‐第8話‐ 覚醒
やや今回長めです。
「シェシェシェシェーーッ!!!」
鋭い金切り声を上げると、ゴアは僕めがけて一直線で突進してきた。
「うわぁっ!!」
寸前の所でかわしたが、体勢を崩し地面に手をついてしまった。その様子を見てマンティスはニヤニヤと笑っている。
「おやおや、ずいぶん生きのいい天族ですねぇ…。」
天族の僕を狙っている…。こいつらは悪魔教か!?先ほど見た漆黒のコートとはデザインが違うが、間違いないだろう。僕は立ち上がり、壁に飾ってあったロングソードを手に取った。
あいにく、剣の修行はダグラスおじさんから習い受けている。身を守る程度だが今は大きな武器となった。
「そっちがその気なら、こちらも容赦はしない。」
「ほう…。この年にして剣の構えを知っているのですね。よくできた坊やだ。ゴア、少し遊んでやりなさい。」
ゴアは小さくうなずくと、こちらに長く伸ばした鋭い腕を振ってきた。だが、この程度なら僕でも見切れる。とっさに剣を振るいゴアの右手を弾き返した。奴はバランスを崩しよろけている。チャンスだ!
「もらった!!!」
奴の首を狙い勢いよく振りかざす。…が、何かが僕の剣の行き先を拒んだ。そう、奴の顎が鋭い刀のように僕のロングソードを弾き返し、僕の腕からするりと抜け落ちた。
「そんな…。嘘だろ!」
「おや、部分硬化の術をご存じない? 選ばれし闇の眷属には部分硬化の術が与えられるのです。体のどの部位でも硬化して武器にすることができるのですよ。キシシシシ…。さぁゴア、遊びは終わりです。フィナーレにしますよ。」
「シェシェ…。」
ゴアは得意の腕を鋭く硬化し、僕の心臓めがけて振りかざした。赤い鮮血が僕の全身を包み、生暖かくて血なまぐさい液体が降り注いだ。だが、自然と痛みは感じない。アドレナリンの効果か?
恐る恐る目を開けると、そこには母が僕を抱くようにかばい、ゴアの攻撃を防いでいた。
「母さん!!!そんな!!!」
「ツ…バサ…。ユメを…連れ…て、逃げ…な…さい。」
とぎれとぎれの声で僕に伝言を残すと、母は力尽きた。そんな…、嫌だよ。せっかく会えたのに。…僕を置いてかないでよ。
「母さん!!しっかりして!!!母さん!!!!」
むなしくも返事はなかった。苦しそうな表情を浮かべ、目はあさっての方向を向いたままだった。
「邪魔が入りましたか。…まぁいいでしょう。一人殺す手間が省けただけです。ゴア、後ろで隠れている女も同時に殺しなさい。」
僕は…なにも守れないのか。このままユメもまた殺されてしまうのか。嫌だ、そんなの嫌だ。誰か…誰か助けて…。
僕の思いを聞いていたようにまた、どこからともなく声が聞こえた。
―――――――――力が、欲しいか。
この声が誰なのか、もはや疑問に思う余裕はなかった。僕はこの声に必死に願った。
ああ、力が、力が欲しい。どんなに自分を犠牲にしても構わない。皆を、皆を守れる力が欲しい!!
―――――――――それが、お前の望みか。ならば、その運命に抗って見せよ。
突如、背中に激痛が走った。まるで背中から翼が生えてくるみたいに、内側から何かが押し寄せてくる!
背中に、翼…?まさかこれが、天族の力なのか!?
血だまりに映る僕の姿はまるで天使のように大翼が生えていた。それはあまりにも神々しく、自分には想像できないような姿だった。だが、この姿前に見たことがあるような…。
あぁ、すべて思い出した。思い出したよ!なんでこんなに重要なことを忘れていたんだろう。僕はあの時、どんな代償を担ごうと、ユメを守るって決めたじゃないか!
そうか…、この過去の夢はこの事を思い出すためだったんだな。
「ヒィ!!姿が豹変したァ!?」
マンティスは驚きのあまり、尻もちをついている。先ほどまで威張っていたのに、滑稽な姿だ。ゴアは警戒しているのか、気が付けば後ろのほうに避難していた。後ろにいた悪魔教徒はどうやら逃げ出したようだな。
「さぁ、父と母の仇を討たせてもらおうか!!」
「ヒィィ!!お許しをッ!!!」
許してやるもんか、絶対に生きては返さないぞ。マンティス!!!僕は地面に刺さっていたロングソードを抜くとマンティスめがけて振りかざした。
「これは父さんの分!!!!」
奴に袈裟切りを食らわし、僕はとどめの追撃をした。
「そしてこれは、母さんの分だぁぁぁ!!!!」
マンティスに左薙ぎを食らわすとその体はバラバラになり、そして燃え尽きた炭のように白い灰となって消えていった。
「ガアァァァアッ!!覚えてなさい!死して尚、魂はあるのですッ!!!」
「魂になっても、また切り刻んでやるよ。覚悟しておけ!」
残る敵は、ゴア。一人だけだ。
「さぁどうする、ゴア。あとはお前ひとりだけだ。」
「キキキ…。」
不気味な笑い声を残すとゴアは消滅して、その場には塵だけが残った。
「しまった、逃がしたか。そうだ!ユメ、大丈夫か!」
名前を呼ぶとゆっくりとタンスからユメが出てきた。
「私は平気よ。そんなことよりその羽…大丈夫なの?」
「あぁ、心配ない。もう何も心配いらないよ。ユメ。そうだ、もう一度忘れないように今ここで誓わせてくれ。いいかな?」
僕が問いかけるとゆっくりとユメはうなずき真剣にこちらを見つめていた。
…もう、これから先何があっても忘れないためにも、改めてここに誓おう。
「ユメ、これから先、何があっても君を守るよ。たとえ僕の命に代えたとしてもね。」
「えぇっ!そんな悲しいこと言わないでよ!わ、私もツバサを守りたいよ…。じゃあ、私もツバサを守る!これでいいでしょ!」
「うーん…。なんか思ってたのと違うけど…。まぁいいか。」
そうだ、僕はユメを守らなきゃ。もう過去に用はない。今こそ現代に戻ってユメを助けなきゃ!
最後に、父さんと母さんに最後の別れを交わすと玄関のドアを開けた。そこにはあの忌々しいサタンがずっしりと構えていた。
待ってろ、ユメ。今助けるからな!!