お仕置き
そんなにオレが悪いのかぁーーーー!?
全身に冷気が通りすぎていく。
それこそ顔色は真っ青だろうよっ!くそっ!
子供の大きめの服がはためく。常に身につけているものは少ないが、落とすわけにはいかない大事なものばかり。
左のポケットのうえをまず上から押さえた。小物は蓋付きの左のポケットにある。それから右手で腰のベルトの上からナイフを。これが外れて自分に突き刺さったら目も当てられない。そして頭から落ちるのは勘弁、とぐっと一度頭をお腹に近づけるように体を丸めて、前回りの要領で態勢を立て直した。
あの野郎。起き抜けに最悪の起こされ方されたもんだからって冗談過ぎるって。風が吹いてたら陸に落ちて完全にアウトじゃねーか!くっそーこれどんだけ冷たいんだよ。凍らない湖だけどさぁっ。
ここまでの仕置きなら、巣の改善はしなくていいんじゃないか?
と考えたところで水面に水飛沫があがった。
上空では鳥が、ホーローーーと陽気にくるくる飛んでいる。
そして少しずつ高度を落として水の中の影が見える位置で羽ばたきながら待つ。
羽の風が当たりさざ波がたった。
子供はなるべく抵抗が無いように、水面に垂直に体を真っ直ぐにした状態で入水した。いくら体が小さく体重を軽くしていても、巨木にある自分の家より高い所から落とされたのだ。取り敢えず意識がある事への安心と純粋な恐怖で涙が出てくる。水のなかじゃ見えないけど。
死ぬよ?オレ死んじゃうよーぉぉ。あいつ羽の効果過信しすぎじゃね?いや、どんだけ効果あるかはオレもよく知んないけど。普通じゃしないよっ・・・あいつ鳥だから普通じゃないのかな?オレも普通なんか言えるほど知らねーしよ。もーいーよ。とりあえずはっと。
やっと速度は止まった。文句を言うつもりで目を開くと、暗い水のなかが、ゆらりと動いた。
何かとじっと見つめると、音で逃げていった魚とは逆に近づいて来ているように見えた瞬間、目線はそのまま様子を伺いながら子供はすぐに手を上に伸ばし下に下にとかいていく。足も懸命にばたつかせるが、近づかれる方が早い。
あと水面まで自分の背丈ほどのところで、ぐっと奥歯を噛み締める。
間に合わない!
腰のナイフに手を回し、口を開けて接近してくる自分の頭ほどある蛇の顎めがけて下から振り抜いた。水の抵抗はあったが、蛇は危険を感じたのか右にずれ、自身の泳ぐ早さですぐに止まれず通りすぎていく。
しかしすぐさま頭を巡らせ再度向かって来ようとしていた。
時間は僅かだが稼げた。今のうちに、と水面に小さい手を伸ばす。いるはずの鳥を呼ぶことが出来れば、どうにかなるはず。
間に合わなければ、このまま引きずり込まれる。
もう水中を振り返る余裕はない。必死に手を伸ばすと水面に手が出たとき、空が暗くなった。
顔を出したとたん空気を少しでも吸い、呼ぶ。
「アーッ わっぶ」
声は続かずすぐ横を鳥の足が通り過ぎ、そのまま横腹に水の中の押し戻された。
口を大きく開けていたので水が入ってくるし、空気を吐き出すばかりで吸えてないので胸が苦しくなる
「んー!んー!」
水中で鈎爪が子供の体の直ぐ下まで来ていた大蛇の頭を掴むのを見た。大蛇は太い体を鳥の足に巻き付けていく。
鳥は水のなかにいたのは一瞬で腹まで水に浸すと、すぐに羽ばたいた。
水飛沫が上がったあとから子供は顔を出し息と水を吐き出した。
「がはっがはっはぁっ。はぁはぁ。アーガっ」
急いで鳥の名前を呼びながら姿を探すと、一番近い陸地に向かう大鳥が見えた。右足で頭付近を持ててはいたが、蛇は首をあげ残りの体を大鳥に絡ませ絞め殺そうとしていた。鳥は器用に蛇の頭を石にぶつけようとしているが、効果は今一つのようだ。
「アーガッ」
子供はすぐにその陸地に向かって泳ぎだす。
水のなかでは全長が見えなかったが、大鳥の広げた羽よりも長く見える。全身筋肉の蛇が鳥の体に巻き付いてしまえば連鎖上位である大鳥もただではすまない。
鳥は水深が深いところを選んでくれたのでなかなか陸地が近寄らない。早く早くと焦りを感じ懸命に手足を動かした。
やっとの事で陸に上がり、すぐさま走り向かおうとするが、足が絡まってうまく走れなかった。
「くそっ。アーガっ。」
大鳥を見ると蛇の胴に掛けられなかった左足が空を蹴っている。大蛇は頭を右足に捕まれたまま鳥の背中から左の翼に体を巻き付け根本を絞めているのが見えた。
「今いくアーガ。そのまま頭掴んでろ。離すなよ!」
「グゥゥー。オーローォッ」
ふらつく足を叱咤し動かす。走りながら左ポケットに入れていた木の実を出し、右手にナイフを掴んだ。それから木の実に刃を当てたまま一番近い蛇の腹に体重をかけて押し込んだ。
痛さなのか反射なのか、蛇の腹がグッと膨れてナイフを押し返そうとする。子供の小さい体は抵抗もできずに後ろに転がった。
「アーガッ。アーガッ」
子供はすぐに立ち上がって大鳥を見上げた。しかし勢いで近づけたさっきと違い、今は蛇に警戒されているはず無闇に近づいて邪魔になるのは本末転倒だ。
ナイフを突き立ててみたが、蛇の様子に変わりはない。体を軋ませられ鳥は苦しそうだ。
自分の弱い力ではやはり効かなかったのか、と悔しさに歯軋りした。
「グッルーウー。・・・ホロ、ロロウ」
しかし、鳥は少したつと、力を抜いたような声を出した。同時に膨れていた体毛も若干落ち着く。
子供は、その声を聞いてほーと長い息をつきながら膝をついて座りこむ。ギシギシと締め付けていた音も聞こえなくなっていた。
大蛇はまだ動こうとする意思が窺えるものの筋肉は弛緩し、脅威は無くなっていた。
それでも大事な大鳥に蛇が絡まっている絵面は心臓に悪いと思い、もう一度立つと蛇の太い胴をどかそうと刺した辺りに近寄っていくと
「ホオーオ」
と鳥が止めるような声を出す。そして大きく身震いして蛇を落とした。重そうな音を立てて地面に伸びた蛇に、鳥は油断なく止めを刺した。
「アーガ。良かった本当に。即効性の痺れ薬が効いたよ。それより怪我を見せてくれ、翼と・・・他は?痛むところは?」
「ホオーノォ」
と鳴いた鳥も同じ考えなのか、つついて後ろを向かせたり腕を挙げさせたりした。
お互いの傷を心配しあっている事に思わず笑ってしまう。
「それにしても何だ?それ、オーノって。もうオレの名前呼べそうなんだけど。そのうち人語も話せちゃうんじゃないの?」
傷の程度を見ながら話していると、忘れられていた五感が余裕を取り戻す。
「うぅ、さびぃな。羽は痛んでねーけどどうやら筋が少しやられたかな。アーガ、動かせそうか?ぁっくしゅん」
子供が聞くと少しまごつきながら羽を畳んで納めて見せた。
「うん、よし。じゃあ温泉まで行こう。あそこなら地熱でこの季節でも薬草取れやすいし。傷にもいい。噛まれた傷は深くないけど薬塗っといた方がいいだろ。ずずっ。ほんと毒持ってなくて良かったぜ」
そういって子供は湯気が見える方向を指差した。
「オレはちょっと、服絞って行くし。重くって走れねーよ。あ、ナイフナイフっとっとっとーぉ?!」
鳥は背を見せて蛇の腹に突き刺さったままのナイフを取ろうとしている子供の胴を掴みそのまま温泉の方まで飛んでいった。
仲直りのお話です。
名前も出せました。
オーノが独り言みたいになるので話せる人?を出したいと思います