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魔導伝ー神が覗く物語ー  作者: 虎寅
第三章 寄り道の旅路
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ミザロンの街

ミザロン、そこは既に亡きヴァルキ王国の最大の商業都市であった。

他の街との交易が世界のどこよりも容易で、旧王都に最も近い。それで商業が流行らないわけがなかった。


だが、それも八年前までのことだ。

八年前にデュラハンの襲撃によって旧王都ヴァルキが崩壊してから、ここは最も危険な街である。

ヴァルキとミザロンの間には森の様な障害物もなく、デュラハンが矛先を向ければたちまち滅びかねない。


ヴァルキが崩壊して、生き残れたヴァルキの住民の半分はこの街に流れている。

それを受け入れるために、ヴァハラ皇帝が用意をさせていたのだから。

それでも当時は宿も食料も足りず、街から人が溢れていた。今でこそ街から溢れる人はいないものの、相変わらず食料は不足気味だ。


それ故、商人からしたら儲け地の一つであり、いつデュラハンの襲撃があるか分からないハイリスクハイリターンの街になっている。

当然の様にハンデル商会の支店は存在しており、当時は随分と貢献したらしい。


と、そんな感じの話をルルから聞きながら、シンは馬車ごと、ハンデル商会ミザロン支店に向かっていた。

そして、思っていることを口にする。


「八年前も思ったんだけどさ、僕程魔力を持ったのがそこまで近くに来て、そのデュラハンとやらが気付いて無いとは思えないんだよね」


それを聞いて、同乗している商人一同はシンを見つめる。


「つまり?」


不思議そうな顔をしたままルルが先を促す。


「そのデュラハンとやらも様子を見に来るんじゃない?」


デュラハンの考えをシンが知っているわけがない。

だが、単純にシンの魔力は八年前の八倍以上、そこにファルナもついている。

これだけの戦力があればデュラハンだって気にするだろう。


「ねぇ、シン? シンはそのデュラハンに勝てる?」


ルルは微笑みを浮かべてシンに訊ねてくる。だが、その頬は僅かながら引き攣っている。


「さあ? 僕はそのデュラハンってのを見たこともないし、そもそも実戦経験はそんなにないよ」


無責任に言い放つシンにルルは慌て、他の商人も不安そうにする。

そこにシンは言葉を重ねる。


「……でも、八年前ならいざ知らず、少なくとも今の僕が負けるのは想像し辛いかな」


「最悪転移魔法で逃げれば大丈夫だよ」と言い占めるシンに、少なからずルルは安心する。


「そう、それなら安心ね」


ルルがそう言うと同時に支店の前に着く。

ルルはすぐに切り替えて仕事モードに入り、未だに不安そうにしている他の商人へと指示を出していく。


「ファルナ、もし手に負えないくらい強かったら、出来るだけ多くの人を逃がしてあげるんだよ」


シンはルルの後を追って馬車を降りながらファルナにそう声をかけるのだった。



 ✩ ✩ ✩ ✩ ✩



部屋で仕事をしているルルに、「ちょっと出てくるね」と言って支店を出る。

当然のようにファルナもついて来る。

シンは商店街を出て、食事通りに向かうと一軒の喫茶店を見つけて中に入る。


店の隅の方にある空いている席に行って腰を掛ける。

ファルナは正面ではなく、シンの右隣に座る。


ファルナが注文して紅茶とケーキがくるのを待つ。

割とすぐに出てきた紅茶の仄かな香りが広がる。


「あ、割と美味しい」


お茶と共に出てきた果実のケーキは果実の甘みや酸味をスポンジがしっかりと受け止めていて味が出ている。

紅茶とケーキの組み合わせに舌鼓を打ちながらゆっくりと食べ進める。


「ファルナはどこか行きたいとこ、ある?」

「シンがいるところ」


シンがファルナに訊ねると同じようにケーキを食べていたファルナが即答する。

その答えに微笑まし気に笑う。


「じゃあ折角だし、商店街のお店でも見て回ろうか」

「うん!」


シンの提案にファルナは破顔して大きな笑みを浮かべた。

街の商店街を見て回るのは以前はルルとしていたことだが、今のルルは店での仕事が沢山あり、旅の道中でしか休みが取れない。

シンはそうやって街の中に面白そうなものがないか、ふらふらと見て回るのを楽しみにしていた為、今回も物見遊山(ものみゆさん)をと思ったのだ。


そのままゆっくりしていると、店の戸を開け中に入ってくる人物がいた。

シンは片手を挙げてその人物が気付くようにする。


その人物は手を挙げるシンに気付き、挨拶を交わすかのように手を挙げ返してから、真っ直ぐシン達が座る机に向かって歩いてくる。

机のすぐ傍まで来たその人物は恭しく一礼して、同席する許可を求めてきた。


「こんにちは。少々お話にお付き合い願えますか?」


再び寄って来た店員にシンとファルナに紅茶を今来た人物に紅茶とケーキを注文する。

注文した物はまたしてもすぐに出てくる。


「どうぞ」

「これはこれは、ご丁寧にありがとうございます」


シンが食べるように勧めると、その人物はお茶に手をつける。

暫らく会話のないままゆっくりとしていた三人だが、不意にその人物が口を開く。


「さてさて、まずは自己紹介をさせて頂きましょう。私はデュラン。今はこうして変装していますが、これでも騎士をやっています」


座ったまま自己紹介をして礼をする彼の所作は非常に胴に入っていて、威厳を感じさせるものだった。

騎士と言われても違和感がない。


「僕はシン。彼女はファルナです。魔法使いです」


シンも名乗り、同時にファルナを紹介する。

同時に敢えて魔導師と言わず、魔法使いを名乗る。


「それで、お話とは?」


シンはカップを置くと、真っ直ぐデュランを見据えて話を促す。


「いえ、なんてことはありません。今後の予定が気になりましてね」


デュランもシンを見据えて答える。

互いに互いの実力を測っているのだ。


「今後の予定、ですか。……この後はファルナと街を見て回ろうと考えていますが、そちらはどうなんですか?」


デュランが訊いているのは別に今日のこの後の予定というわけではないだろう。

だが、シンはそこを敢えて今日の予定で答える。同時にデュランにも同じ問いを返す。


「ふむ、私は剣の稽古でもしようかと思っていましたが、それは辞めにして、観光にご一緒させて貰えませんかな」


デュランは全く表情を変えることなくシンの回答を聞き、それに同行を求めてくる。

まさかの提案にルルが驚き、不安そうにシンを見てくる。


「彼女とのデートなんで、ご遠慮願います」


シンは若干の不満を感じながら、デュランの同行を拒否する。

流石のシンもデートに他の人を連れてくような真似はしたくない。

というか、デュランを連れていたら最早それはデートではない。


「これは大変失礼しました」


デュランは不躾な事を言ったと謝罪する。その所作は一つ一つ丁寧で、謝罪する様子にも威厳を感じるほどだ。

再び訪れる静寂。

その静寂を破ったのはシンだった。


「剣の稽古と言ってましたが、剣士か何か……ああ、いえ、騎士でしたね。普段どのような事をなさっているのですか?」

「普段ですか、私は自分の腕を磨いたり、部下を鍛えるなどですかね。シン殿は魔法使いということでしたが、どんな魔法が使えるのですか? 是非見せて頂きたいのですが」


シンの問いかけにデュランが深く考える素振りも見せずに答える。

予想よりも情報を漏らさないデュランにシンは下を巻く。

そして、デュランは問いを重ねることで一つのことについての追及をさせない。


「申し訳ないのですが、私の魔法は規模が大きくて、ここじゃ見せられないんですよ」


嘘だ。これはシンが魔法の使い勝手が悪いと思わせる為についた嘘である。

だが、デュランは今の言葉からシンがただ魔力を持っているだけでなく強力な魔法が使えるという事を読み取っていた。


そこで、デュランが紅茶を飲み干し、席を立つ。


「それでは私はここいらで失礼します」

「はい、また会うことがあればよろしくお願いします」


デュランが踵を返し、店から出ていくのを見送る。


「……シン?」


暫らく視線を店のドアに固定したまま動かないシンにファルナが恐る恐る声をかける。


「……あれなら何とかなるか」

「シンなら大丈夫だよ」


デュランの実力を測っていたシンは静かに呟く。

それにファルナが根拠のない自信を言い切る。

シンが実力を比べた上で呟いたのに対して、ファルナは何をもって言い切ったのか。


「行こうか」


シンは席を立つとファルナを促す。

ルルから受け取っておいたお金で支払いを済ませるとミザロンの街の観光に出る。



 ✩ ✩ ✩ ✩ ✩



職人の専門店や商会の支店などを数多く周り、夕方日が街壁の向こうに姿を消し始めた頃にハンデル商会のルルが仕事をしている部屋に戻る。


「あら、お帰り。夕食は?」

「ただいま。まだだよ」


部屋に戻って来たシン達に驚いているルルの問いに答える。


「すぐに残りも終わらせちゃうね」


シンの答えを聞いて、一緒に夕食を摂る為に戻って来たのだと理解したルルは、再び書類に向かう。

その間、シンとファルナは部屋のソファーに座り、黙って待つ。

ルルがペンを動かす音だけが部屋に広がり、心地よい静けさだ。


「んっ……。お待たせ。じゃあ行こっか」


書類仕事を終え伸びをするルルの口から艶やかな声が漏れる。

そして、席を立ちながらシン達に声をかける。

シンとファルナも立ち上がり店を出る。

先導するルルの足取りは軽く、商店街から一本横の通りに向かう。

辿り着いたのはいかにも高級そうな食堂だった。店の扉の向こうから既にいい匂いが漂ってくる。


「ルルお姉ちゃん、ずいぶん立派なお店だけど、いいの?」

「いいのいいの。偶には贅沢したって怒られないわよ」


シンの問いに軽く答えるルル。


「それに、売り上げも伸びて来てるし、ギルドから謝礼金もまだ入って来てるからね」


ハンデル商会の規模は創業からこの方拡大し続けている。以前はほんの十しかなかった商隊も今では倍を超える二十五はある。

ギルドからの謝礼金というのは八年程前のデュラハン襲撃の際のハンデル商会が負担、提供した食料、商品の金額の補填のようなものだ。記録に残っている分や重要度から割り当てて、三年前から払われ続けている。


答えながら店の中に入っていくルルに続いて、シンとファルナも店の中に入る。

店の中はシンプルながらも整った内装をしていた。

店内を照らす、魔道具によって創られた光が和かい色を作り出し、落ち着いた雰囲気が出ている。昼間に行った喫茶店も良い雰囲気を出していたが、格が違う。

店に入るとすぐに店員が出てきて席まで案内してくれる。その態度は悠然としており、貴族を相手にしても問題ないだろう。


出てくる料理もどれも高質な食品が使われているのが分かり、調理の腕も優れていることが覗えた。

そうして高級な夕食を摂りながら、とりとめのない話をして、楽しんだ。


夕食を摂り終えると、宿に向かう。

そんなこんなでミザロンでの一日が過ぎていくのだった。

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