元勇者との冒険・2
<四>
見渡せば広がる石造りの街並みと
本来なら人の往来があったであろう大通りは砂利まじりの土を踏み固めただけで馬車の轍が重なる。
家屋は平屋か2階建てがせいぜいの所、遠くに3階建ての建物が見えるがあれは街の中心部なのか。
「おお、ファンタジー…だ?」
「なんで疑問形なんだよ」
「いや、よく考えてみるとさ。これくらいならエジプト辺りの遺跡とか言われても変わらんかなぁって…」
一瞬あっけに取られたマグナスだが周りを見渡して
「まぁ、ここら辺はそうかもなぁ…」
「なんかこう…ゴブリンが出たりオークが襲ってくるとかさぁ…ダンジョンなんだからそういうのねぇの?」
せっかく持たされた槍もこれでは意味がないなぁ。
「ん~…あっちへはさっきの転移クリスタルがあるから出てこねぇんだが、こっちは普通にダンジョン内の道に通じているから全くいないはずはないんだがなぁ」
「待て待て、それじゃ運が悪けりゃモンスターハウスだったんじゃねぇか」
「モンスターハウスってのが何かしらんが、100や200の雑魚なら問題ねぇよ」
なんとも頼もしい、が。
「それって俺も込みで言ってる?」
「…50や100の雑魚なら問題ねぇよ」
減ってるー!!
「…いいけどさ、それでここは見た感じモンスターはいないようだけど大丈夫なんか?」
「あー、大丈夫なんじゃねぇの?」
なんとも頼りない。
「っつーかなぁ、ちっと居なさすぎだなぁ」
「居なさすぎってのは…なんか危ないのがいるってこと?」
「あったりー」
あったりーじゃねぇよ。
どうしよう、このおじいちゃん使えない。
「危ないのねぇ…」
おっかなびっくり近くの建物を覗いてみようとすると急に屋内に突き飛ばされた。
「マグナ…!!」
文句を言おうと振り返るとマグナスが転がり込んでくる姿が見えたのと同時に
建物の外から爆発するような轟音が響いた。
「マグナス、なんだありゃ」
石造りの家屋のさして大きくない窓から外を見ると2tトラックほどもある大きな塊が鎮座ましていた。
ダンジョン内で崩落でも起きたのかと見に行こうとしたがマグナスに止められる。
「出るな優人、ありゃ不味い」
何事かと落ちてきた塊を見ているとゆっくりとほぐれていく、手足を伸ばし尾を石床に打ち付けるその姿は巨大な蜥蜴。
「でかい蜥蜴だな、あれもモンスターか」
「蜥蜴なんて可愛いもんじゃねぇよ、ありゃドラゴンだ」
ドラゴン…ゲームや物語でよく知ったはずのそれがすぐそば壁を隔てたほんの数メートルの距離にいる。
大変ファンタジーな状況だがドラゴンが初モンスターというのは正しいのだろうか…考え込む俺にマグナスが告げる。
「優人、いいニュースと悪いニュースがある」
「多分だが、ドラゴンとしては最弱、モンスターとしては最強クラスってとこか」
「察しがいいのは悪いことじゃねぇな。んじゃ打開策ってやつはねぇか」
「逃げよう、少なくとも距離を取ろう」
「判断もいい、さてそれじゃあ逃げ場所はあるか?」
室内をぐるりと見渡すと入り口と反対側の壁に次の部屋に続く戸口がある。
「マグナス、後ろにドア」
ちらりとそちらを確認するマグナス。ふぅと一息ついてこちらに告げる。
「よし、じゃあ1、2、3だ」
「おけ、わかった」
「…1、2ぃの3!!」
合図と共に次の部屋に駆け込もうと踵を返す俺とは逆にドラゴンに向かっていくマグナス。
「マグナス!!」
「優人、お前は隠れとけ!!こいつぁ俺が仕留める!!」
そうしてドラゴンと勇者の戦いが始まった。