元勇者との冒険・3
<五> 元勇者との冒険・3
「いえああああぁっ!!!!」
気合と共に剣を振るうマグナス、その剣筋は恐ろしいほど鋭く、充分に距離を取ったのに見ているだけで背筋に寒気が走るほど。
だがドラゴンに傷をつけることは叶わず、その表皮で弾かれる。
ドラゴンの爪、牙と尻尾の攻撃を受け、躱して剣を叩き込む。
そういう剣の型なのか全身で押し込むようなかち上げが多い。
「たかがっ、トカゲがっ、調子ん乗んじゃねぇぇぇっっ!!!!」
一際大きく叫んで剣を振るうマグナス、全身に響く打撃音と巻き起こる砂煙に視界を奪われるが目を凝らすと剣を振り切った姿で留まるマグナスと倒れこみつつあるドラゴン。
勝負はついたのかと思い俺はマグナスに歩み寄る。当人も安心したのかこちらに向かって振り返ろうとしたところ、笑顔のマグナスの姿が消えた。
「は?あ?え?」
馬鹿みたいな声しか上げられない俺の目の前砂煙が落ち着いた後には完全に倒れこんだドラゴンとその尻尾があった。
よもやと思い尻尾の先に目を向けるとマグナスが倒れていた。最後っ屁に尻尾の一撃を食らったのか。
倒れたまま動かないマグナスに駆け寄る。頭を打ったなら動かしちゃいけないんだったか。
「マグナス、生きてるか?大丈夫か?」
反応はない、まさか…
手首を取り確かめると脈はあったので死んではいないと安心したが本人が意識を取り戻すまでどうしたものかと思案していると。
「あぁぁぁぁいってぇぇぇぇぇぇっ!!!!」
なんか目を覚ました。元気じゃん。
「無事…じゃなさそうだけど動ける?」
「いってぇ、動けねぇ、あちこち骨がやられてる」
ちょっと待ってろ、と言い何やらむにゃむにゃと唱えだす。悪い所でも打ったのかと心配しているとマグナスの体がぼうっと光り出す。
あぁ、多分ヒールとか回復魔法かな。
「ああ~いってぇ~」
いてぇいてぇと言いながら上半身を起こすマグナス。
「最後いいの貰ったな」
「いや、最後じゃねぇよ?」
「は?」
「多分、気絶しているだけだな。手を貸してくれ、今のうちに隠れよう」
言葉に従いマグナスに肩を貸しながら少し離れた建物に隠れた。
椅子もベッドもついでに言うとドアもない部屋の暗がりにマグナスを座らせてドラゴンの様子を壁際から見る。
ピクリとも動いていないようだがよく見ると呼吸のためか倒れ伏した肩が上下に動いている。どうしたものか。
「確かにまだ殺せちゃいないようだな。どうするよ」
「どうって言ってもぶっ殺さなきゃどうしようもねぇだろうよ」
「どうやってだよ、さっき以上の必殺技でもあんのかよ?転移で逃げられたりできないか?」
「転移クリスタルなぁ…あれ1度発動させると暫く使えねぇんだわ」
何度か試したところ最短で半日、最長で1週間使えなくなるとか。
「手負いのドラゴンとかどうするんだよ、おっさんも手負いだし」
「手負いとか嫌な言い方しやがる」
「だって満身創痍だろうよ、動けねぇんだろ」
「馬鹿おめぇ、こんなん回復魔法でパッと…とはいかねぇか」
マグナスの回復魔法は効率が低くて継続してかけ続けなければいけないそうだ、
「なんか弱点とかねぇのかよ。火に弱い光に弱いとか」
「ないこともない、腹の方が柔らかいんだ。ひっくり返しちまえばお前でもいけるさ」
だからかち上げが多かったのか?っていうかいけるってなんだ。
「…いくつもりはないよ?何言ってんの?」
「よく考えてみろよ、俺が死んだらお前はどうやってこの先に進む?戻ってもいいが」
行くも帰るも一人じゃ無理ゲーか。
「ということでだ…優人、10分…5分、いや3分でいい。ちょっと時間稼ぎしてくれ」
遠くで地を揺らすような咆哮が走った。マジか。
「よく聞け、アレの攻撃は早いが足は遅い、十分な距離を取れば逃げ切れる」
あぁマジか。