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魔導伝ー神が覗く物語ー  作者: 虎寅
第二.五章 再会までの話
34/60

ヴィッカの街にて

アシウェル達はヴェルディオンから更に南西に向けて移動していた。

これは定住できる場所を求めてのことだ。


シーア達に助けてもらい、戦い方を教えてもらうことになったが、その前に安定した暮らしを確保しておきたいとシーアは言っていた。


ヴェルディオンの街を出たのがだいぶ日の傾いた夕刻だったため、出発してすぐに野営の準備をすることになった。

すぐとはいっても既に森の中に差し掛かっており、魔物の領域内である。

ニールとヤクファで周囲の見張り、シーアがアシウェル達に野営の準備の仕方を教えながら、実際に準備する。

総出で準備をしたからか、割と早く準備は終わり、食事になる。

シーア、ヤクファ、ニールは見張りを代わりながら食事をとった。

夜は、同様に一人ずつ睡眠をとる。


アシウェル達は見張りを手伝うと申し出たが、はっきりと役に立たないと言われてしまう。


アシウェル達が眠りについた頃、ヴェルマが目を覚ました。

体を起こして周囲の様子を窺うが戦闘をしている様子はない。

気絶する前の記憶をたどるが、同じ森の中であっても木の種類が異なる。

シャルマとメシスが横で健やかな寝息をたてているのを見れば安全なのは理解できるし、それだけで心を落ち着けることが出来た。

少し視線を遠くにやればアシウェル、ウォーグル、サフィア、チーシェルの姿も確認できるが、それしかいない。

いや、少し離れた場所に他の人が三人ほどいるのは見えている。

しかし、ヴェルマの見たことない人だ。


とりあえず話を聞いてみようと思って、ヴェルマが立ち上がろうとすると、シャルマとメシスがヴェルマの服をしっかりと掴んでいて身動きが取れないことに気付く。

危険な雰囲気は感じないし、二人を起こすのも悪いと思ったヴェルマはもう一度眠ることにした。

ヴェルマが二人の手を握ってあげると、何気なく二人の顔が綻んだ気がした。



 ✩ ✩ ✩ ✩ ✩



翌朝、子供たちは日が昇る前に目を覚ます。

別に特別なことではない。スラムで暮らしていた時からの普通である。

だが、普通に冒険者として活動していた‟水乱舞”の三人からしてみれば早い。


「あら、早いのね」

「おはようございます、ヤクファさん、ニールさん」


最初に目を覚ましたアシウェルからほとんど差がなく全員が起きてきた為にヤクファとニールは驚く。

因みにシーアは睡眠中だ。

当然ヴェルマもいるのだが、その両腕にはそれぞれメシスとシャルマがひっしりとくっついて離れない。


「ヴェルマ君だったかしら。おはよう。調子はどう?」


魔力切れで倒れていたヴェルマはここで初めて三人の顔を見るわけだが、“水乱舞”の三人は半日以上は様子を見ていたのだ。


「大丈夫ですけど……」


とりあえず答えるが、視線でアシウェルに何があったのか問いかける。


「この人たちは、まあ、俺たちの命の恩人だよ。こっちがヤクファさんとニールさん。あそこで休んでるのがシーアさんだよ」


アシウェルが三人を紹介する。

ヴェルマはあれからどうなったのか聞きたいが、それを聞く前にヤクファが割って入る。


「先にご飯にしましょう。積もる話もあるでしょう」


ヴェルマは丸一日ご飯を食べていない。

その意見には賛成だった。

食事を摂りながらアシウェル、ウォーグルを中心に事の顛末を聞く。

一通り聞き終わったところでヴェルマの顔は暗くなっているが、当然ヴェルマに訊きたいことがあった。


「ヴェル、お前、魔法が使えたのか?」


あの時、ヴェルマが魔法を使って一匹倒してくれたからこそ、こうして生きていると言っても過言ではない。

それに、魔法は冒険者として生きていく以上必須の能力だ。

それが既に使えるならこの先楽になる。


「いや、使えないよ」

「いったいいつの間に覚え……えっ! 使えない? でもお前、あの時……」


ヴェルマの答えは皆の予想を裏切るものだった。

「使える」と返ってくるとばかり思っていたウォーグルは一番驚いていた。


「シンが置いてった本を読んだんだ。でも俺には無理だ。もう一回同じことをやれって言われても出来ない」


シンは魔導師の本を置いて行ったが、ヴェルマはそれを見つけていた。

いくら本に認識を逸らす魔法がかかっていたとしても限度がある。

例えば寝てるときに降ってくるとかだ。


ヴェルマはその本を読んだのだが、そもそもヴェルマは魔導師ではないため、魔力をほとんど感じない。

なんとなく読めるの魔法はヴェルマにも適応されたが、最初の『チェック』と唱える所でほとんど魔力を感じ取れないのだ。

そんな状態で魔法が発動できるわけがない。

鹿の魔物との戦いにおいて、ヴェルマが身体強化の魔法を魔導師と同様の方法で発動できたのは本当に偶然でしかなかった。


シンの意外な残しものに皆が驚く。


「まあ魔法についても私たちで出来る限り教えるよ」

「心配することないよ~」


朝食を食べている最中にシーアも目を覚まし、再び移動を開始する。



 ✩ ✩ ✩ ✩ ✩



なんだかんだでシーア達に頼り切ったまま、五日目に突入する。

予定通りに進んでいるから、今日中にはヴェルディオンの南西にある街、ヴィッカに到着するはずだ。

道中、シーア達が倒した魔物を出来るだけ馬車に載せていくため、馬車の中はだいぶ狭くなっている。

馬を交代させる間隔も休みを取る間隔も短くなっているが、特に問題にはならない。

幸いなことにシーア達は魔法で水を作り出せるため、喉が渇いても我慢せずにいられるというのはアシウェル達には非常に嬉しかった。


そのまま森を抜け、暫らく進むと街壁が見えてくる。

ヴァルキやヴェルディオンよりもだいぶ横幅が小さいが、壁が高くなっていて、壁の上部にヴァルキやヴェルディオンで見えたものよりも沢山の砲台が見える。


横幅が小さいというのはそれだけ農地が小さく、人が住んでいないということを表している。

とはいっても街一つで独立出来るだけの設備は揃っているのだが。


「この街は近くに飛行型の魔物がいるようね」

「こちら側ではないようだったけど~」

「まあ、行ってみましょう。どんな魔物がいるかより家か宿があるかどうかの方が重要よ」


“水乱舞”の三人はヴァルキを拠点に活動しており、ヴァルキから二つ以上離れた場所に来るのは初めて、ではないが、そんなに多くないことは確かだった。


五日もかけて移動してきた甲斐あってか、ヴェルディオンの様に人が溢れているなんてことはなく、すんなりと街の中に入り、ギルドに向かう。

ギルドに向かう理由は二つ、一つはこの街の状況を聞くためだ。具体的には家や宿に空きがあるかどうか。

もう一つは今乗っているこの馬車を返すためだ。

この街に住むなら馬車は必要ないし、住める場所がなくてまた移動するにしても馬を変えなければならない。

おっと忘れていた。三つ目の理由にここまで持ってきた魔物の素材の売却があった。


ギルドの裏に馬車を停めるとギルド員が数人出てきて手続きをする。

売却金は“水乱舞”の名義で預金する。

そのままそこで会話をして空いてる家の有無を確認すると、見事に買える家があることが判明。

ギルド提供の家は書類が残り、何かあったときに保険が効く。

まあ要するに、冒険者は何事もギルドを通すと安心安全ということだ。


早速その家を見に行く。

ギルドの方でも資料と違うところがないかの確認をしてから売るのだ。

ギルド員に導かれて着いた家はかなり立派だった。

ギルドの建物から少し遠いが、値段の割に大きく、裏庭までついている。

アシウェル達に稽古をつけるのに非常に役立ちそうである。

ただし、草が生えまくっている為、手入れしないと使えないが。


建物自体はまだまだ丈夫で、普通に使えそうだった。もちろん掃除をする必要はある。

家具もいくつかおいてあり、家を買えばついて来るとのことだった。

シーアは即購入を決定し、早速家の中に入る。


「まずは掃除ね」


ギルドから掃除用具を借りてきて、掃除を始める。

水は魔法で創れるため、水を使った掃除ができる。


ヤクファとニールがアシウェル達と一緒に家の中を隅から隅まで掃除していく。

その間にシーアは自分の愛剣を手に、せめて家の前は奇麗にしておきたいと玄関前の草を切っていく。

切られた草は積み重なって膨大な量となるが、草が生い茂っているここで燃やすわけにもいかず、一先ず裏庭へシャルマとメシスで運ぶ。


皆の頑張りもあって、日が傾き、空が赤くなる頃にようやく家の中の掃除が終わる。


「さあ、食事にしましょう」

「まあ今から買い出しなんだけどね~」


アシウェル、ウォーグル、ヴェルマの男勢は散々にこき使われて、倒れ込んでいた。

それぞれ妻及び婚約者に介抱されている。


「倒れてないで、行くわよ。経験あるのみ、なんだから」


シーアは容赦なく連れ出す。

アシウェル、ウォーグルからすれば、途中の魔物を運んでいるときの方が大変だったし、ヴェルマは根気のある子だ。

文句を言わず立ち上がり、皆で買い出しに向かう。


商店街は意外と賑わっていた。

いくつかのお店を回って少しずつ商品を購入する。

その際、シーア達は店員、店主と積極的に会話をし今の街の状況や周辺の魔物についての情報を集める。

アシウェル達はその優れた対人能力に感心する。


一通り必要な物を揃えると家に戻る。

日は既に沈み、魔道具で創られた光が街を照らす。


「さあ、夕食にしましょう。手伝って」


シーア達は自分たち三人分の料理ならまだしも十人分の食事を作ったことは無い。

逆に、サフィア達は多人数の食事を作る手伝いはしたことがあるが調理方法を知らなかった。


ばたばたと慌ただしく料理を作り、一時間ほどしてようやく食事にありつけたのだった。

夕食を食べ終わり、片付けを済ますと、家の中の部屋割りを決める。


大きな家だけに部屋の数も多かった。


「ギリギリ一人一部屋ありそうね」

「好きな部屋を選んでいいわよ」


十人で住んでも問題ないほどに大きな家、掃除をする必要もあり、ここを用意してくれたギルドも扱いに困っていたと思われた。

一通り見て回ったが、どの部屋も一人部屋には少し大きい。


「俺ここにする!」


真っ先にヴェルマが部屋を決める。

一番奥にあって、窓が二つある部屋だ。


「いいよな?」

「ええ、いいわよ」


ヴェルマが確認すると、シーアが元気の有り余ってるヴェルマを微笑まし気に見ながら返事をする。

だが、ヴェルマはシーアに確認したのではなかった。

シャルマとメシスが頷いたのを見て、部屋の中に入っていく。シャルマとメシスもその後に続き、部屋の中に入っていく。

シーアは二人が頷いていたのには気付いていない。


「それじゃあ私たちはこの部屋にしますね」

「ええ」


アシウェルが選んだのはヴェルマの向かいの部屋だ。

シーアが答えると早速部屋の中に入る。勿論サフィアと一緒にだ。

シーア、ヤクファ、ニールの三人は当たり前のように同じ部屋に入っていくことに驚く。


「じゃあ、ここー」


その間にチーシェルがヴェルマの隣の部屋を選んで中に入る。当然ウォーグルも黙ってその部屋に入っていく。


「ちょ、ちょっと待って」

「どうかしましたか?」


慌ててシーアが声を上げる。

アシウェルが顔を出し、ウォーグル、ヴェルマも部屋から出てくる。


「えっと、一人一部屋のつもりだったんだけど……」

「そうなんですか、でも、この部屋、スラムで暮らしてた小屋より広いですから。わざわざ余計に部屋を使う必要はないでしょう」

「そうなんだ」


話している途中で既にアシウェルとサフィアが結婚済み、ウォーグルとチーシェルも婚約であると聞いていたのを思い出す。

それを思い出せばいくらか落ち着きを取り戻せた。思い出した以上特に止めることはない。

そして、シーア、ヤクファ、ニールの三人は思うのだった。


(((結婚かぁ……)))

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