温泉
アーガに捕まって数分で温泉に来れたは良いけど、オーノの体は極限まで冷えていた。
「ざざざざざむむむいぃぃぃぃぃ。」
ものすごい勢いで歯をガチガチならすオーノをアーガはポチャンっと適当なところに落としてやった。
「ぎゃーーあっちーーーー!おいっ雑すぎるだろ!ずれたら火傷どころの話じゃねーぞっ」
10歩先には、ゴポゴポ音を立てて湯立っている湯溜まりが見える。
「体も冷えてんだから余計熱いわっ、じわじわ暖めるのが基本だろうが。もう。筋痛めてるのに無茶しやがって、大人しく一人で飛んできやがれ」ぶつぶつ言いながら急いでお湯から上がってくる、だが、寒さは取り敢えずぶっ飛んだ。
この温泉地帯は源泉に川の水が入るところがある。川の石で冷たい水と温水を自分でいい湯加減になるように調整して入るのだ。
なので間違って源泉の湧き出る上に作ると危険だ。其のまま入った鳥などが時々茹でられたりしている。
オーノはあがってはみてみたが、既にびしょ濡れなので考えることをやめて、また服のまま入ってさっさと風呂の用意にとり掛かる。水面をよく見ながら源泉が出てる場所を確認しつつ指で温度を診ながら水溜まりを作っていく。
といっても、水の流れを変えるだけで完璧な壁など作れるわけではないが
オーノが2つの囲いを作る横で、アーガは大きい囲いをその辺の丸太も使って作っていた。さっさと作り終えたアーガは次はそこら辺に生えている草や花をブチブチ千切ると囲いのなかにいれた。
それから頭を廻らすと一緒に運んだ大蛇を見て、そちらに近づいていく。それを見てオーノが叫んだ。
「まて、アーガ。そいつの皮欲しいんだ。珍しい蛇で柄も大柄で綺麗だからさ」
そう言って風呂作りを中断して近づいてくる。
「さみぃけど、汚れるならこっちが先だよな。売れるかも知れねーしな」
そう言いながら、腹と背を見比べ顎の下辺りからにナイフを入れ腹に一筋線を入れていく。一筋入れ終わったら、頭の方の皮を剥ぎに掛かる。
「そういや、お前んとこの食べ残しの毛皮もなめそうと思ってたんだ。ちょっと大変だけど、今度の春は毛皮といつもの生地を売ろうかな」
話ながら皮剥ぎの手を止め、途中だがアーガに示したつつお待たせと言うと、続きは力強い大鳥が慎重に作業を引き継いでくれる。そして自分はまた囲いを作る作業をした。
やっとできた時はもう体は少し温まっていたが、アーガと違い怪我がなかったオーノの目的は湯治ではない。
オーノは小物とナイフを取り出してまとめて置き、ぱっぱっと服を脱ぐ。頭に巻いていた長い布も全てとって小さめに作った囲いの方にいれた。そして自身も腰まで入り、編んでいた髪の毛をとく。全部解き終わると次はごしごし頭も体も擦り始める。何度もお湯で流し、何度も囲いを少し崩して水を入れ換えながら、水が濁らなくなるまで続けた。
気づくと横にご飯を終えたアーガが草を噛みながら湯に浸かっていた。オーノは簡単に髪を束ねそこら辺に落ちていた枝を使い髪を結い上げた、布を簡単に洗うとそのまま持ってアーガの体を拭きだした。
大きいアーガは大部分がお湯に浸かれない。傷の治りを良くするための入浴だが、首の後ろや嘴の回りなど、自分で届かないところまで綺麗にしてやると嬉しそうにするのを知っていた。
乾き始めている血を拭い、羽の奥の傷の様子を見る。
血は止まっているようだ。あれだけの脅威にこれだけしか傷がないことに驚き安心する。そして羨ましい。オーノは小さくて弱かった。
今回だって、オーノを助けるために急所を狙えず取り敢えず捕まえ引き離す事を優先しなければ、あんなに苦戦しないはずだったし、苦戦していてもオーノが攻撃するだけの余裕を作るの位は簡単なのだ。
オレの強さって何だろう。小さいから弱いけど、少しでも長所があれば伸ばしやすいのに。
つらつらと考えながら届く範囲で拭いていると、アーガはよほど気持ちいいのか、水の無いところに寝そべるように頭を下げてきて小さいオーノの届く範囲を増やす。
そう言えば、オレのお仕置きの途中だったな。と言葉には出さず拭く範囲を広げて、顔を丁寧に拭いていく。うん。なかなかハンサムだ。
アーガの目は周りは薄黄色だが真ん中に向け青色に変わるような光彩で真ん中にクリクリとした真っ黒な瞳が凄く綺麗だ。目はかわいいと思うのに、顔全体を見ると凛々しい。どういうバランスでそうなるのか不思議でならないが、素晴らしい配置だ。
春から秋の間は頭頂部分と目の下から頬と顎辺りの色がはっきりと違ってくるため、よりスリムに凛々しく見えるようになるが、今は冬毛でどこか丸々しい感じがふわふわかわいい。
そう思いつつ、顎から首、胸の辺りと拭いていく。途中で手に持つ布を何度か洗う。体も冬の白い羽と、夏の焦げ茶の羽とは印象は全く違うがどちらもぎゅっと引き締まった筋肉質な体つきは均整がとれている。
今は少しずれて、畳まれている右の翼の根元は力加減を緩める、『治れー』と念じながら少し多目に拭いた。
オーノは逆立ったり乱れていた羽も押し延べ、折れている羽は切り揃えつつ綺麗に拭きあげて、仕上がりに満足した。
うーん!流石オレのアーガだ。美しいな。
うんうんとうなずきつつ、体が冷えてきたので、また自分が作った囲みに戻ると、浸かりつつ今度は脱いだ服を洗いだす。
ふと見ると、オーノの囲みにアーガがさっき採ってきた草をせっせと入れていた。
ん?香草か?
アーガの好きな臭いなら、後でなんの草か見ておこう。など思いつつ作業を続ける。しかし、自身を洗った時もそうだが汚れが凄い。洗い水がやっと許せるくらいの濁りになった時には腕が痛くなり始めていた。
洗った服は、よく絞って、地熱が高そうな日がよく当たる場所に広げて干す。
はあー終わったぁ。と息をついて、やることがなくなった事にしばし放心する。
さてどうしたものか。
作業中によく暖まって今体はすっかり火照っている。また温泉に浸かる必要は無さそうだ。
服は太陽が手のひら2つぶん位は乾かなさそうで全て洗ったので、今オーノは真っ裸だった。
つまり動いてもいいけど動きづらい状況だった、あと、この湯気の付近を離れると、途端に寒くなる。
アーガはもう少し入りたいのか、半身浴で気持ち良さそうに横たえる姿を見せている。
やりたいことはあるが、取り敢えずアーガに近寄り痛めてない方の翼を横たわって布団のように被り、服が乾くのを待つことにした。
革かー。良いのが出来るといいけど材料が足りるかな。
温泉近くにある透明な石を持って帰らないとな、あと巨木の実で作った発酵した汁は一昨年寝かしたやつを出して。足りなかったら去年の足してなんとかなるかな。
巨木の実からとった植物油で石鹸は出来るが、足りるかな。
出来るだけするしかない。あとは塩もほしいが、革のなめしに使えるほどはなかったと思う
うーん手が足りない。これは帰ってから野良ナウリーニを調教した方が良さそうだ。やつらは畑を耕すのにとても役に立つし、荷物の持ち運びにも便利だし、餌はその辺の草でいいし、それから・・・
アーガの翼の下から寝息が聞こえてきた。
オーノは寝てしまったらしい。
アーガは痛めた翼を確かめるようにふり、小さくなった痛みを感じた。お湯から出て少し離れた場所で身を振り水滴を飛ばす。
また、オーノの側にいき、起こさないように包みこんだ。
考えていた人物の登場までいきませんでした。
ちょこちょこ動物が出てきますが、後から説明する回を書きたいと思ってます。
アーガのかっこよさが伝わったらいいなと思いつつ書きました。
温泉、私が行きたい。