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《『桜庭姉妹の日常』シリーズ一覧》

桜庭姉妹の日常7:かぼちゃの季節と初花の秘密

作者: 賀茂川家鴨

「やあ。ひさしぶりだね。ちょっと魔法使いになってお菓子を集めてみようと思うんだ」


 複線をぶん投げて放置していたからさっさと回収してコメディ路線ができるように軌道修正しようと思うんだ。

 Quasi-SFなのかコメディなのかヒューマンドラマなのかって? ジャンルがよくわからないのは、いつものことじゃないか。

 この話を読む前に、1話と2話と5話はさらっと読んでおいたほうがいいかもね。

 やあ。僕はお化けだ。具体的にいうと魔法使いの格好をしている。とんがり帽子だけだけどね。下は面倒だからいつものセーラー服さ。もう私服みたいになっている。

 だから僕はこうしてお父さんからお菓子を貰いに来ているんだ。

 ちょうどハロウイーンの季節だからね。

「お姉ちゃん。また着替えていないのです」

「そういう初花もセーラー服じゃないか」

「お姉ちゃんが寝ている間に、学校の図書室まで行ってきたのです」

「そっか。じゃあ、いつもの。僕は桜庭菊花さくらばきっかだよ。特攻はしないから安心してね」

「またですか」

 僕はお父さんの研究室のドアの前で立ちふさがり、大の字のポーズを決める。

 自動ドアが開きっぱなしになっていて、とっても邪魔だね。

「菊花お姉ちゃん」

「長い栗色の髪が自慢の、いまどきのJKさ」

 髪をさらりとかきあげて、どや顔で格好つけてみせる。

「どうだい? かっこいい?」

「天丼もいいかげんにするのです」

「毎回1話完結なんだからしょうがないじゃないか」

「ゲームの世界からはやく戻ってくるのです」

「いや、そういうことじゃないんだけどさ。こっちの話だよ」

「お姉ちゃん、よくわからないのです……」


「何をきょとんとしているんだい。僕は夜の魔法使いだよ」

「いまはお昼です。……変な言い方をしないでほしいのです」

「お菓子をくれないとイタズラしちゃうぞ」

「甘いものばかり食べていたら身体によくないのです」

 僕と同じ栗色の髪を小さなポニテにしているのが妹の初花そめかだよ。

 秘密の報告書によれば、初花は事故で亡くなったあとにクローンとして復活したらしいね。……本当かな?

「今日は日曜日だし、宿題も終わらせたから、遊んでもいいよね」

「……今日は初花とお父さんから大事なお話があるのです」


   *


 お父さんの研究室には、ごちゃごちゃした機械と資料の山がある。

 机には設計図とか工具とか試験管とかが置かれているよ。

 ガラスの机を挟んで、向かいの黒いソファにお父さんと初花が並んで座っている。

 僕はソファで正座して、とんがり帽子を膝の上に置いて、2人を交互に見た。

「お姉ちゃんがパソコンをハッキングしたのはお見通しなのです」

「何の話かな?」

「ここのセキュリティを破れるのはお姉ちゃんくらいしかいないのです」

「それはどうかな」

「初花とお姉ちゃんのことにかかわる資料だけが、近所のかもさんの写真に置き換わっていたのです。あの写真はお姉ちゃんとお散歩していたときに撮った写真なのです。だから、犯人はお姉ちゃんしかいません。観念するのです」

「うーん。遅かれ早かれバレるとは思っていたけれど、すぐにバレちゃったか。それで、初花はどこまで知っているのかな?」


 初花はぱちくりと瞬きして、俯いた。お父さんが初花の頭を軽く撫でる。


「ほとんど全部、ずっと前から知っているのです。でも、たくさん間違ったことが書かれているのです」

「そうなのかい? どこからどこまでが本当なのかな」

「まず、お姉ちゃんを調整槽に入れて記憶を調整したっていうのは嘘なのです。お父さんは嘘がとっても下手なので、こうやってごまかしたみたいです。でも、お父さんならなんでもできそうなので、役人さんはすんなりと信じてしまったのです」

「じゃあ僕はちゃんとしたJKなんだね」

「ちゃんとしているなら授業はサボらないでほしいのです」

「ほら、最近はあんまりサボってないから」

「続けるのです。初花でクローンの実験しようとした研究員さんと初花は、みんなちゃんと反省しているのです」

「うん? 初花も反省しているのかい?」

「人の話はちゃんと最後まで聴くのです。だから、あの資料は……」

 菊花は、お父さんをちらりと一瞥した。

「お父さんが役人さんを納得させるために表向きに書いた資料なのです」

 いけない。あたまがこんがらがってきた。ついでに正座のしすぎで足がしびれてきた。

「初花は……本当にクローンなの?」

「違うのです。そもそも事故に遭っていないのです」

 僕は、ほっとして、小さくため息をついた。


 空調の音が耳の奥で鳴り響いている。

「そっか。僕がこの実験のことを知らなかった理由は?」

「初花がクローンをつくりたい研究者の方にこっそり協力してあげたからです」

「……うん? 初花が協力してあげたのかい?」

「だから初花も反省しているといったのです」

「どうして協力してあげたんだい?」

「たまたま研究員さん達とお話していて、どうしてもお父さんに実験の研究成果を認めてもらいたいから、初花の髪の毛の先っぽを一本ちょんぎって渡してほしいというのです」

「それって、初花はクローンの話を知っていたのかい?」

「そ、それは……」

「やっぱり知らなかったんだね」

「はい。でも、研究員さんを責めないでほしいのです。とっても反省しているのです」

「まあ、初花がそういうならいいけどさ。どうして協力してあげようと思ったの?」

「……初花にも妹がほしかったからです」

「……ホワット?」

「この研究がうまくいったら、初花の妹ができるかもしれないというので……」

 お父さんのほうを見ると、目をそらされた。

「そういうことは、お父さんとお母さんに相談すればいいんじゃないかな」

「はにゃあ……は、恥ずかしくて言えなかったのです!」

 頬を赤くした初花の頭から、にょっきりとねこみみが生えてきたよ。

「気をしっかり持つんだ。ねこみみがでてるよ」

 お父さんが横を向いたときには、初花のねこみみがひっこんだ。

 僕のおかしな言葉に、お父さんは首を傾げている。

「……なんでもないのです」

 初花はお父さんの隣で小さくなってしまった。お父さんはといえば、頬を人差し指でぽりぽりとかいているよ。

 僕やお父さんはこういう話に慣れているけれど、初花は……うん。言わなくてもわかるね?

「政府に情報が漏れたって書いてあったけど?」

「研究員さんが予算を貰うために、研究成果を役人さんへ報告しました。でも、その件でお父さんに問い合わせがあって、騒ぎになったのです。この件は役人さんの間で特定秘密になりましたが、わたし達にはなるべく外部にこの情報を漏らさないようにとお願いしかされていないのです。……お姉ちゃん?」

 僕はソファの上で、こてんと横になった。

「あ、足がしびれて……」


   *


「お行儀が悪いのです」

 僕はソファで横になったまま話を続けた。

「さてと。このさい全部聞いちゃおう。政府からの要請の話はどうしたの?」

「……お姉ちゃんは、最後までちゃんと資料を読んでいないのですか?」

「大事なところをさらっと読んだだけだね」

「政府からの要請は、もとからないのです。研究員さんの1人が政府からの要請をいろいろとでっちあげて無茶な研究をしようとしていたのです。でも、すぐにばれてしまいました。また、それらの過激なことを実際に行うことはありませんでした。その研究員さんは、自主退職してしまったのです」

「ほとんど嘘じゃないか」

「めんぼくないのです」

「初花が誤ることじゃないと思うけどね。ニューロチップは?」

「そんな危険なものは初花がゆるさないのです」

「だよね。じゃあ、初花がいじめらている理由は? どうしてみんな露骨に無視しようとするのさ」

「そ、それは……その……きっと初花に原因があるのです……」

「僕はそんなことはないと思うけどなぁ」

「お姉ちゃんが学校サボっているときに、お姉ちゃんの陰口を叩く子を、初花が勢い余って病院送りにしたせいだと思うのです」

「……ホワット?」

「何度も謝ったのですが、学校のみんなは、ずっと冷たいのです……」

 学校のみんなには僕がお灸をすえないといけないね。対戦車砲を突きつけて回ろうかな。

「なんだか物騒なことを考えている顔をしているのです」

「ばれた?」

「バレバレなのです」

「ちなみに、新しい妹はできたのかい?」

「…………」

 初花はうつむいてしまった。うん、まあ、そんな気はしたよ。

「やっぱり嘘ばっかりじゃないか」

「めんぼくないのです」



 お父さんからバスケットいっぱいにお菓子をもらったよ。

「菊花お姉ちゃんは、お姉ちゃんがほしいと思ったことはあるのですか?」

「うん。まあ、面倒見のいい、お母さんみたいなお姉さんがほしいかな。いっつもだらしなく過ごしてしまうから」

「……わかりました」


   *


 次の日。


「菊花お姉ちゃん、起きてほしいのです」

「うん……あれ?」

 朝日がまぶしい。昨日はシャワーを浴びて、面倒だからセーラー服を着て出てきて、歯を磨いて……どうしたんだっけ?

 ああそうだ、工廠で作業をしてから、水上艇の設計図をつくる途中で根落ちしてしまった。

 いつもは頬にコードが当たって痛いはずなのだけれど、今日はふかふかしている。

 目をこすると、セーラー服姿の初花の笑顔が間近にあった。……なんでさ?

「おはようなのです、菊花お姉ちゃん!」

「うん、おはよう?」

 僕はぱちくりとまばたきをする。

「まあいいや……いま、何時だろう」

「朝の6時ですよ。もうちょっと寝ますか?」

「いや、起きるよ」


 見渡すと、見慣れたコード類はどこにもなく、初花の部屋にいた。

 僕は初花のお布団で寝ていたみたい。

 初花は手早く布団一式を持ってベランダに干した。

「今日はいつもより寒いと思って、昨日のうちに編んでおいたのです。どう、ですか?」

 赤い手編みのマフラーを首にくるりと巻かれた。

「うん。とってもあったかいよ、ありがとう?」

「喜んでもらえて安心したのです。頑張ったかいがありました」

 初花が櫛で僕の髪をすいてくる。……うーん?

「お昼にお弁当を作ったのです。お姉ちゃんの大好きなハンバーグも入っているのですよ」

「本当かい? ありがとう!」

 お礼を言うと、初花はうっとりしているみたいだね。どうしたのかな?

 歯を磨いて顔を洗ってから戻ると、初花が黄色い布に包まれたお弁当箱を大事そうに抱えていた。

 お弁当箱には、鮭とごまがマーブル状になったおにぎりが乗っている。

「朝ごはんに鮭のおにぎりを握ったのです。夕飯のリクエストがあったら教えてほしいのです」

 初花は小首を傾げてきた。……なんだろう。これはこれでいいかもしれない。

「うん。いただくよ」

 差し出されたおにぎりを頬張ると、口の中に程よい塩気と鮭の味わいが広がった。

 おにぎりを食べ終えると、かばんを手渡される。

「お弁当は中に入れておいたから、あんまり振り回したらだめなのですよ?」

「気をつけるよ」



 初花の部屋に敷かれた畳の上で大の字になってのんびりしてから、部屋の外に出た。

 僕達はお父さんとお母さんに挨拶をして、工廠に向かった。

「昨日のうちに、ジェットこたつを2人乗りに改造してみたよ」

「はにゃ!?」

 こっそり逃げようとする初花の手をがっちりとつかまえる。

 足留めを2つに増やして、ホバーの最大出力を少し高く調整したんだ。……ちょっと無茶な改造だったかな?

 ついでにハロウィン仕様にして、紫の布にしてみたよ。季節限定カラーってやつだね。

 無免許運転? 何をいっているんだい? 僕達は宙に浮いているだけだよ? というかぶっちゃけロマンのための、いつものステルス機能はちゃんとついている。けど、あんまり高いところを飛ぶとスカートの中が覗かれ放題だから気をつけようね。

 初花をジェットこたつの後部座席……というより後部留め具に靴を固定して、シートベルトをつけた。

 僕は颯爽とこたつの前部分……操縦席に乗り、しっかりと準備を終える。

「えっ。あのっ」

「荷物はこたつの机部分を開いたところに入れてあるよ。蕎麦屋さんのかごみたいに中で引っ繰り返らないような調整をしてあるから、お弁当の心配はいらないから、安心してね」

 ちょっと早いけど、まあいっか。

 がっつり右足のアクセルを踏んで、青空の下を駆けた。

「はにゃあああああ!」

 初花もいるし、危ないから時速20kmくらいにしておくけれど、普通に60kmくらいなら出せるよ。


   *


「胃酸がこみあげてくるのです」

「ごめんよ」

 初花は部室でのびている。

「……お姉ちゃんのお世話は大変なのです」(了)

「かぼちゃは天ぷらにするとおいしいと思うんだ。栄養たっぷりだね」

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