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魔導伝ー神が覗く物語ー  作者: 虎寅
第三章 寄り道の旅路
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これからのこと

ミーハに到着したのが昼過ぎ、シンがサフィアとチーシェルを引き連れて宿に戻ったのは日がだいぶ傾いてからだった。


早めに仕事を終えたのか、ルルは宿に戻っており、警護のヴェルマ達も同じく宿に戻っていた。


「サフィアさん! チーシェルさん!」

「ヴェル君! メーちゃん! シャルちゃん! 心配かけてごめんね。ただいま」


先にヴェルマ達の部屋にサフィアとチーシェルを向かわせ、シンはファルナを寝かしに部屋に戻り、ルルに簡単な説明をする予定だ。


部屋に顔を見せた二人にメシスとシャルマが涙を流して歓喜し、駆け寄り、抱き着く。

ヴェルマも二人の姿を目にして、驚き、手で顔を覆い、肩を震わせる。


暫らく再会を喜び合うも、アシウェルとウォーグルの存在が足りないことに、その歓喜も打ち止めとなる。

一瞬重い空気が漂いかけた所に、扉をノックして、シンとルルが部屋の中に姿を見せる。


「感動の再会に水を差してごめんなさい。でも、先にこれからの話をいいかしら?」



 ✩ ✩ ✩ ✩ ✩



部屋の中で居住まいを正して、大切な話をする空気を作る。


「まず、自己紹介をさせて貰うわね。私はルル。ハンデル商会の副会頭をやらせて貰ってるわ。シンの……姉みたいな者で、ヴェルマさんとメシスさんとシャルマさんの雇用主ってとこね」


ルルは話を切り出し、先に自己紹介を済ませる。

その佇まいには優雅さと高貴さがあり、それでいて相手の気分を損ねさせない気兼ねさが見て取れた。

昔から容姿端麗なルルだが、少し前から態度も堂々としたものになり、美しさに拍車がかかっていた。

自分の紹介を終え、さりげなくサフィアとチーシェルに同じことを促す。


「私はサフィア。冒険者……の筈よ」

「私チーシェル。同じく」


名乗り、職を告げる。

だが、言葉を濁す様子にシンが訊ねる。


「はずっていうのは?」

「その、一年前位に護衛の依頼に着いてヴィッカを出たんだけど、旅の途中から意識が無くて、気付いた時にはさっきの牢屋の中だったのよ」


サフィアが行方不明の真相を語る。


「これは推測ですが、恐らく嵌められたのでしょう。依頼してきた商会は裏では奴隷商、護衛の一部は専属雇用か買収済みの冒険者。雇った冒険者を薬で眠らせ、意識の無い内に闇市に売り払う。魔法が使える人は貴重ですから。それにお二人とも御奇麗ですし、さぞやいい金になったことでしょう」


ルルは言いながら不機嫌さを露わにしていく。


「それで、アシウェルさんとウォーにぃ、じゃなくてウォーグルさんは?」


姿のない二人についてシンが問う。


「二人とも私たちを庇ってもうどこかに売られちゃったの」


シンの問いかけに、サフィアが語り出す。


目が覚めたら既に牢屋の中にいて、状況が分からず最初は混乱したものの、ウォーグル君のおかげで割とすぐに落ち着けたの。それからあそこの管理人さんみたいな人に話を聞いて、そこが奴隷市場だって分かった。

それからは嵌められたことを管理人さんに訴えて、でも冒険者カードも他の武器も無くなってて、そしたら管理人さんが、自分たちの確実さを証明出来たら解放してくれるって契約を結んで、その時の条件が、男二人が今すぐ鉱山に売られて金になるか、女のどちらかが好色家に売られて金になること、だったの。

三年以内に証明出来なければ商品の言い分は聞く必要ないからって三年だけ待ってくれる契約。

そしたらウォーグル君が一早く反応して、売られるのは俺とアシウェルさんでいいって言っちゃって、管理人さんもすぐにそれで契約を結んじゃって、私が口を挟む前に二人ともいなくなっちゃったの。

それで一年くらいした今、シン君が見つけてくれたって感じ。


必要な事実だけを簡単に整理して話し、一息入れる。


「二人が売られるより、私一人の方が良かったんじゃない?」

「いや、それはアシウェルさんとウォーグルさんの威厳の問題だろ」


数の違いを気にするサフィアにヴェルマが答える。その答えに首を傾げる女性陣。

可笑しなことを言ったかと気にするヴェルマの言葉の後を継いで、シンが答える。


「自分の奥さんを他の男に抱かせて助かろうだなんて、男としてのプライドが許しませんよ。それに心理的なものもあるでしょう。一人でいると心細くなりますから、サフィアさんとチーねえ、じゃなくてチーシェルさんを一人にするのは考えられませんね。ウォーにぃ、じゃなくてウォーグルさんがどこまで考えたかはわかりませんが、少なくともその管理人さんとやらはそこまで考えてるでしょうね」


シンの答えにヴェルマが強く頷き肯定する。

女性陣はルルを除いて納得のご様子だ。


ヴァハラ帝国では一夫多妻制が採られている。その考え方は貴族だけでなく、農民や冒険者の間にまで広がっている。というのも、ヴァハラ帝国の帝都以南の地域に置いては、どうにも女性の方が多く生まれるらしい。酷い時には妻を三人娶って、子供を産ませても全部女児ということもあるらしい。それでいて男性中心で世界が回っているのだから、甚だ集団心理というやつは恐ろしい。


だが、ヴァハラ帝国の北西側に位置する旧ヴァルキ王国では一夫一妻制が採られていた。貴族の間でも一人の女性を一生かけて全力で愛することが美徳であるといった考えが広まっており、二人以上妻を抱える貴族は外道と呼ばれ、蔑まれる状態だった。だからか、旧ヴァルキには女性の貴族が割と多く、市民やスラム民にまで配慮が行き届いていた。その分、戦には滅法弱かったが。


「まぁそれはいいわ。それで、お二人はこれからどうしますか? 私としてはお二人もヴェルマさん達同様に専属で雇いたいと思っていますが」


ヴェルマ達を雇っていてサフィアとチーシェルは雇わないという考えは出ないだろう。


「その、申し出は嬉しいのですが、旦那を探したいので……」


商隊の動きに合わせていたらアシウェルとウォーグルを探すことは出来ないだろう。

自分たちの事を思い、売られていった二人をこのまま放っておくというのはあり得ない。


「手掛かりはあるの?」

「はい、確か東の鉱山に売りに出すと言っていましたから、東の方にいるかと」

「東の鉱山って言うと、国境の山脈かしら? なら丁度いいわ。本当はこれから北に行く筈だったんだけど、急遽東に向かうことになったのよ。一時的にでも雇われない? 衣食住はこっちで何とかできるわよ?」


本来この後の旅路は、八年前と同様の街を通ってヤツバに向かうはずだった。

それなら、とサフィアとチーシェルも一緒に旅をすることになる。


「それにしても、何で急に東へ?」


もっともなヴェルマの問いにルルが答える。


「東の方からベジディザが来るそうなのよ」

「「「「「ベジディザ?」」」」」


聞き覚えのない単語にシン以外の五人の声が重なる。


「ベジディザっていうのは簡単にいうと空飛ぶ野菜よ。詳しくは分かっていないんだけど、まぁ野菜が空を飛んでくるという自然災害の一種と捉えられているわ。三年前にも南の方で確認されたそうだけど、食料不足の領土における補充みたいなものね。災害というよりは恩恵と言った方が正しいんじゃないかしら」


ルルの説明に五人が各々興味深そうに反応を見せる。

しかし、シンだけは嫌そうな顔をする。


「シン?」


シンの様子を見てヴェルマが声をかける。


「僕、あれ、好きじゃないな」

「シンはベジディザに遭遇したことあるの?」


重々しく口にしたシンにルルが問いかける。

シンが肯定すると、更に重ねて問う。


「どんな感じだった?」

「まぁ、なんていうか、野菜の災害だったよ。只々ひたすら野菜が音速で飛んでくるの」

「ちょっと待って、音速? そんな速さはほとんど確認されてないわ。精々馬と同じくらいの速さよ」


シンの答えにルルが割って入る。


「僕も聞いただけだから詳しくは知らないんだけど、魔力に反応して速さを変えるらしいよ? 僕が見たのは魔導師の島だったから、もうね、とっても速かったよ」

「魔力に反応……。それじゃあ……」

「うん。僕やファルナが近付けば速くなること間違いなしだと思うよ」


シンの言葉を聞いて、僅かに考え込むルル。その言葉の先をシンが口にする。

そこまで聞けば、聡明なルルにはシンが何を危惧しているのか理解できた。そして、その先の答えをシンがもう出していることも気づいた。


「そう、それじゃあ、シンとファルナちゃんは……」

「ちょっと待てよ! まさかここで別れるなんて言わないだろうな!」


ルルがシンの考えを読んで口にしようとしたところでヴェルマが口を挟む。勢いで立ち上がったヴェルマの裾をシャルマとメシスが、シンとルルに心配気な視線を送りながら、摘まんでいる。


ヴェルマの荒げた声に驚き、ルルが振り返る。


「早とちりですよ、兄さん」


ルルと同じように驚きながらも諫める。

シンの中でヴェルマは、考えるよりも先に手が出るように見えて意外と考えてる、という認識だったために今の言動は予想外だった。

ヴェルマとしては長い年月を越えて再会した家族とまた別れることになるのではないかと焦った結果なのだが。


「僕は転移魔法が使えるから、一時的に離れるくらいは簡単だよ」


シンが先程のルルの言葉の続きを述べる。


ヴェルマはシンの実力を度外視していたが、ルルはシンの実力を踏まえて上で話をしている。

というか、ルルはシンに出来ないことはないとまで思っている節がある。


「そう言う訳で、明日には東に向けて出発するから、改めてよろしくお願いしますね」


商隊は新たにサフィアとチーシェルを護衛に加えて東を目指すことが決まったのだった。

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