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魔導伝ー神が覗く物語ー  作者: 虎寅
第三章 寄り道の旅路
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襲撃

ミザロンの街に着いてから三日目の早朝。

今日はもうミザロンを出て、東方にあるヴォーンズに向かう。


いつも通りの時間に目を覚ますシンは、自分の寝台があるにも関わらずシンのベッドに潜り込んできたファルナを振り解いて起き上がり、着替えると魔力トレーニングを始める。

それに釣られるようにファルナが目を覚まし、同様に魔力トレーニングを始める。


魔力トレーニングを始めてすぐにルルが目を覚ました。

ヤツバに向かう二年では考えられない時間だ。


「ふわぁ……ん?」


ルルは周りを気にした様子もなく、乙女とは思えない欠伸をしてから、シンに気付き、赤面する。


「おはよう。ルルお姉ちゃん」

「おはようございます。お姉様」

「……おはよう」


ルルが気にしたことを気にした様子もなく挨拶をするシンと、敢えて言及しない態度をとるファルナに対して、自分の不甲斐無さを悔やみながらも挨拶を返す。

そこではっきりと目を覚ましたルルは洗面所で身支度を整えてから、シン、ファルナと共に宿を出る。

その際、隣の部屋にいるヴェルマとシャルマとメシスと合流する。

シンは三人が、特にヴェルマとシャルマが目を覚ましていることに驚いたが、メシスが苦労して起こしたらしい。


この宿は食堂を併設してはいないので、外に食べに行くことになる。

そして、朝食を摂ったら支店に出向き出立の用意をする。ヴェルマ達は別途馬を借りに行く。

既に支店の前では何人かで荷物の積み込みが行われていた。

続々と商隊のメンバーが集まり始め、荷物の積み込みも終わる。と言っても、半分以上はルルの持つ時空袋の中なのだが。

東門前に移動すると、準備を整えたヴェルマ達と冒険者の姿がある。


門が開く。ミザロンの街を出発する。



 ✩ ✩ ✩ ✩ ✩



ミザロンを出てから三時間ほどが経つ。

不意に馬車の中で座っていたシンが立ち上がる。


「どうかした?」

「ルルお姉ちゃんは顔出さないでね」


シンの行動に訊ねるルルに対して、シンは言うだけ言って御者台へ移動する。その後を追ってルルも御者台に向かう。

直後、急に馬車の速度が跳ね上がる。馬車の中も大きく揺られ、同時に商人達に不安を与える。

かと思えば急に馬車が停まる。


あまりにも不自然な行動にルルが御者台に顔を出すと、外では戦闘が繰り広げられていた。


「どういう状況?」

「それが、シン君が『ちょっと片付けてくるから待ってて』と言って前に行かれてしまいまして」


そこにシンの姿はなく、ファルナと御者をしていた商人だけであり、ルルが事情を聞くと、御者の方が要領を得ない答えを変えす。

ファルナの方に顔を向けると、


「シンが待っててって言ったんだから待ってればいいの」


そう言ってルルを馬車の中に押し戻す。

ファルナに押されて馬車の中に戻ると、他の商人達が事情を聞きたそうな顔を向けている。

ルルは肩をすくめて、


「まあシンがいるから大丈夫でしょ」


とりあえず、シンが戻ってくるのを待つのだった。



一方で馬車を降りたシンは正面に向かって歩いていた。

周囲から多種の魔物が襲ってくるが、腕も視線も向けることなく風の斬撃で屠っていく。

馬車に向かって飛び掛かっているのは冒険者やヴェルマ達が何とかするだろう。

シンの感覚ではヴェルマより強い魔物の気配は正面にいる一体だけだ。

数が多くて防御陣を潜り抜けるものはファルナに始末してもらうように頼んでおいたから心配することは何もない。


暫らく歩いて行くと、真っ黒な馬に跨り、真っ黒な甲冑を纏って、真っ黒なオーラを発する一匹の人型の魔物、デュラハンが悠然と佇んでいる。


「三日ぶりですね」


シンが近付くと、デュラハンは声をかけてくる。


「いえ、私にデュラハンの知り合いはいません」


しれっと答えるシンだが、デュラハンの意図を理解しての返答である。

その答えにデュラハンは目を丸くした後、愉快そうに笑い声をあげる。


「これは失敬。私はデュラン、騎士をしております。三日前は変装した姿で喫茶店でお会いしたのですが、覚えていませんか?」

「いえ、覚えていますよ。僕はシン。魔導師です」


馬から降りて名乗るデュランにシンも名乗り返す。魔法使いではなく魔導師と。

シンの名乗りに目を細めるデュランにシンが質問する。


「デュランさんはこんな所で何をしているのですか?」

「いえ、貴方を待っていたんですよ。来る二年後の戦争に貴方の様な不安要素を残して置きたくはなかったので」

「それで、どうするのですか?」

「申し訳ありませんが、ここでその命貰い受けます」

「お断りします」


淡々とした会話の終わりを告げるかの様に抜刀するデュラン。

一方でシンは動きを見せない。


「拒否権は、ございません」


デュランが走って距離を詰め、シンの首めがけて剣を振るう。

その間シンは全く動きを見せない。デュランの剣がシンの首元に届く、だが、その剣がシンの首を刎ねることはなかった。


「ふむ、これはこれは」


シンの首元を覆うローブにデュランの剣が当たり、防いだのだ。

デュランはシンのローブを眺めながらも、剣を引き、後ろに飛び退く。

シンはデュランの顔を見据えると、


「力尽くで防がせてもらいますし、続けるというなら、排除させて頂きますが、まだやりますか?」


声を低くして問いかける。


「なるほどなるほど、魔導師の実力は本物ということですか。いえ、やりますよ。斬れぬ硬さではないですから」


今の一太刀にデュランは全く力を出していないだろう。

シンはそれを理解し、考慮した上で負けないと確信した。

同時に、デュランは今の一太刀でシンの様子を見て、斬れると確信した。


デュランの返事を聞き、シンは溜息を吐く。


「あまり待たせる訳にもいかないんで、早めに終わらせるとしましょう」


そう呟きながら、シンの体はフヨフヨと浮かんでいく。

まだ成長期のシンとデュランの頭が同じ高さになる。


再び互いの様子を窺っていた目が合う。

同時にデュランが前進し、シンはローブを動かす。


超硬度な布という違和感の塊とも言えるシンのローブの先端でデュランの斬撃を受け切る。

先程の一撃とは比べるまでもなく、速度も鋭さも上昇しており、シンが先の様に何もせずに受けていれば斬られていただろう。

しかし、硬質化させてきちんと受ければシンのローブが簡単に斬られることはない。


続けざまに三度の斬撃。それをローブの硬質な先端で弾く。

そこで、デュランが更に速度を上げる。合わせるようにシンのローブも動き、全ての斬撃が弾かれる。


打ち合い始めて十秒。既に斬撃は音速を越えており、一般人には目で捉えることは難しい。

それでも尚、シンとデュランは余力を残している。


戦況が変わらない。これはシンが攻撃に入らないからだ。

デュランの目からしてみれば、シンは動くローブの中でただ浮いているだけである。

勿論デュランもシンが魔法を使ってローブを動かしており、浮遊にも魔法を使っていて、どちらも高度なものであることは理解できている。

それでもそのように見えるのは、単純にシンの顔に余裕がありありと出ているからだ。


エンドに実戦に向けてとしか思えない特訓を受けながらも、実際に戦闘をしたと呼べる事態はなかったシンだ。そこらの魔物との戦いは、戦闘というより殲滅であったし、唯一相手になりそうな雷帝龍とその取り巻きとの遭遇も雷帝龍の用いたルールがあった上で雷竜と少し戦っただけだ。


変わらぬ状況にデュランが攻撃の手を止め、下がる。


「いやはや、なかなかどうして斬れないものですな。やはり子供と言えど魔導師ということですか」


デュランが首を振りながら呟く。シンに向けてかけられた言葉でないことは聞けばわかる。


「仕方ありません。以前斬った魔導師の方々の様にこの剣の真の姿で相手をするとしましょう」


そう言って、デュランは刀身の部分を掴んだかと思うと、剣を抜く。

刃の中から真の刃が顔を見せる。否、その刃は漆黒のオーラを放ち、刀身が見えない。

真の刃が出るにつれて漆黒の負のオーラはその存在を増し、同時にデュランが身に纏っていた黒いオーラもより黒く、濃く、深く、なっていく。

完全に刃を抜き切ると、元の刃、鞘を後ろに投げ捨て、シンを見やる。


「さて、斬られる覚悟は決まりましたか?」


剣を抜く前と後で圧倒的に実力が、魔力量が、存在感が違っている。

シンはそんな技に心当たりがあった。

魔法とは異なる魔力の使い方。生物としての段階を上げる技。名前の無いその技をシンは『覚醒』と呼んでいた。


なるほど。『覚醒』が使える者と対峙した場合、基本的に、よっぽど優れた技術と精神の持ち主か、同じく『覚醒』を使える者以外ではまともに動くことすらできない。そして、魔導師の中でも『覚醒』が使える者は多くない。

故にデュランがその剣を抜いて『覚醒』状態になれば敵はいなかっただろう。逆にそうしなければ勝てなかったということでもあるが。


「……はぁ」


シンは億劫そうに溜息を吐く。

そんなシンの態度にデュランは眉根を寄せる。兜で見えないが。

今まで対峙してきたおそらく全ての生命はデュランがその刃を抜けば怯え、恐れ、行動が不安定になって来た。しかし、シンにその様子はない。

デュランが剣を振るう。と、そこから黒い斬撃の奔流がシン目掛けて飛ぶ。


その斬撃がシンに当たる前にシンが『覚醒』を発動する。

シンを起点に白い光の奔流が溢れ、デュランの斬撃を打ち消す。白い光はシンの魔力が可視化したものである。

その光景に少しずつシンとの距離を詰めていたデュランの足が止まる。


「……はぁ」


再びシンが溜息を吐く。

シンが気にしているのはルルとその他の人間のことだ。

今、シンは自分の残魔力の四割を使って『覚醒』を使っているが、それでも恐らくルル達商人は気絶してる可能性が高いし、ミザロンの街でも気付く者が沢山出ているだろう。

この存在感故に近付こうと思う生命体はいないはずだが、解除した後に面倒ごとが溜まりそうだった。

近くにいる冒険者も気絶していると予想出来るが、同時に魔物も気絶しているだろう。

最低限ファルナは気絶しないと分かっているので、ルルやヴェルマの安全は保障されている。


「とっとと終わらせよう」


シンはデュランを見据えてそう宣言する。

シンは身体強化魔法と基礎属性魔法で最も攻撃に特化した火魔法を両手で展開する。

デュランは漆黒を纏う剣を構える。


シンとデュランが同時に動く。

その速度は既に光速に達しようとしていた。

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