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魔導伝ー神が覗く物語ー  作者: 虎寅
第三章 寄り道の旅路
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野菜襲来 Verノーマル

ミーハを出てからひと月が経つころ。


「そろそろ」


馬車の中の静寂を破ってシンが呟く。

反応を示したのは両隣に座るルルとファルナだ。

シンに寄りかかっていたファルナは肩に載せていた頭をどけ、立ち上がる。


「じゃあ、暫らくお別れね」


次いで立ち上がるシンにルルが声をかける。


「長くても十日だと思う。またね」


そう言い残してシンはファルナの手を取り、転移魔法を発動する。

僅かに光を放ち、シンとファルナの姿が消える。


ベジディザの反応範囲に入らないようにするためだ。

上位のギルドや貴族、大手商会などの広い情報網を持つ者の間では、ベジディザの存在は伝わっている。

しかし、その詳細は全く知られていない。

つまり、ただの空飛ぶ野菜でしかない。

だが、世界の先駆者である魔導師からしてみれば、その機能は難しいものではなく、どのような効果を持つかを知るのは割と容易である。

その魔導師曰く、ベジディザは魔力に反応して速度を上げるらしい。故に常人よりもはるかに膨大な魔力を持つシンとファルナはこの場を離れなければならなかった。



✩ ✩ ✩ ✩ ✩



ルル達の商隊は翌日の夕方近くに次の街に着いた。

シンがファルナを伴って転移した時点でベジディザが近くまで来ていることは分かっていたが、実際に支店で確認してみると、明日にも街にぶつかる予測らしい。ギリギリ間に合った形だ。

というのも、ベジディザが運ぶ野菜の量は膨大であり、人手はいくらあっても足りない。

事実、街にはルル達の他にも多くの商会の援助が駆けつけてきており、非常に賑わっていた。


「私たちは何をすればいいかしら?」


ルルが支店にある通信用魔道具を使って周辺の街の支店と連絡を終えるのを見計らって、サフィアが声をかける。勿論野菜の災害、ベジディザに対してだ。


「少なくとも、今日することはないわ。いつも通り仕事が終わったら宿に行くから、待っててくれる?」

「分かったわ」


ヴェルマ、サフィア、チーシェル、メシス、シャルマの五人はルルが自分の給料から資金を出して雇っている私兵だ。

護衛で雇う冒険者に払うはずのお金の一部から多少出しているものの、ヴェルマ達に払われる給金は半分以上がルルのポケットマネーだ。

大手商会の副会頭の立場をもってして得ている給金は半分以上これに消えている。

そのため、サフィアとチーシェルが加わる前は、ルルの仕事が終わるまで店で警護という名目で置いていたのだが、加わってからは街の店の中に居る間は交代制で警護に当たって貰っている。


ヴェルマとメシスは先に宿にいるはずだ。

シャルマは最近何故かサフィアと一緒にいることが多く、今もサフィアとチーシェルと共にルルの仕事が終わるのを待っている。


「シャルちゃんも宿に行ってていいのよ?」

「ううん。ここにいる」


サフィアが気にして声をかけるが、シャルマは首を振って断る。

その様子にサフィアは(遂に兄離れなのかな?)と思わなくもないが、人との付き合い方を色々と考えてしまう年頃なのだと、踏み込まないようにしている。

割と空気を読まない(読めない)チーシェルも、シャルマの態度には何か感じているが、口にする様子はない。

閑話休題。


件のベジディザは街の南東方向から来て、北西に抜けていく。

よって、ルル達はこの街で野菜を仕入れたら北東に向けて進むことになる。

ここから北西にある街では、ハンデル商会の他の商隊が待ち構えて、南西に野菜を運ぶ手はずになっている筈だ。


ルルが今しているのは資料作りだ。

野菜がどれだけ採れるかは分からないが、形式として書類を作り、空欄を埋めるだけにしておけば以降の作業がスムーズになる。

そういった事前準備を欠かすことは商人として出来ない。


今、店の屋根では野菜を捕獲する網を設置している筈だ。

明日は店に残り、屋根の上で野菜を収穫する部隊と街の外まで出向き街壁にぶつかって止まった野菜やそれ以前の野菜を採ってくる部隊に別れて出来るだけ多くの収穫が求められる。


ルルは店で留守番をしている。特に部隊に交ざる訳でもなく、資料整理や在庫整備が仕事だ。

街の外にはイプラさんが向かうことになっている。


今回のベジディザは商会として大きな利益を出せる大事な仕事だ。

そう、ルルが気合を入れ直したところで、シャルマがお茶を持ってくる。


「いつもありがとう」

「頑張るのも大事ですけど、しっかり休んでくださいね」


思ってもみないことを言われ、ルルは目を丸くしてシャルマを見やる。

シャルマはルルに微笑んで下がる。下がると言っても退室するわけではないが。

部屋の中央の机で会話をしながらルルの仕事が終わるのを待っている三人の女性の様子を目に入れ、ルルは気持ちを落ち着けて、再び書類と向き合うのだった。



 ✩ ✩ ✩ ✩ ✩



翌日。

早朝から街中が騒がしくなっている。

原因は勿論ベジディザが来るからだ。既にその姿は街壁から見える距離まで来ており、魔物の襲来時に使われる鐘が高らかに、街中に響いていた。

その進行速度は時速20キロ。下手に直撃すれば致命傷だが、目で追えない速度ではないし、体が反応出来ない速度でもない。


街中が騒然とする中、ルルは支店の一室でお茶を啜りながらのんびりと寛いでいた。

というのも、現状ルルに仕事がないからだ。

街の中に置いてはこの支店で働く従業員が、街の外に置いては隊のメンバーと雇った冒険者、それとヴェルマとチーシェル、メシス、シャルマが出向いている。サフィアには護衛で残って貰った。

結局のところ、ルルの仕事は収穫後の量の確認と資料作り、父への報告になる。

よってベジディザが通過するまでほとんど仕事はない。


昼頃にはベジディザの先端が街に届き、より一層慌ただしくなっていくのだった。



 ✩ ✩ ✩ ✩ ✩



ルルがのんびりと休んでいる一方で、イプラはヴェルマ達と冒険者達を率いて街の外に出向いていた。


「皆さん! おはようございます! 今日は昼頃にはベジタブルディザスターが飛来すると予報されています。それが来ましたら皆さん、切るなり射るなりして野菜を収穫してください。落とした野菜は私の周辺に運んでください! 皆さんの活躍がそのまま報酬に繋がりますので皆さんの御尽力を期待します!」


イプラが声を張り上げて指示と発破をかける。

既にベジディザは目に見えている。まぁ目に見えているからと言って手が出せるとは限らないが。

それでも、大量の野菜が空を飛んでいる光景は圧倒される。

商人が冒険者全員に袋を手渡しながら、再度指示を出していく。


暫らく時間が空いて、ベジディザが近付いてくる。近付いて来るにつれて、座っていた冒険者が立ち上がり、武器を構え、ベジディザの方へ歩いて行く。


「ヴェルマさん達も行って構いませんよ?」


イプラが陣取る馬車の傍で待っていたヴェルマ達に声をかける。

それを聞いて、待っていましたと言わんばかりに立ち上がるのはチーシェルだ。


「野菜狩りだ~」


意気込んで出ていくチーシェルは歩く冒険者を抜いて、先頭まで行ってしまう。

それを追うようにヴェルマとメシスとシャルマが続く。


先頭まで行くと、飛翔する野菜との接触はすぐだった。


「「「「身体強化(フィジカルブースト)」」」」


野菜の速度は馬よりは遅いが、普通に走るよりは速い。

故に身体強化は必須である。

ヴェルマ達に続き、周囲の冒険者達も身体強化を発動する。


早速メシスとシャルマが矢を射る。

その矢は真っ直ぐ先頭の野菜に突き刺さり、矢が刺さった野菜は飛ぶ力を無くしたように墜落していく。


「はぁぁぁ!!」

「ふん! たぁ!」


ヴェルマとチーシェルが前に出て野菜を切っていく。

刃がかすっただけでは止まらないが、少し深く切れればすぐに墜落する。


「何だ。意外と手応えがないな」

「そうね。思ってたよりも簡単?」


ヴェルマとチーシェルが落胆を露わにする。

二人は冒険者をしていただけあって、大きな仕事イコール強い魔物という考えが残っている。

それは勿論周囲の冒険者も同じだ。

切られて地面に落ちる野菜に安堵と落胆が覗える。


「落とした野菜は後ろに運べだってよ!」


後ろから冒険者の声が聞こえる。

言い方からして更に後ろから伝えられたものだろう。


そこで周囲を見ると、そこそこの数の野菜が転がっている。その数は少なくとも抱えきれるものではない。

ヴェルマとチーシェルは嫌そうな顔をメシスとシャルマは微苦笑をして、顔を見合わせる。

そして、飛んでくるベジディザを見るが、一向に終端は見えない。見える気配すらしない。

その間も飛んでくる野菜を切り落としている為、その数はどんどん増えている。


そこで四人は朝イプラに渡された袋を何に使うのか理解した。

飛んでくる野菜は強化した肉体にダメージを与えるとは考えにくいが、突き飛ばすくらいの威力はある。

のんきに野菜を拾っていればたこ殴りである。割と痛そうである。


故に視線を交わして役割を決める。

チーシェルがぶつかる野菜を切りその間に三人が野菜を袋に詰める。

そして、全力で撤退。


「ああ、お疲れ様です。戦果は……おおっ! 流石ですね」


イプラの下まで戻ると声をかけてくる。回収した袋三つ分の野菜は商人が受け取り、同時に別の袋が渡される。

ここを離れてから三十分しか経っていない。

身体強化をしているヴェルマ達からしたら、その程度で疲れることは無い。だが、たった三十分で精神的疲弊は割と大きかった。


「では、頑張ってきてください」


イプラの見送りを受けて、再び前線に向かう。終わりの見えない作業が続くことがはっきりと予想できた。



 ✩ ✩ ✩ ✩ ✩



繰り返される収穫作業は日が沈むまで続いた。否、日が沈んでからも人を交代して続いていたらしい。

ともかく、ヴェルマ達の仕事は日没で一区切りとされ、宿に戻れたのだ。


「つ、疲れた……。」

「もう野菜はいいです……。」


意気込んで先頭まで向かったヴェルマとチーシェルは力尽きていた。

だが、そこにイプラの容赦ない言葉が襲う。


「何言ってるんですか。まだ最低でも三日は続く見込みですよ?」


シンの見込みでも、これまでの移動速度から考えても、最短三日、長ければ八日はかかると考えられている。

その言葉にヴェルマとチーシェルが顔を上げ絶望を露わにする。

メシスとシャルマも口元をひくつかせている。



 ✩ ✩ ✩ ✩ ✩



結局、ベジディザが完全に通過するのには五日を費やした。

だが、寧ろルルの仕事はここからだ。


五日間奮闘したヴェルマ達や、イプラ、商隊のメンバー、支店の従業員は疲れて休みをとっている。

それは街の市民も同じで、街の市民の半数を占める警備兵と冒険者は疲労で寝ている。もう半分を占める農民は冒険者の手が借りられず、仕事に邁進している筈だ。宿屋はともかく、飲食店は割と忙しい。

街の警備は騎士団が街中に散らばって代行している。


今日一日を休日として、明日にはこの街を出る予定になっている。

ベジディザが離れていないため、まだシンは戻ってこれない。どこかでこちらの様子を窺ってはいる筈だ。

ルルは資料を纏めながら、弟分との再会を楽しみに待つのだった。

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