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魔導伝ー神が覗く物語ー  作者: 虎寅
第三章 寄り道の旅路
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別れ

場所はハンデル商会の支店の会議室。

ルルが待っていた街にある店の一室を借りて、話し合っているのはシン、ファルナ、ルル、アシウェル、サフィア、ウォーグル、チーシェル、ヴェルマ、メシス、シャルマの計十人だ。

話している内容はこれまでのことと、これからのことである。


アシウェルが姿を見せ、サフィアが泣いて歓喜していたあの状況が落ち着き始めたあたりで、シンはローブを伸ばして皆を捉え、転移魔法でこの街まで戻って来たのである。

普段からお姉さんで弱みを見せたり泣いたりする姿を見せたりしないサフィアに皆驚き、落ち着き始めてからサフィアがそれに照れて、縮こまってしまった為、中々話は進まなかったのだが、チーシェルとヴェルマが懸命に話し、シンが四苦八苦補足し、ウォーグルが頭をフル回転させて理解するといった、非常に長引いたこれまでの話が行われた。

逆に、ウォーグルの話は必要なところと重要なところが纏まっていてすんなりと終わったのだった。


そして、話はこれからの話へと移っていく。

その最も最初に上がってくるのが、シンが博士の下に行くという話だった。


「シン、ほんとにお前があそこに残る必要はないんだぞ」

「何度も言ってるけど、好きで残るんだからアシウェルさんも気にしないで下さい」


アシウェルとウォーグルはシンをヴェルマ達といさせようと、気を使ってくれるのだが、シンからしてみればいい迷惑だった。

全く折れる様子のないシンにアシウェルはルルの方を見る。


「ルルさんからもなんか言ってあげてくださいよ」

「シンは自分のやりたくないことはやらない子だと思ってるし、何より強いから、私はシンがそうしたいって言うなら止める気はないわ」


ルルはシンの意思を全面的に尊重する方向だ。

単純にシンと付き合ってきた年代の問題だろう。

アシウェル達はシンが六歳になるまでの幼児期、ルルは六歳から十歳までの少年のシンと付き合ってきた。

アシウェルからしたら、シンは守る対象でしかないが、ルルにとってはそれだけではない。旅をする中で逆に守られることも何度もあった。


ルルのそんな姿勢にアシウェル達も諦めを見せる。

次いで出てくるのは肝心な話。ヴェルマ達の今後だ。


「それよりも兄さん達こそ、これからどうするつもり?」


シンの問いにアシウェルとサフィアとウォーグルが顔を見合わせる。


「商会の方で三人か四人までなら専属の傭兵として契約できますが?」

「シーアさんのとこに帰るなら転移魔法で送るよ?」


全然決まっていない今後に、ルルとシンがいくつかの道を示す。


「俺はシーアさんに無事を報告するべきだと思うぞ」


ウォーグルが一つの意見を出す。

しかし、その意見は核心には触れていない。報告だけならばシンの転移魔法ですぐに終わる。その後にどうするかはまた変わってくるのだ。


「私はルルさんについて行こうと思う」


これを言ったのはシャルマだった。

いつもヴェルマの後を付いてまわり、自分の意見はヴェルマに全部任せていたシャルマが初めて出した自分の意思だ。

今までなかったシャルマの態度にルルとファルナ以外の皆、シンさえも驚いていた。


「私は私なりに考えてこの結論を出したから、アシウェルさん達も、お兄ちゃんもちゃんと考えて、これからどうするか決めてね。私は一人でも大丈夫よ。ルルさんもいるし」


アシウェルやウォーグル、他の皆も、ここで別れて活動することは最初から考えていなかった。

しかし、シャルマの言ったそれは、別れることを念頭に置いたものだった。

シャルマは皆の様子を窺いながら、最後にルルに顔を向ける。


「私と来るのだったら、最低限生活で不自由な思いはさせないわ」


ルルはシャルマに笑顔を返しながら答える。


「でも、商会の方では四人までしか付いていけないんだろ?」


シャルマの意思を尊重するには確実に別れることなる。


「ええ、商会の方針というか、私の父の考えなのだけれど、ずっと同じ人で旅をしていると慣れが出てきて油断を、危険を呼び込むからって。だからうちの商会では本来専属の護衛は就けないのよ。各街で冒険者と交友を持って、商店を利用してもらうって打算もあるしね」


ヴェルマ達には伝えていないが、ここまでの道のりでヴェルマ達に払われていた給金は半分以上がルルの給金になるはずだったものだ。それでもルルの給金は割と多いのだが、今後のことを考えても、これ以上何人も連れて行くのは控えたい。

それに、ヴェルマ達の腕ならば他の商会ならもっと高いお金で雇ってもらえるはずだ。実際ヴェルマ達がそれを知ることはなかったが、これからも無いとは限らない。

お金と言う物が時に人の心を惑わせることをルルはよく知っている。ヴェルマ達に限ってそんなことは無いと思いたいが、今までも冒険者が非道な事をしようとしたり、商人の中に自分の利益の為に商隊に危機を呼び込んだ者もいた。そのため、完全には信じきれない所があるのも事実だ。否、信じきれないのはヴェルマではなくて、アシウェルやウォーグルなのだが。


「お兄ちゃん達、特にアシウェルさんとサフィアさんはあと十年もしない内に子供を作るでしょ? どこかの街に定住するべきだよ」

「そうは言っても、シャルマを一人にするわけにはいかないだろ」


シャルマが家を持つことを進言するが、かと言ってシャルマを一人でルルに付ける訳にも行かない。

そうであるならば、幾人かでシーアの元に戻り家を持ち、残り数名でルルに付いて行く事になる。


「私はシーアさん達のいるヴィッカで安定した生活がしたいです」


そこで意見を口にしたのはこれまた珍しくメシスであった。シャルマの時同様に皆が驚く。

そして、これに困ったのはヴェルマだ。

今まで、自分の傍を付いてきた二人の意見が割れた。

だが、一応答えは出ている。妹と妻、どちらと行動を共にするかなど悩むまでも無い。


ヴェルマとシャルマとメシスの今後は決まった。

そして、サフィアとチーシェルは旦那の意見を待っている。


「シーアさんの元に挨拶に行くのはアシウェルさんに任せますよ。俺とチーシェルはシャルマと共にルルさんのお世話になりましょう」


ウォーグルが凡そ皆の意見を汲んで纏める。

最年長であるアシウェルとサフィアは早めに生活を固めたい所であった。比較的、アシウェルは意思が顔に出やすい為、ウォーグルからしたら意見を述べられているのと変わりない。そういった細かい所まで気にしてくれるため、皆はウォーグルを信頼していた。


「シーアさんの所に行くのは僕が魔法で送るから、僕に捕まって」


シンはそう言いながら立ち上がって、部屋の一角に移動する。

アシウェル、サフィア、ヴェルマ、メシスが立ち上がってシンの周囲に移動する。


「アシウェルさん、シーアさんによろしく言っておいて下さいね」

「ん? ああ、勿論だ」


ウォーグルが別れ際に何と言ったらいいか分からず、当たり障りないことを口にするが、アシウェルは暫らくの別れになることを未だ認識できていない様だ。

そんなアシウェルの様子にシンとヴェルマはどことなく呆れた様子だ。


一方で女性組は別れを非常に心配していた。特に、サフィアとメシスが一方的にだ。


「チーちゃん、シャルちゃん、ルルちゃんに迷惑かけちゃダメよ」

「シャルちゃん、ほんとに大丈夫? やっぱりヴェルマといた方が良くない?」

「大丈夫だって、サフィアさん。ウォーグルいるから何とかなるって」

「もう子供じゃないんだから、そこまで心配しなくてもいいよ」


シャルマはどこか落ち着いた様子も見受けられるのだが、チーシェルはウォーグルに任せきりで流されている様子も見受けられる。そんなところが心配なのだが、確かにウォーグルがいれば大抵のことは何とかしてくれそうな気がするのだ。


そうして別れの言葉を交わしていたが、いつまでも話しているわけにもいかない。


「そろそろ行くよ。僕に捕まって」


シンが、話の区切りを見計らって切り上げさせる。


「それじゃあルルちゃん、皆のこと、お願いしますね」

「はい、お願いされました。皆さんもお元気で」


最後にサフィアがルルと言葉を交わして、シンに捕まると、シンが転移魔法を発動する。

僅かな光を放つと、シン達の姿が消える。


「それじゃあ、契約の方をしちゃいましょう」


ルルが席に戻りながら残ったウォーグル、チーシェル、シャルマに声をかける。

その声に従って、ウォーグル達も席に戻って、腰を下ろそうとした時、僅かな光を伴ってシンが姿を現す。


「ただいま」

「おかえりなさい」


つい先ほど出ていったシンが戻って来たあまりの速さにルル達が驚く中、ずっと席に座っていたファルナが驚くことなく挨拶を返す。


「おかえり。ずいぶん早いのね」

「まぁ、皆を送り届けてきただけだからね」


驚きを露わにしたまま、ルルは戻って来たシンに声をかける。


「じゃあ、僕達ももう行くね」


シンはスタスタとファルナの横に歩いて行くと、ルルに別れを告げる。


「え、あ、うん。ほんとに早いわね。また元気な顔を見せてね」

「うん。ルルお姉ちゃんも怪我だけはしないでね。ウォーグルさん、チーシェルさん、シャルマも、また会おうね」

「お世話になりました」

「ああ、シンも元気でな」


口々に別れを述べると、シンはファルナの手を取り、転移魔法を使う。

シンとファルナの姿が消え、部屋に静寂が広がる。


「さ、私たちものんびりとしている暇はないわ。これまでとは違う暮らしになるのだから、気持ちを切り替えてね」


静寂の中、ルルが声を発し、三人に気持ちを切り替えることを促す。

その言葉に、ウォーグル、シャルマは家族との別れを改めて認識し、気持ちに区切りをつける。

チーシェルはウォーグルと再会できた喜びが未だに心を満たしているため、ほぼ悲しみを感じておらず、これからの生活でいかにウォーグルに甘えるかしか考えていなかったのだが。



 ✩ ✩ ✩ ✩ ✩



一方でシンにヴィッカまで送られたアシウェル達はシーアの下に挨拶に来ていた。

ヴェルマ、メシスからしたら二ヶ月、アシウェル、サフィアからしたら一年ぶりになるシーア達の家は何ら変わることなくそこに建っていた。

アシウェルが呼び鈴を鳴らすと、すぐにその扉が開き、顔を出したのはファラメンだった。


「アシ、ウェル、君? アシウェル君じゃないか! おおっ! 他の皆も! よく戻って来たね。さっ、中に入りたまえ。シーア! 戻って来たよ!」


ファラメンはアシウェルを見ると目を丸くして驚き、他の面々の顔を見て喜びを露わにし、中に入るよう勧める。そのまま先に中に戻っていきながらシーアを呼ぶのだった。


アシウェル達が家の中に入ると三人の子供がよちよちと歩いてきた。その後ろにはニールが子供の様子を見ながらついて来る。


「あら、おかえりなさい。三年ぶりかしら? まぁゆっくりしてってちょうだい」

「ただいまです。私とアシウェルは一年ぶりかと思いますが……。」


子供の方に気を向けてアシウェル達をほとんど気にした様子を見せない。少し旅に出ていた友人が顔を見せたくらいの対応だ。そんな以前と変わらない態度がアシウェル達に戻ってきたことを実感させた。


「おじちゃん、だれー?」


子供たちがアシウェルを見上げて訊ねる。


「はいはい、そっちのおじちゃんは忙しいからね~。こっちで遊ぼうね~」


しかし、アシウェルが答える前にニールが抱き上げて連れて行ってしまう。

しっかりと母親をやっているニールに、珍しいものを見たとアシウェル達は意外に思うが、何気にニールはしっかりした人だと思い返し、シーアのいるだろうリビングに向かう。


リビングにはシーアとファラメン、アクジットがいた。


「おかえりなさい」


シーアが微笑みを湛えながら挨拶をする。

その笑顔を見て、戻って来た事を実感し、アシウェルとサフィアは満面の笑みで返事をするのだった。

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