-第7話- 昔々のその昔
あまりの出来事に手が震えていた。なぜ僕とユメが今ここにいるのか、「親」と呼ばれる人たちは本当に僕の母親なのか、何もかもがわからなかった。いや、待てよ。僕がここにいる意味が何かあるはずだ。
仮に今現在を過去としよう。僕がこの「過去」に遡った原因、それは何か過去からのメッセージがあるということだ。僕はあの人達に「天族」と呼ばれていた。きっとこれは誰かがヒントをくれているのだ。
あぁ、探してやるとも。せっかくのチャンスだ。
固く決意した僕の気持ちとは真逆に母が心配そうに尋ねてきた。
「あら…ツバサ、大丈夫?」
「あ、あぁ大丈夫だよ母さん。ごめんごめん!それよりご飯食べよう!」
そう…?、と心配そうな母を横目にこの世界に何があるのかじっくりと観測することにした。まず僕たちが住んでいた世界とは違うもの・・・。それは、周りの風景だ。
レンガ調の壁から覗く小さな窓の先には今までには見たことのない大都会の風景が広がっている。八百屋やギルド、駅や交番。僕たちが過ごした大自然のアグシュヴァルトの森とは大違いだ。では昔は都会に住んでいたということなの・・・?そしてなぜここからあの森へ僕たちは捨てられたんだ?
思考を巡らせているその時だった。ピンポーン、とチャイムの音が鳴った。
「あら、こんな時間に…誰かしら?」
「郵便かな?俺が出るよ。」
父親が玄関へ向かった。みんな楽しそうに食事を楽しんでいるが、なんだろう。嫌な予感がした。なんだか考えすぎかもしれないが後をつけて話を聞いてみよう。何か手掛かりがつかめるかもしれない。
「あ、ちょっと僕トイレ行ってくるね。すぐ戻るから!」
と、一言入れ僕は玄関のそばにあるトイレのドアを開けた。
・・・予想道理だ。やはりここからならうっすらとだが声が聞こえる。そっと気が付かれないようにドアに耳を近づけた。そこには父親と若々しい複数の男性の声が聞こえた。
「あのー、ご自宅にツバサ君はいらっしゃいますか?今日ってツバサ君の誕生日でしたよね?」
「ええ、そうです。今料理をいただいているところです。…ところで、あなたたちは?」
「やはりな。こんなところに天族が潜んでいたか。おやおや申し遅れました、私たちは・・・」
…まさかっ!ドアを開け、駆けつけるも時すでに遅し。父親は深くフードを被った一員に異様に長くとがった腕で胸を貫かれていた。その光景はまるでこんこんと溢れ出す泉のように胸部から赤い液体が湧き出ていた。
「私たちは悪魔教採用担当官、ギア・マンティスでございます。キシシシシシシ・・・・・」
勢いよく父親からその尖った腕を引き抜くと、綿が抜け落ちた人形のようにへたりとその場に倒れた。あまりにも直視できないようなくらい部屋が真っ赤に染まっていた。
「行きますよ、ゴア。ここにいる天族を片っ端から片づけるのです。」
「シェシェ・・・。」
『ゴア』と呼ばれたその男は異様に長い腕を、まるで漆黒のコートに隠すように縮めていった。あれは・・・一体何なんなんだ!?
「おや・・・、あそこにいるのはツバサ君ですかねぇ。ゴア、挨拶してきなさい。」
そういうと、ゴアと呼ばれる男は「アシェシェ・・・。」とまるで虫の鳴き声のような声で返事をすると、僕めがけて一直線で走ってきた。