私とエルフの異世界フィッシング
「漁師さん漁師さん!!今日はどんな釣りをするんですか!!」
私は本来漁師ではない。
しかしこのエルフの少女が私のことを漁師と呼ぶことに関しては間違いとも言えない。
私は今の生活が始まるまでは休日に魚釣りを嗜む普通の会社員だった。
その日は人に誘われて珍しく船に乗って沖での釣り。
私は初めての船で酔ってしまい、船内で休憩させてもらっていた。
酔いも次第に治り、釣りを再開しようと外に出てみるがどうもおかしい。
静かすぎる。
見渡すと一緒に乗っていた釣り人も、この船の持ち主である船長の姿もない。
これがサメ映画なら次に狙われるのは私だろうが、血の跡や海に落ちた形跡もないのだ。
酔ってる間に随分と遠くまで来たのか携帯電話も圏外。
陸地は見えるけど電波も届かないほどの田舎なのかもしれない。
錨が上がっているせいか船は波に乗って少しずつ陸地へ向かっている。
私は船を操舵できないが、このまま漂流することもなさそうだと胸を撫で下ろす。
陸地に着いたら錨を下ろして助けを呼ぶことにしよう。
無事に接岸し、久々の地面にちょっとした感動を覚えた。
さて、人を探さねばと目線を上げると目的であった人間がそこに立っているではないか。
初の船釣りで海難事故とは実に不運でだったが日頃の行いが良かったのだろう。
トントン拍子で助かりそうだ。
私の目の前に現れた少女に近くに交番でもないか尋ねようとしたが、どうも妙である。
日本の近海で釣りをしていたはずだが目の前の人物は金髪碧眼の美少女。
しかも耳も私のと比べて尖っている気もする。
外国人と接したことが少ないため人種はわからないが、少なくとも日本人でないことは分かる。
参った。
どうやらいつの間にやらアジアですらない地域へ流れていたらしい。
日本から近く、いかにもな外国人がいそうな国はロシアだろうか。
英語ですら怪しいのにロシア語なんて論外である。
「お姉さん人間?」
私が思考を張り巡らせていると少女の方から口を開いた。
どうやらここは日本のようだ。
失念していたが日本にだって外国人は沢山いる。
これで無事に帰れそうだ。
ん?
お姉さん人間?
私は船内に戻り、鏡で自分の顔を確認する。
目の前には確かにお姉さんがいる。
私は二十数年間、自分のことをお兄さんと思っていたがどうやらお姉さんだったようだ。
本来なら船が飛び上がるほどの絶叫がスタンダードな反応であろうが、アクシデントの連続でリアクションをするだけの余力はもうなかった。
船外へ出て、もう一度少女を観察する。
金髪や碧眼は珍しくもないのだろうが、この尖った耳はやはりおかしい。
私はあまりこういったものには詳しくはないが、以前テレビで放送していた映画にこんな見た目のキャラクターがいた気がする。
「お姉さん人間だよね?エルフには見えないし……」
そう!エルフ!!エルフだ!!
モヤっとしたものが取れた気がしてスッキリ爽快。
そのまま私は気絶した。
……これが大体一ヶ月前の出来事だ。
気絶した私はエルフの少女のおかげで村まで運ばれ看病された。
目覚めた後、大人のエルフ達から話を聞いたがこの近くに人間は住んでいないらしく、連絡の手段もないようだ。
数日間は世話になったがいつまでも甘えるわけにはいかない。
まずは助けを待ちつつ今日を、明日を生きねばならない。
幸い釣り船には住むだけのスペースもあるし、食事も船内の釣り具を使えば魚が食える。
衣類は釣り船にあったクーラーボックスを開けたエルフ達が中の魚と交換してくれた。
他にもパンを沢山もらったので当分は飢えることもないだろう。
この一ヶ月、私は魚を釣ってエルフの村でパンや豆などと交換して生活をしてきた。
村人達からは漁師と呼ばれ親しまれている。
エルフも魚を食べるらしいが、単純な竿に虫や毛針を付けて小魚を釣る程度で私が持ってくるような大きな魚は貴重らしい。
おかげさまで知らない土地だがなんとか生活ができている。
そして今日も助けてくれたエルフの少女がやってきた。
この生活を始めて以来、少女は家の手伝いを済ませると私のところへやってくる。
「今日はこれを使って大きな魚を狙うよ。メタルジグっていうの」
「わーキレイ!!キラキラしたお魚さん!!でも見た目の割に重いのね」
「そう、この疑似餌は重さが大事なんだ。重ければ重いほど遠くに飛んでいくの。そして遠くに飛べば飛ぶほど大きな魚が釣れやすくなるんだよ」
少女に紹介した釣り具はメダルジグ。
魚の形をした鉛にラメなど煌びやかな色付けが施された疑似餌だ。
そして使用する竿はエルフ達のものと比べて立派なものだ。
百グラムのルアーを百メートル以上ラクラク遠投できる。
こうすることによってエルフ達が普段目にすることのできない大物を釣ることができるのだ。
「私の竿だと大きすぎるからキミはこっちを使いな。いつものようにビューんと投げたら疑似餌を底まで沈めて……そうそう。そしたら竿を下から上に持ち上げるようにシャクって、ハンドルを回して糸のたるみを取る。それを2~3回繰り返したらまた底まで疑似餌を沈める。そしてまたシャクる。それを繰り返していると……ほらキタ!!」
「きゃー!!グングン引っ張られる!!すっごく大きいかも!!」
元の生活に戻ったら会社を辞めて釣り教室でも開いてみようか、と思うくらい私の教えは完璧だとここに住み着いて思ってしまう毎日だ。
そもそも一ヶ月も無断欠勤してる時点で会社はクビだろう。
新たな職としてはアリかもしれない。
なんて考えているうちに魚が随分近くまで寄せられていた。
さすがは我が弟子、もう放ったらかしてても良いくらいの腕前だ。
引っ張り上げると五十センチはあった。
この辺りの海には私の釣ったことの無い魚ばかりのようで、種類は分からないが鋭利な歯からサワラやカマスのようにも見える。
「へへーん。この調子だと私がこの村の漁師になっちゃうよー!!」
師匠を煽るとは良い度胸だ。
一通り教えたし、次は私の番だ。
少女の竿と比べたら一回りは大きい竿を使い大遠投。
その後は少女に教えた同じやり方だ。
しかしここの海は沖へ行くほど急に深くなっている。
大きな魚は深いところを泳いでいる場合が多いんだ……よっと!!
「漁師さんすごーい!!竿が弓みたいになってる!!」
少女の言う通りこれはかなりの大物だ。
真っ直ぐだった竿は射る寸前の弓のように弧を描いている。
魚と格闘すること半刻……その魚はやっと姿を現した。
日本でいうクエとかハタのようなルックスのちょっとグロテスクな魚だ。
いつの間にか姿を消していた少女がエルフの大人達を連れて戻ってきた。
一人ではあげられそうになかったので心からグッジョブと言いたい。
数人がかりで村へ運ばれた大物を囲み、その日は村中のエルフ達が集まって宴を開いた。
大いに食って、飲んで。
翌朝、目が醒めると新たな釣りが始まるのであった。
オリジナルの小説を書いてみたいなと思い、プロットも用意せず頭の中にあるものをツラツラと書いた短編小説です。
書いている最中に「あれ?エルフって魚とか食べるんだっけ?」と悩みましたが、人間だって色んな食性があるんですしまぁいいかと書ききりました。
「エルフは菜食主義じゃないとダメだ!!」という方には申し訳ありませんが私の作品ではそういうものだと思っていただければ。
導入部分が長く、肝心の魚釣りパートが短かった気もするのでもし次を書くことがあれば善処致します。
ちなみにジャンルの選択は異世界ものが流行ってるなら一度は書いておこうと思ったからです。
この度は読んで下さりありがとうございました。