‐第5話‐ 裁き
もうどれくらい走っただろうか、あれからユメを担いでかなりの距離を走っている。もう少しの所を進めば街が見えるだろう。そこにたどり着けば憲兵や衛兵が少なからず助けになってくれるだろう。
ユメは相変わらず眠ったように気絶していて、目を起こすそぶりも見せない。あの2人が言うには無事なようだが、なんだか妙な不安をそそられる。
いや、心配は後だ。まずはこの森を抜けて安全な街のほうへ・・・
「・・・このまま走って逃げてしまおう、って考えかい?」
背筋に凍り付くような声が響く。間違いない、後ろにアイツがいる・・・!一度聞けば一生忘れられないような、あの声だ。
「嘘だろ、あの2人はどうなったんだ!」
「ああ、あの2人かい? 毎回、あんな攻撃まともに食らってたらボクももたないよ。だから一時的に世界から隔離させてもらったよ。」
そう言うと、男はニヤニヤと笑いながら深くかぶっていたフードを外し今まで隠していた顔があらわになった。
「自己紹介がマダだったね。 ボクの名はギガ。悪魔教最高司教、『ギガ・ヴィヴィラ』だ。」
その顔には無数の傷があり、見るに堪えないような顔だった。漆黒のような黒い髪の毛、そして目には一切の光が宿っていなかった。まるで魔界を見透かしているような目でこちらを見ていた。
「本当はボク達の本部でじっくりと儀式をしたかったんだけどねェ・・・。『邪魔者』が入ったせいで時間が無くなってしまった。・・・だからこの場で生贄の儀式を行うよ。」
そう言うとギガは手を前に掲げ、呪文を詠唱し始めた。すると深い闇の紋章がどこからと地面に現れ、無数の手がこちらに向かってきた。
必死に避けようとするが、足に何か絡まって動けない!なんだ、この感触は。
ゆっくりと足元を見るとそこには無数の手が僕の足に絡みついていた。その腕一本一本が、まるで下界へと引きずりこもうとする悪魔のようだった。
もう駄目だ、そう思った時だった。
「・・・え?」
正面から延びる無数の手が僕の耳元をかすめ、僕の担いでいたものを奪い取っていった。
「ボクさぁ、気付いちゃったんだよね。キミも天族だけど、この女の子も天族だってコトをね。」
何を言っているんだ。まさか・・・!
「やめろ!!ユメを離せ!!!」
「いいねぇその表情!大好きな女の子が絶体絶命、だけど自分は何もできない無力さに憤慨するその顔がね!!アハハハハハハッ!!」
ギガはまるで狂ったように大きく笑い始めた。その笑みからは、とても人間の感性とは思えなかった。間違いなくコイツはイかれてる・・・!
「あ、いいコト思いついた。この子をサタンの生贄にして、君たちを殺してあげるよ。大好きだった女の子に殺される・・・なんてロマンチックなんだ!」
「なに・・・言ってんだ。やめろ・・・。やめてくれ。殺すなら、俺を殺せ!!」
何を言ってももう遅かった。奴の耳にはもう僕の声は聞こえてはいなかった。ギガは魔法陣を手慣れた手つきで床に召喚させ、ユメをその上に安置し呪文を言い放った。
「さぁ、今こそ目覚めの時だよ。サタン。センテンズ・ディストリビューション。我と同化せよ!!」