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魔導伝ー神が覗く物語ー  作者: 虎寅
第一章 成長
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ハンデル商会

ゴブリンキングを倒し、戦闘を終えた一行は旧王都ヴァルキに向かっていた。

道中出て来るゴブリンは冒険者達が瞬殺していく。


「緊急依頼だったが報酬は期待していいんだよな?」


依頼が終われば報酬を貰うのは冒険者としては基本だ。

今回は緊急という事で報酬が定まっていない。

本来、揉め事を避ける為、報酬は依頼を受ける前に決めておくものだ。

更にギルドに緊急依頼を出せるのは商人ギルドに登録している商会か貴族だけだ。

ギルドに所属していれば、緊急依頼の報酬をギルドで負担してくれたり、以降の資金支援をしてくれる。

ただ、商人ギルドは定期的に売り上げに応じた会費がかかるし、加入時に結構な加入費を取られる。


「ああ、その点は心配いらない。今回の依頼に充分見合うだけの報酬を出させてもらう。先に雇っていた皆さんにも追加で報酬を出そう」


商人達のリーダーが答える。

先に雇っていたメンバーはきちんと報酬の話をしてあるので、本来道中何があっても報酬が変わることはない。その何かを考慮した上で報酬を決めているからだ。


「へぇ、気前がいいな。いったいどこの者だ?」

「何だ、どこの依頼かも確認しないで受けたのか?」

「ああ、異常な速さでギルドが許可したんでな。間違いなく大物、ギルドから補助金も出るだろうと踏んでな」


ギルドは揉め事を避けるため、よっぽどのことがない限り報酬の払えない依頼は出さない。

つまり、今回は一目見ただけで十分報酬を払う能力があることがわかる依頼者だということになる。


「なるほどな。ちなみにハンデル商会の者だ」

「なっ! 超大手じゃねえか」


他の冒険者もかなり驚いている。


「いいのか? 勝手に報酬上げたりして?」

「はっはっは 会頭の俺が金を使うのに何か問題でも?」

「嘘だろ!? あんたがあの有名なブレイ・ハンデルだと!」


冒険者達が更に驚く。


商人と冒険者達がヴァルキに戻り始めた時、シンは魔石を拾い集めていた。

そして、たった今追いついたところだ。

気配はかなり薄くしてあるが姿が消えてる訳ではない。

その状態で移動する集団の中心にいるルルの元に向かう。


それによって他の冒険者や商人達もシンの存在に気付く。

“水乱舞”の三人はその気配の薄さに驚いた表情をしている。気配を感じ取れるのはその三人だけのようだ。


「えっ! 何でここにいるの?」


ルルが驚いて尋ねてくる。


「……一緒に来るって言った」


シンが決して大きくないがやけに響く綺麗な声で答える。


「えっ! ……でも確か森を出たときに別れたよね?」

「お、シン、お前にも報酬は出してやるからな」


ルルはシンがいることに疑問を抱いているが、ブレイは親しげに報酬を約束していた。


「この子お父さんの知り合い?」

「は? 何言ってんだ? こいつと先に知り合ったのはおまえだろう」

「知り合いっていうか、森の中であったんだけなんだけど」

「それでお前が先によこしたんじゃなかったのか?」

「???」


ルルは完全に混乱していた。

ブレイは魔導師が自在に魔法を使えるのは知っているので、ルルがそれを理解した上でシンをよこしたのだと思っている。


「ねえ、その子、森の中に一人で居たの?」

「えっ? あっ、はい。私が会った時は一人でした。結構自在に魔法を使える様でしたけど」

「え? 魔法を使ってたの? ねぇもしかして……」


“水乱舞”のパーティーリーダーがルルに何かを確かめる様に質問し、何らかの結論に至った様だ。

“水乱舞”の三人で何かを話すとシンの方に近寄って来る。


「ねぇボク、もしかして魔導師だったりしない?」


シンは黙って頷く。


「本当に?」


殆ど確信しているがやはりどこかで疑っているのだろう。

そもそも魔導師の数は限りなく少ない上、魔法を使わなければ一般人と変わらないのだ。

シンがもう一度頷く。


それを見て周りがざわつく。

魔導師はその魔法を自由に使う姿から民の間で神の子と言われている。



「ではいろんな魔法が使えたりするのですか!」


さっきから様子を伺っていた“風刃”の魔術士が割り込んで来る。

その時タイミングよく横から出てきたオーガに向けて手を翳し魔法を発動する。

瞬間、オーガが氷漬けになり、風で切り裂かれバラバラになる。

地面に転がる氷った肉塊に一同は目を奪われ感嘆の声を上げる。


「うっわ、すごーい」

「えっと、術式や呪文は?」


魔法を使う者達からすればとても不自然だっただろう。一般に広まっている魔法は、絶妙な魔力制御と呪文を唱える事で術式を編み、術式に魔力を流し込む事で界力が魔法を読み取り事象を具現するといったものだ。

だが、今シンは呪文を唱える事もなければ、術式を創る事もしなかった。


「……何それ?」


そしてシンは呪文も術式も知らなかった。

シンは“風刃”の魔術師から呪文と術式の説明を聞いた。


「……ふーん。……今度やってみる」


一通り説明を終えた“風刃”の魔術士はまだ話したそうな顔をしていたが、呪文と術式を知ったばかりのシンに何を聞けばいいのかわからず口を開けたり閉じたりしていた。


「いくら魔導師だからってこんな小さな子がそんなにいろいろ知ってる訳ないでしょ」


それを見かねて“水乱舞”のリーダーが止める。


「ねぇボク、名前は何て言うの?」

「……シン」

「そう、私はシーア、今後とも機会があればよろしくね、シン」

「私ニール、よろしく~」

「私はヤクファよ、よろしくね」


“水乱舞”の三人がシンに挨拶していく。

シンは軽く頭を下げて応える。


その後もルルを含めた女性四人に囲まれたまま街まで戻るのだった。

また魔導師故に家に居れなくなった事を伝えると、最初に会ったルルを含む商人たちと行動することになった。

ブレイ達の商会なら大抵の権力者から狙われても対応して守れるからだ。


街に戻ると早速ギルドへ向かう。


「おかえりなさい。ここに署名をお願いします」


ギルドに入ると受付嬢が声をかけてきた。

その受付嬢のいるカウンターまで行き、必要事項を記入する。

そして手続きをし、報酬を払い、緊急依頼完了となる。


その間、シンは素材買取のカウンターに向かい、ローブの中からゴブリンとオーガの魔石をカウンター上に置いていくのだった。


「ゴブリンキングがいましたよ。そのせいで余計に手間取っちまいました」

「えっ? じゃあゴブリンの森は現在支配者がいない状態ですか?」

「どうですかね? 他にもキングが居ればそいつが支配してるんでしょうけど、確認しない事にはなんとも」

「そうですか。今回の件はギルマスの方にも伝えておきますね」


冒険者と受付嬢が会話をしている間、シンが出した魔石は買取カウンターの受付嬢によって魔力量を測られ、お金に換えられる。シンは受け取った金をローブの中にしまい、商人たちの輪の中にこっそりと戻る。受け取った金額はそこそこでランクD冒険者が一日に稼ぐくらいだ。


「じゃあ出発は日を改めて、と言いたいとこだが、まだ昼だ。しかもなるべく早く着きたい訳で、飯を食ったら再出発な」


ブレイがそう言って一度解散となる。

食事の他に冒険者は装備の手入れ、商人達は荷物の補充などやることは沢山ある。


「シンは私について来てね」


ルルに手を引かれ、商人達と一緒にギルドを後にする。

着いた先は巨大なお店だった。入り口には“ハンデル商会”と書かれた看板がかかっていた。

その建物に裏口から入る。


「ブレイさん、皆さん戻って来たんですか? おかえりなさい。何かあったんですか?」

「ああ、ちょっとゴブリンキングに出くわしてな。商品と食料の補充をしに戻ったんだ」


商店の店主らしき男が出てきてブレイと話し始める。補充する商品の確認をするようだ。

シンは気配を薄くしてこっそり皆から離れる。

商品が置いてある棚を見て回る。いや、見上げながら回る。シンに見えているのは一番下の棚と下から二番目の棚だけだ。一番下は大きな物が置かれているため、シンの肩の高さまである。三段目は手を伸ばして届くかどうかといった高さだ。

だがシンはそんなことは気にしない。

身体強化をして、棚を登る。

そうしながら、目的の棚を見つける。

棚に並べられた籠を取り出し、素早く中身を確認する。

棚の上では片手しか使えない為確認し終えた物は次々下に落としていく。籠は棚に戻し、次の籠へと確認していく。

目当てのサイズを見つけ、近いサイズの物を下に落としていく。ある程度下に溜まったとこで自分も下に降り、ローブを杖に戻し、試着していく。

そう、シンが探していたのは服だった。


「ちょ、ちょっと! 何してるの!?」


ふらっと消えたシンを探していたルルが大量の服に埋もれたシンを見つけ、驚いた声を出す。

そこには明らかにサイズのあっていない服を着たシンと、足の踏み場が無くなるほど散らかった服があった。


「なんだこりゃ」


ルルの声を聞いて駆けつけたブレイが呆れた声を出す。他の商人達も口を開けてほうけている。


「あー、ルル、これ片付けとけよ」

「えっ私が!?」

「その子供連れてきたのはお前だろう」

「なんか違う気がするけど……はぁ、わかったよ」

「ちゃんとやれよ。お前らは仕度の続きだ」


ルル以外の皆が立ち去り、その場には服を漁り続けるシンとルルだけが残された。


「もう、何でこんな事したの?」


呆れたようにルルが尋ねる。


「……でかい」


シンは質問には答えず、違う服を要求するように両手を前に出す。

その手は完全に袖が隠しており、なおも余った袖がひらひらと揺れている。


「それ、商品なんだけど。ん……? 何これ?」


ルルが面倒臭そうに散らばった衣類を集め畳んでいると、明らかに商品と異なるボロい服が出てきた。

服の形状をしてはいるが、あちこちに汚れやほつれが目立ち、明らかに商品でないことがわかる。さっきまでシンが身に着けていたものだ。


「ねぇ、これって……」


ルルがボロい服を摘んでシンに視線を向ける。

シンは黙って頷いた。


「はぁ、ちょっとお父さんに聞いてくるから、シンは散らけたの畳んでおいて」


そう言うとルルはボロい服を持ってブレイの元へ向かう。

シンは杖を握ると魔術を発動させる。

念動力だ。いくつかの衣服を浮かび上げ、畳み、一ヶ所に集め重ねて降ろす。それを何度か繰り返すと床に散らかっていた衣服は綺麗にまとめられた。

そこにルルが戻ってくる。


「おお! はや、い?」


綺麗にまとめられた服は一見しっかりと片付けられているように見える。しかし、実際はまとめられているだけであって片付けられてはいなかった。より具体的にいうと、まとめられた服は殆ど適当な畳み方だった。

全部畳み直す必要があるだろう。

そもそも、シンは服を持っていなかったのだ。

畳み方なんて知っているはずがない。

ルルが畳んでいたのを一目見ただけで真似たに過ぎないのだ。それでも一つ一つ畳んだならまだしっかりと出来たかもしれない。しかし、まだ余り使った事の無い魔術で、しかも一度に複数枚の服を畳もうとしたのだ。出来る訳がない。


「ああ、もう、はぁ。こっち来て」


ルルは疲れたように溜め息を吐くと、シンの手を取り奥へ向かう。

棚四つ分程移動するとルルは棚の下の方から箱を取り出す。その中には小さな服が入っていた。


「じゃあそれ脱いで」


ルルは箱の中から服とズボンを何着か選んで取り出す。

シンは着ていた服を脱ぎ、裸になる。下着は着けていない。そもそも下着は高いのだ。


「下着も持ってないの?」


シンが頷くとルルは再び溜め息を吐いて違う棚に向かう。

そして、棚から下着も取り出すとシンに着せていく。


ちゃんとした服を着ると、とても見栄えは良くなった。受ける印象も大きく変わる。

髪の手入れが足りないが、変わらない表情には子供特有の可愛さと愛嬌があり、見ていてほんわかした気持ちになる。


ルルが服を着たシンを満足げに見ていると、シンは杖を手に取りローブに変えて身に纏う。


「あ……、そのローブ、着なきゃダメなの?」

「? ローブ、着るもの」


ルルががっかりした様子で尋ねると、シンは首を傾げた。

ローブを着ると服が全部隠れ、まさに小さな魔法使いだ。


「はぁ、まぁ仕方ないか。とりあえず、畳み方教えるから、これ、片付けるよ」


シンの服については諦め、積まれた服を片付ける事にした。

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