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魔導伝ー神が覗く物語ー  作者: 虎寅
第二.五章 再会までの話
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初戦

ヤクファが魔物と正面から対峙したことに驚いていたシーアだが、魔物がもう一匹いるためそちらの相手をしなければならなかった。

ヤクファのことは信頼しているし、ニールの支援もある。

それに、正面で攻撃を喰らっても、身体強化した肉体なら一撃で潰れることはない。すぐに回復魔法を駆ければ問題にならないだろう。


だからと言ってシーアまで魔物の攻撃を正面から受ける気はない。

走って近付いてくる魔物の側面に回り込むように走り、魔物を一定の方向に向けさせない。


「アシウェル君、こっちよ!」

「はい!」


ヤクファの方に行くか、シーアの方に行くかで迷っていたアシウェルだったが、シーアに呼ばれてすぐさまそちらに向かう。


「いい? 魔物に攻撃するタイミングは大きく二つ。魔物が気を逸らした時と攻撃をしてきた時よ。今回は私が合図を出すからそれに合わせて攻撃してみて」


素早く動き回るシーアに付いて行きながらも話を聞く。

その間にニールとサフィアも攻撃準備をしていた。


「矢を射る目的は大きく二つ。攻撃と牽制だよ。攻撃は直撃させて完全にこちらを意識させる。対して牽制は敢えて当てないことで少しだけ気を逸らさせる。弓術士は矢の数が限られてるし、離れていることに価値がある。だから攻撃することはほとんどないよ」


少しずつ動きながらシーアとのタイミングを計る。


「今日は私がタイミングも狙う場所も指示するから、それを忘れないで。構えて」


サフィアに指示を出しながら、自分も弓を構える。

ニールが弓を構えたのを確認したシーアは少し速度を上げる。攻撃に入る時に最速が出せるように少しずつ変えていくのだ。

アシウェルも神経を集中させ、その速度に付いて行く。


「右の前足にかすらせるよ」

「はい」

「今!」


ニールの声に合わせて矢を放つ。

ニールの放った矢は僅かに魔物の足にかすり、更に魔物の鼻先をかすめて飛んでいく。

サフィアの放った矢は魔物に当たることなく、前足の少し後ろの地面に突き刺さる。

特にダメージにはなっていないが、魔物はニールの方を一瞥する。


そこに、シーアとアシウェルの斬撃と突きが叩き込まれる。

こちらの攻撃は体表を破り、肉を断ち、血を流させる。

魔物の注意はすぐにシーア達に戻る。


「すみません。外しちゃいました」

「ううん。大丈夫。そんな感じで問題ないよ。でも、注意を引くのが目的だから、次は足の前を狙ってみて」

「はい!」


矢を当てれなかったサフィアがすかさず謝罪するが、目的は達していた。

その間にもシーア達は魔物から距離を取り、再び魔物の周りを動いて正面の攻撃を喰らわないようにしている。


「今の攻撃、良かったわよ」

「ありがとうございます」

「でも、もっと速く動かないと食べられちゃうわよ」

「はい!」


アシウェルは消費する魔力量を少し上げて、速度を上げる。

アシウェルが速度を上げたのを見て、ニール、サフィアは再び弓を構える。

そして、矢が放たれ、魔物の意識が逸れた瞬間を狙ってシーアとアシウェルが一気に近付き、攻撃を叩き込む。


シーア達が距離を置いたところで地響きがする。

シーアとニールはそれを把握していた為、自分の相手をしている魔物から意識を逸らすような真似はしなかったが、アシウェルとサフィアは地響きのした方向に目をやってしまう。


そこには倒れた魔物を槍で突くヤクファの姿があっただけだが、その隙がアシウェルとシーアの間に少しの距離を作る。

魔物もその隙を逃さない。足に力を溜めて、飛び掛かろうとする。

しかし、それは叶わなかった。

力を溜めた後ろ足にニールの放った矢が突き刺さる。


「ブフォ!?」


自分の攻撃を阻害されたためか、魔物は驚いて声を上げる。

因みに矢だけで魔物を倒そうとしたら脳か魔石に矢を五本以上直撃させるか、全身に百本以上の矢を突き立てる必要がある。

魔物が声を上げれば逸れてた意識も引き戻される。


「一度攻撃した弓術士はよっぽど上手に隠れでもしない限り、残りの攻撃は全て牽制ではなく攻撃となるわ」


サフィアが謝る前にニールはどんどん説明をしていく。


「あの魔物はシーア達が傍にいるからこっちに来ないけど、シーア達があれ以上距離を取ったらこっちに向かってくるわ。魔物の脳内では常に攻撃対象の優先順位が組み上げられているわ。その順位が前衛が上、後衛が下なのが理想よ」


シーアもニールと同じ説明をアシウェルにしている。


「さあ、どんどん行くわよ。これはあなた達の練習なんだから」


そう、これは練習である。

シーア達がその気になればこの程度(ランクF)の魔物は三十秒もかからず倒すことが出来る。

だからこそ、アシウェル達が隙を作っても今の様に補うことが容易に出来る。

シーアの移動速度もアシウェルがついて来れるように遅くしている。

まあアシウェルとサフィアはそんな事は露知らず足を引っ張っていると思っているわけだが。


再びシーア、アシウェルが走りだし、ニール、サフィアが弓を構える。

そこでシーア達の反対側にヤクファが回り込む。

それに合わせてニールも移動する。


「今、シーアとヤクファで魔物を挟むような陣形を取ってるでしょ、魔物の正面に立つのは危険だから、私たちは魔物の背後を取るの」


サフィアに移動の目的を教えながら、魔物の背後を取ると、魔物の動きに合わせて更に移動を続ける。


「いい、前衛の動きが魔物を動かす。それをしっかりと見て、動きをきちんと把握して、魔物の攻撃範囲に入らないようにして、移動するの。中途半端に動くとまともな支援が出来なくなるどころか、パーティー全体を危険に晒すよ。特に魔物と離れている分動く範囲も広いしね」


魔物がシーアとアシウェルの方を向けばヤクファが斬りつけ、魔物がヤクファの方を向こうとすればニール達の矢が飛び、矢に気を取られれば両サイドから攻撃を受ける。


それを七回ほど繰り返したところで魔物は力尽きて倒れる。


「本当に息をしてないかちゃんと確かめるのよ。倒れたとしても後で息を吹き返して攻撃してくる、なんてこともあったりするからね」


倒した魔物の素材を馬車に運ぶ。


「それじゃあ休憩にしましょ」


素材を安全な所に運んだら、休憩をとって消費魔力の半分以上は回復させる。安全な狩りを続ける為の鉄則らしい。

一応森から魔物が近付いて来ないか、警戒はしておくが、徒労に終わることが多い。


「魔力、どれくらい残ってる?」

「半分を少し上回るくらいです」

「私は、えっと、三分の二くらいです」


シーアの問いにアシウェル、サフィアと答える。

この答えだけ聞くとサフィアの方が魔力を上手に使えているように感じるが、大して差はない。

サフィアは魔物から距離を置いて長く移動したが、その分、アシウェルは緩急をつけて非常に速く走っていた。

最高速に合わせた強化をしていた為に、アシウェルの方が消費が多いだけであって、寧ろアシウェルの方が上手に魔法を使えていたりする。

しかし、たった一戦で魔力を半分も消費していたら冒険者なんてやっていられないのだが。


「やっぱり魔法の訓練は増やしましょう。魔法が使えるのと使えないのでは大違いよ」

「見てたけど、槍はだいぶ使えるようになったわね」

「ありがとうございます。まだまだヤクファさんのようにはいきませんが」



休憩をとれば暇が出来て会話をする。


「ねぇ、ヤクファ~、その槍さ~」

「ええ、私も使ってみてようやく気付いたんだけど、魔道具ね」

「やっぱり? 随分と高価な贈り物ね」


魔道具は魔力を流すだけで魔法を発動する、いわば道具状の魔法陣の様なものだ。

その存在は希少で、数多い冒険者の中でも一生で目にする者は三割ほどで、手に取って使うことが出来るものは一割に満たない。

と思われているが、実は街に二つは存在していて、その恩恵を日々受けているのだが、日常過ぎて失念しているだけである。


だが、それ以外の魔道具が希少で高価なことには変わりない。

ブラウはそんな高価なものをヤクファにプレゼントしたのだ。

売れば市民が三世代は働かないで暮らせるほどの金になるというのにだ。


「まあ帰ってからとっちめるとするわ」


ブラウが何を思って魔道具をよこしたのかは本人に聞かなければ分からない。

ヤクファは肩をすくめるのだった。


「それじゃ、もう一回戦したら帰りましょう」


シーアの合図で皆立ち上がり、武器を手に森へ向かう。

先程いた地点よりも更に奥に進むと、誰かが戦っている音が聞こえてきた。


「そうね、ちょっと様子を見てみましょう。私たちの戦い方以外にも見ておくと参考になるかもしれないわ」


シーアの提案で魔物と戦っているであろうパーティーを見に行くことになる。

勿論戦闘に影響が出ない程度に離れた場所からである。


音がする方に進むと、三人の冒険者が魔物と戦っているのが見えた。

三人とも男で、前衛で剣を持っているのが二人、後衛で弓を持っているのが一人だ。

対する魔物は先程アシウェル達が戦っていた魔物よりも一回り大きく、岩の様な皮膚を持っている。


「目を強化するのよ。これ以上近付いたら邪魔になるわ」


シーアが止まるように指示を出し、全員が身体強化魔法を使って視力と動体視力を上昇させる。


上位種の魔物の皮膚は硬く、剣はまるで通らない。戦闘は一方的であった。

弓術士の男が魔法を発動させているのが分かる。単純な風魔法だ。

その風に乗るように二人の剣士が縦横無尽に走り回る。

強化されているであろう身体で風に乗って走るその速度は、アシウェルとサフィアの強化した目でも捉えることが難しいほど速かった。

それでいて周囲に生えている木にぶつかる様子はない。


「そろそろ仕留めるぜ!」

「「了解!」」


剣士の一人が声をかける。もう一人と弓術士が応える。

すると、一段と速度が上がり、アシウェルとサフィアには捉えられなくなる。

いや、その残像なら捉えることが出来る。

数メートル後を引く赤い光と白い光が動き回り、時折魔物にぶつかる。

とても長く感じられた時間はほんの十秒ほど。

魔物の硬い皮膚に大きな亀裂が走る。


「バフォオオオォォォ!!!」


魔物が大きな悲鳴を上げるが、攻撃は止まず、その命に止めを刺す。

魔物の側面の亀裂は更に広がり、遂に体の半分を切り裂いたところで魔物は息絶え、倒れた。

赤と白の光は徐々に速度を落とし、光が消えて、二人の剣士が弓術士の下に戻る。


剣士の一人、先に声をかけたリーダーらしき方が片手を上げて挨拶してくる。

シーアは片手を上げてそれに応える。


これで帰ってもよいのだが、シーアは三人の方に近付いて行った。

当然ヤクファ、ニールも後に続き、アシウェルとサフィアも後を追う。


「お疲れ様」

「あれ、“水乱舞”の姉御達じゃないですか。ご無沙汰してます」


シーアが声をかけると、向こうのリーダーも挨拶を返す。


「ええ、あなた達は“一陣の風”ね」

「覚えていてもらって光栄です。どうしてこんなところに? 姉御達ならもっと稼げる場所もあるでしょうに」

「ちょっと訳あって、この子たちの訓練をね。他のパーティーの戦い方も見せようと思ってね」

「俺達に出来る事なら協力しますよ? 姉御達はヴァルキで共に戦った仲間ですから」


“一陣の風”は元々ヴァルキで活動していたパーティーだ。

何度か“水乱舞”と共に戦ったこともあり、それこそ、ハンデル商会の緊急依頼なんかはいい例だ。

その緊急依頼で、シンという魔導師と出会い、その後“風刃”を含む三パーティーで食事の席を共にすることもあった。

かのデュラハン襲撃の際に西門で戦っていた冒険者パーティーの中には三パーティーの姿が揃っていた。


「もう一戦する予定だったけど、今日はもう戻りましょうか。あなた達も今日はそれで終わりでしょ?」

「はい、こいつ結構な金になりますから」


街に戻る途中でアシウェル達と“一陣の風”は自己紹介を交わした。


「俺はファラメンです」

「アクジットだ」

「ウィンゼルンっす」


リーダー、もう一人の剣士、弓術士と順に名乗る。

それぞれ火、水、風の魔法に適性があるらしく、赤い光の正体は炎、白い光の正体は霜だった。

因みに、“一陣の風”とパーティー名を決めた時は、まさか炎魔法、水魔法が使えるようになるとは思ってもおらず、風に乗っての移動も一度攻撃を加える程度が精一杯だったからなのだと。

魔法を特徴にパーティー名を決めて、成長して名が体を表さなくなることはよくあるらしく、変更をするとギルド間で誤認が出るために名前の変更は認めていない。


街に戻って素材を売ると、家に向かう。


「姉御達は家を買ったんですか、稼ぎが違いますね」


ファラメン達はシーア達が買った家を見て呆けている。

“一陣の風”と“水乱舞”ではランクも違い、実力も違う。数年もあれば稼ぎに差が出てくるのは当然だった。


「あなた達はどこに住んでるの? ここを拠点にしてるんでしょ?」

「はい、アクジットの妻がここで宿を営んでまして、そこの部屋を一つ借りてます」

「そうなんだ」


シーアの問いにファラメンが答える。

シーア、ヤクファ、ニールとその話に非常に興味を惹かれたが、今はウォーグル達にファラメン達を紹介しておくのが先決だ。

と、思っていると、外で話しているのを聞きつけたのかウォーグルが顔を出す。


「お帰りなさい。随分早いですが、お客ですか?」

「今日はそんなところよ」


シーアの微妙な答えに首を傾げながらも、家の中に戻っていく。

アシウェル、サフィアがその後に続いて家の中に入り、シーア達、ファラメン達と家の中に入っていく。

ただし、ヤクファだけは「ブラウの所に行ってくる」と言って隣の家に向かった。


その後、ヤクファを除いた全員で話が行われ、“水乱舞”と“一陣の風”で交互に中と外の訓練を見ることになったのだった。

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