元勇者との出会い・1
<一> 勇者を名乗るおっさんとの出会い
「で何、おっさんは勇者だってぇの?」
「おうよ、今じゃあ建築現場の日雇い作業員だがな」
おっさんは安い酒を飲み干しながら答える。
別に異世界の居酒屋の話じゃない
ここは新宿の飲み屋街、常連にしている店にふらりと現れたおっさんとの会話、
確かゲームか何かの話をしていたのだがよく覚えていない。どうせ飲み屋の馬鹿話だ。
彫りも深くてちょっと旧三部作のオビ・ワンっぽいおっさんだが
着ているのは作業着で所々穴が開いているボロいものだ。
「勇者ってあれだろ?魔王を倒して国を救ったりってやつ」
「そうそう、魔物殺して魔王殺してなぁ」
ちょっと切ない顔をするおっさん、本当か嘘かは知らないが色々あったらしい。
多分元ヤの字の職業の人とかなんだろうなぁ。
「そういう生活が嫌になってこっちに来たってわけ?」
問いかける俺に頭を振って否定する。
「いやぁそうじゃねぇ、向こうで新しくできたダンジョンの探索依頼があったんだ」
それからおっさんの話は長かった
「俺はよ、孤児でよ。拾ってくれたのが退役した騎士様でよ」
子供時代の親代わりの師匠との修行、成人してからの従軍と勇者と言われるようになった話、
魔王軍や魔王との戦闘、魔王を倒し終えた後も続く魔物との争い。
「魔王なんて一体限りじゃねぇし、下手すりゃ魔王より強い魔物なんてのもいるしな」
そうして依頼を重ねるうちに20年前に問題のダンジョンに行き会ったという。
俺はおっさんに新しい酒を進めながら聞く
「ダンジョン探索して出口がこの世界だったんだ、じゃあ今入り口は?俺でも使えたりできる?」
「興味あるのか、なんなら連れてってやんぞ」
聞いてはみたがおっさんの事を信用しきるには至らない。
場所柄もありモンスター蔓延るダンジョンなんて組事務所としか思えない。
「お願いしたいけど仁義なき戦いだったら嫌だしなぁ…」
煙草を咥えながら答える俺に
「なんだいそりゃあ…」と俺に火を勧めるおっさん。
その火はおっさんの掌数センチ上を漂っている。
手品の類かと思ったがよくあるガス火ではなくまるでこれは…
「これは…火の魔法か?マジか…」
天井に煙を吐き出しつぶやく
魔法で煙草に火をつけるなんて心が躍る
そんな俺にニヤリといい顔で俺に問うおっさん。
「納得できたか?どうするよ?」
「納得はした、でもいいのか?そんな凄いことをなんというか…俺に話して」
こちとら只のオタクだ。元勇者とダンジョンに潜っても足手まといにしかならないことは理解できる。
「んん?…そうだな、なんで話しちまったんかなぁ…」
あぁ、とそうかと言って俺に答えた。
「嬉しかったんだなぁ、こっち来て勇者だなんて話に本気の本気で聞いてくれたことがよぉ」
20年も前にこちらの世界に来てから何度か出自を語ったことはあるが
どこでもヨタ扱いされてそのうち話すこともなくなったそうだ。
「いや、俺だって半信半疑だぜ?」
「それでも半分は本気で信じたろ?俺の話を聞いてた兄ちゃんの顔、良かったぜ」
子供っぽいと言われている様で恥ずかしい気もするが
それでもおっさんの冒険譚にワクワクしたのはちょっと誤魔化せない。
「仕方ねぇか、ワクワクしちゃったもんな。それで行くとして準備はどうすればいい?」
思い付きで書いてみました。
書き溜めも着地点もないので
期待しないでください。






