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魔導伝ー神が覗く物語ー  作者: 虎寅
第三章 寄り道の旅路
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再会

「じゃあ捕まって」


事が決まるや否やシンは早速転移しようとする。

転移魔法は空間魔法の一つであり、割と難しい。既に五年以上も空間魔法を使っているシンからしても、他の人まで転移させるのには自分に触れさせておく必要がある。

勿論、触れていなくても転移させることは出来るが、魔力と集中力を無駄に使う羽目になる。


今から向かう先はエンドがいると思われるヤツバだ。

勿論、時空袋を直してもらうためである。


ルルをヤツバのエンドの下まで送り届けるとここに戻ってきて、ファルナと“一陣の風”の三人を連れてヴィッカに向かう予定になっている。

既にヴェルディオンの位置は確認が取れているし、ヤツバの場所も理解している。

シンが魔法を発動させると仄かな光がシンとルルを包み、姿を消す。


光が晴れるとそこは五年前に見たヤツバの光景が広がっている。

五年前の記憶を頼りにエンドの家の前まで向かう。

五年前と異なるのは隠蔽魔法がかけられていることによって、魔導師には場所がバレバレというところだ。


魔法のかかっている家のドアを叩くと勝手に開く。

中に入り奥に進むと独りでにドアが閉まり、目の前にエンドが現れる。


「おう、久しぶりだな。突然来るとビックリするじゃねえか」

「お久しぶりです」


シンの魔力が街に転移したのを感じ取ったのだろう。依然としてエンドの魔力は界力と同一化していて感じ取れない。

シンとルルが挨拶をする。


「それで、突然どうしたよ?」


エンドの下に来たからには要件があってのことだろうとあたりをつけたエンドが訊ねる。

その問いにはルルが応じ、シンはすぐに辞してヴェルディオンに戻る。


ヴェルディオンにいるファルナの魔力を探って転移し、ファルナと“一陣の風”の三人を連れてヴィッカに向かう。

全員が捕まったことを確認すると、転移魔法を発動させる。


ファラメン、アクジット、ウィンゼルンの記憶を読み取り、ヴィッカの位置を特定しての転移であったが、ほとんど誤差なくヴィッカの街が見える位置に飛ぶことが出来た。

ヴェルディオンからヴィッカまではそんなに距離もなく、転移時に光を発することはなかった。


“一陣の風”の三人にシンとファルナを加えた五人はそのまま歩いてヴィッカの街に入っていく。

依頼を受けているわけでもないので、そのまま真っ直ぐシーア達の家に向かう。


家に着くと、ファラメンとウィンゼルンを先頭に家の中に入っていく。


「戻りましたー」

「ただいまっす」

「「「おじゃまします」」」


当然シーア達が出迎えることになるのだが、当然驚く。


「お、お帰りなさい。依頼はどうしたの?」

「パパー、お帰りなさい!」


片道五日の依頼で、戻りで五日費やし、合わせて十日は留守になるはずの依頼だったのだ。

予定より早く父親が帰って来たことに喜ぶ息子を抱き上げながら答える。


「もちろん依頼はこなしてきたよ。それより、お客さん」


ファラメンは自分の後ろにいるシンを示す。

シーアが戸惑っていると、奥からヴェルマが顔を出す。


「あ、兄さん、久しぶり」

「……シン、か?」


実に八年ぶりの再会であった。



 ✩ ✩ ✩ ✩ ✩



シン、ファルナ、ヴェルマ、メシス、シャルマの五人はリビングの椅子に座り、お茶を飲んでいた。

シーア達はファラメンが気を利かせて奥に引っ込んでいる。


先に話をしたのはシンだった。

領域を出てからすぐにルルと出会い、一緒に旅をして、家族の様に接するようになり、エンドと出会って魔法を学び、旅の途中でルルと別れてエデンに向かい、ファルナを拾って、エデンで学び、また旅に出た。

内容としてはこんな所か。

いくつか省いたところもあるが、シンの八年は半分がルルとの生活が占める。

旅の日々は似たようなものになるし、立ち寄った全ての街で遊んだわけでもない。その話は一時間程度で語られた。

ルルとの生活を語る間不機嫌だったファルナは、後半の婚約したことを話したところでとても上機嫌になった。


シンが語る間、黙って聞いていたヴェルマだったが、シンが話し終えると、ずっと気になっていたことを問う。


「シン、お前はあの日、領域を追い出されることになって、辛くなかったか?」


ヴェルマは、あの時自分にもっと力があれば、シンに魔法を使わせずに対処できていれば、とずっと考えていた。

だからこそ、シンを領域から追放したのは自分だと責任を感じていた。そして、責任を取りたかった。


だが、シンはそんなヴェルマの考えを見抜いて答えた。


「どう、だっただろうね。もう覚えてないや」


嘘だ。確かに八年も前のことだ、忘れていることばかりだろう。だが、あの時領域を立ち去る時に、悲しかったことを、辛かったことを、後悔したことをはっきりと覚えている。

しかし、シンはそれを口にすることはしないと決めたのだ。

あの時街を出た事実を無くすのはルルとの出会いを否定することだと思うから。


「そうか」


シンの考えを察してか、ヴェルマが追及することはなかった。

メシスとシャルマも深く聞き入るようなことはしない。


次にヴェルマが話す番だ。

シンが領域からいなくなっていた時から、シンについての話題はタブーとなったこと、すぐに本を見つけたこと、デュラハンが襲撃してきて街から逃げたこと、逃走中に皆亡くなっていったこと、シーア達に助けられたこと、鍛えて貰ったこと、アシウェル達が行方不明になったこと。

ヴェルマが話した内容を纏めればこんなとこだろう。


話を聞いて、森の中を逃げている時のことを思い出したのか、シャルマとメシスは涙を流していた。

シンも領域を出る前は家族の様に暮らしていた皆が死ぬのを聞くのはいたたまれない気持ちになった。まあほとんど顔も名前も覚えていないんだが。話しているヴェルマですらはっきりと覚えてはいないのだ。


「兄さんの方は大変だったみたいだね」


ヴェルマの悲惨な話を聞いて、シンは何とも言えない気持ちになる。

追放された側は商人の加護の下、生活が向上し、追放した側は襲撃で全てを失う。


「ああ、まあ俺はほとんど何もしてないんだけどな。気が付いたらシーアさん達に助けられていたって感じだ」

「そ、そんなことないよ。ヴェル君凄かったよ」

「お兄ちゃんいたから助かったってアシウェルさんもウォーグルさんも言ってたよ」


ヴェルマが肩をすくめながら答えるが、すかさずメシスとシャルマが訂正する。

その勢いに驚きたじろぐがヴェルマの様子を見て、シンは微笑む。

だが、一転して真面目な顔つきをすると、もう一つの大事な事を訊ねる。


「アシウェルさん達がいなくなったってのは?」


この問いに関して、ヴェルマが答えれることはほとんどなかったが、翌日、ファラメン達を含めて会話をした時に、魔物にやられた可能性が非常に高いという結論に至った。

シンからしてみれば八年間会っていない人達だが、ヴェルマ達は共に死地を乗り越えた、そう、家族の様な人達だ。死という結論を受け入れることは出来なかったようだった。



 ✩ ✩ ✩ ✩ ✩



話が一段落したところで、シーア達が顔を出し、食事にする。

この際シーア達とも挨拶を交わし、賑やかな食事となった。


「シーアさん、ヤクファさん、ニールさんですよね。覚えていますよ。無駄の多い魔法で水の竜を打ち出していたので印象に残っています」

「因みに俺たちは覚えられていなかった」


茶化すようなファラメンの言葉まで受けて、シーア達は乾いた笑いを浮かべる。

あの時のことはシーア達もよく覚えている。魔導師と会うことはそれだけ貴重なのだ。

自分たちのとっておきの魔法に無駄が多いとはっきり言われ、しかし、その為に覚えられている。

喜ぶに喜べなかった。


その後もシンやファルナが魔法を披露したりして楽しんだ。


だが、まだ大事な話が残っている。


「二日後の朝には行くけど、兄さん達はどうする?」

「どうするってのはどういう事だ?」


端的なシンの問いにヴェルマが困惑する。

ヴェルマもメシスもシャルマも今後の事などほとんど考えていなかった。


生きる為に冒険者の活動をして、今までみたいにシーア達と暮らすものだと考えていた。


「僕はルルお姉ちゃんについて、数ヶ月は旅をしようと思うけど、兄さん達はついてくる? それともここに残る?」

「因みに、ルルちゃん達と旅をするなら商会の方で専属の護衛として雇うってよ」


シンが質問を言い直し、ファラメンが情報を加える。


「えーっと」


ヴェルマが答えに困ってメシスとシャルマを見るが、二人も困った顔をしてヴェルマを見ていた。


「すぐに決めれるとは思わないけど、明日中には答えを出してね」


答えの出せない三人の様子を見かねてシンがリミットを明確にしておく。

明後日の朝には発たなければならないのだ。



 ✩ ✩ ✩ ✩ ✩



翌日、シンはニールとウィンゼルンに街を案内してもらい、ファルナと街を楽しむ。

残りの面々はヴェルマ達の相談に付き合っている。

あくまでも分からないことを教えるに留まり、ヴェルマ達の意思を尊重している。


とにもかくにもそんなこんなで夕刻、シン達が家に戻った時には結論が出ていた。


「せっかくだし、シンと一緒に行こうと思う」


旅に出る。これがヴェルマ達の選んだ答えだった。

シーアやファラメン達にも子供が出来て、正直ヴェルマ達に構っていられなかった。

本当はシーア達の下を発つのは受けた恩を返してからにしたかったのだが、シーア達からしてみればまだまだ子供のヴェルマ達に出来ることはなかった。

それを直接言われたわけではないだろうが、そういった認識はありそうだった。


「そう。じゃあ明日の朝早くに出るから、荷物纏めといてね」


シンはあまり気に留める様子もなく答える。

正直なところ、ヴェルマがどちらを選んだとしても、シンにはあまり関係ないからだ。

ルルの安全は自分のかけた魔法でほぼ守られているし、ルルと旅をするのは長くても一年と踏んでいる。

その時にはまたヴェルマにはヴィッカに戻るか、ルルの護衛を続けるか選ぶことになるのだが、結局のところシンは魔導師で、自分の知りたいこと調べたいことを優先したくなるのだ。


「お、おう」


あっけらかんとしたシンの態度に驚くヴェルマだったが、そこにファルナが言葉を加える。


「シンの朝は、早い」


短い言葉で深刻そうに言うファルナだったが、それを聞いた者の反応は二つに別れる。

シーア、ファラメン達は商人の出発に間に合わせるために、早い出発になるのだと考え、納得の顔で頷く。

一方で、ヴェルマ、メシス、シャルマの三人はファルナの真意を読み取っていた。

単純にシンの起床が早いということをだ。なにせ、昔は自分たちもそのリズムの生活をしていたのだから。


しかし、今はシーア達の生活に合わせ、起床も遅くなり、寝るのも遅くなった。


「護衛の依頼を受ける時もそうだけど、商隊の行動は基本的に太陽と共になる。睡眠時間の管理は出来るようにならないとだな」


ファラメンが訓示を垂れるが、ヴェルマはそれを聞かずにシンに詰め寄る。


「まさかとは思うが、シン、お前スラムで暮らしてた時の生活リズムじゃないだろうな」

「ん? そうだけど、どうかしたの?」


驚いてヴェルマが絶句する。いや、ヴェルマだけでなくメシスとシャルマもだ。

光が手に入り辛いスラムと違って、基本的には光に困らない生活をしていれば寝るのは遅くなってくる。

繰り返せば生活のリズムも変わる。

日が昇る前の起床は、今のヴェルマ達には思い起こすのも難しくなっている。


「だから私はもう寝るわ」


ファルナはそう言うと一足先に部屋に引っ込んでいった。

ヴェルマ達も部屋に戻り、荷物を纏めると早めに就寝するのだった。


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