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魔導伝ー神が覗く物語ー  作者: 虎寅
第三章 寄り道の旅路
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ミザロンの街への道のり

早朝、まだ日も昇っていない時間帯。

いつも通りの時間に起床したシンは、隣でシンの腕を掴んだまま眠っているファルナを振り解き、ベットから立ち上がる。


寝るときに邪魔になるローブもとい杖は指輪状にして指に嵌めてある。

それをローブ状にすると服を着替えて、その上に羽織る。


シンが杖をローブにするようになったのは今は亡きヴァルキを出た時からだ。

あの時はなんとなく服にしようと思ってローブにしたが、今では慣れ親しんだ服装である。


目を覚ましてからすることは、魔力トレーニングだ。

浮遊都市国家エデンにいた時に数多くの書物を読んできたが、基礎を欠かして損をするといった記述は数多くあれど、得をするといったことは記述は一つたりとも見たことがない。

シンは部屋の片隅に移動して魔力トレーニングを始める。


まず、目を伏せ、体内の魔力の流れを把握し、全体を操作できるように意識を深めていく。この時に、同時に体の外にも意識を向ける。

この矛盾した行為は全ての活動を無意識でも行えるようにするためだ。

エンドに教えてもらった戦闘の鉄則、一つのことに集中してその他にやられることが無いようにする。

意識して行うことを無意識で、無意識で行っていることを意識して行う。

この矛盾した行いこそが最高位の実力を持つ者達を強者たらしめるものである。


魔力トレーニングを始めてすぐに、ファルナが目を覚ました。

ファルナも魔導師であり、やはり魔力の動きには敏感なところがある。

シンの特訓を受け、無意識に魔力に反応することもあり、特訓を始めたシンの魔力を感じ取ったのが意識を覚醒させたのだろう。


「シン、おはよう」

「おはよう、ファルナ」


目を覚ましたファルナはシンの方に視線をやると挨拶する。

シンはトレーニングを続けながらも返事を返す。

ファルナはいそいそと着替えるとシンの隣に移動して、同様に魔力トレーニングを始める。


シンもそうだが、魔力トレーニングは別に毎朝の日課ではない。

エデンにいる間は目を覚ましたら本を読んでいた。それ故、ファルナがこのように目を覚ましたことはない。

今までは午後の特訓の前にやっていたものだ。

それを敢えて今やっているのは、単純にこれから魔法を使うからだ。


「そろそろ行こうか」


魔力を動かすのを止めて、ファルナに出発を告げる。ファルナは短く返事をして、立ち上がるシンの後につづく。

向かうのはヴェルマ達が寝ている部屋だ。

シーア達はまだ眠っている。そして、シーア達が眠っている以上、ここで朝食を摂ることはない。


シンはヴェルマやシャルマの魔力がある部屋に真っ直ぐ向かう。

一応部屋のドアをノックするが、返事はない。

この部屋に向かう時、いや、シンが目を覚ました時には予想していたことだ。

シンは返事がないことに内心で溜息を吐きながらも顔色を変えず、ドアを開けて中に入る。


部屋の中では、ヴェルマがメシスとシャルマに挟まれた状態でベットに横になっており、三人とも未だに健やかな寝息をたてていた。


「兄さん、シャル、メシス姉さん、起きて下さい」


シンは起きる様子のない三人に声をかけるが、やはり起きる気配はない。

シンは呆れた様子で近付いていくと、ヴェルマの体を揺すりながらもう一度同じように声をかける。

そこでようやくヴェルマが目を覚ますのだった。


「ん、んあ?」


目を覚ましたヴェルマだが、両手をメシスとシャルマに取られていて起き上がれない。

体の自由が利かないと分かるや否や、ヴェルマは再びその瞼を下ろすのだった。


「ちょっ、兄さん! 起きて!」


まさかそこでもう一度寝られるとは思ってもいなかったシンは慌てて、ヴェルマの体を揺する。

揺すりながら、(そう言えば兄さんもシャルも朝弱かったけな)と思い出していた。


その後も、メシスは一度起きたら眠りこそしないものの意識ここに在らずといった感じであり、ヴェルマとシャルマはそも起きずに、シンは悪戦苦闘する羽目になった。



 ✩ ✩ ✩ ✩ ✩



転移した先はハンデル商会ヴェルディオン支店の正面だった。


「遅い!」


突然転移して現れたにも関わらず、シンの方に向けて怒声が飛んだ。

シンがそちらに目を向けると、腕を組んで仁王立ちしているルルが眉を吊り上げてこちらを睨んでいた。

だが、すぐにその顔を綻ばせて、


「おかえり」


とシンを迎えたのだった。


あれから結局三十分ほど費やしてようやくヴェルマとシャルマを起こすことに成功したシンはすぐに着替えさせて、荷物をしまい、転移魔法で飛んできたのだった。

既に商人達は馬車に荷物を積み込んでいるところだった。

太陽もその頭を覗かせようとしており、詰まる所、もうすぐ出立であった。

シンとしてももう少し早くここに来ている予定であったし、ルルとしてももっと早くに姿を見せて欲しかった。

ルルが戻って来ているということはエンドに送ってもらい、時空袋も直っていることだろう。


そんな状況ではあったが、シンとしてはもっと優先したいことがあった。


「ご飯食べてないんだけど、どっかに食堂ない?」


そう、朝食である。

これに、ルルは非常に驚いていた。


「シンのことだから、そういったことは諸々済ませてると思ったんだけど」

「そうしたかったんだけどね……」


溜息を吐きながら頭を押さえて首を振るシンを見て、ヴェルマとシャルマが縮こまる。

その様子を見て、ルルは腰に手を当てながら息を吐いて、


「仕方ないわね……。イプラさん、ちょっと抜けます、あと出発を三十分遅らせます」


イプラに指示を出すと、こちらに向き直り、「ついて来て」とシン達を先導する。


商店街から一本ずれると宿屋や食堂の並ぶ通りがある。

どこの街でも似たような造りになっており、全ては効率的な環境になるようにと街の設計をした何百年も前の魔導師によるものである。

魔物の襲撃から身を守る街壁の中の限られた空間を有意義に使うために、どの街の領主もかつての魔導師が考えた設計を基盤に造っている。


すぐに食堂までたどり着くと、中に入って、ようやく朝食にありつけたのだった。



 ✩ ✩ ✩ ✩ ✩



ここで少しばかり周囲の街の位置を記しておこうと思う。


既に亡き旧首都ヴァルキを中心に、北東にミーハの街があり、遥か北の辺境にヤツバの街が在る。

逆に、南西にはヴェルディオンの街、その更に南西にヴィッカの街が存在している。


ヴァルキの北方、ミーハの西方にはゴブリンの森が広がっており、その範囲はとても広い。

ヴァルキの北東、ミーハの南方にはトレントの森があり、その南方にコボルト鉱山が聳えている。更に、コボルト鉱山の南方、ヴァルキの南東には森が広がっており、属性魔法を使う獣型魔物が多種に渡って住み着いている。


そして、今ルル達が向かっている街は、ヴァルキの南、森の捌けた十字の位置に造られた街、ミザロンだ。

ミザロンはヴェルディオンからも森を通らずに行くことが出来、その東方にあるヴォーンズの街まで森を通ることがない。また、ミザロンの南方も森が途切れている箇所があり、まさしく森が捌けた十字の中心に位置する街であった。

まあ北に位置する旧首都ヴァルキは今やデュラハンの拠点なのだが。


とにかく、現状ルル達は魔物の領域外を長閑に旅していた。

勿論魔物の襲撃に備えて冒険者を雇ってはいるし、現在は馬車の中にいるヴェルマ達も条件が決まり次第護衛になる。

だが、何よりも魔導師たるシンが居る時点で安全は約束されたようなものだった。


「ねえ、次の街には何日で着くの?」


ローブの中から紙を取り出しては何かを書き込んでいたシンは唐突に質問する。

それに答えるのは当然隣に座っているルルである。


「えっと、次のミザロンまでは道も安定してるし、魔物の襲撃もほとんど無ければ、明日には着くと思うよ」

「ふーん」


訊ねておきながら流すような反応をするシンは再び紙にペンを走らせていた。

折角答えたのに聴き流すシンの態度にルルは少しばかり頭にきたが、一度咳払いをするとシンがさっきから書いてる物について訊ねてみる。


「シンはさっきから熱心に何を書いてるの?」


ルルの問にシンはペンを走らせながら答える。


「空間魔法の常時展開の魔法陣とそれに必要な魔力量の計算式と供給回路の配置設計」


サラリと流すつもりが、予想以上に高難度な事をしていたシンの回答に、ルルは目を白黒させる。


「あー、ダメだー」


シンはペンを投げ出すと、今まで書き殴っていた紙束をファルナに渡して、身体を伸ばす。

ビッシリとシンによって書き込まれた紙束を受け取ったファルナはそれに目を通し始める。


「何がダメだったの?」


シンがお手上げ状態の内容が気になり訊ねるルル。


「ルルお姉ちゃんが持つエンドさんの作った時空袋なんだけど、維持してる魔法に消費するはずの魔力が明らかに足りないんだ。それに魔力を通すはずの回路が入り切らないし。もう訳が分かんないよ」


ルルはシンの言ってる事が訳が分からなかった。

いや、ルルも魔法を使うだけあってそれとない理解は出来た。

そこでファルナが読み終えた紙束をシンに渡す。


「式自体に変な所は見つけれなかったわ。やっぱり根本的な何かが違うとしか……」


ファルナの意見は尻すぼみに小さくなっていく。

それも、ファルナは根本的に違う何かに全く心当たりが無く、見当も付かないからである。


だが、それはシンも同じである。

シンはファルナから紙束を受け取ると、ローブの中に創った空間に収納する。


「やっぱり魔力を何とかしないとだな……。そう言えば次の街には明日着くんだっけ?」


再び思考に走るシンはふと思い出したように訊ねる。

ルルは息を吐きながら肯定する。


「どうしたの? これ以上早くはならないよ?」

「いや、時間の使い方を考えてて」


ルルの問いにシンが何か考えながら答える。

そこにイプラが声をかける。


「シン君の魔法でミザロンまで一瞬で転移することは出来ないのですか?」

「……出来なくはないけど、割と手間がかかるよ」


イプラの問いに嫌そうな顔をして答える。

イプラはそこで身を引いたが、続けてルルが訊ねる。


「手間って?」


シンはその問いかけに、(説明しても理解できないだろうな)と思いつつも、いかに分かりやすく説明するか考えてから口を開く。


「自分に触れてる物を転移させるならそんなに難しくないんだけど、規模が大きかったり、離れてる物を正確に転移させるには式に落とさないといけないの。で、空間魔法は式が大きくなりがちだから手間なの」


式に落とさないと、全く見当違いの方向に転移したり、転移した先で頭から落ちたり、最悪地面の中に転移してたりと、本当に何があるか分からない。


何だかんだでそんな話をしたり、術式を書いたりしている内にミザロンの街が見えてくるのだった。

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