気持ちで先程くぐった扉をまた潜る。しかし其処にはすでに暗闇はなくダイニングに繋がっていた。

ダイニングを抜けて廊下にある階段を上がり二階に行く。

廊下や階段の途中には、たくさんの肖像画が飾られていた。

オーノは肖像画に描かれた人物たちに、「久し振りー」と心の中で声をかけつつかけ上がった。

幾つも並ぶ扉の中から。特に考える素振りもなく北側の一室を開ける。


部屋の中は背の高い本棚が幾つも並ぶ図書室。

どんどん奥に入っていくと、窓際の二つの柱の間に作られた少し低めのソファーに横たわっていた女性が、破顔しながら身を起こすのが見えた。


「オーノ!いらっしゃいませ。この冬3回目ですね。逢いたかったです」

そう言うと大きく手を広げた。すかさずオーノは胸に飛び込んでいく。


「ああ。オレも逢いたかったっ」

ぎゅうっと力をいれて快い体温を確かめるようにしっかりと抱き合った。暫くして先にオーノが口をひらいた。


「この冬はアーガと一緒だったから、酷く疲れることもなくって、あんまり昼に寝なかったんだ。その代わり時間がある限り手仕事出来たから、春に街に売りに行くからさ」

「そうなんですか?春が待ち遠しいです」

「オレもだ。雪も止んだし、街道の雪が無くなって道が乾くまで、1ヶ月位だろ?もうすぐさ」

「私も今年の冬は昼に用事が多くて、あまりお昼寝がしなかったんですよ。そうでしたか、アーガと。もしかして崖の彼の巣で冬を越したのですか?」


彼女は、あら?と気付いたように少し目を見開いて腕の中のオーノを見つめた


「そう。でもすっごい快適だったよ。ただ火を使える場所が無いから、少しずつオレも過ごしやすいように改築させてもらうつもり」

「快適?風はそんなに強くない場所だったんですかね?崖なのに?」


何となく腑に落ちないのか首を少し傾けたが、オーノの元気そうな顔を見てまあいいかという気分になり、「良かったです」とにっこりと笑った。


オーノの好きなエールの笑顔は変わらない。

オーノはもう一度胸に顔を埋めて「柔らかい!いい匂い!」とぎゅっとしながら叫んだと思うと、ぱっと少し赤くなった顔をあげて「流石エールだよ」と心底感心したように言った。


「何ですかそれは」

と呆れた声をだすと、笑い合いどちらともなく腕を解いた。


エールは低めの声でゆっくり話すので柔らかく聞こえる。全体的に小ぶりで可愛らしい印象のある彼女には少し低い気もするが落ち着くいい声だ。


「なに読んでたんだ?」

とオーノが聞くと、僅かに眉をひそめてながらも答える。

「昨日のお客の記憶ですね」

「ふーん、誰?いい人そう?」

「ヒュージィーン・カルダン。カルダン伯爵の次男です。んーそうですね。街の評判と随分違うようです。ただ間が悪いというか・・・誤解されやすい方のようですよ」

「そっか。お金持ち?」

「そうですね、それなりに・・・って、まだ諦めてないんですか?身請けは受けませんよ、情報収集にもってこいの職場でしょ、不便もありません!」

何気なく答えて、オーノの意図に気付き、急いで次の言葉を続けた。

「えー!だってエール、今年夏が来たら26だろ?もう良い奴捕まえろって。エールなら確実に出れるだろ?親父たちの事はそれからだよ」

「いいえ。せめて手懸かりを見付けるまで。私ではここほど力になれる場所はありません」

「でも、外出ても探れるって。エールの言うとおりの人達なら適齢期過ぎてまで見付けようとしてるって分かったら、責任感じちゃうんじゃない?」

「そうかもしれませんが、でも」

「10年経つんだ、彼らも新しい生活があってもおかしくない期間だよ」

「旦那様も奥方様もそんなに薄情な方々ではありません!きっとどこかで・・・」

「だって、まだ若かったんだろ?幸せになったって文句ある奴いねーよ。もしかしたらオレの弟妹が・・・」

「そんな方々ではありません!そんなっそんな風に他人みたいに言わないで・・・」


目を潤ませて見つめられて困惑してしまう。


「だって聞いた話しか・・・顔も覚えてないし・・・ま、まて、エール。ちょっと力漏れて、うっ」


顔に朱が上がってくる。目が回り頭にモヤがかかったようになる。オーノは歯を食いしばって気を確かに持て、と自分に言い聞かせた。

オーノの様子にやっと気付いたエールはハッとして慌て出した。しかし力は抑えきれず漏れ続けている。


オレはエールの主だ。飲まれてはいけない。

オーノは熱い息を短く吐きながら指示をだした。


「う・・エール。オレは名だ。・・言ってくれ・・・オレの正名を・・・」

「はっはいオーノ。貴方はオルノーヴル・コルディア・ゲィド・ユルダータ・オルライオネル様ですっ。ユルダータ公爵家の三女になられます」


エールが早口でオーノの名前を呼んだ。其れを聞いたオーノは一度目を閉じて息を長くはいた。

オーノの正名は力がある。また力を使用するためだけじゃない。エールに呼ばせることで主従の契約による抑制力を意識させ、エールの力を抑えようとしたのだ。


暫く深い息を意識して続けると思考を覆っていたモヤが消えてスッっと熱が引いていくのを感じて、オーノはやっと安堵の息を吐けた。




名前をつけるのにすっごく時間がかかりました。

なので少し時間が開いてしまいました。


エールはオーノの養い親です。

でも公爵家の使用人だったので、物心ついたころから、オーノが主である事を教えて来ました。

エールも貴族なので教養やマナーはエール仕込み。

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