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魔導伝ー神が覗く物語ー  作者: 虎寅
第四章 魔の法則
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魔術

シンは男が放った黒い何かを避けるのに全力で跳んだため、地面に思いっきり体を擦り付けることになる。

その際、左側に抱えていたファルナも強く打ち付けることになったが、シンにそれを気にする余裕は無かった。幸いローブ、それも『覚醒』で強化されたローブで覆っていた為シンもファルナも怪我は無かった。


「アハハハ、魔法勝負は君の勝ちだよ。その年で僕に勝つなんて、なかなかやるねぇ」


男は追撃することはなく、風魔法で切り落とされた自分の右腕を拾い上げて、傷口を合わせる。

すると、切れた箇所を黒い何かが覆い、それが消えると何事も無かったかのようにくっついていた。


その間に態勢を立て直したシンはそれを見て目を見開く。


「な、んだ……?」

(今のは?)


黒い何かが存在していた所は界力が異常な状態であり、腕がくっついたのも、魔法では無かった。


(何だ? 魔法……ではないことは確かだ。だが魔力は感じる。あの黒いのは魔力で間違いない。だが使い方が異常だ!)


シンは驚きが隠せないままに思考を加速させる。


「ああ、これはね、魔術だよ」

「魔術……?」


シンの呟きに男が答える。聞いたことない単語にシンは思わず言葉を繰り返す。


「君は強い。それは認めよう。でも、君は神についてどこまで知っているかなぁ?」

「神? 神は世界を創る者だと……」


男の問いにシンは先程地神龍に聞いた答えを口にする。


「それはあくまでも創造神だよぉ。神とは創造神を含んだ世界という次元の外にいる者達のことだよぉ。彼らは必ずしも世界を創っているわけじゃないしぃ、神になるだけなら僕でも出来るからね。おおっと、しゃべり過ぎたねぇ」


男は不敵な笑みを浮かべ、体を揺すりながら笑う。


「ふふふ、君だってもう魔術を使っているじゃないかぁ。神になるまでもうすぐだよ。ここで僕の邪魔さえしなければ、だったんだけどねぇ」

(僕が魔術を使っている? 一体何を言って、いや、僕が使う魔法じゃない技なんて一つだけだ。あいつも『覚醒』には反応をしていた。だとしたら、魔術とは……)


男の言葉を聞きながら頭を働かせ、シンは魔術について、男から逃げ切る方法について考える。

考えながらも男の魔力を感じ取り、法則を無視した攻撃を全力で避ける。

男の放つ魔術は魔法戦をしていた時よりも穏やかで、明らかにシンをいたぶって遊んでいる。

しかし、普通の魔法は魔術で乱され、発動もままならず、魔術を止めるには魔術を使わなければ間に合わないだろう。


「ぐぅっ!」


見えない何かがシンのローブの上から足を貫いた。

生まれてこの方十五年。シンが血を流したのは初めてのことだろう。


「ふふっ。もう限界かな? 法則に頼った魔法では魔術の発動を止めることは出来ない。使える魔術が身体強化だけじゃねぇ」


初めて感じる痛みにシンの思考が停まり、そこに男は声をかける。

動きを止めたシンに男は手を(かざ)す。


「じゃあ、バイバイ」


男がそう口にした時だった。


「ガアアアァァァ!!!」


巨大な咆哮と同時に天から強力な雷が男を目掛けて降りかかる。

だが、男はシンに向けていた手を上にかざし、黒い魔力が雷を霧散させる。

それと同時に空間魔法が発動し、一人の魔導師と、魔導師に劣らないほどの魔力を持った精霊が姿を現す。

そして、天から雷帝龍が姿を見せた。


「ん~? こんなに集まるなんて、いったいどうなってるんだろうかぁ?」

「いやいや、それはこっちが聞きてぇことなんだけどな? どういう状況なんだ? シン」


転移してきた男はエンドだった。エンドはシンの傍まで歩いて来て、その横に立つ。

シンの足は既にファルナによって治療されている。


「そうですね、端的に言いますと、魔術という滅茶苦茶な技を使うとっても強い人に命を狙われているって感じですかね?」

「まぁ、よく分かんねぇけど、やばい状況ってことだな?」

「そう言うことです」


シンとエンドが話している間も雷が男に襲い掛かり、時間を稼ぐ。

だが雷帝龍の放つ雷も、男の放った黒い魔力に打ち消され、そのまま発動した何らかの魔術が雷帝龍を襲う。

だが、雷の速度で動く雷帝龍にはかすりもしない。


「やるぞ、ルフィー」

「はい、エンド」


エンドは指輪を杖の状態に戻すと『覚醒』もとい、身体強化の魔術を発動させる。

男の左側へ回り込むように走るエンドに合わせ、シンは男の右側へと走り込む。

移動しながら攻撃系統の魔法の発動を目論む。


雷帝龍の雷撃、シンが発動させる雷魔法、エンドが発動させる風魔法、大精霊のルフィーが発動させる風の精霊術の四つが男を襲う。

だが、エンドとルフィーの魔法は男の干渉で阻害され、雷帝龍とシンの放った雷撃は黒い魔力を用いた魔術によってかき消されてしまう。


「ガアアァァァ!! 人間! 我の力をもっとくれてやる!」


『”雷帝龍の契約”を獲得しました』


自分の攻撃が決定打にならず痺れを切らした雷帝龍はシンに契約を交わす。

龍から授かる称号の中でも、契約は最上級の物だ。単純な力において龍を越えるものはいない。

その力をほぼ上限まで自在に使うことが出来るようになるもので、その契約を魔導師が持つことはまた別の意味があるが、今は単純に力を得たということだけ考えておこう。


称号を得ると同時に、シンの雷魔法が法則を越える。すなわち魔術となった。

また、雷帝龍の全身を溢れんばかりの魔力が覆い、身体強化の魔術を施す。


「なっ!?」

「ぬぅっ!?」

「うわぁ~」

「なるほど、それが魔術か」


シンと雷帝龍がその現象に驚きの声を上げているのに対し、男は嫌そうに顔を顰める。

また、エンドは何かを理解したように呟く。


直後、戦闘の速度が跳ね上がる。

移動速度も魔術の発動速度も速くなり、雷のごとく移動するシンと雷帝龍、風を纏い移動するエンドとルフィー、それに対応して魔術を行使する男。

雷と風と黒い炎が飛び交いぶつかり合い周囲を削っていく。


「はああぁぁぁ!!!」


繰り出される攻撃の中で、一際強力な魔術が放たれ、打ち消し合い戦闘が一度止まる。

シン達と男の実力は完全に拮抗しており、このまま続けても共に魔力切れを起こすだろう。

使用する魔術に実力の差があるのを数で補っている状況だった。

それはすなわち、この中で長く戦っているシンの魔力が無くなったら戦況は崩れるということだ。まだずいぶん先のことだが。


「まぁ、しょうがないね。今日はこの辺で見逃してあげるよ。やはり神が手を出しているとしか思えないからねぇ。でも僕の邪魔をするなら、次はないよぉ」


戦闘の合間に出来たその瞬間に男はそう言い残すと、転移の魔術を使って姿を消した。


男から放たれていたプレッシャーが完全に無くなり静寂が訪れるとシンとエンドはその場に崩れ落ちる。


「はぁぁぁ~」

「だあぁぁぁ……何だあいつは、滅茶苦茶強ぇじゃねぇか」


座り込むエンドを心配するように覗き込むルフィーに、シンを支えるファルナ。

ファルナがシンの超高速移動に耐えれたのは単純にシンがローブで守り、魔術で強化していたからに他ならない。

その分シンは全力で戦えていなかったが、奇しくも男に魔力を温存していると思わせる要因となった。


「それにしても、エンドさんは何故ここに?」


戦闘の最中、突如姿を現したエンドだったが、あまりにもタイミングが良かった。しかし、タイミングを窺っていた様子もなく、ほんとに偶然転移してきた感じだ。


「ああ、何かよく分かんねぇが、ヴォルガントに向かえって頭の中に聞こえた気がしてな。それもルフィーと一緒にってな。それでよく分かんねぇままに来てみたらお前が戦ってるから援護をな」


エンドの言葉を聞きながら、シンは自分も頭の中に響いた声に従っていたことを認識した。


「で? お前はなんだってこんな所であんな化け物と戦ってたんだ?」

「それが、僕にもよく分からないんですよ。ただ、神の試練となんらかの関係がありそうです」


そうして、シンはエンドに詳しい状況説明をする。


「神の試練ねぇ…まためんどくせぇ話になってきたな」

「とりあえず、ヴォルガントには近付けないので一度戻ろうと思います。エンドさんも来ますか?」

「どこに?」

「神龍の所です」


シンはそう告げると転移魔法を発動させ、次の瞬間にはそこにあった一行の姿は消えていた。

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