夢のその先
目が覚めると、知らない天井が見えた。
病院でもなさそうな木製の天井だ。
しかも昨日は自室で横になった記憶もある。
という事はこれは夢の中か?
知らない場所に行く夢とか、昔の友達に会う夢とか見るし別に驚く事ではない。
夢と分かったからにはどうしても試したい事がある。
ほっぺを抓ってみようか。
なぜか夢を見ている間は、それが夢だと気付く事が難しい。
だから、ほっぺを抓る事はなかなかできない。
だが、今は違う。
ベタだが、やらずにはいられない。
ほっぺたを抓る為、手を頬まで持ってこようとした時異変に気が付いた。
手がめちゃくちゃ小さくなっている。
と言うか、赤ちゃんの手じゃないか!
夢の中で赤ん坊になるのは初体験だ。
良い体験なのだろうが、首が動かせない。
「うあーうー。」(おーい)
歯が無い上に舌も思い通り動かないせいで、言葉が話せない。
無駄にリアルだな。
「あ、この子、起きたみたいですよ。」
「そうですか、私が面倒を見ますので貴女は他の子をお願いします。」
頭の上から二人の若そうな女性の声が聞こえる。
ベビーシッターなのだろうか。
そんな事を考えていると、大きな影が近づいてきて身体を抱き上げられる。
目の前に大きく柔らかそうなおっぱいが現れた。
「さぁご飯の時間ですよー。」
まさか母乳!
おっぱいなのか!?
ガサゴゾと服をいじっている音が聞こえ、より一層期待が高まる。
なんといい夢なんだ。
最高じゃないか。
目をつぶり、至福の時を待つ。
すると左頬を指でつままれる。
どうやら準備ができたみたいだ。
こんな所で夢よ覚めてくれないでくれ、と祈りながら目を開けようとした時だった。
頬を挟んでいた指が挟んだ肉を、思いっきり引っ張り始めたのだ。
激痛とまでは言わないが、鈍い痛みが頬を襲う。
「柔らかくてぷにぷにですー。あぁーなんて可愛いんでしょう。」
柔らかいのはあんたの胸元にも付いてるでしょうに。
と言うか、痛い?
何で痛いんだ?
夢なんだよなこれ?
哺乳瓶を咥えさせられながら、不安に駆られる。
もしかして僕、転生したのか?
異世界に?
しかも赤ん坊スタートなの!?
…5年後。
初めの内は僕も期待していた。
いつか夢は覚めると。
しかし、覚めなかった。
と言うかこれは夢じゃない。
夢にしては凝りすぎているでは無いか。
時間もきっちり進むし、急に話が飛んだりもしない。
この5年は非常に長かった。
赤ん坊だから退屈だし、すぐ寝かされるし。
それはそうと、今僕は孤児院に居る。
どうやら、孤児院の前に置手紙と共に置かれていたみたいで、あのおっぱいの人はここの修道院で働いているエルフだ。
今でも僕のことを色々と気遣ってくれている。
普通に言ったがここにはエルフが存在し、無論他の亜人種も存在しているみたいだ。
まぁ、異世界なら当たり前だろう。
もう諦めが付いたので、こちらで楽しく過ごすのも悪くは無いと思っている。
面白そうなことも多そうだし。
だが一つ、大きな問題があるのだ。
「ベラちゃーん、ごはんですよ。」
僕、女の子になっちゃってました。
元々、よく女に間違われていたがこれはひどすぎないか?
神様、何であんたが間違えてるんだよぅ。
テーブルに着き、皆で手を合わせ食事を摂る。
「そう言えばベラちゃんは、どこの学校に行くの?」
隣の席の女の子、エリカがスプーンを止め話しかけてきた。
世界にもどうやら学校がある。
現在の悩みの一つだ。
どこに行くかと言っても、孤児院は多くの児童を養っている為、選択は限られている。
多くの子供は、教科書代とか食費だけしかからない学校に入るのだろう。
それでも、孤児院にかかる金銭的圧力は大きい。
孤児院の生計は主に募金が主となっていて、国からの支援は無いのだ。
教科書代と食費だけとはいえ、20人近くもの子供がいるんだその金額は予想もできない。
だから、僕はこの世界の学校の一つのシステムを利用しようかと思っている。
簡単に言えば賢い奴は優遇され、国家から学校にかかる経費等が全て免除され、最高の学びの場所を与えられるらしい。
これなら、孤児院に迷惑をかけずに済むだけではなく、もしかすると援助金を出してくれるかもしれない。
問題点はどの程度、難しいかだが。
「大丈夫!?」
いつの間にか、考え込んでしまっていたようだ。
エリカが、無言になった僕を心配し声をかけてきた。
「大丈夫、大丈夫。ごめんちょっと考え事しちゃってて。」
「そうだったんだ。でも、ベラちゃんは頭が良いから大丈夫だよね。」
「こらそこ、食事中に私語は禁止よ。後でお話しなさい。」
喋っていたら、怒られてしまった。
食事中、私語禁止って結構きつくないか?
まぁ、食べている途中に話すのは行儀が良いとはいえないけど。
食事も終わり、勉強部屋へと向かう。
とにかく言葉とか文字とか基本的なことは教えてもらったのだが、その先は結局自分でやるしかない。
孤児院にある本は少ないが、とりあえずそれらを全て読んでいこう。
本棚から途中まで読んでいた本を探し、読み進めていく。
「ベラちゃん、何してるの?」
読み始めてすぐに声をかけられた。
聞き慣れた声だ。
綺麗な金髪に緑色の目、目鼻立ちは整っていて尖った耳が目立っている。
彼女はフィリス、僕を初めに抱きあげてくれたおっぱいの人だ。
「お勉強です。お国からの支援をもらう為に頑張らないと。」
「まぁ!頼もしい事。貴女は他の子より少し頭が良いようですね。ですからここの事を気にしているのでしょう。」
元々23歳だったので、5歳児より少し頭が良いと言われるのは少し複雑な気分だ。
頭が良すぎると、気持ち悪がられたり嫌われそうなので普段は隠しているのだが。
「でもどうすればいいのか分からなくって。」
「あれは、勉強すれば良いと言うものではないのですよ。実は知能指数を計測する方法がありまして、一定以上の数値が無ければ許可されないのです。」
「そうなんですか。でもどうやって知能指数なんて計るんですか?」
僕の質問に、フィリスは心底驚いたような顔をした。
「え?今の説明で分かったの?」
「え?はい。」
何を言ってるんだ?
自分から説明しておいて。
「知能指数とか、計測とか、結構難しい言葉を使ったのに、理解できたの?」
あ。
つい普通に答えてしまった。
「は、はい。本で勉強しましたので。」
「でもそこの本にはそんなに難しい言葉は使われていないでしょ?」
確かにここにある本は、童話などが多く勉強には役に立たないだろう。
一般常識の勉強のつもりで読んでいただけに過ぎない。
「えーっと、そのー…。皆さんのお話を聞いて勉強したんです。」
「それにしても…。んー、ちょっと待っていてください。計測しましょう貴女の知能指数を。」
少し興奮気味になったフィリスは、普段ならいつも落ち着いているのに早歩きで部屋を出て、大きな声で孤児院の職員を集め始めた。
数分で全員が集まり、まるで見世物のように大勢に囲まれ、部屋の真ん中の椅子にちょこんと座らされる。
「1万分の1くらいの確立で、彼女は規定値を上回っているかもしれません。もし上回っていればこの孤児院から初めて、王国立第一王都学園進学者になります。」
フィリスに宝石の付いたバンダナを巻かれ、宝石とおでこの間に布をはさまれる。
彼女の鼻息が荒くなっているのが感じられた。
そしてなぜだか、めちゃくちゃ緊張する。
「この宝石は装備者の知能に応じて光ります。今から電気を消し布を取ります。光が顔全体が見えるまで明るくなれば、貴女は王都にある最上級の学園に進学できるでしょう。それも無償で!」
「声が大きいよ。」
何でこんなに興奮してるんだ?
部屋の電気が消され、フィリスが布に手をかける。
緊張の一瞬だ。
「いきます。」
フィリスは勢い良く布を引き上げた。
お陰で布が摩れ、おでこに火が付いたような感覚を味わう事になった。
「いだっ。もうちょっと優しく引いてください!」
彼女のほうを向くと、驚く顔が見えた。
咄嗟に自分の身体に目をやると、足の先まで綺麗に見えており、周りの人たちの顔までしっかり見えている。
<<うぁぁぁぁぁぁぁぁ。
その瞬間、孤児院から職員たちの歓声が漏れ出していた事は、言うまでもないだろう。
お読みいただきありがとうございます。
いきなり5年もの歳月が流れているが、この主人公は大丈夫なのか思った方、次はもっと年月が流れますのでご心配なくw
次回はいつごろ更新になるか分かりませんが、トップページに更新が決まり次第日程を記入しますのでよろしければブックマークお願いします。
つたない文章ですが、よろしくお願いいたします。