時を経て
あれから七年の月日が過ぎた。
このサブキャラたちの間に起こった変化を順序通りに記しておこう。
まず、ヤクファとブラウが交際を始めた。
槍の魔道具について問い詰めに向かった時に、ブラウに告白されて、それまで男を近付けず冒険者として生きてきた免疫のないヤクファは一発で落ちた。
次に、シーアとファラメンが交際した。
互いに一パーティーのリーダー同士話し合う機会も多く、仲も良くなっていた二人は、シーアの誕生月前にファラメンの告白で交際して、すぐに結婚まで持って行った。
シーア達の結婚を聞いてすぐにヤクファ達も結婚を決めた。
一人男の話を聞かないニールだったが、シーアとヤクファが話題に困り始めた頃、ニールは「そろそろ私も結婚しようかな?」と言い、相手はウィンゼルンだった。
彼の実家は元々酒屋を経営していて、ヴァルキからヴィッカに来るときに連れてきたらしい。
ウィンゼルンの家族は“一陣の風”の資金から援助を受けて店を出し、今では普通に経営していた。
そんな中、ニールはウィンゼルンと共にそこに赴き、よく酒をおごらせていた。
それを何度かしている内に、ウィンゼルンが「じゃあ交際してくださいっす」と言ったのを「うん、いいよ~」と軽く了承していた。
ウィンゼルンは普段から落ち着きがないし、ニールも顔や態度に出さない為、その話を聞いたときは一同とても驚いた。
ニール曰く「弓術士だけじゃ冒険者は続けれないからね~、シーアがファラメンと結婚するのを待ってたの~」と、普段のふらふらした様子からは窺えないかなり計算高い一面を見せていた。
そして、重要な方だが、まずチーシェルが成人して冒険者登録をした。
アシウェルの時同様に外で魔物討伐に連れていき、徐々に慣らさせていった。
魔法の特訓を強化してあった為にアシウェル、サフィアの初戦に比べたら余裕がありまくりだった。
チーシェルが冒険者登録した翌年にはウォーグルも成人して、冒険者登録を済ませた。
同様に魔物討伐に連れて行ったのだが、一人で一匹倒せるほどに強かった。
これはウォーグルが特別な才能を有しているわけではなく、続けてきた訓練の賜物だ。
アシウェル、サフィア、チーシェル、ウォーグルの四人ともはすぐにランクDに到達し、パーティーを立ち上げた。
登録時点で既に十分な戦力であり、魔法もだいぶ使える。ランクの昇級も早かったのだ。
因みにパーティー名はシーア考案の“堪続心”になった。
アシウェル達がパーティーを立ち上げた理由にシーア達の妊娠があった。
シーア、ヤクファ、ニールと妊娠して、冒険者稼業を休むことになった。
その頃にはアシウェル達も一人前に活動できるようになっていたし、いつまでも面倒を見ているわけにもいかない。
アシウェル達はアクジットの宿に移り、ファラメン達がシーア達の家に移った。
だが、昨年アシウェル達は行方を消した。
商隊の護衛で街を出て以来、姿を見せない。護衛していた商隊は街にたどり着いたのだが、その商人達は「森の中で魔物に襲われて、彼らが命がけで我々だけ逃がしてくれたのだ」と言っていたが、アシウェル達の実力から考えるとアシウェル達が手こずること自体考え辛かった。
その連絡が入った時点で“一陣の風”を含む数パーティーで捜索を行ったが、手掛かりは一切見つからなかった。
ヴェルマとメシス、シャルマはまだ稼げない為、“一陣の風”が面倒を見ている。
“水乱舞”は新生活で忙しくしている。
そして今、ヴェルマとメシスの冒険者登録に来ていた。
シャルマはあと二年しないと登録できないため、シーア達の下に行って育児の手伝いをしている。
受付で書類を書かせて、登録を済ませる。
文字の読み書きも出来るようになっており、随分と世話になった。
登録を終えると、受付嬢が声をかけてくる。
「ギルドの説明と戦闘訓練はどうしますか?」
「いえ、大丈夫です。この二人のランクアップ試験をお願いします」
「え? あ、はい。かしこまりました」
ランクGからランクFに上がる試験はいつでも受けれる。
ランクFからランクEに上がるのには実績が必要になる。魔物の討伐数と、いくつかのギルドからの依頼をこなすとギルドの方で自然と上げてくれるのだ。
ランクEからランクDに上がる為の試験はギルドで定期的に行っており、条件を満たさなければ昇格できない。逆に条件を満たせばすぐにランクDになれる。
昇級試験はつつがなく進み、ヴェルマとメシスはランクFになる。
そして、今月中にはランクDになる試験があるから、それを受ける。合格してランクEを飛ばしての昇級である。
「あの、“一陣の風”に適する護衛の依頼がありますけど、どうなさいますか?」
昇級の手続きをしながら受付嬢が依頼の旨を伝える。
「明日で間に合うのであれば聞きますが?」
今この場にはアクジットしかいない。
今日は二人の登録と昇級試験で終わる予定だからだ。
明日からは“一陣の風”にヴェルマとメシスを臨時メンバーに加えて森に出向く予定だったのだ。
「はい、商人との面接は明後日になりますので」
今日は一度帰宅だ。
シーア達の家に寄ってシャルマと合流、その際にファラメンとウィンゼルンに依頼の事を話し、宿に戻る。
✩ ✩ ✩ ✩ ✩
翌日、逆の手順で、今度はファラメンとウィンゼルンを伴いギルドに向かう。
「“一陣の風”に指名依頼が来てますけど、どうなさいますか」
「指名依頼、ですか?」
そもそもギルドで依頼が出るのは魔物の襲撃時の緊急依頼と商隊からの護衛依頼、後は街中で行う雑事ばかりだ。そして、雑事というのも人手が足りないことはほぼない為、数は限られている。
そんな中で指名依頼というのは非常に珍しい。
知り合いが形式的にギルドを通すことで使う場合もあるが、今回はそれに当てはまらない。
“一陣の風”の三人が顔を見合わせていると受付嬢が答える。
「はい、昨日お話しした商会の方からです」
「えっと、詳しくお願いします」
依頼をよこした商会はハンデル商会だった。
護衛期間はヴェルディオンの街まで、すなわち五日間だ。奇しくもアシウェル達の消えた方向だ。
食事は商会持ちで、報酬も高い。国を越える商会の名は伊達ではない。
「受けます」
「では、明日の十時にこちらにお越しください」
ファラメンが受諾する旨を伝えると、受付嬢が時間を教える。
そのままヴェルマとメシスを連れて森へ狩りに向かうのだった。
✩ ✩ ✩ ✩ ✩
翌日、ヴェルマ達は暫らくシーア達の家に泊まり込みで育児の手伝い、“一陣の風”の三人は商会との面接にギルドに向かう。
そのギルドの貸し出し用の一室で商人は待っていた。
部屋に入って来た“一陣の風”のメンバーに彼女は声をかける。
「こんにちは。およそ八年ぶりですが、覚えていますか?」
そこには成長して端麗になったルル・ハンデルの姿があった。
✩ ✩ ✩ ✩ ✩
商隊とそれを護衛する“一陣の風”を含んだ三つの冒険者パーティーの一行はヴィッカの街を出て、ヴェルディオンの街を目指していた。
今、ルルはイプラと共に商隊を率いている。ルルの立場は商会の副会頭だ。
とはいえ、ルルはまだ十八だ。補佐としてイプラがついているのだ。
昼間は冒険者は周辺に広がり護衛をしているが、夜になれば集まって野営である。
ルルは“一陣の風”のファラメン達と思い出話をしていた。が、その話は省略させてもらう。
✩ ✩ ✩ ✩ ✩
三日目の夜。
皆がそろそろ寝ようかとする頃、魔物の襲撃があった。
「う、うわあああぁぁぁ!!!」
突然上がった男の悲鳴がその奇襲を知らせる。
冒険者たちは素早く武器を手に取り、商人達は馬を起こして馬車に乗り込む。
「「「身体強化」」」
魔物と戦う時の鉄則、身体強化を施し、次の攻撃に備える。
「誰か、今の攻撃を見たやつはいるか?」
冒険者の間で情報を交わす。
既に火は消してあり辺りは真っ暗だ。
「いや、一瞬のことで何も見えなかった」
「それどころか、周囲に気配を感じないんだが……」
「確か、右が馬型で、左が鳥型だった……よな?」
「俺、細長いもんを見たぞ」
情報を集めるも魔物の数どころか正体すら掴めない。
単純に考えれば、左右に領域を持つ魔物のどちらかなのだが、そんな雑魚に後れを取るような奴はここにはいない。
「確か、二つ先に蛇型の魔物の領域があった気がするが」
「おいおい、融合か? 勘弁してくれよ」
「来るっす!」
風で周囲を探知していたウィンゼルンが声を上げる。
他の冒険者もすぐにそれを確認し、迎撃の体制を取る。
魔物の細長いそれは一人の冒険者に真っ直ぐ向かう。狙われた冒険者は回避ではなく、迎撃を選択した。
持っている槍を操り、向かってくるそれに突きを放つ。
それと槍がぶつかると思った刹那、それは槍を回避して、冒険者に絡みつく。
「やはり蛇か!?」
近くの冒険者がその動きを見て考えるが、なにぶん暗くてよく見えない。
「グッ! 違う! これは植物だ!」
巻き付かれた男の冒険者は森の暗闇の中へ連れ去られ、森の中に静寂が走る。
男が残した情報は有意義かつ絶望的なものだった。
ここは森の中であり、周囲には木々が無数に存在している。更に周囲は暗闇である。
そんな中で本体を探すのは非常に困難である。
即ち、冒険者側は防御しかできず、常に先制攻撃を許すことになる。
加えて、植物系の魔物はランクC以上しか確認されていない。
「これは、アシウェル達が死んだってのも嘘じゃないかもな」
「あんまり不吉なこと、言うなよ」
アクジットが口元を引き攣らせながらこぼす。
答えるファラメンも口元を引き攣らせている。
ファラメンだけじゃない。ここにいる冒険者は皆優秀である。
たった一つの情報だが、どれだけ危険な状況か理解していた。
それぞれのパーティーリーダーが目だけで会話をする。
そして、互いに頷き、指示を出す。
「全力で逃げるぞ!」
「てめえの命はてめえで守れ!」
冒険者は自分の馬に跨ると全力で走らせる。
因みにもう一人のリーダーは商人の乗る馬車の御者に全力で走らせるよう伝えていた。
密接に陣形を組んで、商人の馬車を中心に全力で走る。
来ると分かっているその植物の蔦を迎撃するのはそこまで難しくなかった。
十分ほど走ると植物の攻撃も段々と頻度が落ちてきた。
「抜けたか?」
冒険者の誰かが呟く。
まだ速度は緩めていない。
だが、それが仇となった。
前方から足を払うように蔦が伸びていた。
「はぁ!」
先頭を走っていた冒険者達は馬を操り、その蔦を飛び越える。
だが、後続の馬車はそうはいかない。
御者が寸前に馬を止める。
当然後ろを走っていた冒険者達も足を止めることになる。
後続が足を止めたのに気付き、先頭を走っていた冒険者達も引き返してくる。
だが、足を止めた一行は魔物にとっての恰好の餌食だった。
両側から突き刺すように飛び出た蔦に冒険者は反応する。僅かに時間差をつけて大きめの蔦が馬車に振り下ろされる。
馬車は壊れるも、身体強化をしたルルが受け止め、死者はいない。
「えっ! ちょっ、いや! きゃあああぁぁぁ!!」
しかし、蔦はルルの肢体を絡めとると、暗闇の中に引っ込んでいく。
ルルの強化した力でも蔦を抜け出すことは出来なかった。
かなりの速度で森の中を移動していた蔦が不意に移動を止める。
ルルが周囲に視線を配ると、真下で蕾の様な物が動くのが見えた。
徐々に開くその蕾はまるで口の様で、今にもルルを食べようとしているように見える。
開いたその口の中には、四日前に自分が雇うことを決めた冒険者と思われる肉体があった。
「ひぃっ!」
思わず悲鳴が漏れる。
その冒険者の肉体はほとんど溶けていて、骨が見え隠れしていた。
溶けた骸の瞳がこちらを見上げていて、生理的嫌悪感を感じる。
体から熱が無くなるような感覚に襲われる。
ルルの体を捕まえていた蔦が緩み、浮遊感を感じ取るが、空中にいるルルに為す術はなかった。
(シン、助けて!)
ファラメン達とシンの話をしたからか、三年前に別れた頼れる弟分を心の中で呼ぶ。
蔦が完全にほどけ、ルルの体は蕾の中へ落ちてゆく。
蕾の中の酸液がルルの体を溶かす。
瞬間体中を激痛が襲う。目も開けれず、呼吸も出来ない。
(痛い痛い痛い痛いイタイイタイイタイイタイ痛……くない?)
しかし、その激痛は一瞬で消えた。
薄っすらと目を開けてみると、周囲の酸液から守るように透明な膜があり、ルルの体中、特に心臓の部位が強い光を放っていた。




