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魔導伝ー神が覗く物語ー  作者: 虎寅
第三章 寄り道の旅路
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師との再会

ルル達がベジタブルディザスターとの奮闘を繰り広げている間、シンはファルナを連れてヤツバの街に来ていた。

ほんの一ヶ月前に時空袋を直してもらうためにルルを連れて来た場所である。

迷うことなくエンドの家を目指す。

だが、その途中で脳内に声が響く。


『直で転移してきていいぞ』


間違えようがなくエンドの魔力だ。いや、感じ取れることがないからという理由での判断だから、同じように魔力を隠せる者がいたら間違えなのだが。


シンはファルナの手を取ると、転移魔法を発動する。

転移した先では、果てしなく青空が広がり、太陽が眩く輝き、遠くまで続く森の中に大樹が聳えているのが見え、自然がそのまま形を変えたような家が並んでいる。

幻想的な自然の中で、隣に立つファルナの魔力が激しく動き、倒れる。


「あ」


シンは間抜けな声を上げながらも、素早く反応して倒れるファルナを受け止める。

そこにエンドが転移して姿を現す。


「よう、久しぶりだな。そっちの連れは……って、おい!」


挨拶をしようとしたエンドは感じ取っていたファルナについて聞こうとして、気絶している彼女を目にする。

シンは魔力の波長を合わせてファルナに流し込んでいるところだ。


「ああ、お久しぶりです。エンドさん」


エンドに挨拶を返して、ファルナを抱え上げる。

嘗ての自分と同じ反応を見せるファルナにシンは心配する様子を見せない。

その様子にエンドは頭を掻くも、まぁいいかと意識を外す。嘗ては気絶したシンにエンドが魔力を与えたのだった。


「ま、家まで行くとすっか」


こっちの世界にあるエンドの家。

歩いて向かうと意外と遠く、転移魔法を使って移動する。


家の中に入ると、使っていない一室に向かい、エンドは左手の中指に付けている指輪、杖の形状を変えた物からベットと布団を取り出し、ベットに刻まれた魔法を発動させる。


「ん」


エンドがシンを見て、顎でベットを示す。

シンは返事を返さず、ファルナを寝かせる。上から掛布団を掛けてやり、部屋を退室する。


「そんで? 急にどうしたよ? あとあの子誰よ?」

「いえ、一ヶ月前からルルお姉ちゃんと旅をしてるんですけど、ベジディザに向かうということだったから暫らく離れてないといけなくなったんです。で、ついでだからエンドさんに婚約者を紹介しておこうかなと思いまして」

「ふーん。まぁ、何だ。俺はついでか」

「ええ、ついでですよ。わざわざ来るような場所でもないでしょう。ついでと言えば、エンドさん、だいぶ有名でしたよ。奴隷商狩りの魔導師エンド」

「あぁ? 何だ、シン、お前奴隷商でも回ってんのか?」

「僕が、じゃなくて僕の家族が、ですけどね」


ファルナを寝かした部屋からリビングスペースに移動しながら会話をする。

この家に来たのは実に五年ぶりだろう。

代わり映えのない壁や天井だが、家具一式はほとんど新しい物になっている。

高級そうなソファに腰を掛ける。


「……あー、ワインでいいか? 水が良けりゃ自分で出しな」

「アルコール類はあまり飲んだことないですよ?」

「じゃ、飲んでみるか?」


そう言ってエンドは左手を翳す。指輪の中からグラスが二つと瓶が一本出てくる。


「ベジディザってことは、五日はここに居んのか?」

「長ければ十日ですけどね。お邪魔します」


エンドがワインを注いだグラスを受け取りながら答える。

エンドは「言うのが遅ぇ。まぁ構わねぇけどな」と言いながらグラスを傾けワインを口に含む。

シンもそれに続いてワインを飲む。

適度な甘みと酸味が存在し、口当たりも良い。高品質なものであることは間違いないだろう。


「相変わらずここにはいいものがありますね」

「当たり前だろ。俺の世界で精霊の民が育ててるんだからよ。外の世界で同じだけのもんが欲しけりゃランクSの魔物でも倒さなきゃだろうよ」

「ランクSですか、そういえばエデンにいる間にクラーケン? まぁイカを食べましたよ」

「クラーケン? へぇ、俺のは? ねぇの?」

「もう三年前の話ですよ? 流石にないと思いますけど。エデンに顔出してみたらどうです?」

「はぁ、ねぇのかよ。あの島はジジイがいるからイヤだ。つーか、お前結局エデンに行ってたんだな」

「まぁそれに関してはエンドさんの言う通りでしたね。助言感謝します」

「ルルちゃんから聞いた話と合わせると、大体三年か? お前がエデンにいたのは」

「ええ、まぁ割と大したことは無かったですけどね」


その後も、シンとエンドは夜が更けるまで会話を続けた。

エデンでの魔法の特訓や魔法の本のことや、ヴェルマ達家族のこと、ファルナのことを話し、エンドの話を聞いた。

エンドがこの世界を創ることになったきっかけにも触れかけたが、詳しくは話してくれなかった。



 ✩ ✩ ✩ ✩ ✩



翌日は家から出て、精霊の民が暮らす集落に出向き、子供達と挨拶を交わした。

人間の子供は五年も経てばだいぶ成長して変わるが、精霊の民の子供はほとんど変化が無かった。

一部急成長を見せる子供がいたり、最年長が変わっていたりしたが最大の変化は土竜(グラウンドドラゴン)の精霊だった。

嘗ては子供が抱えれる程度の大きさだったモグラは龍種となり、上級精霊へと進化していた。



 ✩ ✩ ✩ ✩ ✩



エンドの家に来てから五日目。

ようやくファルナが目を覚ます。


「……はっ! ……。ほっ」


目を覚まして、周囲を窺うが、見覚えのない場所である。そう遠くない距離にシンの魔力があることを感じ取り、安堵の息を吐く。

自分が何故ここにいるのか、記憶をたどり、転移した直後に感じた感覚を思い出す。

全身の魔力が言うことを聞かず、天地がひっくり返ったような感覚。思い出すだけで頭がクラクラする。

僅かに倦怠感が残る中、シンが部屋の扉を開けて入ってくる。


「ファルナ、気分はどう?」

「……大丈夫よ」

「そう、ならいいや。無理はしないでね」


多少頭がふらつくが、シンに心配を掛けないように答えるファルナの言葉を、シンはそのまま受け止める。

ローブにしまってあった飲み物を取り出してファルナに与え、この場所やファルナの身に起こったことを端的に説明する。


説明を終えるとシンはファルナの手を取って、ベットから連れ出す。

向かうのはエンドのいるダイニングだ。時間は六時を過ぎた所であり、夕食を食べていた所だ。

何気にエンドは簡単な料理も出来た。家族を持たずに一人で暮らしているだけはある。


「おう、目ぇ覚めたか」

「ご心配をおかけしました。お世話になります」


姿を見せたファルナに声をかけるエンドに対して、ファルナは丁寧な挨拶をする。

丁寧な対応を返すファルナにエンドは驚き目を丸くする。


「なんだ、シン、お前の嫁は優れてるな。大事にしろよ」

「……そうだね」


シンはエンドの言葉を普段の無表情の中に気持ちを隠して受け止める。


「……亡くしたものはもう取り戻せねぇんだから」


小さくエンドがそう呟いたのを聞き取ることは出来なかった。



 ✩ ✩ ✩ ✩ ✩



翌日、目を覚ましたシンとファルナが朝食を食べている時にエンドが一つの提案をした。


「魔導師との戦い方を教えてやろうか?」


突然の提案にシンもファルナも首を傾げる。


「だから、戦い方だよ。この世の全ての魔導師がエデンにいた連中のように親切で優しい連中ってことはないんだよ。寧ろ特別に強い分変人狂人が多いくらいだ。魔導師の半分はそうだと言えるかもしれん。そういった連中にイラっときたりぶっ飛ばしてやりたくなることもあるかもしれん。そうした時に戦い方を知っておくべきだと思うんだ。あぁそうだ。だから今日は俺と模擬戦な」


話している途中から熱が入り、やけに現実味を帯びている。しまいには強制的に特訓が決行されることになる。

特に断る理由もないし、恐らく親切からの提案である為に模擬戦をすることになった。



場所を移して、森を抜けた先にある山。


「ルールは簡単だ。相手に魔法を当てれば勝ちだ。ここなら死んでも蘇生できるから変に手を抜く必要はないぞ。俺も不死状態だからな。まぁ俺は強いから俺の心配は無用だがな」


そう言って笑うエンドからはやはり魔力を感じ取れない。

シンはエンドの強さを垣間見ているだけに全く笑えない。


「んじゃ、始めんぞ」


エンドは左手の中指に付けている指輪を杖に戻す。

そのままふわりと宙に上がり、シン達の方へ向き直る。


「どっからでもかかってきな。お前らじゃ俺に魔法を当てることなんか出来やしねぇよ」


口元に人の悪い笑みを浮かべながら挑発してくる。


「ファルナ、殺す気でやっていいからね。ほんとに強いから」


シンはファルナにそれだけ伝えると、ローブをはためかせてエンドに突撃する。

勝負開始だ。


早速発動させるのは小手調べ的な基礎魔法。

両手に炎球を創り出し、エンドに向けて飛ばそうとする。


しかし、シンの意図に反して炎球は発生しない。

原因はすぐに分かった。魔力によって書き換えるはずの世界に変化が生じている。

書き換えたはずの内容に打ち消す効果が紛れ込んでいると言うべきか。とにかく発動を阻害された。


無論そんなことをしたのはエンドだ。先程と変わらぬ笑みを浮かべながらシンを見下ろしている。

シンは即座に次の魔法を発動させようとする。水、風、土。しかし、そのことごとくが発動もままならない。


「ほらほら、どうしたぁ! こねぇならこっちから行くぞ!」


シンの魔法をことごとく打ち消している張本人が、白を切って魔法を発動させようとする。

実際、シンは動かずに魔法を発動させようとしている為、両者の間に動きは無いのだが。動いているのは目には見えない魔力だけだ。


エンドが手に持つ杖を一振りする。杖の先端から炎球が三つ発生してシンに向かって飛んでくる。

シンはそれを迎撃する為水球を創りぶつけようとする。

だが、シンが発動させようとした魔法はエンドに阻害され、水球は発生しなかった。


シンは内心で舌打ちをすると転移魔法を使おうとする。

体内で魔力を動かして発動を試みるも、転移魔法も不発で終わった。


「なっ!?」


流石にシンの顔に驚きが現れる。だが、その間も炎球は近付いてくる。

シンは内心で舌打ちをして、雷魔法を発動させる。

体内で魔力を動かし、瞬時、強烈な光と共に雷が炎球を焼き落とす。


「シン! 後ろ!」


勝負にまだ参加していなかったファルナの声が聞こえる。

直後、背後から強烈な爆炎を浴びて、シンは気絶する。



 ✩ ✩ ✩ ✩ ✩



シンが目を覚ますと、エンドの家の中のいつも寝ているベットの上だと分かった。

隣ではファルナが寝ている。

少しばかり頼りない体内時計によると、昼を過ぎて、十四時を越えたくらいだ。

エンドと勝負をしたのが午前中の九時前だったのを考えると、六時間ほど気絶していたことになる。


(ほんとに容赦ないな、あの人)


内心でエンドに悪態をつきながら、ベットから起き上がり部屋を出る。

向かうのはエンドがいるであろうリビングだ。


「おう、気分はどうだ?」


リビングに入るなりエンドが声をかけてくる。


「特にいつもと変わりませんね」


シンは体の調子を確認して答え、ソファに腰を掛ける。


「それで、魔導師との戦い方というのはあの魔法阻害のことですか?」

「おうよ。相手の魔力の動きを見て、発動する魔法の発生地に働きかけて魔法発動の条件を崩す。これが出来ないと遅れをとることがある。ま、意外と難いから特訓しねぇと出来ねぇけどな」

「で、それも無意識に出来るようになれ、と?」

「ま、そうだな」


あっけらかんと告げるエンドにシンは思わずため息を吐く。


「おいおい、流石にこれまでそんなに早く習得する必要はねぇよ。魔導師と戦うことなんてまず無いと思ってもいいだろうしな。俺もこれを無意識で処理できるようになるには五年くらいかかったからな」

「……はぁ」


エンドでも五年かかったという言葉にシンは改めて溜息を吐くのだった。



残りの時間をそれの特訓に当て、十日目の昼過ぎ、シンとファルナはエンドの下を辞して、ルルの下へ帰るのだった。

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