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魔導伝ー神が覗く物語ー  作者: 虎寅
第三章 寄り道の旅路
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ミーハの街 再び

ヴォーンズをシンの魔法頼りに抜け出してから数日。

一行はミーハの街に入ろうとしていた。ヴォーンズとミーハの間にあった街は何事も無かった為割愛。

強いて言うならヴァルキの逃民によって住民の総数が増えていたくらいか。


とにもかくにも一行はミーハの街に入り、ハンデル商会の支店の前に着いた。

シンはこのお店を見るのは二度目になる。ルルもこのお店を見るのは二度目になる。

建物を見上げると懐かしい気持ちが込み上げて……来なかった。


商店なんてどれも似たような作りだ。八年前の子供の頃に数日見た程度の建物なんか覚えている筈がなかった。


「さ、仕事仕事」


時空袋を持っているルルが動かないと全員の作業が滞ってしまう。

ルルは気持ちを切り替えて仕事に戻る。

既に昼は過ぎているが、まだ日は高く、だいぶ時間はある。


「ルルお姉ちゃん、ちょっと街を見てくるね」


ルルにそう伝えて、シンはミーハの街に出る。当然ファルナもついて来る。


支店を出て、商店街を西へ真っ直ぐ進む。

商店街の終わり、住宅が並ぶ少し手前で裏路地に入り、更に進んでいく。

商店街の活気が遠のき、不気味な静けさが漂う。


「シン? どこに向かっているの?」


いつもなら商店街の大通りを中心に街を見て回るのに、目的地があるかの様に真っ直ぐ進むシンにファルナが問いかける。


「んー、たぶん……奴隷商会」


シンは自分が向かっている場所の予想を口にする。

その言葉の奴隷という部分にファルナの目に恐怖と不安が姿を見せたのをシンは見落とさなかった。


「先にお店に戻ってて」


シンが戻るように言うと、ファルナは緩々と首を振り否定する。

シンはファルナの過去を知らないが、奴隷に対して良い思いが無いことは明白だった。


「じゃあ行くよ」


ファルナの手を取って歩き出す。指を絡めて手を握ると、強く握り返してくる。


目的の場所と思われる建物は、扉の向こうから騒がしさが伝わってきて、昼間っから酒を飲んでいる連中がいることが分かる。

その扉を開けて中に入る。

騒いでいた声が止み、店の中にいた全ての人の視線がシンに向けられる。ファルナは縮こまってシンの腕に捕まっており、だからこそ堂々と歩くシンに視線が集まる。


扉から真っ直ぐ進み、正面のカウンター席まで進む。


「ここは子供の来る場所じゃ、ないがね」


店主と思しき老齢の男性がグラスを拭きながら、シンに目をやり、述べる。

シンはその視線を真っ向から受け、ローブの中に手を入れ、ローブの内から、かつてこの街で貰った一枚の券を取り出してカウンターの上に置く。

店主はグラスと布巾を置くと、その券を手に取り目をくれる。

一瞬目を見開いて驚きを露わにするも、すぐにそれを隠し、券を返す。


「階段上って正面、一番奥の部屋だ」


店主は右側の階段を指で示しながらそう告げる。

シンは券をローブの内部にしまって、店主に会釈をすると、階段を上っていく。

正面、一番奥の部屋。真っ直ぐ歩いて行き、その扉をノックする。


「入れ」


中から許可が下りたのを確認して、その扉を開く。

ファルナが腕にしがみついている為、動き辛い為、中に入って、扉を閉めるのに念力を使う。

部屋の中には青年が一人いるだけだったが、不自然に閉まった扉に目を細める。


「まぁ、座れよ」


青年は奥の机から立ち上がると、手前にあるソファーに移動し、その対面を示して座るように促す。

その所作からも青年が手練れであることが覗える。

『覚醒』を使う前のデュラハンよりは強いのではないだろうか。


青年の言葉に頷き、シンはソファーに腰を掛ける。ファルナはその左側だ。

同時に青年も対面に座る。……様に見せかけて腰の剣を一閃。


真っ直ぐシンの首元へと向かうその剣は、しかしシンのローブを斬ることは叶わなかった。

高い金属音が響き、青年は思わぬ手応えに顔を顰める。

青年の振った剣は硬化したローブに根負けし、刃こぼれを起こす。


一瞬の出来事に、シンは目を閉じたまま動じない。

ファルナは驚き、怯え、竦む。震えるその手にシンは自分の手を重ねる。

シンはゆっくりと目を開くと、空いた右手でローブの中から先程の券を取り出し、ソファーの間の机の上に置く。


「なかなかいい服着てんじゃねえか」


青年は口元に笑みを浮かべながら、刃の欠けた剣を鞘に納めると後ろに放り投げて、シンの出した券を手に取る。


「ちょっと思い出すから、待ってろ」


そう言って、青年は腰を下ろし、券を睨み付けながら記憶を探る。


「………………」

「………………」


部屋の中に沈黙が広がる。待つこと約五分。青年が口を開く。


「……確か、……八年前、……動かないで家のバカどもを退した坊主。そうだ、思い出した。八年前の坊主だな? そんなお前が傭兵団に何の用だ?」

「地下」


記憶を呼び起こし、シンのことを思い出した青年の問いに、シンは一言で答える。


「あぁ、そっちか。……どうやって知った?」


青年はシンの言葉に一瞬だけ目を丸くして驚き、溜息を吐いて顔を伏せる。

が、それも束の間、鋭い目つきでシンを睨み付け問う。

シンはその視線を受けつつも流し、口を閉ざしたままだ。


「はぁ、答える気は無し、か。……まぁいい。どうせ俺じゃお前にゃ勝てんわけだし、付いて来な。マーケットに案内してやるよ」


青年は再度溜息を吐くと、立ち上がる。

部屋を出て、階段を下りて、先程の酒場に出る。


「リーダー? どうしたんですか?」

「何でもねぇよ。おい、バッシを呼んでおけ」

「かしこまりました」


酒場で酒を煽っていた男の一人が訊ねる。

だが、青年は大して伝えず、カウンターの中の老齢の店主に声をかける。

店主はそれを承ると、同じくカウンターの中で働いていた一人の男性に目で合図を送る。受けた男性は軽くお辞儀をすると、店の奥に引っ込んでしまう。


「おい、行くぞ」


青年はシンに声をかけて、そのまま階段の正面にある扉に向かう。


扉の奥には廊下が続いており、一番奥の部屋に向かう。そして、一番奥の部屋に入ると、そこには何もなかった。四方を壁に囲まれ、扉は今入って来た一つだけ。

しかし、青年の足取りは止まることなく、部屋の奥まで行くと、壁を押し、仕組みを起動させる。

青年が押した壁のすぐ隣が横に動き、地下へと続く階段が姿を見せる。


「行くぞ」


それとなく感動しているシンに青年は声をかけどんどん下りていく。


階段を下りていくと、そこには鉄格子が並んでいるのが見えた。落ち着き始めていたファルナだったが、それを目にした瞬間、再びシンに強くしがみついた。


「……ごめんなさいごめんなさいごめんなさい…………」


しがみついていて、物凄く近くにいるシンにすら聞こえるかどうかの声で、ファルナがひっきりなしに呟いていた。

シンは一度だけその頭を撫でてあげると、青年の後に続く。階段はまだ下に続いている。


「ここから下がマーケットだ。好きなのを探しな」


最初の鉄格子から更に二つほど階を下りた。

確かにこの階から下にかけて魔力を持つ者の反応がいくつもある。

だが、シンは目的あってここに来ているのだ。真っ直ぐ目的に向かうべきだろう。


この階にいる者には残念ながら用はない。

シンは一つ階を下りる。ここだ。迷うことない足取りで、目的の魔力源に向かう。

先程とは逆で、進むシンの後を青年がついて来る。

歩く人の足音に何を感じるのか、周囲の、鉄格子の向こうの人達の動きが機敏になる。


そして、シンは目的の魔力源の前に来る。鉄格子の向こうには二人の女性の姿があった。

その首にはかつてファルナが付けていた魔力の流れをおかしくする首輪が、足には壁に繋がれた鎖が着けられていた。


「サフィアさん、チーねー、じゃない、チーシェルさん」


名前を呼ばれた二人の女性がハッとしてその顔を上げる。

シンと目が合う。


「こんな所で何してるんですか?」

「「……誰?」」


三人の疑問の声が重なった。



 ✩ ✩ ✩ ✩ ✩



酒場地下の牢屋の前では気まずい雰囲気が漂っていた。

サフィアとチーシェルが囚われている鉄格子に背を向け、シンは座り込んでいじけていた。

わざわざこんなとこまで来て、忘れられている事実を突き付けられて、落ち込まない方が無理だろう。

否、タイミングの問題もあった。ほんの一分程度しか顔を合わせたことのない、青年がシンの事を思い出したというのに、半ば家族の様な存在であった者が思い出せないというのも現実の残酷さを引き立てていた。

ファルナは相変わらずシンの左腕にしがみついて縮こまっており、一緒に身を小さくしている。


見ている青年もシンの名前は知らないし、何よりシンとサフィア、チーシェルの関係を知らない以上、余計なことは言えない。


そして、サフィアとチーシェルは突然現れた自分たちの事を知っている子供に驚き、そして、余計なことを言ったと後悔していた。しかし、シンの事を思い出せない以上なんて声を掛けたらいいのか分からず、必死に頭を働かせようとしているのだが、後悔ともし間違えたらという考えが頭に余計な思考を入れて、記憶を呼び起こせない。


場が動いたのはそれから五分後、新たに人が来てからだった。


「リーダー、……何事ですか?」

「バッシ! 良い所に来た! この状況を何とかしやがれ、命懸けで」

「え!? ちょ、え!?」


青年がバッシと呼ばれる中年の男性の肩を掴み、前に押し出す。

前に押し出されたバッシと呼ばれる男は驚きながらも腹を括り、シン達に声をかける。


「あのー、どういう状況かは存じませんが、仕事の方、早めに済ませて貰えやせんかね?」


声をかけてきた中年の男性に視線を送ると、シンは立ち上がる。


「この二人を解放しなさい」


シンはサフィアとチーシェルを示してそう告げる。

だが、それを聞いたバッシは難しい顔をして、何か考える素振りを見せる。


「あー、えーっと、そちらのしょ、お二人は少々事情がありまして、条件を満たさないとお渡し出来ないのですよ」

「条件?」

「はい、まぁ簡単に言いますと、そちらのお二人が存じている方が迎えに来れば解放、三年以内に来なければ商品として扱わせて貰うという契約でして」


バッシの言葉に視線がサフィアとチーシェルに集まる。

契約内容を話した時点で既にバッシは解放する気なのだ。

後はサフィアかチーシェルが嘘でもシンを知り合いだと言えば解放の条件は揃っている。のだが、正直なチーシェルは既に思い出すことを放棄して「知らん!」と言い切り、生真面目なサフィアは必死に思い出そうとやけになっていた。


自暴自棄な二人を見ていられなくなり、リーダーと呼ばれていた青年が口を挟む。


「因みに、坊主、名前を聞いてもいいか?」

「シン」

「「うそぉ!!??」」


シンの名乗りを聞いて、サフィアとチーシェルの驚きの声が地下に響いた。



 ✩ ✩ ✩ ✩ ✩



解放されたサフィアとチーシェルに魔法で服を創って着せ、酒場を出たシンは二人を引き連れて宿に向かっていた。

酒場を出たタイミングで気絶するように眠ってしまったファルナを背負って、前を歩くシンは名前を聞くまで思い出せなかった二人に対して少しばかり怒っていた。

サフィアもチーシェルも謝ってくるが、聞く耳持たずで歩き続ける。

結局シンが怒るふりを止めたのは宿に着く直前だった。

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