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魔導伝ー神が覗く物語ー  作者: 虎寅
第一章 成長
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緊急依頼

時は早朝シンがスラムを追放された頃まで遡る。


正門の前である一行が出立しようとしていた。馬にまたがり武装した十一人の冒険者と大きな馬車二台。

一行は正門が開かれると同時に動き出し、街道を進んでいく。


「そろそろです」


冒険者が御者に声をかけると、進路を右に変更し、森の中へと入っていく。

森に入ると同時に冒険者達は馬車から距離をとる。

すると、すぐにゴブリンが出てくる。そう、ここはゴブリンの森だ。

だが、ただのゴブリンごときに負けるようでは冒険者なんてやっていられない。

出てきたゴブリンはすべて冒険者の一閃で切り捨てられる。



ぼちぼち魔石を回収しながら、さしたる問題もなく森の中の進行を続けていると、不意にゴブリンがほとんど出てこなくなった。

商人達はリーダーであるブレイを除いて特に気にした様子もない。しかし、冒険者達はそうはいかない。


「停めて下さい」


冒険者の一人が御者に言うと、御者はそれに従って馬車を停める。

急に停まった馬車に商人達は不安を抱く。


「ね、ねえ、お父さん。なんで停まったの?」

「さっき剣を振る音が消えたが、それが何を意味するかわかるか?」


馬車に乗ってる唯一の女の子が尋ねると、その父親、ブレイが質問で返す。


「えっと、戦闘をしてないってこと?」

「そうだ。だが、それはおかしいんだよ。……ここではな。」


ブレイがそういった時、馬車が大きく揺れた。


「馬車を降りて下さい! 車輪をやられました!」


御者台から声がかかり、商人達は急いで馬車から降りた。

すると、そこにはたくさんのゴブリンがいて、周囲を囲んでいた。


既に冒険者達は戦っていたが、数が多すぎてさばき切れていない。


「皆さん移動してください! 右側に崖があるはずです」


冒険者が守る範囲をできる限り小さくしようという考えだろう。

他の冒険者たちもその考えを理解し、素早く行動に移す。

商人達はブレイを除いてその意図を読めなかったが、ブレイが素早く行動に移したためその後を追うように移動する。


まず、数人の冒険者が右側のゴブリンに特攻を仕掛け殲滅させる。

そのあとに商人たちが続き、一気に崖まで走る。

最後に残った冒険者達がゴブリン達を散らしながら移動して防衛の陣を構えた。

馬車がやられていなければ、逃げる選択肢もあったが、やむを得ない排水の陣である。


そのかいあって、冒険者達は何とかゴブリンの攻撃をしのいでいた。

しかし、ここはゴブリンの森、ゴブリンの数はなかなかに減らない。このままではじり貧だ。


そこで、ブレイは意を決して娘に声をかける。


「ルル、街まで走って行って増援を連れてきてくれ」

「お父さん……うん! 分かった! 行ってくるよ。絶対援軍を連れてくるから待っててね。身体強化(フィジカルブースト)


女の子は一瞬躊躇ったもののすぐに意を決すると呪文を唱えて走り出す。


女の子、ルルは森の中を走り続けていた。

ルルは、まだ十歳になったばかりで、商人としての勉強をしている最中だ。

魔法は自分の身を守れるようにと父親の計らいで身体強化だけは既に身に付けている。

だから、一人で行動するのはこれが初めての経験となる。


後ろからゴブリンが追いかけてきているが、強化した肉体で全力で走り振り切っている。

しかし、振り切ったそばから他のゴブリンとエンカウントしていてきりがない。

しかも森の中は地面が歪んでおり、木の根や枝が伸びていてうまく走れない。

生まれて初めて魔物に追われる恐怖を噛み殺し、ただただ全力で走り続ける。


不意に木の陰から小さい人影が飛び出しぶつかる。

強化していた肉体はその人を突き飛ばす。


「あっ! ごめんな、さ……い?」


ぶつかった人影は自分よりも小さい男の子だった。


(なんでこんな小さい子がここに?!)


ルルは自分がゴブリンに追われていることも忘れて驚いた。


「ゴグェ」


背後で奇妙な鳴き声が上がり我に返る。


「え、え? 何、コレ? 救かったの?」


振り返って見た光景もまた異常だった。

地面が尖ってゴブリンを串刺しにしていたのだ。

こんなことができるのは魔法以外に考えられない。


「これ、君がやったの?」


ルルは男の子の方を振り返り聞く。

男の子は黙って頷いた。


「うそ……。君、何者? ていうかこんな所で何してるの?」


女の子の質問に男の子は首を傾げるだけだった。


「あっ! 街に戻って救けを呼ばなきゃだった。……えっと、一緒に行く?」


自分のやることを思い出し街に向かおうとするが、流石に自分より小さい子を放ってはおけない。

男の子は黙って頷く。


「そう。じゃあちょっと我慢してね。『身体強化(フィジカルブースト)』」


そう言うとルルは呪文を唱え、男の子を背負って走り出す。


しばらく走っていると前方にゴブリンが出てきた。

さっきまでは飛び越えたり横をすり抜けていたが、男の子を背負っている今、そんなアクロバティックな動きは出来ない。

仕方なく回って回避しようと速度を落とした時、ゴブリンが八つ裂きになった。


「え?」


驚いて完全に足が止まる。

視線を男の子に向けてもその男の子は首を傾げるだけだった。


三回ほど同じことが起こった頃には森を抜けていた。

父親の元からずっと走り続けていたため息が上がっている。

あと子供は意外と重い。


「えっと、魔術士、だよね? 身体強化はできる? じゃあ後は一人で行けるね?」


男の子が頷くと下に下ろす。


「私急いでるから先にいくね」


そこでルルは男の子と別れ、街へ向かう。

街へ向かって走っていたルルは門を通過し、そのままギルドまで走り込む。


「すみません。ゴブリンの森でリーダー級複数にゴブリンがたくさん、武装したのと、たぶんメイジもいます。今すぐ救けをお願いします!」


女の子はカウンターに駆け寄り、カードを渡しながら要件を告げる。

突然ギルドに飛び込んできた小さな女の子に依頼を探していた冒険者達の注目が集まる。


「本人確認をします。そこに手をかざしてください」


ギルドの受付嬢が示したのは魔力の質を測る装置だ。

先ほど渡したカードに登録されている魔力と比べることで本人かどうかを確かめるのである。


「確認しました。緊急依頼です! ゴブリンの森にて、リーダー級とメイジ含む武装ゴブリン多勢、D級以上を三グループです!」


ギルドの受付嬢が内容を確認し、緊急依頼として冒険者に呼び掛ける。

すると注目していた冒険者の中から、


「“一陣の風”参加だ!」

「“風刃”参加する!」

「“水乱舞”参加するわ!」


即座に三つのパーティーが名を上げる。


「“一陣の風”、“風刃”、“水乱舞”の参加を確認しました。ではご武運を祈ります」


受付嬢が承認するとすぐに冒険者が動き出す。


「じゃあお嬢ちゃん案内を頼むぜ」

「あっはい! よろしくお願いします」


冒険者はすぐに馬を用意し街を出て、ゴブリンの森に入る。

ルルは“水乱舞”のリーダーに乗せて貰っている。


これだけのメンバーが揃っているためゴブリンだけでなくオーガも一匹程度ならすぐに片付く。

森の中を進んで行くと前方から戦闘の音が聴こえてきた。

目の前のオーガが振り返り、雄叫びを上げ、ゴブリンを数体仕向けてくる。

それを一瞬で斬り倒すと、オーガの向こう側に崖を背に複数の商人を護るように戦う冒険者のパーティーが見えた。


「畳み掛けるぞ!」

「おう!」


“一陣の風”のメンバーがオーガを引き受け、その間に他のメンバーが脇をすり抜けて中と合流する。


「お待たせ!」

「支援する」

「助かる!」


女の子が商人に声を掛ける。

そして、冒険者がパーティーごと前線の隙間を埋める。


「ルル! 無事だったか! よかった!」

「お父さん! 間に合って良かった!」


ルルは父と抱き合う。


父が相手にしていたゴブリンは今来た冒険者達が蹴散らしていく。

一瞬でそれらの冒険者を蹴散らすとすぐに前線に加わっていく。


「おい! 何でリーダー級がこんなにいるんだよ!」

「知らねえよ! そもそも普通のゴブリンとオーガだけなら助けなんて呼ばねえよ!」


元々ルル達商人が雇ったパーティーが五人四人二人の三パーティーだ。

どのパーティーもランクDであり並の実力はある。

実際、圧されながらも今の今まで耐えていたのだ。

そこに、更に三パーティーも加われば明らかにこちらが有利になる、筈だった。


援軍が駆けつけるとほぼ同時にゴブリンの軍勢にも援軍が来たのだ。

それでも魔術士が増えただけあって、圧されていた状況から拮抗した状況になっただけましかもしれない。

ちなみにシンは好きなだけ魔法を使える状況に心躍らせ、いろんな魔法を試しているためほとんど攻撃になっておらず、わずかに足止めしているだけだった。


「おい! あれを見ろ!」


“風刃”の魔術士が叫ぶ。

杖で指された先にいたのはゴブリンキングだった。


魔物は、魔力が高まるに連れて肉体を変化させるが、ゴブリンの場合パワー重視で強化したらオーガ、オーガリーダーに、知力重視で強化したら武装ゴブリン、更にゴブリンリーダー、その上にゴブリンキングがいる。

因みに、魔力が高ければ必然的にパワーだけでなく知力も上がるので、オーガもそれなりに戦略を立て指揮をとる。


「な!ん!で! キングがこんな所まで来てんだよ!」


前線で戦っている誰かが叫ぶ。

そもそも、このゴブリンの森には廃都市が包まれており、ゴブリン達の本拠地はそこなのだ。

それでも、ランクDのパーティー五つとランクCのパーティーがいるのだ、一番強いゴブリンキングだってランクCなのだからすぐに片付いても良いはずだった。

それなのに未だ戦闘が続いているのはゴブリンの数が多いだけでなく、その指揮をとる者も多いからだった。

一番弱いただのゴブリンなら剣を振るだけで倒せるのだが、武装したゴブリンはやや賢いだけに手間がかかる。

冒険者一パーティーに対してゴブリン三部隊で当てられているのも苦戦の理由だ。


「私達が大技を使うわ! カバーして!」

「了解!」

「任せろ!」


“水乱舞”の三人が下がると、他のパーティーが戦闘範囲を広げる。


「「「水よ、水よ。その流れる力を此処に集わせ、その自在な形を攻撃に変えよ。全ての始まりと経過を見届け、全ての終わりを告げし物。世界に刻まれし基盤の一つ、集いし力は万物を知らしめ、変わりし形は全てを生み出す。その姿をここに顕現せよ、『水竜アクアドラゴン』」」」


“水乱舞”の三人が舞を舞いながら、円を描くように位置を入れ替わり、徐々にその円を大きくしていく。

呪文を唱え終わると同時に三人とも手を円の中心に向けて翳す。

すると三人が立っている位置を結んだ三角形(トライアングル)といくつかの円を組み合わせた魔法陣が浮かび上がる。

次の瞬間、魔法陣から呪文の通り、水の竜が出現した。

そのまま水竜は戦闘中の冒険者の頭上を通り抜け、ゴブリンの後陣を攻撃していく。

十匹に増えていたオーガを五匹消し飛ばし、三十匹以上いた武装ゴブリンを半分程消し飛ばし、ゴブリンキングにその牙を向ける。


「ゴギャ、グギャ、ゴギャグギャギャ」


それに対抗するようにゴブリンキングが声をあげると、ゴブリンキングの持つ剣が光を帯びる。

水龍の牙が届こうとしたところで“水乱舞”の槍術士が魔力切れで倒れ、魔法陣が消える。それに伴い、水竜が崩れ、大量の水が飛び散った。

それと同時にゴブリンキングが剣を振るう。

巨大な風の斬撃が生み出され、飛び散る水しぶきとゴブリンの死体を切り裂きながら進む。

シンはその大きな二つの魔法に目を取られ、思った。


(……なんか、無駄の多い魔法だな)


シンは一度手を掲げた後、もう一度、下から上に振り上げる。

魔力を動かし、魔術が発動する。

下から強烈な風が吹き、巨大な斬撃の軌道を上方に逸らす。


「ゴ、ゴギャ、グキャァ、ググガギガ」

「今だ! ゴブリンを殲滅するぞ!」


ゴブリンキングが指示を出すのと、冒険者が踏み出すのはほぼ同時だった。

となれば、ゴブリンの数が半分になった為冒険者の方が有利だ。

みるみるゴブリンとオーガを倒し、遂にはゴブリンキングにもその攻撃を届かせた。


「風よ、土よ。その形を変え、力よ集え、針のごとく鋭く、その力は爆発を生み出さん。巡り来るその力に一線を引き、決して逃がさぬ一撃となれ。『土風爆(アースウインドボム)』」


“風刃”の魔術士が唱えた呪文によりゴブリンキングの足下に魔法陣が浮かび上がる。

その瞬間ゴブリンキングは魔法陣の上から逃げようと横に飛ぼうとする。だが、シンが魔術で念力を使いキングの動きを止めた。

そして、魔術士の魔法が発動する。地面が針状に変わりゴブリンキングを串刺し、次の瞬間ゴブリンキングの体内で爆発が起こり、木端微塵になった。

すると、それを見たゴブリンの残存兵達は逃げ始める。

冒険者にそれを追う気力は残っていなかった。

こうして森の中で突発的に起こった戦闘が終わる。

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